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手も觊れぬ癜真匓秀歌を玐解く(5)

    うちだあ぀こ

    和歌は本来的には恋をうたうものです。が、正盎に蚀っお、『叀今集』の恋歌はそれほど面癜くない。やはり恋歌盞聞ず挜歌は『䞇葉集』が抜きん出おいたすので。ずいい぀぀、今回はあえお、『叀今集』の恋歌を玹介したいず思いたす。
    ※今回の䞀銖を秀歌ず称すのは、「掚し」ぞの莔屓目が倚分にある点をご了承くださいたせ

    「癜真匓」


     手も觊れで月日経にける癜真匓
     起き臥し倜はいこそ寝られね

    『叀今集』巻十二〈恋ニ〉605番、玀貫之の歌です。䞊の句は「手も觊れるこずなく、月日が経っおしたった癜真匓よ」の意。「癜真匓」は、マナミの朚で䜜った癜朚の匓のこず。朚目が现かくしなりがあっお、衚皮を剥くず癜く矎しいマナミは、匓材ずしお珍重されたらしい。この語は『叀今集』䞭ではこの䞀䟋のみですが、『䞇葉集』の時代には耇数甚䟋があり、䞭には、

     倩の原振り攟け芋れば癜真匓匵りお懞けたり倜道はよけむ

    『䞇葉集』巻䞉 間人倧浊 289

    のように、倜道を照らしお空にかかる月の比喩ずしお甚いられるこずもありたした。
    月ずいえば、

    海䞊 明月生じ、倩涯 歀の時を共にす。
    情人 遙倜を怚み、竟倕 盞思を起こす。
    燭を滅しお光の満぀るを憐れみ、衣を披りお露の滋きを芚ゆ。
    手に盈みたしお莈るに堪えず、還り寝ねお䜳期を倢みる。
    匵九霢「望月懐遠」

    安らかに寝ぬ 北堂の䞊、明月 我が牖たどに入る。
    之を照らしお䜙暉有るも、之を攬ずれば手に盈みたず。
    陞機「擬明月䜕皎皎」

    のように、「閚怚戊に赎く倫の垰りを埅぀劻の詠嘆詩」の䞭で、「月光は手に取るこずが出来ない」ず衚珟するものがありたす。たた、

    目には芋お手には取らえぬ月の内の桂のごずき効をいかにせむ
     『䞇葉集』巻四 湯原王 632

    目には芋お手には取られぬ月の内の桂のごずき君にぞありける
     『䌊勢物語』䞃䞉段

    のように、「月の䞭に生えるずいう䌝説䞊の桂の朚」が手に取れないこずを、恋する盞手に觊れられない状態に重ねお詠む和歌もありたす。
    さらに貫之には、

    手にむすぶ氎に宿れる月圱のあるかなきかの䞖にこそありけれ
     『貫之集』902

    ずいう「氎月仏教で、実䜓のない幻を指す語」を詠んだ蟞䞖歌もあるので、もしかするず、貫之の「手も觊れで 癜真匓」ずいう衚珟も、これらの「掎めない月」の衚珟矀に類するバリ゚ヌションの䞀぀なのかもしれたせん。
    もちろん、月に䟋える以倖にも、「癜真匓」が「矎しく滑らかな癜肌」を連想させる効果もあるわけで、この官胜的なむメヌゞが、䞋の句ずしっかり結び぀いおいきたす。

    超絶技巧の序詞

    序詞ずは、埌続の語句を導き出すための修食語句のこずで、二句たたはそれ以䞊にわたる衚珟である点ず、ほずんど慣甚されない䞀回きりの甚䟋である点が、枕詞「ひさかたの」「ぬばたたの」等ずは異なりたす。序詞には、倧きく分けお䞉皮類ありたす。

    ①【圢容や比喩の関係】
    吉野川岩波高く行く氎のはやくぞ人を思ひそめおし『叀今集』巻十䞀〈恋䞀〉玀貫之 471
    ※吉野川の氎のように、はやく激しく恋をする意。

    ②【掛詞を仲介する関係】
    颚吹けば沖぀癜浪た぀た山倜半にや君が䞀人越ゆらむ
    『䌊勢物語』二䞉段
    ※「颚吹けば沖぀癜浪立぀」が「竜田山」を掛詞によっお導く。

    ③【同音・類音を反埩する関係】
    芊鎚の隒ぐ入江の癜浪の知らずや人をかく恋ひむずは
    『叀今集』巻十䞀〈恋䞀〉詠み人知らず 533
    ※「癜浪の」が同音「知らず」を導く。

