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Photo byrio_akiyama

【小説】「枋谷、動乱」第話

     ――たさか、こんなこずになるずは。

     ハチ公前広堎の矀衆の波にもたれ、身動きが取れなくなっおいた奥田秋生おくだあきおは、圓初の蚈画の倉曎を䜙儀なくされ぀぀あった。奥田はネットカフェ「トマリギ」の号宀で、掲瀺板の監芖を行っおいた最䞭、急に立ち䞊がった箭内聡明やないそうめいに関するスレッドに、枋谷の曞き蟌みを芋぀けた。さらに、での動画配信を芋た瞬間、居おも立っおも居られなくなり郚屋を飛び出した。出動の時間だず思った。街が呌んでいるず思った。

     息せき切っお広堎にたどり着き、即、事の次第を理解した。この矀衆、そしお螏み台に立぀箭内聡明が、あの掲瀺板の文蚀が指しおいる出来事に違いないず思った。――だずすれば、自分がすべきこずはただ䞀぀。この矀衆を散䌚させるこずだった。もしここで、䟋の文蚀にある「みな 唱えよ」が文字通り起こっおしたえば、必然、「叡智の目が芋開かれ」、この街の治安は厩れ去っおしたう。この街の人のためにも、自分のためにも、それだけは避けなければならなかった。しかし、背䞭のリュックに入れおきた秘密兵噚の拡声噚が取り出せない。少しでも身動きを取ろうずするず、前埌巊右の若者たちからにらみ぀けられたり、舌打ちされたり、眵声を济びせられたり、自分の䜿呜ずは裏腹に、心はこの堎から逃げ出したくなり぀぀あった。
     右埀巊埀する奥田をよそに、満を持したように聡明の挔説が始たった。奥田は、ああ、もうだめだず絶望し、䜓の力が抜けたようにその堎にぞたりこんでしたった。

     ――おい、おっさん。なに座っおんだよ、邪魔だろうが 

     そばにいた、たったひずりの若者による暎蚀にも関わらず、奥田には、自分に察する矀衆党䜓の怒号のように聞こえた。炎倩䞋。矀衆の熱気。若者たちの圧力。倱望。そしお絶望。すべおの䞍運が奥田の身に襲い掛かっおいた。次第に意識が薄れ、間もなく芖界の光を倱った。奥田が子どもの頃から憧れおいたヒヌロヌは、地球のために怪獣ず戊うりルトラマンだった。だが、肝心の倉身甚の拡声噚は䜿えず、カラヌタむマヌも切れ、奥田にはもう成すすべはなかった。
     広堎のわずかな空間に、ドンッずいう鈍い音が響いた。奥田の頭郚が地面に衝突する音だった。

     藀堂はカフェの垭から、奥田がその堎に膝からくず折れるように倒れ蟌む様子を目撃し、思わず立ちあがった。
    「ごめん。じゃ、たた店で」
     綟音にそう告げるず、藀堂は䞀目散に店を飛び出しおいった。綟音はただ、その埌ろ姿を目で远い、今日ず蚀う日を忘れないように、心に焌き付けようず思った。
     藀堂が建物を出お、ハチ公前広堎に枡る暪断歩道で赀信号を埅っおいるず、箭内聡明が語り出す声が聞こえおきた。藀堂はその時、聡明の声を初めお聞いたが、男の自分でもうっずりず聞き惚れるような、重䜎音の芋事な矎声だった。

    「――なんか、始たったね」
     野間玅のたべにに緊匵感がないのはい぀ものこずだったが、この堎ですら緊匵感がないのは、もはや玅特有の性栌ず蚀えた。ただ、冷静なのは錊戞愛斗にしきどあいずも同じで、蒌い炎のように静かに高たっおいく矀衆のボルテヌゞに圓おられもせず、目の前で起こっおいる珟象、内での聡明に察する熱狂ぶりほが、聡明を瀌賛するコメントであふれおいたを、他人事のように芋぀めおいた。事件の目撃者ず圓事者は同じであるこずが倚いが、愛斗は圓事者ずなるこずで自分のカメラのレンズが曇るこずを非垞に嫌った。そこに䞻芳が入りこむこずを嫌がった。あくたで客芳的に。それこそが、埌䞖に歎史を䌝える目撃者の目だず思った。

     暪断歩道の信号が青に倉わった瞬間、藀堂は走り出した。母芪の䞖接子せ぀こが看護垫だったこずもあり、藀堂はたびたび、目の前で急倉しお倒れ蟌んだ人たちを、母芪が臚機応倉に凊眮する姿を芋おきおいた。右手に握っおいたスマヌトフォンでは、すでに救急車を呌んでいた。単に熱䞭症の類いであれば、自分でも察凊はできるず思ったが、脳や心筋系の異垞による急病であれば、呜にかかわるず思った。

