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「キャッシュレスおばあちゃん」たちに、ちょっと憧れてしまう

    病院の支払機前。80代くらいの女性が、スマホの画面をスッと開いて、手際よくスマホをかざす。そしてすぐに会計を終えて立ち去っていった。
    その姿を後ろで見ていた私は、思わず「もうここまでスマホ決済が浸透しているのか……?」と、感心してしまった。

    というのも、私はまだ現金派だ。何か思想や強いこだわりがあるわけではなく、普段画面の大きなタブレットを持ち歩いているので、いわゆるスマホのキャッシュレスアプリはほとんど使っていない。買い物も病院の支払いも、基本は財布から現金を出すスタイル。PayPayも一応インストールはしているけれど、取り出した時大体スマホは電池切れだ。

    だからこそ、あんなふうに颯爽とキャッシュレスで支払いを済ませるご年配の女性を見かけると、「現代に順応していてすごいなー」と、ちょっとした敗北感と、尊敬の念が入り混じった気持ちになる。

    意外と言っては差しさわりがあるかもしれないが、「80代くらいの女性がスマホアプリで決済している」という場面にはよく出くわす。バスの中でも、スーパーのレジ前でも、病院の受付でも。ちゃんとカウントしたわけではないが、60代の女性でもなく、70代の男性でもなく、80代の女性に顕著な気がするのだ。50代以下になると現金派、カード派、スマホ派とバランスよく混在する。

    後期高齢者世代の女性たちのキャッシュレス化、もしかしたら根っこには“お金=不潔”という感覚があるのかもしれないなと、ふと思った。

    昭和の時代、多くの家庭で「お金は汚いから口に入れないように」「小銭で遊んじゃだめ」と教ていた。私も母に「お金はばい菌だらけよ」と言われていた記憶がある。昭和の「お母さん」は、家庭の中でお金を日常的に扱ってきた分、その衛生観念がより強かったのではないかと感じている。

    そこにコロナ禍が重なり、「現金に触りたくない」「お釣りのやりとりを減らしたい」という気持ちが、よりはっきり表に出てきたのかもしれない。スマホ決済はそのニーズに見事に応えたのだろう。

    また、スマホ決済は、「きちんとしたい」人に向いているのかもしれない、とも思う。使った金額がアプリに記録され、履歴が確認でき、チャージ額で予算をコントロールできる。

    スマートに支払いを終えられるというのも、シニア女性の好むところだ。レジでもたもたしている姿はみっともないという意識もあるだろう。昭和のお母さんにとってスーパーは狩りの場であり、レジは社交のステージだ。シャバい姿は見せられねえのである。

    一方で、同じくらいの年齢の男性には、あまりキャッシュレス派を見かけない。財布を手に持ち、丁寧に札を数え、小銭を出す。そんな姿は今もよく見るし、「スマホ決済はよくわからない」とつぶやく声にも何度か出会った。

    これは「男の人は頑固だ」という話にしたいわけではない。たぶん、彼らが築いてきた「銀行」「ATM」「現金」という生活の形が、いまも彼らにとっては一番安心なのだと思う。昔から「財布の中身がすべて」という時代を生きてきた男性たちは、電子マネーよりも紙幣や硬貨のほうに「お金らしさ」を感じるのかもしれない。

    高年齢女性がスマホキャッシュレスに踏み出す理由は、もちろん一つではないと思う。多くは複合的なものだし、周りが勧めるからなんとなくという人もいるだろう。でも“人に迷惑をかけるな”という圧力の強い昨今の日本社会では、自衛の意味でもキャッシュレスは有効なのだと思う。

    私もそろそろ、素早く小銭をつまむのが難しくなってきた。次に買うスマホには楽天ペイやファミペイも入れてみようかしら……と、思ったりしている。

     
     
    漫画家・イラストレーター この間までwebの会社でデザイナーしてました。著書に「うちのでこぼこ兄妹」「ボクの彼女は発達障害」他。LITALICO発達ナビ・仕事ナビでコラム連載中。ひろせみほも私です。 ブログ→https://terasimahiro.blogspot.com/

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