メインコンテンツへスキップ
見出し画像

「本日の営業は終了しました」の木札をひっくり返す人

    この町には人気のラーメン屋がある。
    メニューは醤油と味噌の2種類で、醤油がわりとあっさりめなのに対して味噌はこってりめで、どちらもぶ厚めのチャーシューがうまい。誰のかは知らないけど、サインがいくつかかざってある。店を営んでいるのはそろそろだいぶ高齢になってきた夫婦とパートのおばちゃんがひとり。黒Tが腕組みしてラッシャッセーッ!!と叫ぶ系のラーメン屋ではなく、近所の老若男女が通うアットホームめなラーメン屋だ。当然BGMは平成ヒットソング集(GReeeeNやファンキーモンキーベイビーズを中心に)とかではなく、ヒルナンデスを小さいテレビで垂れ流し系の店だ。

    つまりこの店は昼しか営業していない。15時頃には店を閉めるのだ。あの重ためのドアにかかった木札をくるりとひっくり返して「本日の営業は終了しました」にする。
    客としては夜も食べたい気持ちもあるが、この店の状況を考えるとそうも言ってられない。無理のないペースでゆっくりと店を続けていってほしい。

    ◇

    この町の夜は暗い。
    歓楽街のようなエリアもなく、車主体の町のため、歩道の明かりもほとんどない。牛丼屋とファミレスがたまに光っているだけだ。そんな夜に私の仕事は始まる。

    PM11:45
    バッテリーが弱ってウインカーが点滅しづらくなったカブに乗る。向かうのはあのラーメン屋である。
    「本日の営業は終了しました」
    当然店は閉まっているが、店の前で数分間wikipediaの記事がランダムで5枚入りのカードになってガチャを楽しめるよくわからんサイトを開いて待つ。

    https://wikigacha.com/

    やけに愛知県の町のカードが出てくる。Wikipediaには愛知県のページだけ妙に多いのだろうかと勘ぐってしまう。
    そしてあっという間に今日が昨日に変わった。私は「本日の営業は終了しました」の木札を「真心こめて準備中」に変えた。そしてまた次の店へと向かう。

    ◇

    モラトリアムを満喫していた頃、YES/NOの質問に答えるだけで自分に向いている職業を見つけるやつをやった。
    その時にあった「ウソをつくのが苦手だ」という質問に私はYESと答えた。その結果この仕事をオススメされたのである。たしかに、午前零時、「本日の営業は終了しました」は嘘である。本日の営業はこれからのはずなのに、町が嘘であふれる瞬間で、妙に胸騒ぎがする。夜は静かで穏やかなはずなのに、真っ暗な店の前に堂々と嘘が並んでいる。高級食パン屋の「完売御礼」、閉店数分前まで当日分あります!と言っていたはずだったが。
    だから私は今夜もこの町の嘘をひとつずつこの手でひっくり返していく。
    私は嘘をつくのが苦手だ。

     
     
    めだかはメタリックかつスケルトン(わずかに)

    あなたへのおすすめ