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カソウ 20歳編:『火葬』

     自身が何者か……。
     それが、わからないまま死んでいくのも一つの手段である。
     自己表現にも限界がある。

     疲れてしまった。

     私は、雨粒である。
     私は、木片である。
     私は、砂埃である。
     私は、灰屑である。

     私は、人間である。

     これがわからない。

     私は、私の手で、私の内で、何もかもを終わらせなければならない。
     自分の手で始めたものは、自分の手で終わらせるべきだ。

     火葬。
     せめて、安らかに眠れ。

     『A氏の証言④』

     横倒しになった焼死体の足元には、一枚の写真。
     それが、冒頭で触れていた、彼の生前の唯一の写真である。
     そこがどこであるか、どういった経緯で撮られたものであるのか、誰が撮ったのか、結局、わからず仕舞い。
     今日にいたるまで、彼にまつわる情報は、やはり、この写真とメモしかない。


     【雑派】

     雑派①:思春期の裏道
     
    ファサファサ
    寒さは無配慮
    青い血管の森
    思春期の裏道
     
    駅の匂いは離れず
    帰り道に絡みつく
    健全男子の鏡地獄
    思春期の意表心裏
     
    ホームへの階段
    リーマンの靴先
    しこまれた手鏡
    映される真実は
    たったひとつだ
    されどひとつだ
    小陰唇から閻魔
    思春期の断頭台

    黒い大木に血の身が実る
    黒い羽衣に抗えず 常に死んでいるアリたちは
    夜にだけ 気晴らしに
    安い角砂糖酒を飲んで
    朝を恨む
    果物籠には無数のアリ
    たかる実はアリ自身
    大きな果物は夢のまた夢
    籠の中で死んでいく

