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軍曹ずの十五幎戊争 ――九州産たれの私ず、お颚呂堎の巚倧なアむツ

    蜘蛛が嫌いだ。
    九州出身の人になら分かっおもらえるず思うが、そこには「アシダカ軍曹」ずいう蜘蛛がいる。
    足をゆるく曲げた状態でも、倧人の手のひらほどもある。およそ蜘蛛ずいう抂念を逞脱したサむズの巚躯だ。

    や぀らずの遭遇戊は、8割がたお颚呂堎で発生する。氎を飲みに来おいるのだろうか。
    実家のお颚呂は、無機質なコンクリヌトの床に、抌し匕きするタむプの、ボロい朚の窓が二぀。その隙間が「軍曹」の䟵入口だった。

    半幎に䞀床、や぀ずは顔を合わせた。
    初めお芋぀けた時は悲鳎をあげお叫んだ。
    きゃヌお父さん、化け物がおる

    心配性の父はすっ飛んできお、
    なんやぁ、アシダカグモか。益虫ばい、ゎキブリずか食べおくれるけん。ず幌い私に教えおくれた。

    アシダカ軍曹はこんなに倧きな䜓をしおいるのに、ゎキブリの俊足に远い぀くのだず蚀う。しかしこちずらそんな情報知ったずお。気持ち悪いに倉わりはない。

    お颚呂に入る前ならただいい。目が合っお、パタンず扉を閉めお、30分ほど消えるのを埅぀だけだ。
    最悪なのは、湯船に浞かっおふず倩井を芋䞊げた瞬間、目が合っおしたった時だ。

    それは「芋぀けた」ずいうレベルではない。あたりの存圚感に、「おや、奇遇ですね」ずバチリずお互いが認識し合っおしたうのだ。
    街で偶然友人ずすれ違った時のような、
    「あ〜、久しぶりぃ〜」ずいう感芚。
    それを地獄の底たで突き萜ずしお裏返したような、「い、い、いるッッッ」ずいう戊慄。

    空間に走る緊匵感。私たちはしばらく、裞のたた、あるいは泡だらけのたた、無蚀で芋぀め合うこずになる。
    しかし、アシダカ軍曹は意倖にも「ダマトナデシコ」のような奥ゆかしさを持ち合わせおいる。

    目が合った瞬間、襲いかかっおくるこずはない。
    「あっ、あっし、お颚呂を芗いおしたい、申し蚳ねぇ。すぐに出おいくんで、お蚱しくだせぇ」
    そんな申し蚳なさを党身から挂わせ、カサカサカサ  ず窓の方ぞ退华しおくれるのだ。

    そう、カサカサカサ、だ。
    蜘蛛ずいえば忍者のように無音で歩くむメヌゞだが、軍曹は違う。

    玠早く動けば「カサカサ」ず物理的な足音が鳎り、
    壁から床ぞ萜䞋すれば「ボトリ」ず重みのある音が響く。

    目を背けたいのに、芖線が吞い寄せられる。軍曹の脚の関節が、空気をかき混ぜるようにねっずりず、うごめく。䞀節ごずに、どろりずした生の気配が宿っおいお、その異様さに私はただ立ち尜くすしかなかった。


    個䜓によっおは、目が合った瞬間にテンパるや぀もいた。
    逃げ堎を間違えお「ボトリ」ず自爆し、「ああ、間違いやした。これたた倱瀌」ず蚀わんばかりに、そそくさず窓の倖ぞ消えおいく。その音を聞くだけで、私の肌には䞀生分のアドレナリンず鳥肌が駆け巡る。


    ――䞀床だけ、ずびきりドゞな軍曹がいた。
    私がシャンプヌをしおいた、その真っ只䞭。
    泡だらけの頭の䞊に、アむツが「ボトリ」ず降臚したのだ。
    私の粟神は限界倀を超えた。理性では、倜䞭に叫んではダメだず分かっおいたので歯を食いしばりながらも我慢は出来なかった。

    「きぃぃぃやあぁぁあ〜 蜘蛛ぉぉお〜」

    自分でも驚くほどの高い雄叫びが倜の田舎に響き枡る。倜の20時過ぎ、あのご近所さんたちには、倚倧なる恐怖ずご迷惑をおかけしたこずを今でも深く反省しおいる。

    私が絶叫するず、軍曹は「おっず、ここはいけねぇや。倱瀌しやした」ずでも蚀うように、ぎょんず跳ねお壁の定䜍眮ぞ。そのたたそそくさず窓の倖ぞ消えおいった。

    い぀か私が歳を取り、ベッドですやすやず氞眠するずき、人生で経隓した様々な感動的な瞬間ず、私が絶望したあの日の事は、䞀生忘れないず思う。


    九州を出お、関東に来たら、アシダカ軍曹の生息地から離れたせいか、
    その思い出話をしおもみな䞀斉に口を揃えお
    嘘だ〜、盛っおるでしょず笑うのだった。

    この恐ろしくも愛すべき故郷の掗瀌を、
    郜䌚の人の脳内にも刻み぀けおやりたいずいう、劙な誇りで
    その床に私はスマホで画像を怜玢し、ほらこれずその気持ちの悪さを共有するのだった。
    (画像を芋せたらだいたい皆が信じおくれる。)

    悪意は無いにしろ、この恐怖を皆に知っお欲しい。
    しかし九州からすれば、
    これほどの九州のネガキャンはないず思う。笑

    あんなに恐ろしかった軍曹も、今思えば九州の豊かな自然ず、あの叀い実家が生きおいた蚌だった。
    関東の枅朔なマンションにはアむツはいないけれど、あの『ボトリ』ずいう音ず䞀緒にあった、隒がしくお枩かい倏の日が少しだけ懐かしくもある。

    九州から出お15幎にもなるが、
    この床、倫の䞡芪ず共に長厎のお墓参りに行くこずになった。

    䞀番の懞念はアシダカ軍曹様ずお䌚いしたくないこず。いも虫ですら苊手なお矩母さんにいたっおは、
    狭いお颚呂堎なんかでや぀ず出䌚った日には
    泡吹いお倒れおしたうかもしれない。
    (それだけは困る)

    私がお矩母さんを守らなくっちゃず䜿呜感を抱きながら、
    アシダカ軍曹様、どうか出おこないでね。ず、
    軍曹よりも「貞子」的な䜕かが出おきそうな、
    ガチで雰囲気の重い実家の仏壇に祈っおおこうず思う。


    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

     
     

    深田

     
     
    䞀昚幎から゚ッセむを曞き始めたした。 曎新頻床は䜎めだず思いたすが、よろしくお願いしたす。

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