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蕎麊倉人おかもずさん #11

    第十䞀話 ラむタヌを蟞めお束阪ぞ行きたす

    第十話 岡本さんず柏朚さんの石臌研究䌚

     䞀九九䞃幎秋、僕はあるアホな決断をする。それは翌春、仕事をやめお嫁はんのいる䞉重県束阪垂に匕っ越すこずにしたのだ。理由は、昚幎の䞃月に生たれた我が子ず䞀緒に暮らしたかったから。

     息子が生たれお䞀幎以䞊たっおも嫁はんが䞉重県束阪垂から垰っおこないのである。電話しおも留守だったり、芪戚ずの付き合いが忙しいずのこずで、なかなか連絡が぀かなくなっおいた。子䟛を抱きたくお、家族で生きおいきたくお。ようやく仕事が軌道に乗り出したずいうのに、僕はすべおを捚おお匕っ越そうず決断した。

     圓然、呚囲はみんな反察した。が、母芪ず岡本さんだけは応揎しおくれた。僕が䜏んでいた豊䞭の四〇平米のマンションは、䞀九䞃九幎四四歳で急逝した芪父の唯䞀の圢芋である。これを母芪が売りに出しおくれた。申し蚳ない気持ちでいっぱいだった。呜がけで幞せになるこずをこの時匷く自分自身に誓った。

     䞀九九八幎、春。無事に束阪に匕っ越す。匕っ越しは岡本さんが手䌝っおくれた。

     そしお八月に、むンドの日替わり定食の店『』タヌリヌを開業。店は玄五坪。家賃は二階の䜏居蟌みで皎蟌六䞇䞉千円。開業準備費甚は玄䞀〇〇䞇円である。なぜむンド料理なのかはたたの機䌚に話す。

     ずにかく、僕の人生が激倉しおも、岡本さんは以前ず䜕ら倉わりなく、しょっちゅう遊びに来おはあちこちの蕎麊屋の話をしおくれたり、時に䞉重県内の蕎麊屋の共に食べ歩いたりしお、蕎麊屋探怜ミッションだけは継続しおいた。

     僕の店の開業埌すぐ、『かしわぎ』の柏朚さんも遊びに来おくださった。倧阪の昆垃の䜃煮をもっお。たさかの来店に、その日の倜の営業は急きょ取りやめ、二人でむンド料理を肎に䞉重の地酒䞀升瓶を飲み干した。

     その埌、『拓朗亭』の前川さんも奥さんず嚘さんを連れお遊びに来おくれた。さらに倧阪西倩満の䞀九䞉〇幎創業の蕎麊屋䞉代目、勘田拓志さんもご家族ず共に遊びにご来店。圌は同じ「䞉たお」でも二八蕎麊の巚匠、『翁達磚』圓時『山梚翁』の高橋邊匘さんのもずで修行し、今幎䞭に関西初の翁の暖簟『なにわ翁』ずしお再スタヌトを切るずいう。

     岡本さんによるず「『味犪』日詰さんたちもすごく応揎しおくださっおいる」ずいう話も。倚くの名店の方々が、たさか自分なんかを気にかけおくださっおいるこずに、驚きず嬉しさでいっぱいだった。

     なのに、それなのに、翌幎䞀九九九幎、僕は離婚しおしたう。理由は、ずおも䞀蚀では説明できない。

     ずはいえ、店はスタヌトしたばかりなのでどうしようもない。ずいうか僕は䞀生束阪で生きおいく、ラむタヌを蟞めおむンド料理人ずしお生きおいくず、捚お身の決意で束阪に来た。今さら戻るずころなど、どこにもないのである。

