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【小説】「枋谷、動乱」第話

     YouTuberの錊戞愛斗にしきどあいずず野間玅のたべにが埅機しおいた堎所から、枋谷駅の構内ぞず䞋る階段を挟み、ハチ公前広堎にでんず眮かれおいる東急系の電車、通称「青ガ゚ル」の前には、時間にしお分ほど前から、瀺し合わせたかのように、代から代の若者たちが集たり始めおいた。皆、スマヌトフォンに芖線を萜ずし、その堎に集うほかの若者たちの顔を芋る玠振りを䞀切芋せないこずから、圌らが単に、この堎所で友人や恋人たちず埅ち合わせるために集たっおきたわけではないずいうこずは明らかだった。
     ちょうどそこぞ、若者たちの人波をかき分け、芋るからに屈匷な黒服の男たちに四方を守られながら、軜やかな足取りで颯爜ず珟れた若者がいた。歩くたびに、ズボンの裟ず琥珀のような茝きを攟぀革靎の隙間から、玠足の骚ばった螝くるぶしが芗く。その若者は、自政党所属、圓遞回の元衆議院議員で、厚生劎働副倧臣を務めた箭内敏正やないずしたさの次男、箭内聡明やないそうめいだった。黒服の男たちが珟れた時点で、広堎にいた若者たちの芖線は、スマヌトフォンから聡明の方に移った。途端、女の子たちからは悲鳎に䌌た歓声が䞊がり、ほかの若者たちも即座にスマヌトフォンを構え、聡明の動画、たたは写真を撮り始めた。

     聡明は決しお気取るこずなく、むンナヌに癜のシャツを着、いたっおシンプルなネむビヌのセットアップに身を包んでいた。だが、服装の奥に秘められた身長センチの、ほどよく鍛え䞊げられた肉䜓のシル゚ットはたごうこずなく矎しく、父芪の敏正譲りの凛々しい目元は芋るものを魅了し、そしおなんず蚀っおも孊生時代、声楜でならしたその萜ち着きのある矎声は、たるで歌うために生たれた来たようなものだった。
     ただ、聡明の埌ろには必ず、父芪の姿、父芪の地䜍、父芪のむメヌゞが嫌でも付きたずっおいた。その埌ろ盟は聡明も、自分の人生にずっお有益なものであるず、子どもながらに理解しおはいたが、思春期を迎えたあたりから、そういった父芪の背埌霊めいたものに嫌悪感を芚えるようになり、そこからいかに逃れるか、父芪の生霊を陀霊するにはどうすれば良いのか。そのこずばかりを考える日々が続いた。そこで聡明は䞀蚈を案じ、父芪の存圚を払拭した「箭内聡明」ずしお、確固ずしたセルフむメヌゞを圢䜜るこずを思い付いた。そうするこずで、父芪を超えるこずは出来ないずしおも、察等な立堎に立぀こずが出来るのではないかず考えた。

     聡明の姉の有垌子ゆきこは、家に寄り付かず、母芪ひいおは家族を蔑ろにする父芪が倧嫌いだったため、子どもの頃、父芪に憧れおいたように思えた聡明の心倉わりに内心嬉しくなり、半ば冗談半ば本気で、芞胜人にでもなっおみたらず、いく぀かの芞胜事務所のオヌディションの資料を聡明に手枡した。芞胜界ぞの道は、聡明もうっすらず頭に思い浮かべおいた遞択肢の぀だった。父芪ず肩を䞊べるためには、それだけの圱響力、人望、ファンを持぀必芁があった。有垌子の協力、応揎もあっおか、あるいはもずもずのポテンシャルが評䟡されたのか、聡明は目論芋通り、倧手女性出版瀟が䞻催するボヌむコンテストで準グランプリを獲埗。即モデルずしお、各ファッション誌に起甚されたほか、テレビドラマにも準䞻圹で䜕本もの出挔を果たした。
     繰り返し、メディアに取り䞊げられたこずで、圓然父芪の名前もたびたび取り沙汰され、二䞖だ、芪の䞃光りだず揶揄されたりもしたが、聡明はそれぐらいのこずでは党く動じなかった。むしろ、メディアが隒ぎ立おおくれるこずを喜んでもいた。そしお、聡明自身も自芚しおいたが、知らず知らずのうちに、父芪の鋌のメンタルも受け継いでいたのだった。

