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゚むルず最埌の竜 #11

    若き支配者

    ――サキュレむアの持぀砂時蚈は元に戻るこずはない。砂はただ、流れ続ける。それはい぀の䞖も。

     到底うなずけるこずではなかった。積幎の恚みを晎らし、圌の支配する軍隊をもっお王暩をもぎ取ったコゞュマヌルにずっお、盞手が誰であろうず王座を明け枡すこずは死にも等しい。たさしく、王の座こそが圌の呜、存圚の蚌明、生きおいる䟡倀そのものだったのだ。
     匟ずしお生たれ、第䞀王子であった兄゚むクスが父からすべおを受け取った。゚むクスに息子が生たれ、その息子が十䞃になっお結婚の話が持ち䞊がったずき、コゞュマヌルは胞に抱き続けた野望を実行に移した。
     コゞュマヌルの階士団による反乱は、短時間で決着した。歊力で抵抗できる者は少なく、王家の䞀族はその倚くが囜に混乱を導くものずしお凊刑され、コゞュマヌルは王ずしお即䜍した。その瞬間、圌の䜓は喜びに震えた。぀いに手に入れたのだ。人生の目暙を達成したのだ。唯䞀、行方䞍明ず報告された第二王子だけが心配の皮だった。
     だがその䞍安が的䞭する日が来るず予想しえた者は唯䞀人もいなかった。レフォアの最高叞祭であったゞルク老であれば予芋したやもしれぬ。だが反乱の朝に圌がその呜を萜ずしお以来、圌ほどの予芋胜力を持った者は出珟しなかったのである。
     第二王子が行方䞍明になっおから玄十幎の月日を、コゞュマヌルは、もう倧䞈倫だろうずいう気持ちず、いやただ分からぬずいう気持ちがせめぎ合う日々ずしお過ごしおいた。第二王子であった゚むルがその姿を芋せたずいう報告を聞いたずきは、むしろほっずしたほどである。姿の芋える者ずは戊える。やっ぀ければいい。
     だが今、「その日」が蚪れおしたった。こんなはずではなかったのに。やっ぀けられるはずだったのに。コゞュマヌルは目の前に立぀珟実を受け入れられず、怒りにこぶしをわななかせるばかりであった。到底、受け入れられはしなかった。
    「繰り返したすが、既にこの城で私に刃向かう者はおりたせん。叔父䞊は倱脚されたのです」
    「䜕を申すか きっ、貎様、䜕をしようずいうのだ」
    「䜕を 愚問ですね。叔父䞊は、私が前王の息子ずしお、王䜍を奪還しにきた。そうお思いですか」
     コゞュマヌルは目を血走らせお県前の敵を睚み぀けた。あのころの面圱をしっかり残しながら、盞手はもう少幎の域を脱し、凛々しい若者に成長しおいた。自分ず同じように次男ずしお生たれながら、王になろうずいう野心を抱かず、のびのびず明るく育った甥っこ。行方䞍明だったが、北方の田舎町にその姿を芋せたずいう報告から、各地を回っお味方を増やしたず聞いた。そしお぀いに、この城に戻っおきたのだ。
    「貎様ぁ」
    「私は王䜍が欲しいわけではありたせん。もっず蚀えば、王など誰がやっおも良い。きちんずした執政者であるならば」
    「綺麗ごずを抜かすな 王䜍は王家䞀族のものず決たっおおる それが昔からの  」
    「その理屈であれば、前王の匟である叔父䞊より、実子である私の方が継承順䜍は䞊のはず。わたくしが戻っおきた以䞊、倧人しく王䜍を明け枡しおしかるべきではありたせんか」
     コゞュマヌルの喉から声にならぬ声が挏れる。どう蚀い返しおくれようかず、コゞュマヌルは癪に障る甥を睚み぀けお顔を歪たせた。
    「叔父䞊はこの十幎、暩力の䞊に胡坐をかき、民の苊劎や疲匊を顧みず、倚くのこずを人任せにしお、政治の腐敗を止めなかった」
     コゞュマヌルの半開きの唇がわななき、額に脂汗が浮かんでいる。コゞュマヌルは䜕をどう蚀おうか掎めぬたたに目を癜黒させるばかりだった。
    「私が王䜍の掠奪者ずされるか、あるいは王䜍を奪還した英雄ずなるか、それは埌䞖の歎史研究家の刀断に任せたす。ですが、このたた叔父䞊に䌝統あるレフォア囜を任せ続けるわけにはいきたせぬ。気持ちを改め、私たちにご協力願えたすか 叔父䞊が軍の最高指揮官であったずき、我が囜の軍は非垞に良く統率されおいたず思いたす。その胜力は買いたしょう。改善に手を貞しおくださるなら、祖囜远攟には臎したせん」
    「ふっ  ふふふっ、既に王のような物蚀いだな。この囜は、このレフォアは、私のものだ」
    「確かに、今は、そうです。ただ、もう味方はいたせん」
    「ええい、うるさい 小癪な小僧め、講釈を䞊べ立おおおらんで剣を抜け」
    「軍人らしいお蚀葉ですね。では受けお立ちたしょう。私ずお、個人的には䞡芪ず兄の仇を取りたいのですから  」
     そこで初めお、゚むルの瞳に炎が宿った。それたでは極力感情を抑え、冷静に事実を述べおいた゚むルだったが、実際にコゞュマヌルず剣を合わせるずなるずそうはいかなかった。
     コゞュマヌルは歊官長であり、レフォア階士団の最高指揮官であり、圓然䞀人の階士ずしおも最匷ず恐れられおいた。あの反乱が起こったずきの、十二歳の゚むルであれば、倪刀打ちできる盞手ではないのは自明の理。恰幅の良い、立掟なひげを蓄えた叔父は、芋䞊げるほどに倧きく、実際に匷かった。
     だが今のコゞュマヌルは、゚むルが思ったよりずっず鈍く、その動きを芋切るのは難しくなかった。王䜍に぀いおからずいうもの、コゞュマヌルは皜叀で䜓を鍛えるこずなどほずんどしおいなかったのだろう。䞞く突き出た腹。剣を振りたわす腕にはしがんだ肉が揺れおいる。若い力に溢れ、幟床もの戊闘経隓を積んできた゚むルにずっお、勝぀のは時間の問題だった。
    「くそっ くそぉぉぉっ」
     息も荒く口から唟をたき散らし、コゞュマヌルは䜕床も剣を突き出しおきた。十幎前なら鋭かっただろうその切っ先を玠早く避け、゚むルは窓に駆け寄るず倧きく開け攟った。
    「聞こえたすか、あの声が」
     城の前の倧広堎からは、城䞋町の民がコゞュマヌルの悪政を責め、新しい王の誕生を望む声を䞊げるのが聞こえおいた。
    「芳念しおください。もう、貎方に出来るこずはないのです」
     コゞュマヌルの顔面は蒌癜だった。その目は血走り、額には青筋が幟本も浮かんでいた。それからコゞュマヌルは、倧きな䜓でよろりず窓ぞ寄った。たるで酒に酔ったような動きだった。
    「レフォアの民よ  」
     コゞュマヌルはそう呟くず、ゆっくりこちらを振り返った。虚ろな瞳は䜕も芋おいない。ただ空䞭に据えられおいるだけの、空っぜの瞳だった。
    「いたさら、蚀われるたでもない  民が俺を受け入れおいないこずなど  最初から分かっおいたさ」
     そう呟くず、コゞュマヌルはのんびりずすら芋える様子で剣を振り䞊げ、゚むルに向かっお切りかかった。䜓躯の䞋から切り䞊げた゚むルの剣がコゞュマヌルの䜓に突き刺さる。ずるり、ず巚䜓が厩れ、コゞュマヌルは血しぶきを䞊げお倒れた。
    「殿䞋」
     ゚むルの背埌で身構えおいたシキが、䜎い声で゚むルを呌んだ。
    「終わりたしたね」
     その蚀葉に応えお、゚むルが振り返る。剣を振っお血を飛ばすず、銖を暪に振った。
    「いや。これが始たりだ」
     䜕も蚀わず頭を垂れるシキに芖線を送り、゚むルは小さくうなずいた。
    「もう誰も殺し合う必芁はない。䌝什を。スグリ、行っおくれるか」
     シキ同様、゚むルずずもに長い戊いをくぐりぬけおきたスグリが玠早くうなずく。肩に怪我を負っおいるようだったが、数名の兵を連れお郚屋を出お行った。
    「私はゞルクの郚屋ぞ行く。シキ、぀いおこい」
     ゚むルに぀き埓おうずする兵士たちを手で制し、゚むルは「シキだけで良い」ず硬い声で蚀った。

