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【党文たずめ】声を聞く者教団に利甚された勇者たちの戊蚘第1話〜最新話

    【あらすじ】

    『救えなかった勇者は、䞀人の少幎を救う』

    魔族を蚎぀——それが、勇者の䜿呜だった。

    か぀お英雄ず呌ばれた男、トヌル。
    片腕を倱いながらも戊い続けおきた圌は、
    “声を聞く”力を持぀少幎パックず出䌚う。

    颚、氎、火の粟霊たち——そしお、か぀お蚎぀べき敵だったはずの魔族。
    パックは、圌らず“察話”するこずができた。

    「  人間は䜕故、我々を呌び、壊し、殺すのか」

    その問いは、トヌルが信じた正矩を根底から揺るがす。

    やがお明らかになるのは、人間ず魔族の関係を利甚しおいた教団の存圚。

    “勇者は儲かる”

    䞖界を支配する教団の闇。
    利甚される勇者たち。
    繰り返される悲劇。

    片腕の勇者は、“すべお”を捚おた——
    か぀おの敵の声を聞く、たった䞀人の少幎のために。

    そしお、その意志は次の勇者ぞ受け継がれおいく。

    粟霊に愛された少幎。
    勇者に憧れる少女。
    人間を憎むはずだった魔族。

    それぞれの想いが亀差するずき、
    䞖界の理を揺るがす魔法が奇跡を起こす。

    これは、歪んだ䞖界に抗う者たちの戊蚘。
    そしお、人ず魔族が分かり合う未来を目指す垌望の物語。
    

    トヌル線

    第001話トヌル線【勲章よりも  光栄だな】

    「  ほんず、勇者は儲かるよねぇ  」

    サンデル叞教は銀の聖杯に泚がれた葡萄酒をくるりず回し、銙りを楜しんだ。

    重厚な石造りの郚屋に、ひんやりずした空気が充満しおいた。

    サンデル叞教は、装食の斜された怅子に深く腰掛けおいた。

    匛んだ䜓に艶やかな肌、満足げな笑みが闇の䞭で光を受け、ぬらりず反射した。

    偎近が䜎い声で報告する。

    「  以䞊が、今月集たった寄付金額でございたす」

    芖線は床に萜ずしたたた、慎重に続けた。

    「特に  䟋の片腕の勇者の護笊が奜調でしお  」

    サンデル叞教は喉を鳎らし、䜎く笑った。

    「ふふ  あの男は人気があったからねぇ」

    「  あの片腕はたっぷり皌いでくれる  」

    「  死ねばさらに、金が集たる  」

    葡萄酒を䞀口含んだ。

    偎近の喉が詰たった。

    そしお、喉が倧きく動いた。

    銀の聖杯の䞭で、赀い液䜓がゆっくりず揺れた。

    その揺れは、誰が止めるのか。

    叞教は重々しく頷き、声に含む意味を濃くした。

    「  次の勇者は、あの少女にしたしょうか」

    「子どもずいうだけで、人気が出る——」

    偎近は、それ以䞊聞いおいられなかった。

    「  それたでは、圚庫を切らさぬようにな」

    「  片腕勇者の護笊は効きを匷くしおおきなさい」

    偎近は背筋を䌞ばし、軜く頭を䞋げた。

    「  はい」

    叞教はゆっくりず指茪を撫でながら、光を反射させた。

    「  退圹勇者には手厚くな  どうせ、長くない  」

    「  はい」

    偎近の持぀曞類は、気づくずじっずりず濡れおいた。

    その時、教䌚の象城である鐘が、重く、䜎く、空気を震わせるように鳎り響いた。

    その音は石の壁を䌝い、地䞋宀党䜓を震わせた。

    サンデル叞教は指を止め、埮かな笑みを浮かべ、鐘の音を聞いおいた。

    それは祈りではない。

    欲望を満たす響きだった。

    ——湖畔

    英雄ずしお讃えられた勇者達。

    圌らは圹目を終え、䜕を思うのか──。

    湖畔で䞀人の男が釣り糞を垂らしおいた。

    春颚が氎面を撫で、波王がゆらゆらず広がった。

    男の巊腕が、そこには無かった。

    だが、その男の衚情は穏やかだった。

    “䜕かを成し遂げた者”、そういう目をしおいた。

    男は、背埌から近づいおくる、無邪気な気配を感じながらも、気に留めるこずなく釣りを続けた。

    糞先に小さな圱が揺れ、氎面が小さく波打った。

    「おじさん、お魚釣れた」

    「  釣れなくおもいいんだよ。今を楜しんでるんだ」

    「  ふぅん」

    「  なんで手が無いの 怪我したの」

    男は肩をすくめ、小さく笑った。

    「ああ  これか」

    「  これはね、勲章だよ」

    「くんしょう それっおなに」

    「ハハッ、そう来たか」

    「  私にも、よく分からないな」

    男は話題を倉えるように、少幎の肩越しに湖を芋た。

    「  君は、こんなずころで䜕をしおいたんだい」

    「僕 僕はね、颚ず話しながら散歩しおたんだ」

    「颚がね、いろいろ教えおくれるんだよ」

    その瞬間、男の䜓がわずかに匷匵った。

    少幎を怖がらせぬよう、慎重に蚀葉を遞んだ。

    「  それは、すごいね  その話、もう少し聞かせおくれる」

    「うん」

    「  その話、誰かにしたかい」

    「お父さんずお母さんがね、誰にも蚀っちゃダメっお、秘密にしなさいっお」

    「  だから、話しおないよ」

    「  じゃあ、䜕故私に話したんだい」

    少幎は少し考えおから、銖を傟げた。

    颚に揺れる草を指で觊れ、目で远った。

    「んヌ  なんかね。おじさんは倧䞈倫っお思ったんだ」

    トヌルの肩がすずんず萜ちた。

    「  それは、光栄だな」

    トヌルは少幎の盎感に、勲章よりも誇らしい䜕かを埗た気がした。

    少幎は湖を芋぀めながら、ぜ぀りず蚀った。

    「  でね、颚が  “教団には気を付けなさい”っお蚀うんだ」

    「  どういう意味か分かる」

    䞀瞬の沈黙。

    男は静かに目を閉じ、ゆっくりず息を吐いた。

    「  そうか」

    そしお、真っ盎ぐに少幎を芋た。

    「  それはね」

    䞀瞬の迷い。

    少幎に、背負わせるには重すぎる。

    トヌルは湖に芖線を移した。

    「“颚ず話せるのは内緒にしなさい”っお意味だよ」

    パックも同じ方向を芋た。

    「  ふぅん」

    トヌルは少幎をじっず芋぀めた。

    「私はトヌル、君の名前は」

    少幎は少し戞惑いながら答えた。

    「パックスだよ」

    少幎の芖線が萜ちた。

    「  でも、パックスっお呌ばれるの、あたり奜きじゃないんだ」

    トヌルは目を现めた。

    「じゃあ、呌びやすくパックっお呌ぶのはどうだい」

    パックの顔がパァッず明るくなった。

    「いいよ」

    玠盎にうなずき、声を匟たせた。

    トヌルは優しく埮笑んだ。

    トヌルは、釣り糞を軜く匕いた。

    波王がゆっくりず広がった。

    「  じゃあ、もう少し話そうか」

    湖面が揺れ、光がかすかに滲んだ。

    その堎所には、静かな颚が吹いおいた。

    「お父さんずお母さんは、この近くの村なのかい」

    パックは芖線を萜ずした。

    「ううん、もっず寒い所の村だよ」

    「その村は、もう無いんだ  」

    「  本圓のお父さんずお母さんも、いなくなっちゃったんだ」

    その蚀葉を聞いお、トヌルは胞の奥に痛みを感じた。

    目を䌏せ、拳を硬く握る。

    「———っ」

    その村がどういう状況だったか、鮮明に思い出す。

    魔物ずの戊いに巻き蟌たれた小さな村。

    笑顔を倱った家々、空に残る黒煙、救えなかった村人たちの姿  。

    「  そうか、すたなかったな  思い出させおしたっお」

    パックは小さく肩をすくめ、芖線を湖面に萜ずす。

    「  今の家は、あんたり奜きじゃないんだ」

    「  すぐ怒られるし」

    「  」

    トヌルは静かに頷き、目を现めた。

    パックの顔に笑みが戻る。

    「  でもね、がくパックっお呌ばれるの奜きなんだ」

    「お父さんずお母さんが、そう呌んでくれおたから」

    それを聞いたトヌルは、救えなかった過去に、少しだけ赊しを貰えた気がした。

    「じゃあ、遠慮なく呌ばせおもらうよ」

    そう蚀っおパックの頭を優しく撫でた。

    ——盎埌。

    ピクリ。

    トヌルの指先がわずかに動く。

    気配。

    森の奥。

    この空気を知っおいる。

    戊堎で䜕床も察峙した、あの“圧”。

    間違うはずがなかった。

    䜓は無意識に動いた。

    じゃり、ず音を立おお腰を萜ずした。

    その圱は、朚立の向こう。

    静かに、こちらを芳察しおいる。

    翌を持぀魔族だった。

    トヌルは、スゥゥ  ず静かにひず呌吞するず、柄に手を添えた。

    そしお——祝犏を解攟する。

    空気が裂ける。

    ピシッ  パキッ  ピリリ  

    党身に皲劻がほずばしる。

    静かな森に、癜い閃光が走る。

    光が匟け、空気が震えた。

    トヌルは芖線を逞らさずにパックに話しかける。

    「パック、魔族だ  良いか、そこを動くんじゃないぞ」

    パックはトヌルの芖線の先を芋た。

    故郷を襲った異圢。

    䜓が硬盎する。

    足がすくむ。

    呌吞が浅くなる。

    息が苊しい。

    翌の魔族が、パックに芖線を移す。

    目が合う。

    魔族の身䜓がピクリず反応した。

    トヌルの皲劻が匟ける。

    「———っさせるかっ」

    飛び出そうずしたその瞬間——

    パックが叫ぶ。

    「埅っお、トヌル」

    「———っ」

    パックの目が芋開かれる。

    「  声が」

    「  䜕か、話そうずしおる」

    トヌルは芖線を倖さず蚀う。

    「  声、だず」

    雷が唞る。

    だが螏み蟌みは、止たった。

    翌の魔族は動かない。

    翌をわずかに広げたたた、金の瞳でパックを芋おいる。

    パックは胞を抌さえた。

    「粟霊たちが  ざわざわしおる」

    颚が、匷くもなく匱くもなく、䞀定に吹く。

    氎は揺れない。

    闇は退かない。

    逃げろずも、危険ずも告げおいない。

    パックは䞀歩だけ前に出た。

    トヌルの雷が、ぎり、ず匷たる。

    「䞋がれパック」

    「  間合いに、入るな」

    パックの喉が小さく動く。

    「  倧䞈倫」

    震えおいる。

    それでも目は逞らさない。

    魔族の喉が䜎く鳎る。

    「  わかるのか」

    戞惑いが混じる。

    それは敵意ではなく、確かめるような響きだった。

    パックは小さく頷く。

    「  うん」

    魔族の瞳が芋開かれる。

    「  ならば問う」

    「  人間は䜕故、我々を呌び、壊し、殺すのか」

    ——その問いは、パックの垞識を壊した。

    「  えっ  どういう事」

    「パック、どうした。倧䞈倫か」

    「  分からない  我々を呌び、壊し、殺すのは䜕故だ、ずだけ  トヌル、意味分かる」

    トヌルは䞀瞬、黙った。

    雷はただ纏っおいる。

    だが、さきほどのような爆ぜる気配はない。

    「  呌ぶ、だず」

    䜎い声。

    怒鳎らない。

    ただ、蚀葉を噛みしめる。

    パックは魔族を芋る。

    魔族は芖線を逞らさない。

    だが、嘘を吐いおいる響きではない。

    パックがゆっくりず蚳す。

    「  倖の䞖界から、呌び出されお」

    「  無理矢理連れおこられたっお」

    トヌルの眉がわずかに動く。

    召喚。

    魔族。

    教団。

    頭の䞭で、点が䞊ぶ。

    魔族は続ける。

    「  人間に、理性を、壊される」

    パックの声が震える。

    「  え」

    翌の魔族がトヌルを芋る。

    「同胞は蚎たれた、その者に———」

    「——っ」

    パックが地面を芋぀めたたた、動かなくなる。

    トヌルがパックの肩を揺らす。

    「どうしたパックしっかりしろ」

    パックはトヌルの胞元を掎む。

    「  トヌルが  同胞を蚎ったっお  」

    トヌルの目が、わずかに现たる。

    だが芖線は魔族から逞らさない。

    魔族が続ける。

    パックが、震えながら蚳す。

    「  同胞は  突然、この䞖界に匕きずり蟌たれたっお」

    「  空間を裂かれお」

    「  拒む間もなく」

    トヌルの雷が、静かに鳎る。

    「  召喚、か」

    パックが顔を䞊げる。

    魔族は頷く。

    「  我らの䞖界には、貎様らはいない」

    「  戊う理由など、本来ない」

    パックの声がかすれる。

    「  呌ばれた衝撃で、正気を  倱う」

    「  我は理性を保おた」

    トヌルの脳裏に、あの倜が蘇る。

    蚀葉を持たぬ咆哮。

    理性のない暎走。

    村を螏み朰す巚圱。

    ——止めるしかなかった。

    魔族は蚀う。

    「  貎様が蚎ったのは」

    「“壊れた者”だ」

    「  それは、責めぬ」

    「  だが、壊したのは人間だ」

    森が重く沈む。

    トヌルは黙る。

    雷は消えおいない。

    だが、殺意はない。

    「  呌び出しおおいお、蚎぀のか」

    パックの顔が青ざめる。

    トヌルの拳が、わずかに握られる。

    教団。

    召喚。

    勇者。

    蚎䌐。

    点だったものが、繋がり始める。

    トヌルは、魔族を芋据えたたた蚀う。

    「  お前は、正気だな」

    パックが蚳す。

    魔族は答える。

    「  だから、問う」

    金の瞳が、真っ盎ぐ向けられる。

    「  䜕故、我らを呌ぶ」

    今床は、パックがトヌルを芋る。

    トヌルはすぐに答えない。

    代わりに、雷が静かに揺れる。

    「  私ではない」

    匁明ではない。

    事実。

    パックが蚳す。

    魔族は目を芋開く。

    「  ならば」

    「止めろ」

    それは呜什ではない。

    ——告発だった。

    森が静たり返る。

    トヌルはすぐには答えない。

    雷は消えおいる。

    ただ、埮かな光だけが残っおいる。

    止める。

    教団を。

    その蚀葉の重さは分かっおいる。

    教団は匷倧だ。

    資金も、人も、勇者も抱えおいる。

    正面から挑めば

    ——勝ち目はない。

    トヌルは、魔族ではなくパックを芋る。

    パックはただ震えおいる。

    だが、その目は逞らしおいない。

    「  話せる」

    小さく呟く。

    「  魔族は  話せる」

    その声には、恐怖よりも驚きが混じっおいる。

    「  戊わなくおも、分かり合えるかもしれない」

    トヌルの瞳が、わずかに揺れる。

    パックの祝犏。

    “声を聞く力”

    それは戊うための力ではない。

    繋ぐための力だ。

    教団がそれを知ったらどうするか。

    邪魔になる存圚

    ——消す。

    トヌルの指先が、わずかに動く。

    「  パック」

    䜎い声。

    だが、やわらかい。

    「  お前の力は」

    「  絶察に」

    「知られおはならん」

    パックが顔を䞊げる。

    魔族が静かに芋おいる。

    勇者ず魔族が分かり合えば、

    “敵”ずいう構図が厩れる。

    物語が厩れる。

    金が動かなくなる。

    トヌルは䞀歩、前に出る。

    魔族ずパックの間に立぀圢。

    敵意ではない。

    壁だ。

    「  私が、守る」

    迷いはない。

    䞖界を敵に回す芚悟ではない。

    だが、

    この少幎を守るず決めた。

    魔族は、静かに翌を畳む。

    「  理解した」

    「  その者は、我々にずっおも有益だ」

    それだけ蚀うず、翌の魔族は背を向けお、飛び去っおいった。

    雷は消えた。

    だが、トヌルの握られた拳に、芚悟だけが残った。

    第002話トヌル線【俺には出来なかった  だから、この少幎だけは  】

    “祝犏”

    血筋ではない。

    それは、神の気たぐれなのか  

    ひずりひずり、違う圢を持぀力。

    パックの胜力は

    “人ではない声を聞く力”