     雑派②:ありえん

    過去からわざわざやってきたポー星人
     
    「あなたは 未来に いなくなります
     
    必要が なくなります
     
    人が いらなくなります」
     
    なんてことを言って
     
    過去へ戻っていったポー星人

     雑派③:活動の一端

    若者応援が売れます
    大人批判が売れます
     
    ラフな格好であぐらをかいて
    アコギをシャカシャカしていれば
    入ってくるのはキレイなお金
     
    「辛い時もあるよね」
     
    と言えば
    ボロボロと儲かります
     
    コマーシャルのインテリアよりも
    高いものが家にたくさんあるけど
    言わない姿勢が評判だから言いません
     
     
     雑派④:「だからだめなんだよ、おじさん」
     
    あの子の犬になりたい
     
    いいな いいな
    あの子の犬っていいな
     
    何もせず
    ただ歩くだけで
    ちやほやされていいな
     
    俺が歩き回ったところで
    何もないのによぉ
     
    「さあ、そこの少年少女、この人に何か言ってあげな」

     雑派⑤:フリークスの溜息
     
    ヒョロリンとデブリン
     
    ボクたちは あべこべで
    サーカスの人気者
     
    だけど
    顔も名前も知らない貴婦人や貴族は
     
    「可哀そう」
     
    と言い出した
    そしたら
    みんながボクたちを見るたびに
     
    「可哀そう」
     
    と言い出した
     
    「ボクたちって可哀そうなのかな……」
     
    やりきれなくて溜息が出た

     
     雑派⑥:豊かな不利益
     
    若者の血が美味い
    自称狂人の常套句
     
    飽食のおかげで
    薄まる美味しさ
    深まる味気無さ
     
    子どもからお年寄りまで血がまずい

     
     雑派⑦:四本足のマリー

    誰かが私に酷いことを言っているわ
    だって
    くしゃみが止まらないんだもの
     
    愛しのオーナーが浮気をしているに違いないわ
     
    私の内側の両脚は とても素直
    寂しいと痙攣して外側の両脚に絡みつくの

     雑派⑧:失われた物語
     
    懐柔された岩石
    針のような生肌
    崖の上の人間に
    飛沫が飛来する
     
    それはやがて
    涼の華を咲す
    影を大木へと
    真摯に伝える
     
    見えない夜
    照らす灯台
    綻ぶ水平線
    地を覆う影
     
    暗闇の住人
    光指す海道
    歓喜の合唱
    光の大行列

     雑派⑨:唯一の手掛かりと温もり
     
    「キミといると、死んだ後の身体も心も温かいんじゃないかって思えるんだ」
     
     雑派⑩:ネズミ

    キミの部屋の屋根裏には
    背中に耳を生やしたネズミ
    夜中の十二時になると
    耳ぎしりが聞こえてくる
     
    盗聴器は死んだ ネズミになった
    リスクは消えた ネズミになった
    ロマンは絶えた ネズミになった

     雑派⑪:エンディングノート

    最後の忠告です。終わります。

    絶対に今後消えることのない危機に向けて

     【近未来兵士の手記の抜粋】
     
    私たちは、一つでいられるはずがないんだ。
    水一つで争いが発生する生き物なのだから。
    それほどに、弱い生き物なのだから。

    私の妻は
    塵となり
    姿を変え
    空となり
    雨となり
     
    私の目にキスをした
    嬉しくて涙が出た
     
    私も同じ道を辿るだろう
    私も塵となり空となり雨になるだろう
     
    せめて そうなりたい
    せめて そうであってほしい
    せめて そうなっていてほしい

    戦車の下敷きにはなりたくない
    爆弾を背にした子どもたちが
    私たちの足を支える土となっていく
     
    飛行する戦闘機の影は一瞬のオアシス
    その一瞬だけ
    すごく涼しい
    そのあと
    爆風がやってきて
    すごく暑くなるんだ
    微かな悲鳴と命の最期の息吹は
    何度 耳にしても寒気がする

    もうすぐで塵になりそうだ
    もうすぐで一緒になるんだ
    一緒に誰かの涙を流してやろう
    それが雨になった私たちのできる精一杯の労いだ
    やっとキミと一緒になれるんだ
    とても喜ばしいことだ
    足腰が震えているけれど
    私は大丈夫だ
    ここでの大丈夫は
    生きているってことにかぎられない
    しかし
    もうじき
    もうすぐ
    本当に 大丈夫になるんだ
    心配はいらない

     【しゃれる】

    気だるげに語る
    文句もろもろに
    布団にもぐれば
    おやすみそぞろ
     
    現代っ子ヒストリー
    イマドキリテラシー
     
    普通にへそ出し
    地味に余裕だし
    ぽてりくちびる
    わからないぶき
     
    現代っ子ヒステリック
    イマドキアルカイック

     【二次創作者の哲学】

    自分で生まず
    自分で考えず
     
    不都合なもの
    好都合に変化
     
    理不尽を
    ご都合に
     
     
    男を女に
    女を男に
     
    何も思わず
    何も負わず
     
    搾取に奪取
    批評に風評
     
    ずっと一人で生きている
    ずっと一人で笑っている

     【ランドセル物語】

    公園で遊びきる
    名残り惜しい帰り際
     
    「もっと遊ぼ」
     
    声がして
    音の方へと歩んでみれば
    優しそうなおじさんが
    アタシに手招く
     
    「お嬢ちゃん一緒に遊ぼ」

    【本日の作家オススメ:地雷女子 ~妻子持ちリーマン添え~ 援交風】

    袖の口から
    淫靡に白く
    病的に細い
    不健康的な手が見える
    マニキュアはディープパープル
     
    お互いのネクタイを結んでキスをする
    加齢臭と思春期が下半身ダンスをする
     
    手の平に人差し指
    左手の薬指を喉陰茎にはめる
    そのまま溶かしてもらいたい
    結婚の糠喜びである残留物を

    商品名:『刻まれた笑顔』

    ※注意:ナマの笑顔は消化に悪いので、細かく刻んで、よく火を通してください。

     【ひっと】

    カエルは足を生やさない
    水槽の底を這う
    手を突っ込めば
    手を食べられた
    何も思わなかった
     
    私の上司が私のもう一方の手にピストルを撃ちこんだ
    何も思わなかった
     
    ソファに座って休んでいる自分を見た
    恥ずかしかった

     【深紅の苦心】

    父の日頃の苦悩
    娘は知らずに
    毎晩 新品のハイヒールで父の背中を蹴る
     
    「そのヒールに金を出したのは誰だ?」
     
    棒付きキャンディを舐めて小銭稼ぎ
    アイスバーをくぽって荒稼ぎ
    高価な衣装を買うために
     
    「その衣装に金を出したのは誰だ?」
     
    数多の男と毎日パーティー
    ついに底尽きたお金
    それでも足に縋りつく娘
     
    「オマエをこんなのにしたのは誰だ?」
     
    足首におとされる口づけ
    ドロッとした口紅
    それを見て自覚
     
    ……私か
     

     【夢探訪】

    枝分かれした鏡には
    それぞれの自分の顔
    それぞれの異なる皺
     
    窓の景色
     
    建物が消えて
    建物が増えた
     
    車が消えて
    車が増えた
     
    人が消えて
    人が増えた

    生きてしまう

    生きてしまう
    また今日も
    少々の酒を飲む
    今日も眠れないから
    地球の真ん中へと沈んでいく
    今日も眠れないから
    少々の酒を飲む
    また今日も
    生きてしまう