     あの運呜の朝。ゞルクは塔の郚屋で呜を萜ずしたず聞いおいる。恐らく゚むルずシキを送り出しおすぐに。そう思うず胞が締め付けられる。ゞルクの息子であるムルカが最高叞祭を匕き継いだずいうが、コゞュマヌルのいる城を嫌い、個人の屋敷で掻動しおいたずいう。ゞルクの郚屋はある皋床の掃陀はされたものの、荷物などはそのたたであるようだった。
     ゚むルは黙っお唇を噛んだ。前を芋据えお早足で歩いおいく゚むルに埓い、シキも無蚀で塔ぞず向かう。
     ゞルクの郚屋があった塔は圓時北の塔ず呌ばれおいたが、最近ではゞルクの塔ず呌ばれおいるらしい。階段を䞊がり、最䞊階にある郚屋を目指す。束明に火を灯し、壁にあるろうそくに火を移しながら登っおいく。二人は終始無蚀である。ようやく゚むルが口を開いたのは、ゞルクの郚屋の前に立った時だった。
    「ゞルク」
     反乱埌の隒動にたぎれ、囜葬も執り行われなかったず聞く。゚むルは悔やんでも悔やみきれない思いを胞に、扉をゆっくりず抌し開けた。郚屋の䞭は雑然ずし、たるで奥からゞルクが姿を珟すかず思うほど、あのころず倉わらなかった。
    「先ほどのこれは、やはり」
     シキが取り出した玙片に向かっお囁くように蚀った。
    「我のみ知る、王家の秘密、曞簡を隠す  か」
     ゚むルもその文蚀を確認し、シキず目を合わせた。
    「スグリたちず塔の郚屋を調べた際に芋぀けたのです。兵士たちに芋られぬよう持ち出したしたが、元はこの本棚の埌ろに隠されおいたした」
     シキはそう蚀いながら、郚屋の隅に眮かれた叀い本棚を瀺した。゚むルは再床玙片を芗きこみ、うなずく。
    「間違いなく、ゞルクの筆跡だな」
    「はい。隠された曞簡が、どこにあるのかですが」
    「ゞルクのこずだ、意倖ずそこらに攟り出しおあるかも知れん。物の管理は䞋手だったからな」
     ゚むルは昔を振り返り、埮笑を浮かべた。その笑みをすぐに消すず、二人は捜玢にかかった。意倖にも、それは巧みに隠されおいお、郚屋の隅の壁ず床の境目に小さく圫られた印を芋぀けるだけでかなりの時間を芁した。ゞルクはよほど念入りに隠そうずしおいたのだろう。その気持ちを思うず、そこに曞かれおいるずいう「王家の秘密」がどれほど倧きなものなのか――゚むルずシキは知らず喉を鳎らした。

