
働きすぎていたころ、嫌な音を想起してしまう時があった。期間は短かったが、一度止められなくなってから、トラウマになった。
類似音(金属の擦れる音、カサカサの手のひら、分厚い紙を捲る感覚、等)がトリガーになるから、街にいる時に危険を察知すると、小さくなる。家族が新しく買ったお茶碗に箸が触れる音も苦手で、嫌がるそぶりを見せてしまい、自分が嫌になる。電車の中でも、暑くもないのによく冷や汗をかいて、必死に自分なりの避け方を試していた。
その日もお昼休みに小さくなって歩いていたら、近くに野菜を買いに行った家族と道端ですれ違った。どうだったと聞くと「今日はいい野菜が残ってなかった。でも事前にパンを買っておいた!」と言う。私のお下がりの赤い靴が目立つことを伝えると「私を見つけて🎵」と言う。
いろんなことが難しくなっても、周りの人の意図しない無邪気さが眩しくて、それが私を日常に縫い付けてくれる。秋晴れの日に、おしゃれとは言い難い帽子と靴が揺れる光景を、私は一生忘れないでしょう。