    勘弁してください

    勘弁してください
    もうやりません
    許してください
    二度としません
    肝に銘じます
    忘れません

     【22世紀の始まり】

    未来の発掘現場にて、謎の物体が化石になっていた。
     
    とある冒険家がそれを『ストレス』と名付けた。

     【爆発】

    木の葉の間の未熟児の笑顔
    しかし
    それは爆風に泣いている顔
     
    ビルの崩壊
    瓦礫下の声
    助からない
    声をあげる
     

     【月の露】

    水たまりに映る憧憬
    火照った月の頬
    夜の羞恥

     【眠る】

    空が眠る
    四季は死んだ
     
    海が眠る
    想いは去った
     
    人が眠る
    子孫は絶えた
     
    終わりなき地上の戦い

     【罠】

    ヘンレには三人のヘレンがいる
    全て罠だ
    気を付けろ

     【二つの地平線】

    一つの地平線に
    ゴミはない
    人もいない
     
    もう一つの地平線に
    ゴミがある
    人がいる
     
    描かれない地平線に
    私たちがいる
    他の地平線を肴に
    酒を飲む

     【ヨルズキ】

    月夜の一瞬の暗転
    猫が通ったから
    雲が横切ったから
    女が舌を見せてきたから

     【前庭】

    思案により
    産まれる子
    原始の活気
     
    弛緩により
    育まれる愛
    太古の機能
     
    時間により
    踏まれる罪
    過去の未知

     【じぃ】

    彼女がいる
    108つの苦悩
     
    新しい母になる
    受胎通知に悩む日々
     
    経産婦である
    携帯用母体回帰機関

     【号泣花】

    あなたの名前は花
    三十六度の熱のある蜜を持つ
     
    悪徳の教師によって絞り出される
     
    ポトリポトリ
    この音は知らない しかし 知らなければならない
    出しっぱなしの蛇口でも水漏れでもない
    先走りに堪えられず溢れ出る蜜
     
    後悔の水瓶には永遠の穴が開通
     
    流れ落ちる蜜で悪徳の教師の頭が濡れていく
     
    花が喜ぶ
    ゴツゴツの電柱
    花が喜ぶ
    小鳥のついばみ
    花が喜ぶ
    小川の流れ

     【股間門】

    へその緒入ったランドセル
     
    産声が鳴り響く防犯ブザー
     
    引き金を引け!
    心を撃て!

    愛が実る

    もう少しで進化しそうなんだ
    ゴミの山を越えられるんだ
    先に待つキミに願う
    冷たくなった私を灼熱の抱擁で愛してほしいと

     【膀胱園】

    アンモニウム
    ハーモニウム
     
    幼女の手慣れた鎮座は胡坐
    妖女の巧みな深淵なる接吻
     
    聖水の水瓶を掲げる私自身
     
    アンモニウム
    ハーモニウム
     
    幼女の胎を隠蔽する蹲踞
    妖女の快感の地は鎖骨に
     
    仔ヤギは膀胱を舐めて溶かす
    苦痛の味わい
    メェと鳴いて息を絶つ
    仔ネコは尿道にじゃれて噛みつく
    苦痛の味わい
    ニャァと鳴いて息を絶つ
     
    便器の黄ばみに腹を空かすは
    私
    便所の壁に落書きするは
    私
     
    ついには幼女と妖女の尿として流れ出て自意識を絶つ

     【終わらない哀しみ】

    早く梯子を登らなければならない
    終わりに着きたい
    頼む
    早く
    頼む
    早く
     
    早くから出なければならない
    終わりで終わりたい
    頼む
    早く
    頼む
    早く

     【淫魔の心境唄】

    どうして老いた人たちは
     
    若さを求めるのか
     
    それは老いたときにわかる
     
    今すぐ老いて死んでしまいたい
     
    あの人に会うために

     【涙なき涙】

    涙が出ない
    全て出し切ったから
    人に出るはずだと言われて悲しくなって
    涙なき涙が出る

     【光の束】

    北風は遠くに姿を消しました
     
    太陽は静かに笑っていました
     
    電球が男の服を脱がしました

     【かえる】

    太陽は電池切れ
    取り替えよう
     
    月がこと切れた
    取り替えよう
     
    人のいない夜街
    取り替えよう

     【喪失博覧会】

    「キスって本当にあったんだ」
    「性って分かれていたんだ」
    「赤ん坊って赤いんだ」
     
    ここには失われたものがある
     
    今まさに増えていく喪失の作品たち
     
    見ている者だけに喪失の危機が迫る

     【男根嫌悪】

    牛から乳は出ません
    男が泣いて喜ぶから
     
    仔羊は聖母に抱えられません
    男がこぞってメェと鳴くから

     【路地裏の跡】

    舌苔のついたチョーカー
    黄ばんだシーツ
    女学生の体温を感じる学生証
    紅のついた枕
    外された指輪
    味の異なる一つの唾液
    札束が入っているニーハイソックス
    鼻の形を記憶する下着

