
赤いテディベアと長男〜奥村家今日も平和です〜#19
我が家の長男の話である。
彼は一人っ子歴が長く、長男が7歳の時に妹が生まれるまでの間、休日など学校が休みの日は基本的に一人で遊ぶ時間が長かった。
特に可愛らしいものが好きだったわけではない。
が、ある時祖母にお土産でもらった赤い小さなテディベアが、息子の相棒となり、長い長い付き合いが始まった。
そのテディベアを皮切りに、息子はフィギュアや指人形などで遊ぶことが増えていった。
ある時は大小さまざまな人形たちをタコ糸でぐるぐる巻きにして、2階の階段の踊り場から階下に吊り下げていたこともある。
思いも寄らない頭上からの人形の登場に、家族は大いに驚いた。
それに気を良くした息子は、それ以来たびたび人形ぐるぐる巻き事件を巻き起こすのだった。
ある時は、家族が居間でくつろぐ休日の昼下がりに、2階のベランダからタコ糸に結ばれた人形たちが吊り下げられて登場する・・なんて、ホラーなイタズラを仕掛けた。
これには下の兄弟が大騒ぎして喜んだ。
我が家では人形=紐で縛って吊るすもの という、不思議な遊びが大流行したが、長男の相棒の赤いテディベアだけは決して吊るされなかった。
長男にとって赤いテディベアはいつまでも相棒のようで、旅行に行くときも必ずリュックに入れて連れ歩いていた。国内でも海外旅行でも、必ず長男のリュックには相棒が一緒だった。目的地のホテルに着くと、ベッドサイドにくま専用の居場所が作られ、夜はタオルを掛けてもらって寝かされていた。
観光地に行くとテディベアを買い求め、くまのぬいぐるみはどんどん増えていった。
家の中では、「くまの家」が息子によって作られ、いつの間にか「くまファミリー」が出来上がっていた。
驚くことに、それは長男が思春期になっても密かに続いていた。
彼のクローゼットの最上段には、ツリーハウスのように「くまの家」が鎮座していた。
クローゼットの下の段からは、ゆっくり安全に最上段に到達できるようにとゴンドラまで自作してあった。
そして時は流れ、長男が一人暮らしを始める頃、くまファミリーは息子とともに、この家を出ていった。
長男が引っ越し、空っぽになった部屋を眺めていたら、「くまの家」に行くゴンドラだけが取り残されていた。
なんだか、取り残されたそのゴンドラが淋しいように見える佇まいだった事を覚えている。
「新しい町で、くまファミリーと元気に暮らすんだよ」
私たち残された家族で、そう呟いた。
そして再び時が流れ、異動辞令によって長男が家に戻ってきた。
家族皆が密かに興味津々で様子見していたのだが、あの時のくまファミリーは誰ひとり欠けることなく、家に再び戻ってきた。
時に、長男のテディベア好きをからかいながらも、再び大家族で暮らした数年間だった。
そして、つい先日のこと。
すっかり大人になった長男は、恋人との新生活をスタートするため、家を出ていった。
陰ながら気にしていたくまファミリーだったが、今度の新居には赤いテディベアだけ連れていくという。
他のくまファミリーは、手厚く感謝をした上で手放した。
くまファミリーを人形供養のため、神社に預けて帰る長男の足取りは重かったそうだ。まるで、本当の家族を見送るような淋しくて切ない気持ちが溢れていたという。
まるで、映画か絵本にありそうな、長男とテディベアとの物語。
これからも、物語は続いていくのだろうか。
かくして新居に移ったテディベアだが、今は新居のリビングで新しい暮らしを見つめているそうだ。