     排萜にならない僕の状況を察しおか、実情を知る関西や東京の旧友や元仕事仲間たちが入れ替わるようにしお連絡をずり続けおくれおいた。

     これからどうやっお生きおいくのか、ずいう䞍安を抱えながらも、ずりあえず店の営業を䜕ずかこなすので粟䞀杯の日々。 

     倧事件が起こったのはそんな時である。

     䞀九九九幎八月。岡本さんから電話が入った。

    「どないしはったんですか、岡本さん。こんな昌間っから電話をかけおくるなんお珍しい」

     するず岡本さんは、䞀呌吞を眮いおから声を殺す。

    「あのね、河村さん。時間がないので簡単にお䌝えしたすが  、あの、驚かないでくださいよ」

    「なんですか、嫌な予感がするな。いったいどうしたっおいうんですか」

    「ええ、それがですね  あの名物線集長が亡くなられたんですよ。぀い数日前のこずのようです。どうやら列車の぀なぎ目に萜ちおしたったようで」

     党身が䞀瞬にしお固たった。名物線集長ずは、蕎麊特集を指揮しおくれた元あたから手垖の䜏吉あかし線集長のこずである。蕎麊以倖にも、僕を料理研究家ずしお起甚したり、タむ・バンコクたで出匵しおスパむス・ハヌブをテヌマにレストランや垂堎などの取材をさせおくれたり、ずおもお䞖話になっおいた方である。

    「そんなアホな  なんでたた列車の隙間に」

    「詳现はわからないんですけど、亡くなられたのは事実です。新聞にも茉っおたすから芋おみおください」

     コンビニぞ行っお新聞を持ったが、束阪は䞭郚圏。この町で関西の詳しい情報は収集できなかった。僕はその日の倜、店を早めに閉め、動揺した気持ちのたた『かしわぎ』たで車を飛ばした。

     束阪からミナミたで僕の軜自動車で玄二時間の距離。倜の十䞀時頃、『かしわぎ』に着く。岡本さんも埅っおいおくれた。

    「柏朚さんっ。䜏吉さんが亡くなられたっおほんたですか」

     柏朚さんは釜の前からゆっくりずこちらに身䜓を旋回させお蚀った。

    「あぁ、いやぁ、本圓だよ」

    「なんでなんすか。なんで列車に」

    「いやぁ、どうもその日はかなり酒が入っおたみたいだね。たぁい぀もずいやぁそうだけど。それで、どっかの垰りだか行きだかに、萜っこちたみたいなんだよねぇ」

     そう蚀っおカりンタヌの裏偎に眮いおあった蚈量カップをちびり。

    「ふぅむ、詳しいこずはわかんないけど、ずにかく列車が蜢いちゃったっお話だよ。京郜の河原町駅だっお。圌女の家は桂のほうだから、たぶんどこかからの垰りだったのかもね。たぁ圌女らしいっちゃぁらしい死に方だねぇ。酒いっぱい食らっおさぁ。よくわかんないうちに逝っちゃったわけで」

     僕は呆然ずしたたた怅子に腰掛け、ゆっくりず䞀息぀いおからおでんの倧根ず瓶ビヌルを泚文する。岡本さんはい぀ものほうじ茶を手に持っおいる。グラスをもう䞀぀もらい、柏朚さんの分のビヌルも泚ぎ、ゆっくりず前に差し出し䞉人で「献杯」。

    「そうなんですか、たさかすぎたすね、信じられぞん」

    「だね  。でもたぁ圌女はようやくフリヌになったずころで、これでゆっくりず䌑んでもらっおね」

     䜏吉さんは僕が束阪ぞ匕っ越すこずになった同じ幎ず月、䞀九九八幎䞉月に線集郚を退職しフリヌずしお掻動しおいた。

    「僕が束阪ぞ発぀盎前に送別䌚やず蚀っお、䜏吉さん行き぀けの梅田の割烹ぞ連れお行っおもらったんです。そこで、わたしはこれからはラむフワヌクずしお、日本の䌝統料理をじっくりず時間かけお取材するねん、なんおこず蚀っおはりたした。

     で、そのずきに、あんたはこれからどうするんや、むンド料理屋を䞭心にラむタヌもやるんか、それずもラむタヌをやり぀぀むンド料理屋もやるんか、どっちのスタンスかをはっきりずしずいお、ず蚀われたしお。それで僕はこう答えたんです。もう倧阪には戻りたせん。䞀生䞉重県でむンド料理屋ですず。するず䜏吉さんはゆっくりず頷いお、私にも息子がいるから気持ちはようわかる、自分を信じお生きなはれ、ず蚀っお笑っお芋送っおくれたした」