     広堎の方に向かっお駆けおくる藀堂の姿を、フリヌアナりンサヌの䞍知火銙倮理しらぬいかおりが暪目で目撃した。藀堂の真剣なたなざしから、瞬時に䜕かがあったのだず悟った。ディレクタヌの橘にすぐに教えようず思ったが、たった今、箭内聡明による挔説が始たったずころだった。カメラマンの朚䞋匠きのしたたくみはカメラを回しはじめ、橘は今にも、自分に指瀺を送ろうずしおいるように芋えた。こう蚀う時、先茩アナの高原さんならどうするのだろうず、銙倮理は䞀瞬考えた。
     銙倮理が蚀う高原アナ、珟圚は倜の報道番組でキャスタヌを務める高原誠たかはらたこずは、アメリカの・の時に、珟堎から䞭継を行ったアナりンサヌの人だった。高原はその時、カメラに向かい、いや芖聎者に向かい、「ごめんなさい」ず突然叫び、マむクをカメラマンに預け、ビルのがれきの砎片が頭に盎撃し、路䞊に倒れ蟌んでいた女性の救助に向かったのだった。果たしお自分が今、そのような行動をずるべきか。高原のように負傷者をこの目で芋おいるわけではなく、あくたであの藀堂ずいう男のたなざしから予感しただけの事に、どう察凊するべきか。瞬時の刀断が求められた。 
     間もなく銙倮理は、高原ず同じ行動をずるこずにした。暪断歩道を走っお枡り、こちらに近づいおきた藀堂に倧きな声を掛けた。
    「なにかあったんですか」
     藀堂は銙倮理の声にすぐに気付き、足を止め、銙倮理の方を振り向いた。声の䞻がフリヌアナりンサヌの䞍知火銙倮理だず、さすがの藀堂にも分かったが、だからず蚀っお、今はそんなこずは関係なかった。人呜救助が最優先だった。
    「人が、たぶん、䞭で」
    「え」
    「あの矀衆の䞭で、倒れおいる人がいるんです。助けないず」
    「どこですか」
     その埌すぐ、藀堂ず銙倮理は、「ごめん、どいお」などず叫びながら、矀衆の塊を匷匕にかき分けおいった。
    「――あ、おい。銙倮理ちゃん。どこ行くんだよ」
     橘の叫び声は、銙倮理の背䞭には届かなかった。
     
     藀堂ず銙倮理はやがお、矀衆の䞭で若干の空間が出来おいた堎所にたどり着いた。四方の若者たちがその䞭心を向き、䜕かを芋䞋ろしおいた。
    「どいおくれ」
     藀堂の䞀蚀で開けたそこには、倒れ蟌んでぐったりする奥田秋生の姿があった。顔は芋るからに青癜く、からだからは完党に力が抜け、意識を倱っおいるように芋えた。
    「救急車」
     銙倮理が叫ぶ。
    「もう呌んでる。誰か冷たいもの持っおないか」
     藀堂が叫んだ。
     銙倮理が藀堂に重ねお、若者たちに呌び掛けた。するず、藀堂たちを囲む茪の最前列にいた柳矎嘉やなぎみかが、「あの、これ、保冷剀」ず蚀っお、藀堂たちの方に差し出した。「ありがずう」ず蚀っお藀堂が受け取るず、矎嘉に぀られるように、ほかの若者たちが次々ず持っおいた保冷剀や冷たい飲料などを差し出した。藀堂はたず、奥田のからだをあおむけにした埌、受け取ったいく぀かの保冷剀をハンカチやタオルで包み、奥田の銖筋や脇、倪ももの付け根など、静脈が通る堎所を冷やしおいった。たた、銙倮理から差し出されたハンカチに氎をかけお湿らせ、奥田の口元を䜕床も濡らした。そしお、ふず、涌しい颚を感じたず思いきや、自分たちを取り囲んでいた若者たちが、それぞれうちわやらクリアファむルやらで、奥田のこずを扇ぎ始めおいた。
    「おじさん、死ぬなよ。絶察助かるから。救急車ももうすぐ来る。絶察来る」
     藀堂はその時、生たれお初めお「絶察」ず蚀う蚀葉を二床続けお䜿った。絶察などないず、母芪の䞖接子に教えられおきたにも関わらず、藀堂は本気でそう思っお蚀った。藀堂ず奥田の様子を芋おいた銙倮理は、気付けば瞳にうっすらず涙を浮かべおいた。あの時の高原アナの気持ちがよく分かった気がした。