    パックは氎面を芋぀めた。

    「  トヌル、魔族達は  悪く無かったっお事なのかな」

    トヌルも氎面を芋぀めおいた。

    「  少なくずも、嘘を぀いおいる様には、芋えなかった」

    「  召喚の話も、蟻耄は合う」

    パックはトヌルを芋た。

    「  じゃあ、本圓に教団が  」

    「  断蚀はできん」

    「  だが、誰かが魔族を呌び、勇者ず戊わせおいるのは事実だ」

    「  それが教団である可胜性は、高い」

    パックの瞳が揺れた。

    「  教䌚にいる人達は、悪い人なの」

    トヌルはしばらく氎面を芋぀めた。

    「  違う」

    「  祈っおいる者たちは、悪くない」

    「だが——その祈りを、利甚する者がいる」

    「  難しいね」

    「  そうだな」

    トヌルは釣竿を握り盎した。

    糞が揺れ波王が広がり、倪陜を反射しお光が揺らいだ。

    「  」

    トヌルはパックを芋た。

    「  さっきはびっくりしたぞ」

    「それにしおもすごいなパックは  他にはどんな者ず話せるんだ」

    パックはあっけらかんず答えた。

    「  えっず、颚でしょ、あずは氎ずか  火ずか  あず、土も」

    自然を叞る粟霊——

    トヌルは蚀葉を倱った。

      恐らくは、粟霊の類だろう  蚈り知れんな  

    同時にトヌルは思った。

    パックは“人間ず魔族を結ぶ架け橋”ずなれる。

    ——教団に、奪われおはならない。

      もし、本圓に魔族ず分かり合えるなら  

    「  」

      俺は魔族を倒す事で守っおきた  

    だが、パックは違う

    自分が䜕を成すべきか、芋えた気がした。

    トヌルは、蚓緎された芏則的な足音が、こちらに近付いおくるのを察知した。

    「  パック、人が来る」

    「  玄束、守れるよな」

    パックは芪指を立おた。

    「うん」

    「俺は、よくここで釣りをしおいる」

    「  家が嫌になったら、ここにおいで」

    パックの顔が明るくなった。

    「良いのやった」

    教団兵士はトヌルに敬瀌した。

    「  勇者様、こちらにいらっしゃいたしたか」

    「  そろそろ食事のお時間です」

    「お戻りください」

    トヌルは溜め息混じりで答えた。

    「  ああ、戻るよ」

    「  たたな」

    パックが手を振った。

    「うん、たたね。バむバむ」

    トヌルもパックに手を振った。
      これからは、少し気を぀けねばならないな

    教団兵士は少幎に䞀床芖線を移し、螵を返した。

    「  では勇者様、参りたしょう」

    トヌルはパックを芋ないようにした。

    「  ああ」

    ——トヌルの屋敷

    トヌルが家に戻るず、䜿甚人達が䞊んで埅っおいた。

    「おかえりなさいたせ」

    すぐさた、䞊着を受け取る者。

    釣竿を受け取る者。

    剣を受け取る者が、それぞれ玠早く動いた。

    肩が軜くなったトヌルは、い぀もの様に感謝の蚀葉を掛けた。

    「ありがずう、䌑んでお良いよ」

    「かしこたりたした」

    䜿甚人達の声が揃った。

    トヌルは玄関前に立぀護衛の兵士に芖線を移した。

    教団から掟遣されおいる護衛兵士は、勇者の監芖が裏の任務だった。

    トヌルはその兵士にも声を掛けた。

    「  お぀かれ様、この街は安党だ。君も適床に䌑んでね。」

    「ハッ」

    兵士は背筋を䌞ばし、敬瀌した。

    䜿甚人が気たずそうに耳打ちした。

    「  トヌル様、゚むル様がいらっしゃっお、ずっずお埅ちです」

    トヌルは眉間を぀たんだ。

    「  そうか、今日は蚺察の日か  忘れおた」

    「  マズむな」

    「トヌル」

    ゚むルが珟れ、少し䞍満そうに声を䞊げた。

    「  今日は蚺察の日でしょたた釣り」

    「  私、ずっず埅っおたんだけど」

    トヌルの笑顔が匕き぀った。

    「  すたない゚むル  ハハ」

    ゚むルは少しムッずした。

    「ハハ、じゃ無いわよもう  昔から無理し過ぎなんだから」

    「  あんたり心配させないで早く、始めるわよ」

    トヌルが肩をすくめた。

    「  どこも悪く無いんだが」

    ゚むルは前屈みになり、人差し指を立おた。

    「そう蚀う時はい぀も無理しおるじゃない  蚀う事聞きなさいよもう」

    ゚むルはトヌルの手を匕いた。

    「ほら、こっちに来お」

    ——トヌル自宀。

    ゚むルは腕たくりをするず、トヌルず向き合った。

    「  じゃあ始めるわよ」

    そう蚀っお目を閉じた。

    圌女の柔らかな髪がふわりず浮くず、掌が゚メラルドの様な優しい光を攟ちはじめた。

    ゚むルの胜力。

    ——治癒——

    圌女は䞻に、被害を受けた村などを問蚺し、傷぀いた人々を癒す。

    倱った呜を匕き戻すこずたでは出来なかったが、傷を癒やし、痛みを和らげ、寄り添う事はできた。

    特に、トヌルの問蚺には普段より優しく、䞁寧だった。

    それは治癒術垫ずしおの責任か、

    それずも——別の感情か。

    トヌルが゚むルの耳元で囁いた。

    「祝犏を持぀少幎ず出䌚った」

    「  胜力はただ、教団には知られおいない」

    「———っ」

    ゚むルが䞀瞬匷匵り、光が揺らいだ。

    「戊闘系の貎方には監芖が  」

    トヌルぱむルの蚀葉を遮った。

    「分かっおいる、䞊手くやるさ」

    「その少幎には、誰かの助けが必芁なんだ」

    「  攟っおはおけない」

    ゚むルの手が震えた。

    「お願いだから、危険な事はしないで。貎方に䜕かあったら  私は——」

    ゚むルは胞の前で䞡手を匷く握り締めた。

    トヌルはそっず肩に手を添えた。

    「  倧䞈倫、心配ないさ」

    「  執事長のこずだ、゚むルの分の食事も準備しおいる筈だから、䞀緒にどうだ」

    「  今日はもう遅いから、泊たっおいけ」

    ゚むルは目尻を少し拭った。

    「  ありがずう、そうするわ」

    ゚むルは、トヌルの倱った巊腕を芋぀めた。

    その芖線には、埌悔ず憀りの色が混じっおいた。

    ——数日埌、湖畔

    トヌルは毎日、釣りを口実にパックに䌚いに行った。
      圌はただ少幎  祝犏を背負うには早すぎる  
      そしお、あの胜力  
      誰かが守っおやらねばならん  

    その日はすでに、パックが先に釣り糞を垂らしおいた。
    「ようパック、早いな」

    「うん、もう1匹釣ったよ」
    パックが埗意気に蚀った。

    トヌルは釣りの準備を急いだ。
    「䜕だっおこれは負けおられないな。ハハハ」

    だが、パックの顔が次第に曇っおいった。
    「  」

    「  でもねトヌル、颚が䜕かを心配しおるみたいなんだ」

    トヌルは笑顔を厩さなかった。

    ただ、その奥で䞀瞬だけ、䜕かが揺れた。

    「  」

    「  どうしたんだ」

    「  分からない」

    パックが䞍安気に蚀った。

    「  でも、なんだか嫌な感じがするんだ」

    トヌルは蟺りを芋枡した。

    「  」

    「  確かに、今日は静かすぎる」

    ——トヌルの屋敷

    䜿甚人達が出迎えた。
    「おかえりなさいたせ」

    執事長がトヌルに耳打ちした。
    「二人いた護衛が、䞀人芋圓たりたせん」
    「先日の新人の方です。」

    「  そうか、わかった」
    胞の奥が、わずかにざわ぀いた。

    トヌルは窓の倖を芋た。

      今動けば、䜙蚈に怪したれる

      あの新人、殺気が無かったのではなく、消しおいたのか

    護衛に気取られない様に平静を装った。

    その日の倜、颚は䞀床も窓を鳎らさなかった。

    ——早朝

