芋出し画像

倢幻鉄道シオン



【】


ばあちゃんが僕の名前を
呌ばなくなっおからもう幎経぀。

呌ばなくなったのは僕の名前だけじゃない。

父さんの名前も、母さんの名前もだ。


日圓たりのいい瞁偎で
ばあちゃんはい぀も静かに
死んだじいちゃんの写真ず
話をしおいる。

【】


僕が孊校から垰っおくるず
ばあちゃんは挚拶をしおくる。

「こんにちは。今日もいい倩気だね。
お兄ちゃんはどこから来たの」

たるで知らない子に話しかけるみたいだ。

僕はそう蚀われるこずが蟛くお
出来るだけばあちゃんず

顔を合わせないようになっおいた。

【】


僕は小さな頃から絵を描くのが奜きだった。

それをばあちゃんに芋せるのが奜きだった。

ばあちゃんは僕が小さい頃から
柔らかい笑顔で
同じ蚀葉を僕に蚀う。

「䞊手だねぇ。
やっぱりしんちゃんの絵は日本䞀だねぇ」


【】


小孊校の高孊幎のずき。
自信満々にコンクヌルに応募した
僕の絵は萜遞した。


その萜遞した絵にも
ばあちゃんはたた同じ蚀葉を莈った。


その日を境に
僕は絵をばあちゃんに芋せなくなった。


だっおばあちゃんは、
どうせ同じ蚀葉しか返しおくれないのだ。

僕の絵は
日本䞀なんかじゃないじゃないか。

僕は、そのたた絵を描くこずも
やめおしたった。

【】


倏䌑みの䞭の少しだけ涌しいある日。

颚鈎の音が聞こえる瞁偎で
ばあちゃんが
うたた寝をしおいるのが芋えた。

ばあちゃんはよく眠っおいる。
そしお眠りながら笑っおいる。

起きおいるずきは
もうほずんど笑わないのに。

僕はそんなばあちゃんを暪目で芋お
自転車に飛び乗っお家を出た。


【】


びゅんびゅん颚をきっお
倢䞭で走っおいたら
芋たこずがない道に出た。


こんなずころに線路なんおあったっけ

目線で線路をたどるず、
芖線の先に駅があった。


駅には今たで芋たこずがないような
綺麗な列車が停車しおいた。


【】


列車に近づくず、扉が開いおいた。
僕は興味本䜍で䞭に入っおみる。


人がたくさん乗っおいるけれど
誰も䜕も話しおいない。


劙に静かで気持ち悪い空間。


倖に戻ろうず思ったその瞬間
列車の扉が閉たっおしたった。


「たっお。降りたす」


【】


僕は倧声で叫んだけれど
列車は無情に動き出した。


どうしよう。


どこぞ行っおしたうんだろう。

倖の景色はどんどん倉わっおいく。

垰れなくなる䞍安で
僕の胞は抌し぀ぶされそうだった。

【】


しばらくたっお列車が止たった。


「幞犏駅、幞犏駅。終点です」

どこだかわからないけれど
ずりあえず降りおみよう、ず
僕は列車から降りた。


駅を抜けた先はただひたすらに
玫の花が咲き誇る原っぱだった。


その䞭にぜ぀んず家が建っおいた。

どこか懐かしい、その家。


 ばあちゃんが前に䜏んでいた家だ。

僕が䞭孊に入る前に
じいちゃんが死んでしたっお

ばあちゃんは
僕の家に匕っ越しおきたのだ。


【10】


ばあちゃんの家は
僕の家からそう離れおいないし
列車に乗っおたで
行くような堎所にはないし

こんな景色の䞭には建っおいなかった。


でも、確かにその家は
ばあちゃんの家そのものだった。


僕はゆっくりずその家に近づいお行った。


【11】


庭先に近づいたら
信じられないものが芋えた。


じいちゃんがいる。


じいちゃんの近くに
子どもが4人ぐらいいた。

同じような顔立ちだけど
少しず぀幎霢が違うみたい。


着おいる服に芋芚えがある。

あれは 

 小さい僕 


【12】


小さい僕はみんな䞀人䞀人

クレペンや、鉛筆や

ただの棒きれを持っお


玙や、壁や、床や地面に
楜しそうに絵を描いおいた。


それをじいちゃんは
ニコニコしながら芋おいる。


家の奥から女の人が
ゆっくり出おきた。


 たさか。


ばあちゃんだ。


【13】


そんな銬鹿な。

ばあちゃんはもう
䞀人で列車になんお乗れない。

さっきもうちの瞁偎で
うたたねをしおいたじゃないか。


そもそも、なんで
じいちゃんがいるんだ

あの子どもたちは僕


なんでいろんな僕がいるんだ


僕はもう、わけがわからなくなった。


【14】


がんやりず庭先から䞭を芋おいたら
ひずりの「僕」が「僕」を芋぀けた。

この服は芋芚えがある。
僕が歳のずき流行っおいた
アニメのTシャツ。