    圓該の「癜真匓」歌は、匷いお蚀うず②の【掛詞を仲介する関係】に圓たるでしょうか。ずいうのも、この歌の䞋の句、
     おきふしよるはいこそねられね
    は、「起き臥し倜はいこそ寝られね」、すなわち「起きおいる昌も暪になる倜も貎女のこずを考えおいお、眠るこずができない」の意味ずなるのですが、そのうち「おき」「ふし」「よる」「い」が、匓に関する動䜜を衚す語ず掛けられおいるのです。

    匓は、男の手に取る物なるゆゑに、女を倚く匓によ そぞお詠めり。さるを、「手も觊れずしお月日経にける」ずいふは、誠に手をだに取り觊れずしお久しく恋ひ枡れるこずを、兌ねお詠めるか。又は、衚は匓をいひお、逢はぬこずの喩ぞずするか。「おきふし」も、「よる」も、「いこそ」も、皆匓の瞁の詞 なり。匓を振り立぀るず、匕き䌏するずを、「おき」・「ふし」ずいふ。『神代玀』に云はく、「匓圌ゆはずを振り起お」云々。『䞇葉』第䞉に云はく、「倧倫たすらをの匓䞊ゆずゑ振り起こし」云々。『叀事蚘』軜倪子の歌に云はく、「郜久由矎胜、蚱倜流蚱倜理母、阿豆䜐由矎、倚化理倚化理母぀くよみの こやるこやりも あづさゆみ たおりたおりも」ず。「こやる」は䌏せるなり。匓を䌏するに寄す。「立おり」は匓を振り起おるに寄す。 起き぀臥し぀しお物思ひお、倜はい寝られぬず詠めるなり。

    契沖『叀今䜙材抄』※䞀郚衚蚘を改めた箇所あり

    私は匓の心埗がありたせんので詳しくないのですが、匓を射る䜜法の䞭に、「おきふし」、匓末を起こしたり、䌏せたりする動䜜があるのでしょうか。さらに、匓を匕く時、匓の䞡端がこちらに匕っ匵られお寄っお来るこずから「よる」を導き、射るこずから「い」を導くずいうわけです。
    玀氏はその昔歊人の血筋でしたから、匓の扱いなんかも口䌝で習っおいた可胜性はなくもない。ただ、歌舞を叞る圹所内教坊に生たれ育ち、地方官や図曞通長を務めた貫之が、実際匓を操る堎面は無かったでしょう。ですが、これらの匓にた぀わる動䜜に気づいた埌に䞋の句を芋盎すず、圌が叶わない恋に悶々ずする姿の裏で、䞀方では凛々しく匓を手に取り、振り起したり䌏せたりしながら、射るたでの姿が二重映しのように浮かんでは来ないでしょうか。
    思わず「いや、匓めちゃくちゃ觊っおるやん」ず、䞊の句の謙虚さをツッコみたくなりたすが、これはあくたで、序詞から導かれる「裏の文脈」。「手にも觊れるこずなく想っお来た 、貎女を想うず居おも立っおもいられないし、倜も䞀睡もできない」ずいう匱さで盞手の同情を誘い぀぀、その反面、「癜真匓」を流れるような手捌きで操る巧さを垣間芋せお、さりげなく色っぜさもアピヌルする。あたり分析が過ぎるず、貫之さんに「やめおくれ」ず蚀われそうなのでこのぞんにしおおきたすが、ずにかくこの歌の超絶技巧ぶりがお䌝えできおいれば嬉しいです。

    匓を詠む恋歌

    私の高校には匓道郚は無かったですが、あったら入りたかったかも、ず思いたす目が悪いし手も短いので䞍向きだずはわかっおいたすが。匓っおなんかかっこよくお憧れたせん
    䞊述の通り、平安䞭期に匓を実際に操る貎族は少なかったでしょうが、䟋えば魔陀けのために匓の匊を匟いお鳎らす「鳎匊」なんかは行われおいたようですし、そこたで瞁遠い物でもなかったのかもしれたせん。
    匓を詠んだ和歌にも、玠敵なものがたくさんありたす。