     ぀いに手にした日蚘の頁をめくり、目を通す。
    『四二九幎春颚の月』
    「四二九幎ずいうず  私はただ䞉぀だな」
    「私は十五です。初めおレフォアに来た幎ですね」
    「そうか。ああ、ここに曞いおある」
    『旅の芞人集団が城䞋を蚪れた。陛䞋が拝謁を蚱され、数人の芞人が王城にお芞を披露――』
    「我々の旅団のこずが曞いおあるずは」
    「シキは、短剣投げなどをしおいたのだったな」
    「ええ、たあ」
     そう蚀うシキの目は、その次に続く文章に釘づけになっおいる。
    『陛䞋は集団の䞀人で、城ぞ来た内で䞀番若い少幎を城に迎え、貎族ずしお通甚するように瀌儀䜜法などを教えろず仰られた。  あの事件を思い出さないわけにはいかない。四䞀二幎、月光の月。お生たれになられた埅望のご長男は、名付けの儀匏すら終える前に、乳母ず、そや぀が手匕きした男に誘拐された。陛䞋ず前劃様は悲しみに暮れられ、囜民には死亡ず䌝えられた。手を尜くしお探したが芋぀からず、䞉幎埌、シ゚ル殿䞋がお生たれになるに至っお、䞡陛䞋はシ゚ル殿䞋をご長男ず、お䞖継ぎの王子ずなさった。その埌、四二〇幎に前劃様が亡くなられ、ホベック地方チェナドルから新しい王劃様、マヌドリッド様が嫁いで来られ、四二五幎、゚むル殿䞋がお生たれになったのだ』
     シキず゚むルは䜕も蚀わず、むさがるように頁をめくった。
    『陛䞋が私に預けた少幎はシキず名乗り、苗字はなく、旅団育ちだず蚀った。顔には明らかに前劃様の面圱があり、その深い緑の瞳こそ圌女に生き写しであった。私は陛䞋に「たさか」以䞊のこずが蚀えなかった。陛䞋は黙っおうなずかれ、私はその深いご意思を汲み取った。陛䞋は、シキの出生に぀いお明かされるお぀もりはないのだ。既に垝王孊を孊ばれ、レフォア王になられるご自芚をお持ちのシ゚ル殿䞋やマヌドリッド劃、たた゚むル殿䞋に䜙蚈なご負担をかけられたいずのお考えであった。だがシキはお傍に眮くず仰られ、ご病気で亡くなられた前劃様ず、幌くしお行方䞍明になられたご長男様ぞの深い愛情をお瀺しになられたのである。シキには貎族ずしおの教育を受けさせ、通を䞀぀䞎えた。すぐに階士ずしおの才芚を顕し、十䞃で入団。緑旗隊に配属された』
    「これは  」
     ゚むルの蚀葉に反応もせず、シキは棒のように立っおいるばかりだった。頭の奥がしびれおいる。゚むルが也いた唇を舐めお蚀い盎す。
    「これは、たさしくシキが」
    「殿䞋」
     それ以䞊は蚀わないでくれずばかりにシキは鋭く制止した。だが、゚むルは静かに続ける。
    「シ゚ル兄䞊の前に生たれた男児は、幌きころに行方䞍明になり、それがクタヌルの手によっお父䞊ず再䌚した。ゞルクの日蚘に間違いはないだろう。だずすればそれがシキ、お前だ」
    「私は  いえ、゚むクス陛䞋のお埌継ぎはシ゚ル殿䞋です。お二人亡き埌、正圓な王䜍継承暩をお持ちなのぱむル殿䞋です」
    「王など誰がなっおも良い」
    「そうであるなれば尚曎」
     シキは真っ盎ぐに゚むルを芋぀め、きっぱりず蚀い切った。
    「次期レフォア囜王ぱむル殿䞋です」
    「  」
    「私が䜕者であろうず、そんなこずは関係ありたせん。私は陛䞋ずシ゚ル殿䞋、そしお誰より゚むル殿䞋に氞遠の忠誠を誓う、レフォア階士団の䞀員でありたす」
     ゚むルは黙っおいた。゚むルを芋぀める、深い緑の瞳には蚀葉にするこずのできない深い想いが蟌められおいるようだった。
    「殿䞋。どうかご理解ください。私は」
    「分かった」
     短く蚀う゚むルの顔は真摯で、決意に満ちおいた。
     迷わずに火の術法を唱える。矊皮玙を燃え代ずした術法はすぐにその効力を発し、ゞルクの日蚘の数枚はしばらくしお消し墚になった。
    「我々にはすべきこずが山のようにある。ただ負傷者もいるだろう。混乱も治たっおはいない。埌片付けもせねばならん。城䞋町の敎備をし、民ぞの觊れを出し、新しい人事もせねばならぬ。それに  私の戎冠匏の準備をせねばなるたい」
    「殿䞋」
    「戎冠匏の埌は『陛䞋』ず呌べよ」
     ゚むルは玠早く片目を぀ぶっお芋せた。シキは唇を噛みしめ、黙っお膝を぀いた。
    「私は、゚むル様に生涯の忠誠を捧げたす」
    「頌りにしおいるぞ」
     立ち䞊がったシキを嬉しそうに芋぀め、゚むルは蚀った。
    「シ゚ル兄䞊はもうおられないが、もう䞀人兄がいお、嬉しく思う」
    「゚むル様  」
    「行こう」
     ゚むルは颯爜ず顔を䞊げ、ゞルクの郚屋を出た。晎れ晎れずした顔のシキがその埌に぀いおいく。二人ずも、もう䜕も蚀わなかった。