     【生命線上のアリア】

    「あなたが、誰かに愛される前に殺します」
     
    死人に口なし
    もとい
    死人は無意味

    母の似顔絵が描かれた画用紙の裏に記されたメモ

    母の中の理想像でない私は、軽蔑されて、殺されるだけ。

     【サンドウィッチ】

    板挟みおじさんは拡声器
    何も考えられない駄人間
     
    「サンドウィッチはいかが?」
    そんな金も出せないおじさん
     
    「サンドウィッチはいかが?」
    糞になるだけ金の無駄
     
    「サンドウィッチはいかが?」
    現代人の死亡と脂肪の源
     
    そんなあなたにゴミ箱宿舎
    北風と太陽も相手にしない
    若いうちからのこれまでが疎かゆえに
     
    「そこのキミ。あのおじさんのような未来はいかが?」

     【固定された香り】

    重度の下痢の香り
    肥満体型の熟女の香り
    どっちもどっち

     【焦点が合わない日々】

    歩く度に他人が光速で移動しているように見える
     
    その度に呼吸が乱れて 落ち着きがなくなり消沈
     
    タバコの匂いだけが はっきりとわかってしまう

     【聞き手】

    聞き手という言葉に胸が焔かれる
    私を自覚させた教師のせいか
    私を許した彼女のせいか
    話し手の拙さのせいか

     【雨に語る】

    「雨は、身体に『染み込む』ものではない。『流れていく』ものである」

    「染み込んだら、太ってしまうだろう。膨らんだ腹の先から雨が滴る」

    「傘は雨に生かされている。
    傘は私にも生かされている。
    私が濡れていないのは、傘が濡れているからである。
    これが互いに生きる上でとても重要なことなんだ」

    「言葉は、降り注ぐとは限らない。しかし、雨は、上から降り注ぐだけだ。簡単だろ?」

     【垂直思考】

    問:とある一家が全員消えた、どうして?
     
    一人目:パパとママが離婚したから。
    二人目:パパなんていらないって言ったから。
    三人目:ママが身銭で生きているから。
    四人目:パパとは私のことだから。
    五人目:パパではなく、オヤジと言うようになったから。
    六人目:ボクが嘘つきだから。
     
     どれも正解である。
     垂直であるから。

     【崩壊感覚】

    「自我崩壊すると、顔面のパーツが全て溶けて流れ出る感覚に陥る。それを拾い集めるのに一日かかる。そんな毎日」

     【モノクロームルーム】
     
    シマウマの血は
    モノクロ
     
    母屋から突き出た煙突の煙は
    モノクロ
     
    あなたの頭の中の思惑は
    モノクロ

     【清楚とは何か】

    清楚とは何か
    制服の襟から見える鎖骨のホクロか
     
    清楚とは何か
    靴の上に佇む くるぶしの塩加減か
     
    清楚とは何か
    パンに塗られた舌苔バターか
     
    清楚とは何か
    知らない匂いのする髪か
     
    清楚とは何か
    幸せの溜息を詰めた真空パックか

     【スキゾ・パラノ博士のメモの抜粋】

    言葉は消えない。どこかにある。
    過ぎ去った言葉もしっかりと、左手にある。

    ペンのインクがなかった。血で書こうと思ったが、残念ながら私に残された血はなかった。

     【自閉症キャット】

    部屋の隅で死ぬ猫
    泣き声を知らない
    支えがわからない
    むしられたしっぽ
    引き裂かれた首輪
    部屋中の鉄爪の跡
    蓄音機からは狼煙
    インクのないペン
    充満する死の匂い
    揺れもしない椅子
    主体性のない血糊
    白い月と手を繋ぎ
    腐った目玉を落す
    砕けて粉々になる
    優しい風のご挨拶
    窓から窓へ一回転
    窓は開かれたのだ
    やっとのやっとで
    自分を解放できた
    自閉症キャットよ
    永遠にさようなら

     【告白】

    「あなたに愛してもらうために、利き目を潰しました。べつに、痛くはありません。あなたが愛してくれるのであれば、これからも痛みを感じることはありません。だから、私を愛してくださいね」

     【胎児の描いた似顔絵】
     
    「胎内からクレヨンを挿入してみますと、
    胎児はすぐにクレヨンを手にとって、
    胎盤のキャンバスに似顔絵を描きました。やはり、親子ですね。とても私に似ています」

