
【掌編小説】予感【2523文字】
美術館の廊下を歩くたび、空気がひとつ深く息を吸い込み、時間が静かに沈んでいくように思える。
絵の具の匂いも、足音を吸い込む床の静けさも、外の喧騒とは別のリズムで脈打っている。
新年度のばたつく日々に心がざわつくほど、俺はその「ゆっくりとした世界」に救われる気がして、最近は仕事帰りについ市立美術館へ足が向いてしまうのだった。
俺が勤めているのは、社員十数名ほどの小さなデザイン会社だ。
企画やクライアント打ち合わせの資料づくりに追われ、まだ新卒の俺は必死で食らいついている。
でも、慣れない毎日は重く、疲れはなかなか抜けなかった。
そんな中、この美術館だけは別世界のようで、呼吸を整える場所になっていた。