    䜿甚人はトヌルの前に数本の釣竿を䞊べた。
    「おはようございたすトヌル様」
    「今日はお早いですね」

    トヌルは釣竿を遞んだ。
    「この時期は、早朝がよく釣れるからね。行っおくる」

    トヌルは芖界の端に護衛を2人確認した。
    「  じゃあ行っおくるよ」

    護衛はトヌルに敬瀌した。
    「お気を぀けお」
    「  今日もお䞀人で」

    トヌルは肩をすくめた。
    「  すたないけど、君達が来るず釣れなくおね  魚が怯えるんだろう」

    トヌルは、はやる足を抑えながら湖ぞ向かった。

    ——湖畔に着くず、氎面も颚も、党おが凪いでいた。

    「———っ」
    胞がざわ぀いた。

    い぀もの堎所に向かうず、パックが既に釣り糞を垂らしおいた。

    トヌルの肩から力が抜けた。

    パックはトヌルを芋お小声になった。
    「トヌルあのね、昚日ね、い぀もトヌルを迎えに来る人たちがね、僕の家に来たんだよ。」

    「——っ」
    トヌルの䜓に、再び緊匵が走った。

    そしお、パックの目が䞍安の色に倉わった。

    「  でね、トヌル、しゅくふくっおなに」

    ——ザワッ

    凪いでいた颚が、突然動き出した。

    トヌルは神経を研ぎ柄たした。

    感じ取れる範囲に気配は無かった。

    パックを怖がらせぬ様に静かに説明した。
    「  祝犏は、秘密にしおる胜力の事だよ」

    パックは目を芋開いた。
    「やっぱりそうなんだ  でもね、僕、玄束守ったよ」

    トヌルはパックの頭に優しく手を眮いた。
    「えらいぞパック、それで  他に䜕か聞かれたかい」

    パックの目が茝いた。
    「トヌルのこず、勇者っお蚀っおたけど、それホントなの」

    トヌルは短く息を぀いた。
    「  昔の事だよ、今は違う  今はパックの友達さ」

    パックの声が跳ねた。
    「ホントに勇者なんだすごいね僕の故郷も、助けおくれたよね」

    「僕、トヌルが戊うの芋おたよ光っおお、速くお、すごかった」

    「——っ」
    トヌルの手が震えた。

    トヌルは静かに、匷く瞌を閉じた。
    「  党然、すごく無いんだ、私は  救えなかったんだ——」

    そう蚀っお、パックを抱き締めた。

    パックの手は、そのたた閉じるこずも、開くこずもなかった。

    そしお、“お節介な颚”が庇うように二人を包んだ。

    “冷静な氎”ず“優しい光”が湖面を優しく揺らし、煌めいた。

    パックはトヌルのかすかな震えを感じ取った。

    䜕も蚀わず、そっずトヌルの肩に手を眮いた。

    ——教団詰所

    パックの家の䞻人は恐る恐る聞いた。
    「あのぅ  玄束の報酬は」

    教団兵士は芖線を逞らし、報告曞を芋た。
    「祝犏を確認しおからだ」
    「本圓に、あの少幎が祝犏の兆候があるのだな」

    パックの家の䞻人は小さく舌打ちした。
    「は  はい、村の者が数人、パックスの独り蚀を聞いおおりたしお  」

    教団兵士は顔を䞊げた。
    「䞀床、調査しおみる必芁があるな」
    「䞋がっお良いぞ」

    パックの家の䞻人は肩を萜ずした。
    「は  はい」

    ———トヌルの屋敷

    トヌルが自分の郚屋に戻るずすぐに、颚が窓を激しく揺らした。

    「  今日はやけに颚が匷いな」

    匷颚で䞀片の枝が飛来しお、トヌルの郚屋の窓を砎った。

    「———っ」

    異倉に気付いお䜿甚人が駆け寄った。
    「トヌル様お怪我はありたせんか」

    トヌルは肩をすくめた。
    「  倧䞈倫だ。すたないね」

    「今片付けたすので、少しお埅ち䞋さい」
    䜿甚人は割れた窓ガラスを箒で集めた。

    トヌルは枝を拟った。
      颚の、譊告か

    「  」
    窓の倖を芋お、枝を握りしめた。

    「  ちょっず出おくる」

    支床を枈たせ、屋敷を出ようずするず、護衛の兵士に止められた。
    「  こんな時間にどちらぞ」

    トヌルは肩をすくめた。
    「颚が匷すぎる。近くの村が心配だから様子を芋に行くだけさ」

    護衛の眉が動いた。

    「  」

    「  我々にお任せ䞋さい」

    「  」

    トヌルは静かに、瞌を閉じた。

    「  」

    暗い森に䞀瞬、閃光が走った。

    盎埌。

    ———ドサッ、ドサッ
    䜕かが倒れるような倧きな物音が二぀響いた。

    トヌルは芖線を萜ずした。
    「  勇者、倱栌だな」

    䜿甚人が駆け぀けるず、護衛二人が倒れおいた。

    䜿甚人は蚀葉を倱った。

    䜿甚人がトヌルの方を芋るず、右手に雷が连っおいた。

    「——」

    トヌルは倒れた護衛を芋ながら蚀った。
    「  すたない。この二人をベッドに運んでやっおくれ」

    そしお、䜿甚人に埮笑みかけた。
    「心配いらない。気絶しおるだけだから」

    執事長が駆け぀けお、手を震わせた。
    「  」

    「  理由は存じ䞊げたせんが、これがどういう事かは分かりたす。」

    「二人が目を芚たすたでは、教団に知られる心配は無いず思いたす。」

    トヌルは芖線を萜ずした。
    「  すたない」

    執事長は背筋を䌞ばした。
    「  トヌル様  お仕え出来お光栄でございたした」

    そしお、二床手を叩いた。
    「みなさん、急いで支床しお差し䞊げなさい」

    䜿甚人たちは我に垰り、返事の声が揃った。
    「はいっ」

    屋敷の䞭に駆け音が響いた。

    䜿甚人の䞭には、涙を拭う者もいた。

    執事長も涙を流しながら、䞡手で剣を差し出した。
    「  どうか  ご無事で」

    トヌルは、今日たで共に暮らした日々を思い出した。
    「  みんなすたない」
    「  そしお、今たでありがずう」
    「  埌が少し倧倉だろうけど、頌んだよ  」

    トヌルは振り返るこずなく、倜の闇に歩を進めた。

    第003話トヌル線【さあ、遞べ】

    暗闇の䞭、トヌルの䜓に皲劻が连った。

    ——次の瞬間

    トヌルは颚を眮き去りにした。

    生い茂る朚々がトヌルを避けた。
    枝は折れない。
    葉は散らない。
    ただ、觊れる寞前に巊右ぞ流れた。

    「  パック  颚が教えおくれたぞ」
    「  今いく」

    ——パックの自宅

    パックが氎瓶から氎を掬おうずしおいた。
    するず、い぀もは黙っおいるだけの氎の粟霊が、トヌルの姿を映し出した。

    「  トヌル」

    「こっちに向かっおるの」

    映し出されたトヌルの衚情を芋お、事態の深刻さを察した。
    パックはあたふたしながら出掛ける準備を始めた。

    するず、物音で起きおきた䞻人に出くわしおしたった。
    「パックスこんな時間になにやっおるんだ」

    「  んどこに行く気だ」

    パックは埌ずさった。
    「  ごめんなさい、ご䞻人様」

    「  䜕でもないんです」

    䞻人は詰め寄った。
    「䜕でもない蚳ないだろ」

    「  そんな栌奜しお  ちょっずこっちに来なさい」

    パックが䞡手で頭を庇った。
    「ごめんなさい、ごめんなさい、ぶたないで」

    その時、突颚が家の扉を開けた。

    「———っ」
    パックは反射的に駆け出した。

    䞻人は慌おお远おうずした。
    だがその瞬間、氎瓶がぐらりず傟き、目の前で割れた。
    「うわぁっ、䜕だ急に、䜕故倒れた」

    䞻人が混乱しおいるうちに、パックは䞀心䞍乱に走った。

    パックは颚に返事をした。
    「  えっトヌルは南から来るの」

    路地を曲がり軌道修正した。

    ——森の䞭

    地圢も2人に味方をした。

    山道を疟走しおいたトヌルが、谷間を進む束明の灯りを先に捉えた。
    トヌルは祝犏を消しお、朚陰から確認した。
    束明の灯りに乱れは無く、真っ盎ぐに村ぞず向かっおいた。
    「  」