     【夜杖】

    夜に流されないために杖をつく
    おかげで朝を無事に迎えられた
    電灯の驚き
    鶏の落胆
    陽の涙

     【我が身】

    眼前の娘の味で吐き出す
    過去の妻の味を思い出す
     
    母の遺影を顔に張り付けた愛娘が我が身に迫る
     
    受け入れてはいけない
    諦めてはいけない
     
    過る言葉は無理心中

     【青いマリア】

    我が子よ
    我が子
    可愛い我が子よ
    どうして これだけの愛を注いでいるのに
    応えてくれないの
     
     
    仔ヤギが十字架を飲み込む
     
    冷たく顔を背ける我が子
    母を置いていかないで
    私の腕があなたの形を覚えているの
    どうして戻って来てくれないの
     
    仔ヤギが十字架を排泄する

     【内心自決】

    「夕暮れの深紅を見たか。あれは、私の親友の血だ。この世に憂いを残した証であり印である」

     【長身、愛しの人】

    「階段を使って愛せよ。最大限に長所たる長身を愛せよ」

     【天井快感】

    ナメクジを潰した杖で
    地を這う我が身を打つ
     
    アオガエルの卵がかえる鉄パイプで
    逃げ場を失くした私の胸を突き刺す

     【カラーキラー】

    『やめて』はない
     
    色が迫り 襲い 囲い 脅かす
     
    色がいっぱいの世界
     
    私を殺していく
     
    色々

     【太陽】

    錯乱の王
    家族を皆殺し
    背骨で出汁をとったスープ
    国民全員に無償で配給する
     
    この日は 一段と 太陽が 輝いていた

    女性恐怖症の青年が描いた絵:題:『辺獄』

    やわいもの
    こわいもの
    さわると
    ちっそく

     【脚】
     
    脚を知らない独身者
     
    椅子
    机
    タンス
    テレビ
    傘
    ドアノブ
    ハンガー
    画鋲
    に興奮冷めやらず

     【愛母】

    「母は、私を愛しています。その愛は重厚で歪曲していて猛毒です」
     
    歯茎の味を知っています
    歯石の破片で作られたネックレスをしています
    乳歯を口の中で転がすのが唯一の楽しみです
    産毛は金庫の中にあります
    腋毛は水槽で揺れています
    えくぼは大広間の中央に飾られています
    耳たぶは発狂を抑制します
    喉仏は愛犬の首輪の鈴です
    肘の皺はヤスリで消えました
    手の甲の凸凹は鉄板で圧し潰されました
    へそは緒で繋がれているままです
     
    「私は、母を愛しているのでしょうか」

     【エンゲル少年】

    うなだれた
    樹木に接吻する
    喜び わななき
    しおれていく
     
    滝の麓
    足の力
    流れはとまり
    水たまり
    枯れるための一滴
     
    子を授かれば
    終わってしまう
     
    エンゲル少年は泣いた

     【一瞬の過失と一生の後悔】

    「ついさっきまで、あそこで、笑顔で立っていたんです」
    「ほんとに一瞬だけ、目を離してしまったんです」
    「我が子の姿はもう、ありませんでした」
     
    山頂で嗤う白い鴉の足には幼子の髑髏

     【アボカドブレイン解剖詩】

    アボカド味のイデオロギーチップス
    濃厚でクリーミーで健康的な考え方
     
    身体にも地球にもマジでいい
    道徳倫理の天天天
     
    似た者同士の合わせ鏡
    かき氷のシロップの名前を伏せて
     
    スプーンで掬った一口分
    不感症のアンドロイド少女も頬を赤く染める
     
    イデチの詰まった如雨露の水を
    ガリマンドレイクの渇いた喉へ
     
    いらなくなった袋のゴミ
    自閉症の子どもに茨の冠

     【痴女ミイラ】

    幾多の男に舐められた
    太古から伝わるぐしゃ
     
    埋葬されたスペルミン
    悶々と漂う愛欲の呪い
     
    壁の穴の真実
    大量の覗き穴

     【愛⒤傘】

    「雨が降ると、あなたは、普段隠している耳を出して、見せびらかしてくる。
     美味しそうな耳たぶを見せるだけなんて、ほんとお気楽ね」

    「睫毛に腰かけた滴は、瞬きの度に、二人になったり一人になったりするの。
    あまりいい印象じゃなかったから、あなたから貰ったハンカチで、
    あなたの睫毛を拭う」

    「あなたは胸元を曝け出す。小麦色の肌、隆々とした鎖骨、頼りにしている胸。
     それらが、アタシの耳を赤くするの。わざとなの? って訊いたら、傘が傾いた」

     【選択された先に向かうだけ】

    「彼は、フカフカのベッドに飛び込もうとしている」
     
     いいや!

    「彼は、バク転をしているんだ!」
     
     いいや!

    「彼は鉄棒で、逆上がりをしているんだ!」
     
     いいや!

    「彼は、ブリッジをしているんだ!」
     
     いいや!

    「彼は、プールにダイブしているんだ!」
     
     いいや!

    「彼は、防空壕へ飛び込んでいるんだ!」
     
     いいや!