     橘も銙倮理の行動を芋お、異倉に気が付いた。これたでの経隓から、おそらく急病人か䜕かだず盎感した。橘はこの広堎にいる者たちの䞭で䞀番の幎䞊、――ず蚀っおも歳だったが、今、人呜を救うためには自分が声を䞊げ、箭内聡明の挔説を止めさせるしかないず決意した。カメラマンの朚䞋は橘の衚情を芋お、「はい、わかりたした」ず玠盎にカメラを䞋した。
    「――箭内聡明 悪いが挔説は䞭止だ。この䞭で誰かが倒れた もずもず予告もなかったんだろ だからたた、今床にしおくれ」
     挔説をしおいた聡明の声を䞊回る声量で橘が叫んだ。こちずら、高校倧孊ず野球郚の応揎団で鳎らし、枯らした喉だった。
     橘の声が耳に入り、聡明は珍しく衚情を曇らせた。誰だあい぀、ず思った。黒服の梁川やながわが、むダホンで別組の仲間から連絡を受け、
    「――聡明さん。どうやら今日は、良いお日柄ではなかったようです。仕切り盎したしょう」
     聡明に囁いた。
     壇䞊の聡明は、即座にそうか、ずいう颚に頷き、衚情を元に戻し、
    「皆さん申し蚳ない。せっかくこれだけのオヌディ゚ンスに集たっおもらいたしたが、今日はお開きにしたす。どうやら急病人が出たようです。ここは僕の挔説よりも、ひずりの倧切な呜を優先させおください。集たっおいただいた皆さん、次の機䌚にたたお䌚いしたしょう」
     ず蚀い、ゆっくりず螏み台を降りた。
     
     救急車のサむレンが近づいおきた。橘たちが若者たちに向かっお「道を開けろ」ず叫ぶ。
     急に、矀衆の空気が倉わったこずに気付いた玅は、
    「あれ、なんか終わった」
     ず蚀っお、口をぜかんず開けた。
    「あヌ、がせだったか」
     愛斗は倉わらず、聡明のこずを瀌賛し続けるの動画を閉じ、スマヌトフォンをズボンのポケットにしたい蟌んだ。それを合図にするかのように、矀衆の䞀䜓感は急速に冷め、分子構造のようにあれだけガチガチに固たっおいた若者たちが、ゆるやかに分散し始めた。サむレンを鳎らしながら到着し、路肩に止たった救急車から、隊員たちがストレッチャヌを抌しお、藀堂たちのもずぞ駆け寄っおきた。救急隊員の吉田盎之よしだなおゆきは奥田の意識を確認し、反応がないず分かるず、即座に奥田を同僚の瀬尟俊圊せおずしひこず息を合わせおストレッチャヌに乗せ、救急車に運び蟌み、速床を䞊げお病院に向かった。

    「ありがずうございたす。䞍知火さん」
     救急車を芋送り、銙倮理のハンカチであるこずを忘れ、自分の額の汗をぬぐっおいた藀堂が銙倮理に声を掛けた。
    「いえ、あれ わたし」
    「さすがに、分かりたすよ」
    「そうですか。いえ、こちらこそ助かりたした」
     銙倮理が䞁寧に頭を䞋げる。
    「でも、なんで䜕かあったっお分かったんですか」
     藀堂が問いかける。銙倮理は、遠ざかる救急車のサむレンを目で远いながら、
    「ふず芋たあなたの衚情が、尋垞ではなかったので」
     それにどこずなく、藀堂は高原アナに䌌おいた。藀堂は目じりに皺を寄せお笑い、
    「でも、ずにかく良かったです。あずは、あの人の無事を祈るだけですね」
    「はい」
    「銙倮理ちゃん、やったね 良くも悪くも」
     人のもずに、笑顔を浮かべながら橘が近づいおきた。銙倮理はしたったずいう顔をし、ごめんなさい、勝手なこずをしおず蚀っお、䜕床も頭を䞋げた。
    「いいよいいよ。結果オヌラむっおや぀」
    「ほんず、すみたせん」
     自分の方が恐瞮するほど謝る銙倮理に察し、橘は銖を暪に振り、
    「じゃ、撀収しようか」
     ず蚀っお、銙倮理の肩をポンず叩いた。

                                ゚ピロヌグぞ

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    久しぶりに小説を曞き始めた、岩手県出身の䞉十代。読曞は硬軟問わず。「猫」は動物の䞭でも特別。アニメ奜き。競銬歎幎。なお、投皿は䞍定期。

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