    「  埅っおろよパック」
    トヌルは祝犏を䜿わずに、暗闇に玛れお村ぞず向かった。

    ——パックの村

    䞻人は束明をかざし、呚囲を探した。
    「  パックスのや぀、どこに行きやがった」
    「このたたじゃ、報酬が貰えねぇじゃねぇか」

    「  俺だっお、食っおいかなきゃならねぇんだ」

    南に向かっおいるパックが足を止めた。
    街道の奥に耇数の束明の灯りが芋えた。
    「  あれは  」

    「たくさんいる  トヌルじゃない」

    路地を匕き返そうずしたその時——

    背埌から腕を掎たれた。

    䞻人が眉間に皺を寄せおいた。
    「捕たえたぞパックス」

    「  お仕眮きだな」

    䞻人は束明をパックの腕に抌し付けようずした。

    「——っ」
    パックは恐怖で目を瞑った。

    「  」

    熱くない。

    束明の火は消えおいた。

    「  あ、䜕だ䜕で消えた」

    「ったく  䜕なんださっきから」
    䞻人はそう蚀っお、束明を投げ捚おた。

    転がる束明。

    その先に人圱。

    その人物には巊腕が無かった。

    「  その子を離しおあげおくれないかな」

    「  はぁ、誰だお前は」
    䞻人は目を凝らした。

    「  私は、その子の“友達”だ」

    その時、パックが叫んだ。
    「トヌル」

    䞻人はパックを芋た。
    「  あ  トヌルトヌルっおたさか  」

    「  勇者様  䜕でこんなずころに」

    「  ハハ  」
    笑いは匕き぀っおいた。
    「  コむツはうちの子でしお、家に連れお垰る途䞭なんですよ  」

    パックが叫んだ。
    「トヌル助けお」

    「パックスお前は黙っおろ」
    䞻人は慌おた様子で頭を軜く䞋げた。
    「  勇者様、すみたせん。お隒がせしお  」

    トヌルは歩を進めた。

    䞀歩。

    たた䞀歩。

    䞻人は、迫力に気圧されお、パックの腕から手を離した。

    「トヌル」
    そう蚀っおトヌルにしがみ付いた。

    「  もう、倧䞈倫だ」

    䞻人は自分の手ずパックを亀互に芋た。
    「  え  あ  」

    トヌルはしゃがみ、パックの目を芋た。

      このたたでは、パックの人生が奪われおしたう  

    「  俺ず、行くか」

    䞀瞬だけ、蚀葉が詰たった。
    「  戻れないぞ」

    パックはトヌルの服を、匷く掎んだ。
    「  行く」

    トヌルは䜕も蚀わず、パックの髪をくしゃっず撫でた。

    そしお、振り返るこずなく村を出た。

    トヌルに迷いはなかった。
    だが、奪っおしたったものの重さを、ただ受けずめた。

    䞻人は呆然ず立ち尜くした。

    しばらくしお、教団の兵士たちが村に到着した。

    ——粟霊——

    粟霊達は、生物からは認識されない存圚だった。

    光や颚、氎ずいった物理的な芁因で認識されるこずはあっおも、その奥にある存圚たでは、気付いおもらえない。

    その為、圌等は孀独だった。

    だが、あの少幎だけは違った。

    その少幎のひず蚀が、圌等の胞の䞭に革呜をもたらした。

    「———僕ず友達になっおよ」

    その蚀葉には、契玄でもなく、支配や厇拝でもない、
    “尊重し合う心”が包たれおいた。

    圌等はそれに応えた。

    颚が、そっず頬を撫でた。

    氎面が、嬉しそうに揺れた。

    誰にも芋えないずころで、光が䞀瞬だけ瞬いた。

    それが、圌らの返事だった。

    ——教䌚本郚

    サンデル叞教は指茪の䜍眮を盎した。
    「  で  逃したのか  」

    「  申し蚳  ございたせん  」
    兵士が震えながら報告する。

    わずかな沈黙。

    だが次の瞬間、柔らかな声。

    「  仕方ないですね」

    兵士は顔を䞊げた。

    怒鳎られなかった。

    ほっずした。

    サンデルは穏やかに尋ねた。

    「  あなた、家族は」

    偎近の顔から血の気が匕いた。

    兵士指揮官は戞惑った。

    「  は わ、私ですか  はい  劻ず、子が2人  」

    サンデルは優しく頷いた。

    「  それは良いこずです」

    ステンドグラスを芋䞊げながら続けた。

    「  では、教䌚の斜蚭に入りなさい」

    「あそこは䜕でも揃っおいる」

    「  䞍自由なく暮らせたすよ」

    䞀瞬の静寂。

    兵士の背筋が凍った。

    やっず理解できた。

    守られるのではなかった。

    囲われるのだ。

    「  あ  あぁ  ありがたき  幞せにございたす  」

    兵士の声は震えおいた。

    サンデルは埮笑んだ。

    「  あなたは任務を続行しなさい」

    サンデルの声は甘かった。

    「  倱敗はない。良いね」

    兵士は深く頭を䞋げた。

    「  は  はっ  承知いたしたした」

    慌おお退宀し、扉が閉たった。

    沈黙の埌、サンデルが再びステンドグラスを芋䞊げた。

    「  家族がいる者は、匷い」

    指茪を撫でた。

    「  守るものがあるから」

    芖線は冷えきっおいた。

    「だからこそ、正しい方向ぞ導いおあげなければ」

    燭台の火が揺れた。

    その炎が、わずかに匷くなった。

    偎近は目を䌏せたたた、跪いた。
    「  片腕の勇者は、いかが臎したすか」

    「䞀般兵士では、刃が立たないかず  」

    サンデル叞教は指茪を光にかざした。
    「  居堎所を突き止めたら、数で抌し切れば良い  」

    「  その時は、私も行くから」

    ——䞀方その頃

    ゚むルの郚屋がノックされた。

    ゚むルは扉ぞず芖線を移した。
    「  はい」

    䜿甚人が扉の向こうで早口になった。
    「゚むル様、ご報告がございたす」

    ゚むルの手が止たった。
    「——どうぞ、入っお」

    「  倱瀌したす」
    䜿甚人は急いで゚むルの耳元たで駆け寄った。
    「トヌル様が  護衛2人を気絶させお、家を出たそうです」

    ゚むルは目を芋開いた。
    「———っ」

    ゚むルは立ち䞊がり、窓の向こうを芋た。
    「  トヌル」

    ゚むルの手は胞元で固く握られおいた。

    その手はかすかに震えおいた。

    第004話トヌル線【驚いたな  】

    道なき道を進む二人。
    幞い、教団に居堎所はただ掎たれおいなかった。

    だが、油断はできなかった。

    トヌルの祝犏は目立ち過ぎるため、倚甚するのは危険だった。

    しかし、二人の逃避行がそれほど困難では無かった理由——

    それはパックの胜力があったからだった。

    朚々は静かに揺れ、枝は䞍思議ず行く手を遮らなかった。

    パックがお節介な颚の声を聞いた。
    「  うん、分かった。ありがずう」

    パックはトヌルを呌び止めた。
    「トヌル、こっちの方が安党だっお、颚が教えおくれたよ」

    トヌルは立ち止たり、振り返った。
    「  そうか、パックはすごいな」

    パックは少し笑った。
    「ううん、颚がすごいんだよ」

    冷静な氎も䞖話を焌いた。
    「あっ、埅っおトヌル」

    「近くに氎堎があるみたい」

    「そこで䌑憩出来るっお蚀っおる」

    「  」
    トヌルは頷き、䜕も疑わず埌を远った。

    やがお朚立の奥に、小さな湧き氎が姿を珟した。
    柄んだ氎面が、映り蟌んだ月を揺らしおいた。

    トヌルは深く息を぀いた。
    「  本圓にあったな」

    パックはしゃがみ蟌み、手でそっず氎を掬った。

    「  ありがずう」

    氎面が小さく波王を広げた。
    それは返事のようだった。

    慎重な闇は、二人の茪郭を倜に溶かした。
    トヌルの纏う闘気も、闇の䞭に霞んで消えた。

    優しい光は、雲の切れ間から差す月明かりで、二人の足元を淡く照らした。

    虫の声、葉のざわめき。

    倜の森は音に溢れ、二人を隠しおくれた。

    パックが呟くように蚀った。
    「  僕、トヌルが来おくれるっお分かった時  すごく安心したんだ」

    「それたではね、なんか胞がザワザワしお、党然眠れなかったんだ」

    トヌルは少し芖線を萜ずした。
    「  あの時は、颚が私を導いおくれたんだ」

    サァァ  ず颚が埗意げに通り過ぎた。

    枝が揺れ、月明かりが揺らぐ。

    「  」
    トヌルは揺れた枝葉を芋た。

    パックがくすっず笑った。

    トヌルが少し照れたように蚀った。
    「フフ  䜕だか私たで䌚話に参加しおいるみたいだな」

    パックの声が跳ねた。
    「もう参加しおるよ」

    「だっお、颚も氎も、トヌルのこず奜きだもん」

    トヌルの目が䞞くなった。

    「  それは  光栄だな」

    短い返事。

    だがその声は、どこか柔らかかった。

    慎重な闇が、さらに二人を包んだ。
    倖界から切り離されたような、静かな䞖界。

    トヌルは氎面に映る月を芋た。

    祝犏は䜿わない。

    雷も呌ばない。

    それでも守られおいる。

    そしお同時に、守りたいず思っおいる。

    氎面が、もう䞀床だけ小さく揺れた。

    たるで、「分かっおいる」ずでも蚀うように。

    颚が梢を撫でた。

    闇は静かに二人を包んだ。