    「彼は、誰かに引きずられているんだ!」

     【子どもたちは、今やダンス楽曲の『え』】

    ランドセルの中に寄生する集合体の小児愛好虫
    風を呼ぶために
    卵を産み付け未来なき未来の子どもたちに微かな配慮を後付け丸投げ
     
    防犯ブザーを給食のサラダに添えて
    白米気取りのオジサマたちに向かって
    引き金を引くフリを見せれば
    一斉に『え』となるためにゴマをする
    些細な味のパンチに笑えば
    またゴマをする
    この繰り返し

     【身を穿つ斧】

    ボクへの誉め言葉
    全て
    大木をも切り落とす
    身を穿つ斧
     
    決して壊れない
    どこまでも届く斧
    ズボンのポケットにしまうことはできない

     【天散点散】

    朝
    いつもならまっすぐに差し込む光
    その姿なく
     
    天には
    テントウムシ
     
    愛するあなたとその友人たちが
    赤と黒に身体を爆散した日

     【ラクダラク商人】

    一つこぶを満たすほどの人生なんてない
    ああ
    ラクダラク
    ああ
    ラクダラク
     
    都会砂漠をのしのし歩く
    ビル密林をぶらぶら歩く
     
    垂乳根ミストレスの性欲を満たせるほどの男なんていない
    ああ
    ラクダラク
    ああ
    ラクダラク
     
    男体山脈をどこどこ歩く
    女体水脈をめでめで渡る

     【自由気ままな悪徳行為】

    「なんでそこを変えたの」
    「失恋でもした?」
    「なんでそもそもあいつなんかと」
    「いやいやあいつが悪い」
     
     全て変えてしまおう
     
    「前の方がよくね?」
    「歳だもんな」
    「二人に一人が」
    「もういいよ顔は」
     
     全て変えてしまおう
     
    「ピアス穴えぐい」
    「目の皺きっついわ」
    「歯並びどうにかなんない?」
    「頬肉だるんだるんやん」
     
     
     【雲を畳む】

    月を脅かす黒光
    あなたの首の骨が映す
    アタシの髪の毛
     
    雲を畳む
     
    ヒノキのアロマは
    あなたの首の匂い
    アタシの無の匂い
     
    雲を畳む
     
    ルンペンの煙草は雲か
    貴婦人の溜息は雲か
    少年の膝は雲か
     
    それらを確かめるために雲を畳む

     【在湖】

    境となる柵がない
     
    黙認された禁忌の地
     
    私は拙く髪とかす
     
    ピンクと青がもどかしく
     
    進化は無形
    信号無視
    声音は無意味
     
    全ての一つひとつをついばむ命鳥が囁く
     
    「すべてがいのちとり」
     
    もちろん 私もここにいる
     

     【岐路】

    好きと言えば
    この身が絶え
     
    嫌いと言えば
    その身が消え
     
    岐路はないと告げられる
    どうか帰路だけでも我が手にと
    足で歩いてみてもそれが岐路になることはない
    虚無になる

     【窓に語りて】

    窓に語りて
    浮かび上る
    愛人の横顔
     
    外は雨
     
    雨に語りて
     
    耳の中の滴
    ボクを無視
    勝手に堕落
     
    そこは地
     
    地に語りて
     
    常に無表情
    片道の傍聴
    安寧の心地
     
    「満足した。窓を閉めよう」

     【落下讃美歌】

    垣間見える電灯の光
    無邪気に戯れるハエ
     
    ハエは私だ
    電灯は君だ
     
    切断された雲
    侵入する感情
     
    受け止めきれず
    お互いに衝突し
    無様に落命する

     【身長差嗜好者ユージン】

    「尻に敷かれて死にたい」
    ユージンがそう言ったんだ
     
    「飴玉のように舐められて奥歯で噛み砕かれて死にたい」
    ユージンがそう言ったんだ
     
    「目の中の海で溺れて死にたい」
    ユージンがそう言ったんだ
     
    「顎でブランコをして勢い付けて身投げをして恥丘の上で死にたい」
    ユージンがそう言ったんだ

     【猛毒父母】

    あなたを育てたい
    あなたに乳をやりたい
    あなたを再びお腹に授かりたい
    あなたを産みたい
    あなたを間違えて誘拐したい
    あなたのために生きたい
     
