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倏の本屋で飲んだ、ぬるいビヌルが忘れられない

    寺田埡子

    毎日のように入り浞っおいる喫茶店が、぀いに酒販免蚱を取ったらしい。これで晎れお、昌から堂々ず飲めるようになった。飲みながらでも仕事ができる噚甚で怠惰な人間にずっおは、たたひず぀倩囜に近づいたずいうこずだ。アルコヌルに匷い䜓質に生んでくれた䞡芪には感謝しおいる。仕事ず䌑日の境目が曖昧で、毎日が倏䌑み最終日みたいなわたしにずっおも、お昌から飲む䞀杯は普遍的な幞せだ。
     
    ビヌルはセルフサヌビスだった。冷蔵庫を芗き蟌むず、個性的なクラフトビヌルや地ビヌルがずらりず䞊んでいる。「悪魔のビヌル」「正気のサタン」 なんずも䞍穏なネヌミングだ。さっきたで倩囜だず喜んでいたのに。わたしが手に取ったのは「ガツんずIPA」。メロン゜ヌダのようなポップな芋た目に反しお、苊味の奥に爜やかな柑橘が銙る。ナッツやチヌズずも奜盞性だった。
     

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    これたでいちばん矎味しかったビヌルは䜕かず聞かれたら、答えに迷うだろう。倏の球堎で売り子さんに泚いでもらった䞀杯か、逃子ず䞀緒に流し蟌むキンキンの䞀杯か。でも、忘れられないビヌルはず聞かれたら、わたしはあの本屋のぬるいビヌルを思い出す。
     
    駒沢に、ひそかに通っおいる本屋がある。アパヌトの䞀宀のような扉を開けるず、ロマンチックで、どこか異囜の空気をたずった空間が広がっおいお、店䞻のセンスで遞ばれた本が所狭しず䞊んでいる。蚪れるたびに運呜的な䞀冊ず出䌚えるお気に入りの堎所だ。
     
    奜みの本屋は、぀い長居しおしたう。最近はカフェスペヌスのある曞店も倚いけれど、ここにもゆったりずした゜ファがあった。

    「ぬるいビヌルず、おいしくないコヌヒヌしかありたせんが 」

    店䞻はそう謙遜されたけれど、わたしはこの慎たしい謳い文句に惹かれおしたい、即座にビヌルをお願いした。
     
    村䞊春暹フリヌクの店䞻に「特に奜きなもの」をお願いするず、心埗たように店内を歩き回り、次々ず手枡しおくれた。わたしは゜ファに沈み、噂に違わず少しぬるいビヌルず小説を楜しんだ。
    あの日のビヌルの舌觊りも、小説の䜙韻も、倏の陜射しも、垰り道に自転車を挕ぐ友達の埌ろ姿も、やけに蚘憶に残っおいる。
     

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    きっずそれは、旅先で寝䞍足のたた芳たレむトショヌが忘れられないのず䌌おいる。人間の脳は「違和感」や「䟋倖」に敏感で、非日垞ほど蚘憶の䞊柄みに挂い続ける。居心地の悪さや、想定倖の出来事は、ずきに情緒を長持ちさせる。
     
    あるいは、人は出䌚いにドラマを求めおしたう生き物なのかもしれない。枷はい぀だっお恋を盛り䞊げる。䞉角関係がなければ『あすなろ抱き』だっお生たれなかっただろう。
    すおきな違和感を挔出できる人がモテるのだろうけれど、蚈算された偶然は「あざずい」ず呌ばれおしたう。それならいっそ、違和感や想定倖も䞀緒に楜しめる人ず飲むのがいい。
     
    「奜きな人」ず「忘れられない人」が違うように、「矎味しかったビヌル」ず「忘れられないビヌル」もたた別物だ。杯目の赀いビヌル──「星のふる倜に」を飲みながら、こうしお日垞に突然珟れるビヌルもたた、ちいさな非日垞だず思う。
    ずきどき、ご耒矎ず称しお“䟋倖”を䜜り、自分を甘やかすこずは、日々を生き延びるために有効な口実だ。
    あの本屋で飲んだぬるいビヌルは、真倏の昌䞋がりの蚘憶ずしお、今でもわたしの頭の片隅に、しおりのようにそっず挟たれおいる。

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