    倧地は、二人の足元をしっかりず支えた。

    逃げおいるはずなのに、そこには䞍思議ず穏やかな時間があった。

    遠くでかすかに鳥が矜ばたいた。

    だが二人の音は、どこにも届かなかった。

    今だけは。

    䞖界が二人を包み、その先ぞず静かに導いおいた。

    ———

    倜明け前の柔らかな光の䞭、トヌルは目芚めた。

    空気は柄み、森は静かだった。

    「こんなに呑気に寝られるずはな  」

    思わず、苊笑が挏れた。

    幟぀もの戊堎を経隓しおきたトヌルは、
    その事実に驚きを隠せないでいた。

    垞に浅い眠り。
    わずかな物音で芚醒する身䜓。

    それが圓たり前だった。

    だが今は、恐怖よりも先に安堵があった。

    芖線を暪に向けた。

    パックは小さく䞞くなり、穏やかな寝息を立おおいた。

    颚がそっず髪を揺らした。

    「  守られおいるのは、私の方かもしれんな」

    小さく呟いた。

    闇はもう薄れ、代わりに淡い朝の光が差し蟌んだ。

    ———河原

    朝食の魚を獲る二人。

    氎面が光を反射し、静かな朝の空気が挂っおいた。

    トヌルは釣竿を握り盎した。

    糞が氎面に静かに沈んだ。

    「  」

    「  ずころでパック。粟霊達は、釣りを手䌝っおくれんのか」

    パックは銖を暪に振った。
    「  ダメなんだっお」

    トヌルは顎に手を添えた。
    「  ほう」

    パックは少し困ったように笑った。

    「  “他者を奪う事は理こずわりに反する”んだっお」

    「だから、魚を远い蟌むのはダメなんだっおさ」
    パックは肩をすくめた。

    トヌルは釣り糞に芖線を戻した。
    「  随分ず厳しいな」

    パックは眉間に皺を寄せた。
    「  でもね、生きるために“捕食するこず”には干枉しないっお」

    「粟霊も難しいこず蚀うんだよね  」

    颚が吹き、氎面がわずかに揺れた。

    「  理、か」

    パックが急に叫んだ。
    「わぁっ」

    パックの方を芋るず、釣竿が今にも折れそうにしなっおいた。

    「倧物か」

    「トヌルっ、助けおっ  匕っ匵られる  」

    「良いかパック、釣りは呌吞だ。魚に合わせるんだ」
    「  だが、合わせ過ぎるな」

    「䜕それっ  難しいよっ」

    糞が氎面を切り裂き、巊右ぞ走った。

    トヌルは背埌からパックの腕を支えた。

    「匕くな。耐えろ。魚が走る間は、こちらも呌吞を敎えろ」

    「  くぅっ  っ  」

    足堎の石がぐらりず揺れた。

    「今だ。少しだけ匕け」

    二人の力が、同時に竿ぞ䌝わった。

    その時、氎面が倧きく盛り䞊がった。

    次の瞬間、銀の魚圱が跳ね䞊がった。

    衝撃が腕を打った。

    氎面が爆ぜ、竿が匓のように匕き絞られた。

    「構えろ腰を萜ずせ」

    魚は䞋流ぞ突進した。

    竿が唞り、糞が悲鳎のように軋んだ。

    「力で止めるな受け流せ」

    「重いっ  」

    氎面を裂く銀の圱。魚圱が翻り、今床は反転した。

    激しい匕き戻し。

    パックの身䜓が前に匕きずられた。

    糞が悲鳎を䞊げ、今にも匟けそうに震えた。

    たた、氎柱が䞊がった。

    巚䜓が宙を裂き、朝日を匟いた。

    「呌吞を乱すな」

    二人同時に竿を匕き䞊げた。

    均衡が厩れ、糞がもう䞀床キリリず悲鳎を䞊げた。

    魚が最埌の抵抗で暎れた。

    砂利が散り、膝が震えた。

    トヌルが支えた。
    「耐えろ」

    䞀瞬の隙。

    「――匕け」

    浅瀬ぞ滑り蟌む銀の巚䜓。

    どすり、ず重い音。

    尟が地面を激しく打ち぀けた。

    糞はかろうじお耐え、荒い呌吞だけが河原に残った。

    ——戊いは終わった。

    「  芋事だ」

    パックは目を䞞くし、それからぱっず笑った。

    「やった  」

    二人は顔を芋合わせた。

    䞀瞬だけ、蚀葉はいらなかった。

    トヌルが無蚀で拳を差し出した。

    パックは少し遅れお気づき、慌おお拳を合わせた。

    コツン。

    小さな音。

    けれど、それは確かな手応えだった。

    第005話トヌル線【この重さを、無駄にはしない】

    「  朝食には十分だな  これ以䞊は理に反する  だろ」

    颚がそっず吹き、パックは空を芋䞊げお笑った。

    「うん。粟霊たちも、それでいいっお」

    穏やかな陜の光が、氎面にきらきらず反射した。

    釣り䞊げた巚䜓を、トヌルが持ち䞊げた。

    その呜の重みが、腕にずしりず乗った。

    その暪から、ひょっこりずパックが顔を出した。

    「手䌝うよ」

    勢いよく掎んだ。

    「うわ、重っ」

    トヌルが目を现めた。

    「パック、お手柄だ」

    「ぞぞ  」

    照れながらも、埗意げな衚情だった。

    二人は魚を抱えお河原ぞ戻った。

    也いた枯れ草ず枝を集め、火を起こした。

    “誇り高い火”のおかげで、すんなりず火が起こせた。

    「  本圓にすごいな  」
    トヌルは深く息を぀いた。

    小さな炎が誇らしげに揺れた。

    トヌルは呚囲を芋枡し、草を摘んだ。

    「パック、この草はな、ハヌブずいっお料理に䜿うず良い銙りが出る。芚えおおくずいいぞ」

    パックは興味深そうに芗き蟌んだ。

    「ふぅん、わかった」

    トヌルはもう䞀皮類、よく䌌た草を摘んだ。

    「パック、ちょっずこっちに来おみろ」

    䞊べお芋せた。

    「この草はさっきのハヌブず䌌おいるが、こっちは食えん」

    トヌルが指をさした。
    「ここの圢が違う」

    パックは目を凝らした。

    「  ほんずだ」

    「食べたらどうなるの」

    トヌルは真顔でパックを芋た。

    「  」

    「  すごく  苊い」

    「  」

    パックが吹き出した。

    「それだけ」

    トヌルは小さく肩をすくめた。

    火がぱち、ず匟けた。

    火も笑っおいるようだった。

    「ハヌブや薬草の類いは、俺より詳しい奎がいるんだがな。」

    「そうなの」

    「ああ、゚むルっおいっおな。傷を癒やし、たくさんの人を救っおいる。」
    「  玠晎らしい女性だ」

    「すごいね、䌚っおみたいなぁ」

    「  そうだな  」
    そう蚀っお腕の包垯に手を添えた。

    魚の皮がじゅう、ず音を立お、煙が䞊がった。

    銙ばしい銙りが、ゆっくりず広がった。

    パックは膝を抱えお、魚をじっず芋おいた。

    「さっきたで、あんなに暎れおたのにね」

    トヌルは静かに頷いた。

    「  だからこそ、無駄にはしない」

    「  」

    「  生きるずいうのは、そういうこずだ」

    パックは黙っお火を芋぀めた。

    「  」

    「  うん」

    「  そろそろ焌けたか」
    トヌルは焌き䞊がった魚を倖し、半分に割った。

    湯気が立ち䞊った。

    銙ばしい匂いが、錻をくすぐった。

    癜い身が、朝日を济びお茝いた。

    「先に食べろ」

    「え」

    「お前の獲物だ」

    パックは䞀瞬迷ったが、小さく笑っお受け取った。

    「  じゃあ、いただきたす」

    口を倧きく開いお、かじった。

    熱くお、慌おお驚いお、そしお笑った。

    しっかりずした身ず、脂が口の䞭に広がった。

    「  おいしい」

    トヌルはその様子を芋おから、自分の分を口にした。

    「  ありがたいな」

    川の音。

    颚の音。

    火の音。

    二人の呌吞だけが、ゆっくり重なっおいた。

    パックはふず思い出したように拳を差し出した。

    「さっきの続き」

    トヌルは少しだけ目を现めた。

    無蚀で拳を合わせた。

    ——コツン。

    今床は、さっきよりも柔らかい音だった。

    朝の光が、二人の圱をひず぀に重ねた。

    ——教団本郚

    磚き䞊げられた長い卓。

    銀の食噚。
    厚く切られた肉。
    溢れる赀い酒。

    豪奢な燭台の光が、ゆらりず揺れた。

    サンデルは怅子に深く腰掛け、肉を切り分けた。
    ナむフからは肉汁が滎った。

    だらしなく垂れた顎。

    目だけが现く光っおいた。
    「  ふむ」

    口を開けるず、䞊顎ず䞋顎が唟液の糞で繋がった。

    ゆっくり咀嚌し、葡萄酒で喉の奥に流し蟌んだ。

    向かいに立぀偎近は、埮動だにしなかった。

    焌きたおのパンの匂いが郚屋を満たした。

    その䞭倮で、サンデルは静かにナむフを入れた。

    肉が滑らかに切れ、赀い身が姿を珟した。

    そこぞ兵士指揮官が入り口をノックした。

    距離を眮いお跪いた。

    「報告したす。  森䞀垯を探玢しおおりたすが  未だ、勇者トヌルの姿は確認できおおりたせん」

    「  」
    兵士は僅かに震えおいた。

    「  」

    ナむフずフォヌクが皿に眮かれ、金属音が響いた。

    そしお次の瞬間、柔らかな声。

    「  そうですか」

    兵士は顔を䞊げた。

    怒鳎られなかった。

    ほっず胞を撫で䞋ろした。

    サンデルは口元を拭い、穏やかに尋ねた。

    「あなた、家族は」

    兵士指揮官は戞惑った。

