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テラ・ノッツ ―ちいさな宇宙人たちと地球のひみつ― 第7話「ピンクの川に、道をあけて」

南アメリカのまんなかに、地球でいちばん水の多い川が流れています。アマゾン川です。
その両岸には、世界でいちばん大きな森。雨の季節になると川の水があふれて森の中まで入りこみ、木と木のあいだを魚が泳ぎ、イルカが泳ぎます。
そう、アマゾンには海ではなく、川にすむイルカがいるのです。うすいピンク色をした、アマゾンカワイルカ。地元の人たちは「ボト」と呼んで、昔から大切にしてきました。

「わあ、みどりだらけ!」
コックピットの窓から下をのぞきこんで、ポッケが声をあげました。地平線のむこうまで、もこもことした緑がつづいています。その緑を、大きな茶色いリボンのような川が、ゆったりと横切っていました。

「ん?」ソラが眉をよせました。「あの川、色がちがわない?」

ワンダラー号が高度を下げていきます。近づくにつれて、川の色がはっきり見えてきました。
本流はゆたかな茶色。けれども、そこから枝分かれした細い支流だけが——どんよりと、灰色ににごっていました。

「水が、動いてない」ハナが小さく言いました。「あそこ……息をしてない」


川岸に降りると、鳥の声、虫の声。森はにぎやかなのに、水面だけがしんと静まりかえっていました。

「ピンクのイルカが、いないよ」
ソラが川面を見わたします。ふつうなら、ぷはっと背中を出して息をするボトの姿が見えるはずでした。

そのとき、ばさりと草がゆれました。
川べりの木の下に、黄色い体に黒い斑点のある大きな動物が立っています。ジャガーです。ネコの仲間なのに泳ぎが上手で、いつもなら川をすいすい渡ってしまいます。
けれどそのジャガーは、にごった水のふちで足をとめたまま、動きません。


「渡らないんだね」とゴロがつぶやきます。
「渡れないんだよ」ハナが答えました。「においが……いつもとちがうんだと思う」

「スキャンします」
ピカのスキャナーが、ぴっと鳴りました。頭のアンテナがすうっと明るくなります。
「支流の入口——六百メートル先。水の流れが、ほぼ止まっています。何かが川底にありますが……にごりが強すぎて、形がわかりません」

「じゃーん!」

とつぜん、ポッケが両手で何かをかかげました。まるいゴーグルのような道具です。
「こんなこともあろうかと! 新作、すけすけスコープ!」
「すけすけ……?」
「にごった水の中に、こまかーい音のつぶをとばすんだ。はねかえってきた音で、形がぜんぶわかる。ボトとおんなじしくみだよ! ボトは目がすごく小さいんだ。アマゾンの水はもともとにごってるから、目じゃなくて音で、まわりを見てるんだよ」


みんなでワンダラー号に乗りこみ、水中モードで支流の入口へと潜っていきました。
まわりは灰色一色。手をのばせば指先も見えないほどです。
ソラがすけすけスコープをのぞきこみました。

——見えた。

灰色の闇の中に、青い線でくっきりと形がうかびあがります。
横たわっていたのは、何十本もの太い太い丸太でした。ワイヤーでひとまとめにしばられ、川底いっぱいに積み重なって、支流の入口をぴったりとふさいでいます。

「木を切って、川で運ぼうとしたんだ」ピカが静かに言いました。「途中で沈んで、そのまま……ずっと」

森から切り出された木が、今度は森の川をふさいでいました。



「どけよう」
ソラが言いました。

ポッケがほりほりドリルを水中モードに切りかえ、丸太をしばっているワイヤーを一本ずつ、じじじっと切っていきます。そのあいだに、ゴロが丸太をつかみました。

「ふん——ぬッ!」

ごろん。
一本目が、川底をころがっていきます。
ごろん。ごろん。ごろん。
ハナが手のひらを水にひたして、そっと目をとじました。

「もうすこし。あと、いっぽん」

ゴロが最後の一本に腕を回し、ぐっと持ち上げた——そのときでした。

ごぼぼぼぼっ。

止まっていた水が、いっせいに動きだしました。
たまっていた泥がもうもうと巻き上がり、それから、ゆっくり、ゆっくりと下流へ流れていきます。
やがて上流から、あたらしい水がすうっと入ってきました。

灰色が、うすくなっていきます。
うすい茶色に。それから、光をふくんだ、あたたかい琥珀色に。

水面に上がると、支流はすっかり流れをとりもどしていました。
ぱしゃ。
少し先で、水がはねました。
ぷはっ。

うすいピンク色の背中が、まるくのぞきます。
一頭。二頭。三頭。
ボトたちは首をくるりとかしげて——アマゾンカワイルカは、ほかのイルカとちがって首を曲げられるのです——木のあいだを、するすると泳いでいきました。



岸では、ジャガーがすっと立ち上がりました。
水のにおいをひとつ嗅ぐと、迷いなく、ざぶん。しなやかな体が、まっすぐ対岸へ進んでいきます。

「このまえは、ふさいで直したね」
ポッケが、ドリルを肩にかついで言いました。
「こんどは、どけて直した」ゴロがうなずきます。

ハナが、流れていく水を見つめながら言いました。
「川はね、とめられてもずっと、行きたい方をむいてるんだよ。道さえあければ、あとは自分でいく」

ワンダラー号が、みどりの海の上へ舞い上がります。
眼下では、琥珀色の細い川すじが、大きな森のおくへおくへと、しっかりとつながっていました。

さあ、テラ・ノッツが次に向かうのは、世界でいちばん空に近い山——ヒマラヤです。まっ白な雪の峰に、「幻の生きもの」と呼ばれるユキヒョウが暮らしています。ところがある年から、山からふもとへ流れるはずの水が、こなくなってしまいました。氷の下で、いったい何が起きているのでしょう——。つづく。

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