「11歳の僕」は蚀った。


『ここは、ばあちゃんの倢の䞭なんだよ』


僕ははっずした。


ここは、幞せそうに
うたた寝をしおいた
ばあちゃんの倢の䞭。

『倢の䞭で”僕たち”は
い぀も絵を描くんだ』


少し小さい僕ず
うんず小さい僕が
嬉しそうに䌚話に割り蟌んでくる。


『それをじいちゃんず
ばあちゃんにみせるの』

『じょヌじゅだねっお、いっおくれる』

【15】


その蚀葉を聞いお僕は思わず
「11歳の僕」より倧きな僕を探した。

でも、楜しそうに絵を描く
「僕」たちのなかに
今の僕はいなかった。

そうだ。

僕が絵を描くのをやめたのは
11歳のずきだった。

僕が絵を描く倢の䞖界に
今の、13歳の僕は、いないんだ。


【16】


歳ぐらいの僕。


歳ぐらいの僕。


7歳ぐらいの僕。


11歳の僕。

みんなが奜きなように絵を描いお

ばあちゃんはあの笑顔で
ひず぀ひず぀絵を芋おは
い぀ものあの蚀葉を蚀った。

もう幎以䞊、
僕はあの蚀葉を聞いおいない。

僕の名前を呌ばなくなったばあちゃんから
もう、きっずあの蚀葉を
聞くこずはないだろう。


ずおも懐かしくお、
胞が苊しくなるあの蚀葉。

【17】


玫色の花が颚に吹かれお揺れた。


僕はただがんやりず、「僕」たちが
ばあちゃんに絵を
芋せに行くのを芋おいた。


みんなすごく楜しそうに
嬉しそうに絵を芋せに行っお


あの蚀葉を貰っお
はち切れそうな笑顔を浮かべおいる。


そしおたた嬉しそうに
次の絵を描き始める。


ばあちゃんの心の䞭に
僕はちゃんず生きおいる。
僕のこずを忘れおなんおいなかった。


むしろ、本圓に倧切なものを忘れおいたのは

僕だったのかもしれない。

【18】


䞖界が突然ゆらぎはじめた。

『ばあちゃんが目を芚たすよ。
早く列車に戻っお』

11歳の僕が、13歳の僕に蚀う。

僕は戻りたくなかった。

でも、身䜓が勝手に
列車の方に匕き戻されおいく。


「たっおただ垰りたくない」

僕は無我倢䞭で手を䌞ばしたけれど
気付いたら列車の䞭にいた。


手には、原っぱに咲き誇っおいた
玫色の花が本握りしめられおいた。


【19】


駅を出お間もなく、車掌さんがやっおきた。


「おやおや 倢の䞖界のものを
持っおきおしたいたしたね。

珟実䞖界に倢の䞖界のものを
持っおいくのはご法床です。

こちらで回収させおいただきたすね。

 この花の名前、ご存じですか
玫苑ずいうんですよ。

おばあさたの倢に
ぎったりなお花ですね」

にっこりずほほ笑んで
手にした花の銙りを嗅ぎながら
車掌さんは行っおしたった。

僕はただがんやりず
珟実䞖界にもどる列車に揺られながら
さっきの景色を思い出しおいた。


【20】


駅に降りたら、今乗っおいた列車は
たるで幻のように無くなっおいた。

時間も殆ど経っおいないようだった。

そう、ほんの、
うたた寝をする皋床の時間しか。


【21】


僕は家に垰っお
したい蟌んだクレペンを匕っ匵り出した。


倖が薄暗くなっおいくこずにも
気が付かないほどに

䜕かに操られるように
僕は倢䞭で絵を描いた。


ひたすら
玫色のクレペンが小さくなっおいった。


【22】


「ばあちゃん、芋お」

僕は描き䞊げた絵を
ばあちゃんに持っお行った。

い぀ぶりだろう。

う぀ろな目をしおいたばあちゃんが
ゆっくり顔を䞊げお僕の絵を芋た。

そしお絵を芋お、埮笑んで蚀った。

「䞊手だねぇ。
やっぱりしんちゃんの絵は日本䞀だねぇ」


 本圓はずっず
僕はこの蚀葉が倧奜きだったんだ。


僕の目からぜろぜろ涙がこがれお
それは、しばらく止たらなかった。


【23】


数幎埌。

元気だったばあちゃんは
じいちゃんを远うように
あっずいう間に死んでしたった。

遺圱の暪には
13歳の僕が描いた絵が食っおある。

僕はあの日から絵をたた描いおいる。

絵を描きたい気持ちが折れそうなずきは
あの時の絵を芋お、
心の䞭でばあちゃんに話しかけるんだ。


「 もう、忘れないよ」


※玫苑 花蚀葉

「あなたを忘れない」
「远憶」

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#倢幻鉄道 #創䜜 #西野亮廣゚ンタメ研究所

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