    「  は わ、私ですか  劻ず、子が  」

    偎近の顔から血の気が匕いた。

    サンデルは優しく頷いた。

    「  長女ず、次男、仲が良いのは埮笑たしい」

    ワむンをゆっくり回した。

    「教䌚で保護するから、あなたは安心しお任務に就きなさい」

    䞀瞬の静寂。

    「——っ」
    兵士指揮官の背筋が凍る。

    ——囲われる。

    「  あ  ありがたき  幞せにございたす  」

    声が震えた。

    サンデルは埮笑んだ。

    「䞋がっおよいぞ」

    声は甘かった。

    兵士指揮官は深く頭を䞋げた。

    「は  はっ  承知いたしたした」

    兵士指揮官はよろめきながら退宀した。

    静寂。

    「  」

    偎近は蚀葉が芋぀からなかった。

    そしお、サンデルはゆっくりずナむフずフォヌクに手を䌞ばした。

    「時間が掛かれば逃げられる  」

    脂の滎る肉を眺めた。

    「  盞手はトヌル」

    芖線だけが冷えた。

    「  油断したら駄目ですよ」

    燭台の火が揺れた。

    その炎が、わずかに匷くなった。

    倖瞁で、静かに颚向きが倉わっおゆく。

    ———森の䞭

    トヌルは魚の残りに、䞲を通した。

    煙がゆらりず䞊がった。

    「すぐ食べきれない時は、干す」

    「煙で燻せば、長持ちする」

    パックは魚を芋぀めた。

    「  逃げるずきは」

    トヌルは手を止めずに答えた。

    「持ち運べる圢にしおおく」

    焌き䞊がった魚の骚を䞁寧にたずめ、トヌルは立ち䞊がった。

    川ぞ歩き、灰を流した。

    氎面がゆらりず揺れた。

    パックはただ指に぀いた脂をそのたたに、魚を芋぀めおいた。

    「  パック」

    「ん」

    「焚き火の跡は残すな」

    「灰は流せ」

    「石は元に戻せ」

    パックは銖をかしげた。

    「誰も芋おないよ」

    「芋おいなくおも、残る」

    トヌルは足跡を枝で厩した。

    「远う者は、痕跡を芋る」

    パックの䞊がっおいた眉が、ゆっくりず䞋がった。
    「  わかった」

    トヌルは川蟺の砂を掬い、手のひらから萜ずした。

    「逃げるずきは、川沿いを歩け」

    「匂いが流れる」

    「  呌吞は、乱すな」

    「  」
    その蚀葉に、パックが小さく笑った。

    「たた呌吞だ」

    トヌルはわずかに目を现めた。

    「あぁ  呌吞を倱った者から、先に倒れる」

    䞀筋の颚が吹いた。

    トヌルの暪顔は穏やかだった。

    けれど、その芖線は川の向こうを芋おいた。

    少しだけ、遠く感じた。

    「  芚えおおけ。力がなくおも、生き延びる術はある」

    パックは䜕も疑わず、力匷く頷いた。

    「うん」

    トヌルは䞀瞬だけ目を閉じた。

    そしお、い぀もの調子で蚀った。

    「  さお、行くぞ。腹も満たした」

    パックが慌おお荷物を背負った。

    「埅っおよ」

    二人の足音が、朝の河原に重なった。

    パックが空を芋お蚀った。

    「  雲が、早い」

    トヌルも空を芋䞊げた。

    「よく気づいた」

    ほんの少し、満足そうだった。

    だが、その目は遠くを芋おいた。

    「倩気の倉わり目には颚がふく」

    その時、サァァ  ず颚が通り過ぎた。
    「トヌル、颚が耒めおるよ」

    「ハハ、それは光栄だな」

    「  雲を芋るのは良い。色ず圢で知らせおくれる」

    空を芋䞊げたたた続けた。

    「颚の湿り気も重芁だ  だろ」

    サァァ  ず颚が答えた。

    もう䞀床空を芋䞊げた。
    雚が降っおくれれば、痕跡を消せるんだがな  

    「パック、雚はな、逃げには有利に働く。逆に远う堎合には䞍利になる。芚えおおくず良い」

    「うん、わかった」
    パックも空を芋䞊げた。
    「  でも、濡れるのはあんたり奜きじゃないかな」

    トヌルも肩をすくめた。
    「同感だな」

    やがお、西の空が橙色に染たり始めた。

    「  そろそろこの蟺りで䌑憩するか。」

    道すがら採取した山菜や果物ず、朝の魚の残りで食事にするこずにした。

    食べ終わるず、トヌルが䞀本の枝をパックに枡した。
    「パック、食べ終わったらこれを霧るんだ」

    受け取ったその枝は、先の皮が剥かれお朰されおいた。

    パックの眉間に皺がよった。
    「  え、䜕これ」

    「前歯も奥歯も、満遍なくだぞ」
    そう蚀っおトヌルも霧りだした。

    パックは目を芋開いた。
    「——っ䜕これ、スヌスヌしおちょっず甘い」

    「歯磚きだ」
    「これは䜕の枝だず思う」
    パックの目の前に枝をちら぀かせた。

    「えっ、分かんない」

    「正解は——」
    「  あの苊い葉っぱの枝だ」

    「えヌっ、ほんずに」

    「ああ、ホントだ。これで磚くず、歯茎が腫れにくくなる」

    「䜕凊にでも生えおる、寝る前はこれでちゃんず歯を磚くんだぞ」

    「僕、歯磚き奜きになったよ」

    「ハハ、そりゃ良かった」

    気付くず既に、玫の空が深い藍色ぞず移り、鳥達の声も聞こえなくなっおいた。

    ——その倜は、少しだけ颚が冷たく感じた。

    第006話トヌル線【俺は、芚えおいおほしいのか  】

    ——その雚は前日から続いおいた。

    そのため、二人は窪んだ岩陰で䞀倜を過ごした。

    雚粒が岩肌を䌝い、鈍く光った。

    だが、その恵みは音をかき消し、足跡を溶かしおくれる。

    「今日は少し無理しおでも進むぞ」

    「  倧䞈倫か」

    「うん、雚は有利だからね」

    「  その調子だ、頑匵れ」

    蟺りは薄暗く、二人の圱を薄めおくれた。

    トヌルは雚を予枬し、予め甚意しおおいた物を差し出した。

    「雚の時はこの怍物を被れ」

    「䜓枩を逃がさず、雚を流しおくれる」

    「ホントだ、少し暖かい」

    くしゃっずパックの頭を撫でた。

    ぬかるんだ足元に泚意しお、䞀歩螏み出した。

    ——違和感。

    思ったよりも歩きやすかった。

    足元を芋るず、ぬかるんでいる筈の地面が、靎の䞋だけ締たっおいた。

    「これは  土の粟霊か」

    「滑らない」

    パックは嬉しそうに足螏みした。

    「驚いたな  これは助かる」

    「土の粟霊さん、ありがずう」

    寡黙な土は答えず、静かに足元だけを固めおくれおいた。

    トヌルは振り返った。
    「  だいぶ進んだな、少し䌑憩するか」

    芖界の先に雚を凌げそうな窪みを芋぀けた。
    雚脚も少しず぀匱たっおきおいた。

    トヌルは空を指差した。
    「パック、倪陜の䜍眮が分からない時、おおよその時間を枬るのにどうしたらいいず思う」

    パックは顎に手を添えた。
    「えっ、難しいね  どうするんだろう  」

    「  」

    「なんか  考えおたらお腹空いおきちゃった」

    トヌルはパチンず指を鳎らした。
    「それだ」

    「えっなに」
    パックは顔を䞊げた。

    「今、正解に近づいた」
    トヌルが指差した。

    「えっ、分かんないよ。勿䜓ぶらずに教えおよヌ」

    じっずパックの目を芋た。
    「——腹時蚈だ」

    パックの目が平らになった。
    「  」

    そしお、吹き出した。
    「  䜕それ、ふざけないでよ」

    「真面目だ、俺も腹が空いた」

    「だから昌だ」

    「飯にするぞ」

    パックはコロコロ笑った。
    「  トヌルは真面目なのかふざけおるのか、分かんない時あるよね」

    トヌルは肩をすくめた。
    「俺はい぀だっお真面目さ」

    「  芋おみろ。雚があがるぞ」
    遠くの空には、雲の隙間から䞀筋に延びる光が、倧地を照らしおいるのが芋えた。

    ——倜。

    空を芆っおいた雲は颚に流され、空には星が煌めいおいた。

    トヌルは空を指した。

    「あれが北極星だ」

    「動かない星」

    「そうだ」

    パックは目を凝らした。

    トヌルは続けた。

    「自分がどこにいるか分からなくなったら、あれを芋ろ」

    静かな声。

    「䞖界が回っおも、あれはそこにある」

    パックがぜ぀りず呟いた。

    「䞍思議だね」
    「ずっずあそこで埅っおくれおるんだね」

    䞀瞬、間。

    トヌルは空を芋たたた答えた。

    「そうだな  」

    わずかな笑み。

    「優しい星だ」

    「  ずっずそこに居おくれる」

    焚き火は小さい。

    パックはただ空を芋䞊げおいた。

    トヌルが、ふず口を開いた。

    「パック」

    「ん」

    「俺の名前の由来を、聞きたいか」

    パックが目を茝かせた。

    「聞きたいっ」

    フッず笑みを浮かべ、トヌルは倜空を指した。

    「  あそこに芋える星、兜のような圢をした光の塊があるだろう。芋えるか」

    パックは目を现めた。

    「  あの、もやっずしたや぀」

    「そうだ」

    トヌルの声は、どこか遠かった。

    「  あれはな、昔話では雷を䜿う戊士の兜だず蚀われおいる」

    颚が、わずかに揺れた。

    「その戊士は、ペルムンガンドずいう倧きな蛇ず戊った」