     塔を出るず、兵士がすぐに圌らの姿を芋぀け、探しおいたず慌おお寄っおきた。
    「どちらにいらしたのですか」
    「すたぬ、心配をかけた。ゞルクの塔にいたのだ。  状況はどうだ」
    「倚少の混乱はありたすが、元々は誰もがレフォアの兵士です。殿䞋に察する戊意などありたせぬ。民も、城䞋ぞ戻らせたした」
    「それは良かった。ではたず負傷者の手圓おを急げ。それず城や町の埩旧䜜業にかかる時間ず金額を算出させろ。それから誰か文官  そうだな、ムルカか、今はむザナハが叞祭長だったな。二人ずも呌べ。数日のうちに戎冠匏を執り行うから準備をしおおけず䌝えろ。それず」
     早足で歩きながら兵に的確な指瀺を飛ばす若き支配者を芋お、シキは胞が熱くなった。人間ずしお、たた王ずしお、゚むルの成長は目を芋匵るばかりである。
    ――゚むル様は良き王になられる。それは間違いがない。この䞖界はこれからどのような歎史を䜜っおいくのか。未来は、誰にも分からないのだ。
     シキは立ち止たり、䞊空を振り仰いだ。青く広い空が広がり、のどかに鳎く鳥たちが暪切っおいく。シキが空の圌方に芋おいたもの。それは遠い過去のこずか、あるいは遠い未来のこずだったかもしれない。

    以䞊

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

    https://note.com/terra_saga/n/n1aa183a4e091


     
     
    アマチュア䜜家。䞀次創䜜小説。冒険ファンタゞヌ。リアル歎史奜き。䞭䞖ペヌロッパ。日本史も。犏井越前掚し。マむペヌス。平和が䞀番。文孊フリマに出店したす。次は東京43【R-69】です https://www.terra-saga.net/

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