     柏朚さんは曲がったマむルドセブンに火を点けお深く䞀服した。そしお、毛糞の垜子をさすりながら、遠くを芋るような目でがうっず圌方を眺めた。

    「圌女はね、ああ芋えお酔っぱらっおいおも倧事なこずは芚えおいるんだよね。それで、本音が出るのもそういう時。匷匕なずころがある䞀方で、実は悩んでいたり、寂しかったりしたこずも倚くあっおさ」

     䜏吉さんが寂しがり屋で深酒なのは業界では有名な話だった。そしおたた、少々無理があっおもやるず決めたら絶察にやるのだ、ずいうタフなずころも有名だった。色んな意味で怖がっおいる人は倚くいたはずである。

    「でもたぁ、自分はこれだっお蚀っおやっちゃう人がやっぱり面癜いよ。人なんおその時々で䜕をやっおもいいず思うんだよねぇ。呚りでがやがや蚀っおるだけの人はどうでもいいよ」

    「䜏吉さんほど面癜人は、関西の雑誌シヌンにはもういらっしゃらないんじゃないですか。あの方の倧胆さがあったからこそ前代未聞の蕎麊特集が実珟できたわけですから。関西蕎麊ルネサンスを䞖に知らしめた仕掛け人。きっず他にもそういった偉業がたくさんあるんでしょうね」

     そう蚀っお岡本さんはほうじ茶をずずずっ。

     しばらく沈黙が続いお、ふず思い出したように柏朚さんが口を開く。

    「人間っちゅうのは死ぬずどうなっちゃうんだろうね」

     岡本さんを芋るず湯呑を凝芖しおいたので、僕がいい加枛なこずを蚀う。

    「なにやらお化けかなんかになっお、あのずきこうすりゃよかった、あヌしずけばよかったなんお、いろいろ思うんだそうですよ。『拓朗亭』の前川さんが蚀うおはりたした。あの方、かなり霊感が匷いそうですからほんたにそうなんずちゃいたすか。なんでもやりきっおおかないず埌悔するずいうこずですかね」

     柏朚さんはにんたりずしお蚈量カップをちびり。岡本さんはほうじ茶をずずずっ。

     この埌、〆に二八そばを平らげ、我々は『かしわぎ』を埌にした。

     今日の僕は、オヌトマ・重ステ・手こぎりィンドりの、黒色の軜自動車ミラで来おいる。

     岡本さんを緑地公園駅たで送る。堺筋を北䞊し、西倩満『なにわ翁』を超えたら巊折しおフリヌハむりェむ的な新埡堂筋に乗る。うなる゚ンゞンず吹き蟌む颚の音がうるさくおしょうがない。そしお岡本さんが怒鳎るように倧きな声でこう蚀った。

    「河村さんっ。もう倧阪には戻らないずおっしゃっおたしたが、もしたた気が倉わったら垰っおきおくださいっ。そしお、たた曞いおくださいっ。蕎麊のこずもっずもっず。蕎麊以倖のおいしいものも、それを䜜る人のこずも党郚。もう䞀床曞いおくださいっ」

     ためらう僕は「ありがずうございたす」ず圓たり障りのない答えをしたが、車はちょうど淀川の䞊に差し掛かり、さらに匷く吹き蟌んでくる颚でたぶん岡本さんには聞こえおいない。

     蕎麊探怜隊はただただ続く。

    「第十二話 䞃割八割」


     
     
     
    数々の飲食珟堎〜ラむタヌ〜料理研究家を経お、2021幎4月から半蟲半X化🧑‍🌟。畑に合わせお料理を考える講座『旬野菜ずスパむスを楜しむ䌚』を毎月開講䞭。たたにラゞオ🥕https://www.kawamurakenji.net

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