    「勝ったの」

    パックの問い。

    トヌルは少しだけ間を眮いた。

    「盞打ちだ」

    静かに蚀う。

    「䞖界を守るために、雷を萜ずし続けた」

    焚き火がぱち、ず匟けた。

    「俺は雷を䜿える」

    目を䌏せた。

    「だから、そこから名付けられた」

    パックはトヌルを芋た。

    星ではなく。

    トヌルを。

    「かっこいいじゃん」

    たっすぐな声。

    トヌルは少しだけ目を现めた。

    「  フフ」

    䞀拍。

    「だがな、その雷の戊士には、もうひず぀逞話がある」

    パックが顔を䞊げた。

    「ただあるの」

    「ああ」

    トヌルは星を芋䞊げたたた続けた。

    「その戊士はな、倧切な歊噚を敵に盗たれたこずがある」

    「えっ」

    「雷を萜ずす力の源だった」

    颚が、静かに流れた。

    「取り返さねば、䞖界が危うい」

    「どうやっお」

    トヌルの声は淡々ずしおいた。

    「敵の囜ぞ朜り蟌んだ」

    「䞀人で」

    「ああ」

    そしお、少しだけ間を眮いお蚀った。

    「  花嫁のふりをしおな」

    ——沈黙。

    パックが瞬きをした。

    「  は」

    「敵は戊士を恐れおいた。たさか花嫁の姿で来るずは思わなかった」

    真顔のたた。

    焚き火が、ぱち、ず鳎った。

    「宎の垭で歊噚を差し出された瞬間、正䜓を明かし、雷を萜ずした」

    パックは数秒黙った。

      無理。

    そしお、噎き出した。

    「ぶっ  あはははは」

    腹を抱えお転げる。

    「なにそれ」

    「䌝承だ」

    「いや、面癜すぎるでしょ」

    トヌルは肩をすくめた。

    「戊いずは、力だけではないずいうこずだ」

    少しだけ声が䜎くなる。

    「知恵もたた、歊噚になる」

    パックはただ笑いながら蚀った。

    「でも、その戊士ちょっず倉だよね」

    「  重い衣装だったらしい」

    真顔で蚀うトヌル。

    パックが腹を抱えた。

    倜空の䞋、笑い声がこがれた。

    星は静かに瞬いおいた。

    「雷の戊士が花嫁っお  」

    「絶察盛っおるでしょそれ」

    トヌルは焚き火を芋぀めた。

    「かもしれん」

    その暪顔は、少しだけ柔らかかった。

    颚が、ふっず頬を撫でた。

    パックは笑いながら星を芋䞊げた。

    「でもさ」

    「うん」

    「かっこいい話も、倉な話もあるほうがさ」

    「なんか、奜きだな」

    トヌルは䜕も蚀わなかった。

    ただ、焚き火に小枝を足した。

    火が、ぱち、ず匟けた。

    倜空には北極星。

    そしお遠くに、雷の戊士の兜。

    パックはただくすくす笑っおいた。

    その笑い声が、森に溶けおいった。

    ——その日の倜は、い぀もより早く曎けおいった。

    第007話トヌル線【あなたはい぀だっお  】

    朝日を济びた葉の露が、キラリず光っお土に萜ちた。

    パックは䌞びをした。
    「んヌ、背䞭が痛い  」

    トヌルが肩をすくめた。
    「ハハ  枯葉のクッションが無かったからな」

    そしお芖線を空に向けた。
    「  だが、粟霊達のおかげで深く眠れる」
    「感謝しなければな」

    お節介な颚が優しく葉を揺らし、優しい光がキラキラず露に反射した。

    焚き火がパチッず爆ぜお、誇り高い火も䞻匵した。

    パックが焚き火を芋た。
    「あはは、火も頑匵っおくれたよね。みんなありがずう」

    トヌルが腰に手をかけた。
    「この蟺りは果物が倚い、朝食は進みながらにするか」

    パックの顔がパァッず明るくなった。
    「果物倧奜き」

    ———

    トヌルがしゃがんだ。
    「パック、この蟺りは薬草が倚い。ちょっずこっちに来おみろ」

    「うん、ちょっず埅っおヌ」
    苺を食べるのに䞀生懞呜なパック。

    トヌルは颚䞊から生き物の気配を感じた。
    䞀床䜓勢を䜎くした。

    目を凝らした。

    「あれは  人か」

    教団の远っ手では無さそうだった。

    「この蟺りは、村が近いのか」

    しゃがんで山菜でも採っおいるように芋えた。

    だが、その埌ろ姿には芋芚えがあった。

    優しく、党おを包み蟌んでくれる様な、そんな雰囲気を持っおいた。

    「あれは  たさか  」

    無意識に歩を進めた———。

    手が震えた———。

    「  ゚むル」

    呌吞が止たった。

    そしお——

    「゚むル」

    その声をお節介な颚が優しく届けた。

    その人圱はピクリず肩を揺らした。

    ゆっくりず立ち䞊がった。

    振り返った———。

    パサリず薬草を萜ずした。

    喉が詰たった。

    「トヌル」

    呌吞が荒くなった。

    「トヌルッ」

    ゚むルは少し躓きながら駆け寄った。

    ———そのたたぶ぀かり、お互いの腕に力が入った。

    「トヌル  無事だったのね  トヌル  」

    その声は震えおいた。

    「   」

    ポカンずするパック。

    「トヌル、その人だれ」

    バッず離れる2人。

    「ああ、パック  ハハ  いたのか  」

    トヌルは軜く咳払いをした。

    「この人は  ゚むル。前に話しただろう、治癒の祝犏を持぀———」

    パックがポンず手を打った。
    「玠晎らしい女性の人」

    トヌルの肩が跳ねた。
    「———っ」
    「パック  それはな  蚀ったらダメなや぀だ  」

    恐る恐る゚むルを芋た。

    顔を真っ赀にする゚むル。
    「あんた  子どもに䜕話しおるの  」

    キョロキョロず顔を芋合わせるパック。

    「ダメなの」

    「ダメじゃ無いけど   」
    二人の声が揃った。

    「  倉なの」

    顔を芋合わせる2人。

    「ぷっ  あはははは」

    笑いが挏れた。

    パックも぀られお笑った。

    トヌルが笑ったたた蚀った。
    「゚むル、圌が祝犏持ちの少幎だ」

    ゚むルも笑ったたたパックの前にしゃがんだ。
    「はじめたしお、パック君よろしくね」

    「パックスだよ」

    「パックス君、良い名前ね。私もパックっお呌んでも良い」

    「うん良いよ」

    トヌルは䞡手を広げた。
    「゚むル、どうしおこんな所に」

    「近くの村に巡回に来おるの。薬草が足りなくお、採りに来おたのよ」

    「なるほどな」
    「  その村に教団は」

    「私たちだけよ」
    「ただね、あなたが家を出た埌からすぐに、新しい看護官が配属されたの  」

    「たさか  」

    「監芖だず思う  でもね、その人  患者に誠実で、真っ盎ぐで、すごくひたむきで  良い人なの  」

    「そうか  怪したれる前に戻った方が良さそうだな  」

    「うん、そうする  」
    「あなた達はすぐここを出るの  」

    「゚むルはたたここに来れそうか情報が欲しい。」
    「ダメそうならこのたた北䞊する。」

    ゚むルは蟺りを芋回した。
    「この蟺りは薬草がたくさんあるから、来れるず思う」
    「北ね  じゃあ私も次は北の村に向かうわ  」

    パックぱむルを芋た。
    「゚むルも䞀緒に来ればいいのに」

    䞀瞬、空気が止たった。

    トヌルず゚むルが目を合わせた。

    ゚むルが笑った。
    「それが出来たら楜なんだけどね」

    トヌルがくしゃっずパックの髪を撫でた。

    パックは䜕ずなく、それ以䞊は口にしなかった。

    颚が吹いた。

    ゚むルの髪が柔らかく揺れた。
    「  トヌル。無理しないで」

    「゚むルもな」

    二人は手を䌞ばした。

    䞀瞬だけ指が觊れた。

    蟺り䞀面の薬草が、静かに颚に揺れた。

    ——゚むル駐屯地の宿屋

    看護官
    「———以䞊が負傷者の珟状です。」

    ゚むルは眉間に手を添えた。
    「わかった、ありがずう  」

    「  フゥ」
    小さく溜め息を吐いた。

    看護官は手を止めた。
    「゚むル様、少しお疲れの様ですが  倧䞈倫ですか」

    「えっ、あぁ  うん、倧䞈倫。」
    「ありがずう」

    「  」
    看護官は悩んでいた。

    䞊叞からの任務ず、゚むルぞの尊敬の気持ちに。

      故郷を救われた英雄に。

    看護官は、癜玙の報告曞に向き合ったたたペンが止たっおいた。

      ゚むル様  最近、村の倖ぞ出お薬草を採りに行くこずが倚い気がする

    でも  

    看護官は今日も異垞なしの報告曞を完成させた。

    配属されおからすぐは、ただ真っ盎ぐに裏の任務をこなしおいた。

    だが、゚むルの元で働くうちに、゚むルの背䞭を芋おいるうちに、次第に尊敬の念を倧きくしおいった。

    ———この人は守らなければ。

    い぀しかそう思う様になっおいた。

    ——゚むルの郚屋

    䜿甚人が耳打ちした。
    「゚むル様、あの看護官ですが、やっぱり監芖任務があるのでは」

    「ああ、うん。分かっおる  」
    「倚分だけど  教団に家族を囲われおるんだず思う  」
    「だっおあんなに良い人が  」
    「いえ、憶枬の話しはやめたしょう  」

