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第6話:嫌がらせの始まり

    鍛冶川 湊

    〜無言の宣告〜


     自分なりに前に進もうとしたそのとき、見えない壁が少しずつ立ちはだかることに気づきはじめた――そんな一幕です。


     少しずつ、現場や経営の感覚がつかめてきた頃、
    父・鉄男の態度が変わり始めた。

     最初は、小さなことだった。
     俺が見ていないところで書類が出されていたり、
    知らない間に話が決まっていたり。

     それはやがて、目に見えてエスカレートしていった。

     本来、俺が判断するべきことも、
    「昔からの付き合いだから」という一言で勝手に動かされる。

     それに意見しても、
    父から直接言い返されることはない。

     ただ、無視されるか、
    やんわりと否定されるだけ。

     気づけば、俺の意見は通らなくなっていた。

     きっと父には、自分が力をつけてきたことが脅威に映ったのだろう。
    「会社を取られる」という不安が、父をさらに頑なにさせたのかもしれない。

     それに気づかせてくれたのは、今もお世話になっているお客さんの社長さんだった。
     その人はあるとき、俺にだけこっそり教えてくれた。
    「お父さんはさ、自分が育てた会社を取られたくないんだよなぁ」
     その言葉を聞いて、父が取ってきた態度の裏にあるものが少し見えた気がした。

     その態度は徐々に、従業員や周りにも広がり、俺は会社の中で見えない村八分にされていった。
     あからさまに距離を取られたり、仕事をわざと後回しにされたり――。

     それは仕事の現場だけではなかった。

     ゴルフの予定も勝手に決められ、そこでも俺だけ輪から外されていた、
    打ったボールを誰かがわざとポケットに隠すことさえあった。
     そして次のホールで、
    「これ、お前のボールじゃないか?」と見せびらかす。

     そういうことをするのは、父と親しい協力会社の社長たちだった。

     日頃から、理不尽な父に振り回されてきたその人たちは、
    その不満をここぞとばかりに俺にぶつけてきたのだろう。

     もしかしたら、父の差し金かもしれない。

     あれは単なる嫌がらせじゃない。
    「お前はここにいるべきじゃない」という、無言の宣告だった。

     はっきりしない父親に意を決して、今後の工場をどうしたいのか、家族で話し合わないかと訴えました。
     家族でテーブルを囲んでも、父は相変わらずはぐらかすばかりだった。
     母も妻も、きっと何か言いたいこともあったのだろうけど、その空気に呑まれて言葉にできなかった。

     話し合いが何度も繰り返される中で、気づけば俺は耐えられなくなっていた。
    「一生やりたいなら、一生社長やってろよ」
     言葉が出たときにはもう遅かった。

     その一言には、父が責任を持ってくれないことへの絶望と、宙ぶらりんな俺自身への苛立ちが混じっていた。

     父・鉄男はそのとき、一切言い返さなかった。
     ただその視線には「生意気なやつだ」「許さん」という響きがこもっていた気がする。

     その後、父・鉄男はまるで自分が正しいとでも言いたげに、周りを使ってじわじわと俺を追い詰めていった。
    「やっていいんだ、俺は悪くない」──そう言いたげな態度だった。


     最後まで読んでいただきありがとうございました。
     このエピソードを書きながら、当時の気持ちが昨日のことのように蘇ってきて少し苦しくもなりました。
     きっと父には父の思いがあり、それぞれに「正義」があったのだと思います。そのことに気づけたのは、ずっと後のことでした。

     次回もまた、この物語を一歩進めます。よろしければまた、お付き合いくださいね。


    #鉄との戦い #町工場 #親子関係 #家族の物語 #人間ドラマ

     
     
     
    小さな町工場の二代目。継いだ工場で、人生と向き合う物語『鉄との戦い』を書いてます。実話ベース。ゴルフとプロレスが好き。noteで毎週更新予定。

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