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テラ・ノッツ ―ちいさな宇宙人たちと地球のひみつ― 第3話「大移動のうた、止まった朝に」

タンザニアという国の草原に、夜明けがやってきました。
地平線のはるかかなたが、じわりとだいだい色に染まっていきます。草の穂がさわさわと揺れ、どこか遠くでライオンが一声ほえました。

「わあ……」
ワンダラー号の窓から外を見ていたハナが、息をのみました。地面はどこまでも草原が続き、空はどこまでも青く、その境目がどこかもわからないくらいに、広大です。

「セレンゲティ」とピカが言いました。「スワヒリ語で『果てしなき草原』という意味だ。毎年、百五十万頭をこえるヌーという動物が、雨と草を求めてこの草原を大移動する。地球いちばんの動物のドラマがくり広げられる場所だよ」
「ひゃくごじゅうまんとう!?」とゴロがびっくりして目を丸くします。「そんなに多いのか」
「ところが——」ピカの声が少し暗くなりました。「今年は、その大移動が始まっていない」

ソラは窓の外に目をこらしました。確かに、草原はしんと静まりかえっています。遠くに小さな黒い群れが見えますが、動かず、かたまったまま、まるで立ちどまっているようです。

「なにかがおかしいの?」とハナが聞きます。
「ヌーは毎年、『草のにおい』と『土のうるおい』と、それから——何かもっと細かいものを感じて、移動のタイミングを決める。でも今年、そのシグナルが届いていないみたいなんだ」

ワンダラー号が草の上に静かに着陸しました。扉を開けると、湿った土と草のにおいが飛びこんできます。

「ソラ、どう?」とハナが聞きました。
ソラはゆっくりと地面にてのひらを当て、目を閉じます。ソラは地球の土の声を、ほんの少しだけ聞くことができるのです。

「……なんか、ざわざわしてる。草の根っこが、困ってる感じがする」
「根っこ?」
「うん。水は来てるんだけど……なにかがじゃまをして、土の中に広がれていない気がする」


ピカがすぐにスキャナーを向けます。「地下に何かが埋まっている……これは金属だ。人工物だ」
「こんな草原のまんなかに?」

ポッケが地面にかがんで、腕まくりをします。「よし、掘ってみよう! ほりほりドリルの出番だ!」

ドリルが草の根をよけながら、くるくると地中にもぐっていきます。しばらくして、かちん、という音がしました。

「あった! パイプだ」ポッケがひっぱり出したのは、大きな金属の管でした。いびつに曲がって、中がつまっています。「古い給水パイプだな。むかし、家畜に水をあげるために農家が引いたやつかもしれない。もう使われていないのに、そのまま土の中で錆びてふくらんで、地下水の流れをふさいでいたんだ」
「それで土に水が届かなくて、草の根が弱って——」
「ヌーが信号を受け取れなかった」とピカがうなずきます。「ヌーは地面の水分の変化を足の裏でも感じ取ると言われているんだ」

「なら、ゴロ!」
「わかった!」

ゴロがごつい手でパイプをぐいっとつかみ、ずずず、ぐしゃ、とひとかたまりにまるめて引きぬきました。次のしゅんかん、地面がわずかにぷくりとうなり、草の根元に小さな水たまりができはじめました。


しばらくたって——。
どこかから低い、どろどろ、どろどろ、という響きが聞こえてきました。

「あ!」ソラが草原の向こうを指さしました。

水平線のかなたから、黒い波のようなものが動いてきます。ゆっくりと、でも確実に、近づいてきます。一頭、また一頭、気がつけばそれは何千頭、何万頭もの動物の群れでした。角をもつヌーが、しっぽをふりながら草の上を走ってきます。つづいてシマウマが、キリンが、まるで地球じゅうの動物が目を覚ましたように、草原を埋めていきます。

「大移動、始まった……」
ハナが目に涙をためながらつぶやきました。大地が震え、草がなびき、朝の空に砂ぼこりがうすくたなびきます。

ソラはその光景をみつめて、大きく息を吸いこみました。草のにおい、土のにおい、動物たちの熱いいきづかい——それが全部まじりあって、胸の中に広がっていきます。


「地球って、すごいね。みんながつながってるんだ」
「そうだよ」とピカが言いました。「一本のパイプが草を弱らせ、草が弱れば動物が動けなくなる。でも逆もある——ひとつを直せば、全部がまた動きはじめる。それが生き物のつながりというものだ」

ゴロがひとこと、「でも、直したのはポッケとぼくだよな?」と言うと、みんなが笑いました。

大移動の大きな波が、ちいさなテラ・ノッツたちのそばを通りすぎていきます。ヌーの目がひとつ、ちらりとソラを見たような気がしました。

「さあ、つぎの冒険へ!」
ワンダラー号のエンジンが静かに火を入れます。草原の上を、やわらかな朝の光が流れていきました。

さて、テラ・ノッツが次に向かうのは、大きな大きな崖がつくり出す、赤と橙の絶景の地です。そこで待つのは、空の謎——。つづく。


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