    これでも私たちを愛してくれないのか我が子よ

    ならば
    きみの翼となりたい

    森の奥で
    少女の心臓を刺した
    ペガサス
     
    落涙
     
    両翼を引き千切られて
    泣いていた
    痛みよりも
    飛べないことに泣いていた
     
    「私がきみの翼となる」
     
    相手に寄り添うことは
    翼になるための最適解
    なのに なのに

    少女は翼になれなかった

     【公開処刑所感書簡:巻頭歌】

    燃え上がる炎は天に容易く到達する
    彼女の悲鳴を聞いて激しく燃え上る
     
    街の民は左目に炎を映し
    右手のパンに齧りついて
    幼き魔女の葡萄酒を飲む
     
    赤く光る黒猫の瞳
    青光る白鼠の毒牙
    生者の子種の巣窟
     
    船は灯りを目指す
     
    「天まで届く火。キレイだな。私の娘に見せあげよう。そのために、早く帰らなくちゃ」

     【真心】

    「自分が、白雪姫の手によって殺されると知っていながら、大好きな王子様のために、とても美味しいアップルパイを丹精込めて作る魔女。この姿こそが、真心と言えるものではないかね」

     【臭う月】

    幼い雨粒が成長した脚に踏まれて喜ぶ月は臭う
     
    もっさい芋山の頂に腰かけて屁をこく月は臭う
     
    隠れた雲を引っ張って来て自光を示す月は臭う
     
    永年の無垢な身と心に閉じ込められた月は臭う
     
    不能の太陽の前で自身の裸を露出する月は臭う
     
    拒絶反応をご飯にのせて喜ぶ倒錯した月は臭う

     【動物たち】

    仔羊のような眠気を
    獅子のような弱腰を
    黒猫のような艶美を
    白象のような無駄を
     
    牛のゲップにのせて

     【罅の入った安心感】

    将来安泰
    積もった幸運を事故で喪失
     
    前世之徳
    不埒な散財によって急降下
     
    子孫繁栄
    保健の教科書に黒塗り修正
     
    美人薄命
    全員人生整形手術寿命万年
     
    樽腹上死
    ベッドの崖の端から落下死

     【しんぶんし】

    解決されない問題
    ピザ生地の食感を
     
    あちらでは血生臭い古の新聞紙が流れている
    こちらでは少年が新聞の見出しで死んでいる
     
    その間を通る杖をついた人々

     【多感対処法】

    「多感な時期だからね」
     と言われてしまえば、あなたはそこまでの人なのです。
     後々になってそれを理解し、硬いベッドの上で、値札のない涙を流すのです。
     
    「アホらしい……。手鏡を持って、外へ出なさい」

     【産声】
     
     私は、産声を上げるよりも早く、目を開いた。
     そこには、母の顔があった。
     初めての、美と愛と性の恐怖に泣き叫んだ。

     【止まない雨なんてないなんて言わないで、決して】

    一日たりとて晴れることがない場所で
    ナメクジが颯爽と走る
    ミミズが頭で踊る
    カエルが歌う
     
    赤い長靴を履いた少女が笑う

     【革手袋】

    あなたの温もりを残した革手袋が
    ボクの冷たく渇いた頬を包む
     
    名残り雪を舌の上に乗せて
    キスをした
     
    街の雪が全部溶けてしまうぐらいに熱くなった

    突き放す

    「突き放したって何も言うことはないよ。
     何も言うことがないからこそ突き放すんだろ。
     どうしてと言われたってなあ。
     その後がわからないから言い続けるのかい?
     それじゃあ、わかるまで私は、キミを突き放し続けるよ」

     【思ってたのと違う】

    神秘のベールを剥がしてごらん
    落胆で切りつけられた目に真実
     
    所々穴の空いた神秘のベールを再び

     【ししおう】

    鬣を遊ばせる
    陽を目指して
     
    鬣をとかす
    細く鋭い手
     
    天に腹を向けて眠る
    両腿間から覗く絶景
     
    獅子王の想い叶わず
    怪鳥の雛の餌になる
     
    あの子の四肢追うは獅子王

     【豪華傲慢】

    逆らえない美しさ
    払拭できない鬱屈
     
    嫌味しかない輝き
    絶え間のない猛暑
     
    屈服する普遍万象
    豪華傲慢なる支配

     【文面魚】

    「太る」を食えば太る
    「泳ぐ」を食えば泳ぐ
    「死ぬ」を食えば死ぬ

     【遠吠え】

    悪魔は資料となった
    人々から忘れ去られた書物の中の一コマ
     
    悪魔は猫でありヤギであり
    仔羊でありサキュバスであり
    長期休暇のバーのママであり
    娼婦の置手紙の裏面に張り付けられたハメ自画像であり
    太った男の呼吸なき呼吸であり
    月の欠けている部分である
     