    梓匓真匓槻匓幎を経お我がせしがごずうるはしみせよ

    『䌊勢物語』二四段

    田舎䜏たいの倫婊がいた。男は郜䌚に「宮仕えに行く」ず蚀っお出お行き、ずっず戻らなかった。その間女を気にかけお求婚し続けた別の男もいお、女は䞉幎圓時の離婚が成立する幎限元の男の垰りを埅った末、぀いにその別の男の求婚を受け入れるこずずなった。ずころが、たさしくその倜に垰っおきおしたった元の男。女に逢いたい䞀心で、激しく扉を叩く。が、女は圌に䌚うこずはできない。「あらたたの幎の䞉幎をたちわびおただ今宵こそ新枕すれ䞉幎お埅ちしたしたが、貎方は戻らなかった。ですから今倜、本圓に今倜初めお、他の男性ず新枕を亀わすずころなのです」ずだけ和歌を詠む女。
    男はどうしたか。
    その時に男が返したのが、䞊に匕甚した匓の歌です。
    䞉皮類の匓のうち、最埌の「槻匓」が、「぀き月」の音に因んで「幎」を導く語ずなっおいたす。「幎を経お我がせしがごずうるはしみせよ幎を経お、私が貎女にしおきたように、今床は貎女がその人を愛しおあげなさい」。
    それだけ蚀っお去る男。女は思わず倖ぞず远いかけたすが、間に合わなかった。
    川のほずりで悲歎に暮れた女は、そばの岩に、指を切った血で和歌を蚘したす。

    梓匓匕けど匕かねど昔より心は君によりにしものを

    『䌊勢物語』二四段

    「貎方がどうであったにせよ、昔から私の心は貎方の傍に圚ったのに」。女は息絶えおしたいたす。
    悲しい話ですが、和歌も含めおずおも玠敵。私の倧奜きな章段の䞀぀です。

    さらにもう䞀䟋、『䞇葉集』より、匓にた぀わる連䜜です。

    久米犅垫、石川郎女を劻問ふ時の歌五銖
    ①み薊刈る信濃の真匓我が匕かば貎人うたひずさびお吊ず蚀はむかも【犅垫】
    ②み薊刈る信濃の真匓匕かずしお匊をはくるわざを知るず蚀はなくに【郎女】
    ③梓匓匕かばたにたに寄らめども埌の心を知りかおぬかも【郎女】
    ④梓匓匊緒぀らを取りはけ匕く人は埌の心を知る人ぞ匕く【犅垫】

    『䞇葉集』巻二 96〜99。連䜜五銖目の100は割愛

    ①は久米犅垫から莈った和歌で、「私が信濃の真匓を匕いたら貎女に求婚したら、貎女は䞊品ぶっお『嫌よ』ず蚀うんでしょうね」ずいうもの。それに察し、②は石川郎女の返事で、「あら、匓を匕くなんおおっしゃるけど、貎方、匓の匊の匵り方すらご存知ないでしょう」ずあしらっお芋せたす。こう蚀われおは久米犅垫くん、反論ができたせん。しかし、石川郎女おねえさた、そんな犅垫くんに、敢えお「隙」を䞎えおあげるのです。
    このあたりの駆け匕きに぀いお、詳しくは村田正博「久米犅垫の劻問いヌ䌝未詳の或る堎合」『文孊史研究』第26巻、1985幎12月。埌に『萬葉の歌人ずその衚珟』枅文堂出版、2003幎にも所収をぜひお読みください。「もしかしお、村田先生この時代に生きおた 久米犅垫ず実際に話した」ず思わせるほどの解釈、ずおも匕き蟌たれたす。優れた囜文孊研究論文は、䜜品に負けず劣らず論文自䜓も「読み物」である、ずいう䞀䟋ずしおもお勧めしたいおこがたしくおすみたせん。
    ※以䞋のリンクからpdfでダりンロヌド可

    たずめ付∶野暮な返歌

    たずめは以䞋の通り。

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    今回は貫之の歌ずいうこずで、「あばたもえくが」的な評䟡になっおいるずは思いたす。実際この和歌をもらった女性は、どう感じたんでしょうね。䞀歩間違うず錻に぀くくらいのテクニカルな歌ではありたす。いや、ずいうかそれ以前に、この和歌を実際に莈った女性など存圚したのか、どうか。『叀今集』を線纂するにあたり、フィクションの恋歌を䜜品ずしお甚意した、ずいう事情すら考えおみたくなりたす。だっお、ねえ。
    こんな歌、どうやっお返事をするのよ

    で、劄想しおみたした。もし私が返事をするなら。

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     みたいな 照

    拙くお意が通らない点もあるかもですが、芁は「぀べこべ蚀わずにはよ来いや」の心です。せっかちな浪速人の血が隒いでしたいたした。こんな歌返されたら、貫之さん匕いちゃっお来おくれないでしょうね。和泉匏郚、あるいは朧月倜くらいのむむオンナ達が蚀うなら、ワンチャンあるかもですけれど


     
     
     
    「濁䞖ノ事、歀ノ劂シ。長倧息スベキナリ」 ずはいえ、生きおお楜しいこずもありたす。 囜文孊、特に和歌、叀今集、貫之のこず、 珟では仲間が芋぀けにくいこれらの趣味達を ここで語らせおくださいたせ。

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