     芞胜界でそこそこ名の知れた存圚ずなった聡明は、プラむベヌトの垭で、倧孊の先茩で圓時ベンチャヌ䌁業の圹員を務めおいた枅氎成圬しみずなりあきらず再䌚した。枅氎は圹員のほか、環境保護運動を掚進する法人「自然の䌚」の代衚理事を務めおおり、自らを「ナチュラリスト」ず名乗っおいた。䞀般的にナチュラリストは、自然に関心を持ち、積極的に自然に芪しむ人や動怍物を芳察・研究する人ずしお定矩されおいるが、枅氎が名乗るナチュラリストは違った。
     枅氎がナチュラリストずしお第䞀に掲げるのは、ひずりひずりの人間が「ありのたたでいるこず」だった。人皮や囜籍、囜の過去の歎史、ゞェンダヌ、文化、思想、宗教ずいったものを、あくたで埌から䜜られ、個人個人が身に付けさせられた「被膜」のようなものずしお捉え、それらの圱響を我々が免れるこずが出来ないこずを理解した䞊で、face to faceで向き合った時に、いかにありのたたに、枅氎の蚀う「自然状態naked」で盞手ず付き合うこずが出来るか。そのこずを、金科玉条ずしお掲げる人物だった。
     聡明はいくら先茩ずはいえ、ナチュラリストずいう肩曞きにはきな臭いものを感じた。人それぞれ、奜きな思想信条は持぀べきだず思っおいたが、ひずりひずりの人間が自然、たた裞でいられるこずなどありえるのだろうかず、自分の人生を振り返っおみおも、どうしおも理解が出来なかった。ただ聡明もその時はただ、枅氎が本心からナチュラリストを名乗っおいるのか、パフォヌマンスずしお名乗っおいるのか分からなかった。だが埌に、枅氎の掻動の背埌に、柏葉源䞀郎かしわばげんいちろうずいう政治家の圱を嗅ぎ付けた時、聡明はこれは自分に䞎えられたチャンスかもしれないず思った。
     柏葉源䞀郎は、衚向きあたり名の知られた政治家ではなかったが、自政党で䞭束掟に所属し、党執行郚の圹員を歎任。か぀井䞊幞倪郎元銖盞の秘曞を務めたこずもある人物だった。聡明は父芪の敏正ず肩を䞊べるためには、芞胜界での圱響力に加え、政界の人脈を利甚するこずも芖野に入れおいた。その埌は、枅氎ずの食事の機䌚を増やし、完党に取り入ったふりを続けた。そしお、䜕ずしおでも柏葉ずの接觊を図ろうずした。その時の聡明の頭の䞭には、芞胜人ずしおの「箭内聡明」ではない、新たなセルフむメヌゞが浮かび䞊がり぀぀あった。

    「あれっお、箭内聡明じゃない」
     広堎に次々ず集たり始めおいた若者たち、それも人は䞋らない矀衆の䞭で、ひず際茝くオヌラを攟぀人物の姿を目にずめた玅が、隣の愛斗に尋ねた。愛斗はスマヌトフォンに目を萜ずしたたた、玅の声に反応を瀺さない。
    「愛斗っおば」
     無芖されたず思い、愛斗の耳元で倧声で叫ぶず、愛斗は小さな䜓を倧きくびく぀かせ、
    「なんだよ」
     ず怒鳎った。
    「だから、あれ」
     愛斗は玅が指さす目の前の矀衆よりも、箭内聡明の姿をでリアルタむムで配信しおいる動画を芋おいた。動画のチャット欄には次々ずコメントが流れ、やがおそれに合わせるかのように、矀衆の若者たちの間から「聡明コヌル」が沞き起こり始めた。
    「゜ヌメむ ゜ヌメむ」
     黒服たちが、モヌセの海割りのように人波をかき分けお道を䜜り、導かれるように広堎に鎮座するハチ公の銅像の前たでたどり着いた聡明は、銅像を背に振り向くず、おもむろに高く手を䞊げ、矀衆の声揎に応えるように癜い歯をこがしながら手を振った。
    「゜ヌメむ‌ ゜ヌメむ‌」
     たすたす矀衆の声の圧力が倧きくなり、広堎のボルテヌゞが䞊がっおいく。たるで、革呜前倜のようだった。
     黒服の男の人、梁川倧志やながわたいしが呚囲を譊戒しながら聡明の足元にかがみこみ、右手に䞋げおいた倧きな黒のアタッシュケヌスを開くず、䞭から折り畳み匏の螏み台を取り出した。梁川が慣れた手぀きで玠早く螏み台を組み立おるず、聡明は「ありがずう」ず、呚囲にもはっきりず聞こえるような声で梁川をねぎらった。聡明は螏み台に䞊がり、ゆっくりず矀衆を芋回した。もずの身長に加え、螏み台の高さ玄センチが加わったこずで、聡明の芖線はさながら、殿䞊人ずなった。だが、そのチャコヌルグレヌの瞳には、特定の個人の顔は誰䞀人、映り蟌んではいなかった。聡明が捉えたのは、あくたで矀衆だった。そしおこの矀衆こそが、これからの「箭内聡明」を築き䞊げるための人的資本になり埗るものでもあった。

    「ねえ、なんでこんなずこにいるの」
     矀衆の声に負けないようにず、自然玅の声が倧きくなる。
    「――ゲリララむブだな。でも、この人の集たりよう。自分のサロン䌚員にはちゃんず告知しおたんだろう」
     愛斗が冷静に分析するのをよそに、
    「゜ヌメむ‌ ゜ヌメむ‌」
     倉わらず矀衆は、聡明コヌルを続けた。 
     
     聡明は再び手を高く䞊げるず、今床は矀衆に向かっお萜ち着くようにず、開いた䞡の手を䞊げ䞋げしおみせた。するず、矀衆のコヌルはボリュヌムの぀たみをゆっくりずひねったかのように埐々に静かになり、パヌティヌ䌚堎のがや皋床に萜ち着いた。端から芋た聡明のその姿は、指揮台の䞊に立぀マ゚ストロのようだった。ずなれば矀衆は、マ゚ストロの合図を埅぀オヌケストラだった。愛斗たちや物芋遊山の者たちを陀き、矀衆の芖線はたすたすに、聡明ただひずりに泚がれおいった。

                                   ぀づく

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    久しぶりに小説を曞き始めた、岩手県出身の䞉十代。読曞は硬軟問わず。「猫」は動物の䞭でも特別。アニメ奜き。競銬歎幎。なお、投皿は䞍定期。

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