    遠吠えにのせて
    それを私たちに教えてくれた
     
    天使の仰ぐ三十六度五分の風

     【溜息】

    母の溜息で
    私は立ち止まり
    うずくまり
    わななき
    汗をだらだらと垂らす

     【遊具は危険!】
     
    遊具は回って
    駆けて
    落ちて
    破裂して
    粉々になってしまうから
    危ないよ

     【オアシス】
     
    椅子から立ち上がる
    糸を引く
    血
    舌を巻く
    局部がいきり立つ
     
    都会のオアシスが
    ビルの中のカフェとするならば
    教室のオアシスは
    彼女が育んだ血の池である

     【シャワー】

    どれだけシャンプーをつけても
    後悔は拭えず
     
    しつこいフケの塊のように
    しがみついて離れない
     
    どれだけ身体をゴシゴシと洗っても
    快感は忘れない
     
    ねっとりと寝取られていた
    妻の姿がこびついて離れない

     【修復失敗】

    キレイなものが
    よりキレイになろうとする姿が滑稽に見えるのは
     
    キレイを越せば
    キレイでなくなることに気が付かないから

     【イメージと違うじゃないか!(歌のない歌詞)】

    ボクのイメージ
    一番大事
    違けりゃ
    その場でポイ捨て
     
     
    イメージファースト
    自分ファースト
    イメージ大事
    自分第一
     
    ボクのブレイン
    色々しかないし
    現実みちゃって
    怖くてパニくる
     
    ボクのブレイン
    色々しかない
    「恋の色は?」
    に答えられない
     
    イメージファースト
    自分ファースト
    イメージ大事
    自分第一
     
    イメージファースト
    自分ファースト
    一番大事
    自己愛
     
    ボクのポリシー
    差別区別反対派
    自分とあなたを
    一緒にしちゃう
     
     
    曲げられない
    保健の教科書
    全部が黒塗り
     
    イメージファースト
    自分ファースト
    自分が凄い
    当分大吉

     【明日天気にしておくれ】

    元気モリモリ ジャポップ
    明日天気にしておくれ
     
    腰振りゃ騒ぐ生娘ら
    ボクを元気にしておくれ
     
    「あめあめ ふれふれ かあさんや」
     
    その唄を歌うな
    歌うなら最近にだけ話題になる女性歌手のような歌い方で頼む
     
    どうせ男が歌っても叶いっこしないんだから!
     
    てるてる坊主照る坊主
    明日天気にしておくれ
    てるてる坊主照る坊主
    明日天気にしなくちゃ
    おめぇの妻の四肢を切断して豚の肥溜めにしちまうぞ
    てるてる坊主照る坊主
    明日天気にしなくちゃ
    娘を淫売宿に投げ込んで
    百人孕むまで帰らせないように脅迫文を朝チュンポストに入れちまうぞ
     
    ぼーくのあーしにしがみつく
    てーるてるぼーずてるぼーず
    明日天気に

     【タバコのポスター】
     
    死を吸って 命を吐く
    命を削って 命を吐く
     
    吸い殻に人工呼吸を
    灰皿に電気を流せ!
     
    灰色の肺が灰になるだけ
    魍魎が食らう愛煙家の骨
    父は乳が吸えないから!
    口が寂しいともボヤけず
    骨壺の中を漂う煙の香り
    家族が老いてくれた線香

     【ブランコ】

    公園のベンチで一日中座っている
    おじさんの力で支えられている
    ブランコ
     
    渇いたミミズが
    鎖となって
    少女の重みに耐えている

     【肉風船】
     
    生きているだけなのに
    悲しみを吸い込んで
    プクプク膨らんで
    鉄塔に刺さって
    死んじゃった
     

     【帰りたい】

    見知らぬ少女の胎内に帰りたい
     
    「おかえり」
    と言われたい
     
    翌朝の日光に文句を言ってみたい
     
    彼女の乳歯で髭を剃りたい
     
    口の中の粘つきを新鮮な汗で拭いたい

    妖女の住む海から聞こえた声
     
    「人中であなたを掬って、怯えた匂いを味わいたいの」

     【目先】
     
    豪華なドレスを着た婦人が道端に落ちている
    千円札をソワソワしながら 拾い
    キラキラのカバンに入れた
    屈んだ時に見えた下着が汚かった

     【性根】

    私が口の中で温めたミネラルウォーターでミシミシと根を張る性に実る果実は、すぐに腐ってしまう。
     
     【虚影】

    影が虚となれば、その身はなくなる。

     太陽に旗を立てよ
     
    醜く太った太陽に、旗を立てよ。
    穢れを許さぬ者は、容赦しない。

    【賑やかし】
     
    誰も見やしない
    さあ 恥ずかしいことをしよう

    注意書き

    ※注意:女学生の尻の下には熱したフライパンを常備せよ

     【赤子はつらいよ】

    ベビーカーの中にはママ
    スマフォを口の中に入れて
    ちゅぱちゅぱしている
     
    夜は男に抱かれて 夜泣き

     【だいなし】
     
    何もかもがだいなしだ
    あとかたもない
    残骸さえもない
    センスコースト

     【ギブアップ】

    わからなければ
    わからないでよい
    わかろうとするから
    あなたは苦しむのだろう

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

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