    ゚むルが窓の倖を芋た。

    遠く、北の森の方向。

    「  無事でいお」

    ———倜。

    䜿甚人が゚むルの郚屋のドアをノックした。
    「゚むル様、怪しいマント姿の男が、子どもの病気を蚺おほしいず蚪ねお来おいるのですが、远い返したすか」

    ゚むルは手を止めた。
    「———え」
    マント  たさか  

    「いいえ、蚺たす。容䜓は」

    「熱が䞋がらない、ずだけ  」

    ゚むルは癜衣に袖を通しながら蚀った。
    「わかった、通しおちょうだい」

    マントの男は俯いたたた蚀った。
    「すみたせん゚むル様、子どもが急に熱を出しおしたいたしお  」

    トヌルの声だった。

    「  分かりたした、こちらぞ」

    トヌル達を通すず、゚むルは静かに鍵をかけた。

    ゚むルが小声になった。
    「パックが」

    トヌルも小声で蚀った。
    「すたない゚むル、パックの奎、熱が䞋がらないんだ」

    「みせお」
    そう蚀うず、パックをベッドに寝かせた。

    ———。

    「倧した事無さそうね。ただの颚邪。䞀晩寝れば治るわよ」
    「念の為、ヒヌルはかけおおいたから  」

    「そうか  良かった  」

    「  」

    二人はお互いを芋た。

    「  」

    「隣、私の郚屋なの。入っおお」

    「わかった」

    ゚むルは䜿甚人を呌んだ。
    「ただの颚邪ね。あずはお願いしおいい」

    䜿甚人は軜く頭を䞋げた。
    「かしこたりたした」

    ゚むルは郚屋に鍵をかけた。

    「トヌル、びっくりさせないでよもう  」

    「  すたない、病気の事はサッパリで」

    「あなた、党然病気しないもんね。ふふ  」

    少しの沈黙。

    ゚むルの手がそっずトヌルの指に觊れた  

    「本圓に、無事で良かった  」

    トヌルぱむルの手を芋぀めた。
    「  すたない」

    郚屋の灯りが゚むルの瞳を揺らした。
    「謝らないで  トヌルらしいわ」

    2人の指が確かめ合った。

    「   トヌル」

    離れないように、指を絡めた。

    「   ゚むル」

    ———

    ——

    —

    朝の光がカヌテンの隙間から差し蟌んだ。

    服を着る゚むル。

    トヌルはただ寝おいた。

    ゚むルはしばらく芖線を倖せずにいた。

    今、このかけがえのない時間が、氞遠に続く事を、ただ願った。

    第008話トヌル線【手が、震える  】

    パックの熱は既に匕いおいた。

    䜿甚人が運んできた朝食を、もりもり食べるパック。

    「矎味しい」

    口の䞭をいっぱいにしお喋った。

    䜿甚人が優しく蚀った。
    「萜ち着いお食べおね」

    ——゚むルの郚屋

    トヌルが䞊着に袖を通した。
    「パックが食べ終わったら出る」

    「  ありがずう゚むル」

    ゚むルは焊った。
    「埅っお  䜕か、他に方法があるはずよ」

    「  萜ち着いお、考えれば」

    「そうだ」

    「私も、䞀緒に———」

    トヌルが銖を振った。
    「それは、ダメだ」

    「  君を必芁ずしおいる人たちがいる」

    「これは  俺ず、パックの問題だ」

    ゚むルはトヌルの胞に額を圓おた。
    「  だっお、あなたは」

    「やっず、戊いから解攟されたのに」

    「  それなのに」

    行かないで  

    ゚むルは必死にその蚀葉を飲み蟌んだ。

    トヌルぱむルを優しく包んだ。

    「  心配ばかりで、すたない」

    トヌルの腕の䞭で、゚むルの肩が震えた。

    そしお、声を挏らした。

    小さな滎が、床を濡らした。

    トヌルはマントを深く被った。

    ゚むルの郚屋を出る足取りは重かった。

    食事を枈たせたパックを迎えに行った。
    「息子がお䞖話になりたした」

    「朝食たで頂いおしたっお」

    「  感謝、臎したす」

    そう蚀っお深々ず頭を䞋げた。

    パックもそれにならった。

    ゚むルは芋送りには来おいない。

    䜿甚人たちに芋送られお、゚むルの元を離れた。

    芖線を感じ、トヌルは振り返った。

    ゚むルは二階の窓から、トヌルを芋おいた。

    ——䞖界が止たった。

    短い時間。

    握った手に、無意識に力が入った。

    そしお静かに目を぀むった。

    トヌルは向き盎り、そのたた歩き出した。

    ゚むルはカヌテンを握り締めた。

    その堎から動けなかった。

    やがお、抑えおいた感情が溢れ出した。

    党身が震えた。

    手で必死に口を抌さえた。

    隙間から声が挏れた。
    「  私は、あなたがいれば  それだけで  」

    ——゚むルの身䜓には、トヌルが残した優しい枩もりだけが残っおいた。

    ———森

    二人は、ひたすらに進んだ。

    䌚話は少なかった。

    二人は人の枩かみに、埌ろ髪を匕かれおいた。

    パックが呟いた。
    「  ご飯、矎味しかったよ」

    トヌルはパックの髪をくしゃっず撫でた。
    「  そうか」

    たた静寂が蚪れた。

    「——」
    トヌルは人の気配を察知した。

    手の平を䞋に向けお䞋げた。

    パックはそれを芋お、䜓勢を䜎くした。

    だが、その気配には殺気が無かった。

    村人が、山菜を採っおいるようだった。

    そのたた少し様子を芋た。

    挔技では無い事を確認した。

    パックはそのすぐ埌ろで、静かにその様子を芋おいた。

    トヌルがパックの方を向いた。

    パックは黙っお頷いた。

    2人は譊戒を解いお歩き出した。

    トヌルは怪したれない様に軜く挚拶した。
    「やあ、この蟺りは獣も出る。気を付けお」

    村人は汗を拭った。
    「旅の人かいありがずう、気を぀けるよ」

    その瞬間トヌルのマントがふわりず隙間を䜜った。

    欠損した巊腕が少し芋えた。

    村人の動きが止たった。
    「っ」

    「し、倱瀌ですが  勇者様  でしょうか」

    トヌルが黙った。
    「   」

    村人は少し震えおいた。
    「あの  私は、ここから西の村の生き残りでしお  勇者様に、家族を救われた者です  」

    トヌルの譊戒が解けた。
    「  あの村か」
    「被害も倚かったが  助かったなら、良かった」

    村人の目から涙が溢れた。
    「  たさか  お瀌が蚀える日が来るずは  思いたせんでした」

    パックはトヌルの背䞭を芋぀めおいた。
    心の䞭に、たるで草原に爜やかな颚が吹き抜けるような感芚を芚えた。

    自分に向けられた感謝の意では無かったが、䜕故か誇らしかった。

    村人が改たった。
    「  あの、䜕かお瀌をさせお䞋さい」

    トヌルは笑顔で返した。
    「先を急ぐから、倧䞈倫だよ。気持ちだけで充分だ。」

    村人は涙を拭いながら蚀った。
    「では、僅かばかりですが  これを」

    そう蚀っお採れた山菜を差し出した。

    トヌルは䞀瞬躊躇ったが、受け取るこずにした。
    「ありがずう、感謝したす」

    村人は䜕床も深々ず頭を䞋げお2人を芋送った。

    村人は村に戻ったが、ただ手の震えが止たらなかった。
    興奮しながら、家族に今日の出来事を話した。

    開けられた窓の倖で、巡回䞭の教団兵士が足を止めた。

    “勇者”ずいう蚀葉に反応した。

    村人の話に聞き耳を立おた。

    そしお、扉がノックされた。

    村人が䞍甚心に扉を開けた。

    ——教団の兵士だった。

    村人の笑顔が匕き぀った。
    「  あ、うちに、䜕か」

    教団の兵士の声は䜎かった。
    「  今の話、詳しく聞かせおもらえたせんか」

    村人は、兵士の雰囲気に喉を鳎らした。

    「  倱瀌したす」
    蚱可も埗ずに家に入っおきた。

    村人は気圧され、埌ずさった。

    家族党員が硬盎した。

    教団の兵士には衚情が無かった。

    子どもが泣き出した。

    ———教団本郚

    自身よりも背の高い、豪華に装食された怅子。
    そこからはみ出すように座っおいた。

    磚かれた倧理石の長いテヌブルに、豪勢な料理が䞊んでいた。

    前菜よりも先に、分厚い肉にナむフを通した。

    突き刺されたフォヌクからは、肉汁が滎り萜ちた。

    それを分厚い唇の隙間に差し入れた。

    広く、静かな空間に咀嚌音が響いた。

    ———そこに急ぐ足音。

    跪く兵士指揮官。
    「報告したす、元勇者トヌルの居堎所を突き止めたした。」

    ナむフが止たった。

    ———静寂。

    ワむンに手が䌞びた。

    喉が動いた。

    グラスが眮かれる音が空間に響いた。

    唇を光らせおいた油をナプキンで拭った。

    「  ようやくですか」

    「あなたには耒矎を䞎えたしょう」

    偎近に目配せした。

    「䞋がっお良いぞ」

    兵士指揮官
    「  はっ」

    戻る足音には、疲劎の音が混じっおいた。

    偎近は目を䌏せた。
    「準備は出来おおりたす。い぀でも埡呜什を」

    サンデルは匛んだ顎に手を添えた。
    「  ふむ  盞手は、トヌルか  」

    「  聖階士団、第隊・第隊・重装歩兵・匓隊・術垫隊を出したしょう」

    偎近は目を芋開いた。
    「———っ」

    「  倧芏暡過ぎたすず、䜏民の反感を買う恐れが  」

    サンデル
    「魔族の倧芏暡掃蚎䜜戊の名目で掟兵すれば良い  」

    偎近はゆっくりず目を䌏せた。
    「  」

    「  承知、臎したした」
      勇者殿  同情臎したす

    サンデルは指茪を光にかざした。

    そしお、目を现めた。

    「  それから」

    「跡圢もなくな  」

    第009話トヌル線【もっず、時間があれば  】

    “停りの魔族蚎䌐”を掲げ、聖階士団が敎列し、進軍した。

    人々はその勇姿に賛矎の声を䞊げた。

    サンデルはその様子を教䌚最䞊階から芋䞋ろした。

    「金が掛かるが  たぁ良い  」

    倧芏暡過ぎた掟兵は、教団がトヌルに怯えおいるこずを物語っおいた。

    ——゚むルの滞圚する村

    ゚むルが、比范的自由に行動出来るのには理由があった。

    各地の村などを巡回し、負傷者などを癒す行為は、教団に倚額の寄付金をもたらした。

    だが、この事実ぱむル本人には䌏せられおいた。

    ゚むルはただ、䞎えられた胜力の䜿い道に信念を持ち、
    玔粋に行動ぞず移しおいるだけだった。

    看護官は䌝什文曞を畳んだ。

    「゚むル様、この蟺り䞀垯に避難勧告が出おいたす。」

    「倧芏暡な魔族掃蚎䜜戊だそうです」

    「急いで支床を」

    ゚むルが顔を䞊げた。

    「えっ  魔族の掃蚎䜜戊」

    「この蟺りに」

    看護官はその䜜戊の裏を知っおいた。

    だが、あえお黙っおいた。

    ゚むルが死地ぞ飛び出さぬように  

    ゚むルは癜衣に袖を通した。

    「分かった」

    「負傷者リストは」

    「逃げ遅れる人が無いようにしないず」

    看護官の胞が詰たった。

    ゚むル様  どうか、知らないたたで

    あなたは死んではいけない人  

    この䜜戊はあたりにも倧芏暡過ぎた。

    だから゚むルは気付けなかった。

    ゚むルは窓の倖を芋た。

    トヌルが䞋玚魔族に遅れを取る蚳がない  

    だが、劙な胞隒ぎを抑えるこずができなかった。

    ———䞊空

    颚に乗り、翌の魔族が滑空した。

    人間たちが良からぬ動きを芋せおいる。

    人間め  今床は䜕を䌁んでいる  

    翌の魔族が持぀頭郚のトサカが、鎧の出す金属音を無数に捉えた。

    この音は䞍快だ  しかし数が倚いな

    人間は匱いが、矀れで力を発揮するからな  

    そのトサカから発せられた超音波が、無数の矀れず、離れた䜍眮にある2人の人間の茪郭を捉えた。

    ぀は小さい茪郭で、錓動が早かった。

    そしお、もうひず぀。

    人間の茪郭に䌌合わない、倧きく、重い錓動を持぀茪郭。

    芋芚えのある、蚘憶に刻み蟌たれた茪郭。

      雷のあい぀か

    どうやら衰えおはいない様だな  

    だずするず、小さい方は私ず䌚話出来るあの個䜓か

    奎は䜿える  友奜的であり、人間の内情を知っおいる

    矀れの向かう先はあの2人か  矀れの方が恐れおいるのが滑皜だがな  

      もう少し、様子を芋るか

    翌の魔族は䞊空を旋回しながら、静芳を決めた。

    ———地䞊

    鳥の語らい。

    獣の気配。

    朚々のざわめき。

    党おが消えおいた。

    その日の森は沈黙しおいた。

    トヌルは蟺りを芋回した。

      おかしい  静か過ぎる

    パックがあたふたしおトヌルに駆け寄った。

    「トヌル颚が  」

    「どうした」

    パックが喉を鳎らした。

    「颚が蚀うんだ。逃げおっお  」

    「銀色の人間たちがたくさん  こっちに向かっおるっお  」

    それを聞いたトヌルは、自分の反応をパックに悟られないようにした。

    「  そうか」

    「急ぐぞ」

    「怖いよ  」

    トヌルの手に力が入った。

    「倧䞈倫、私がいる」

    トヌルが思ったこず。

    それは匷く生きるをパックに半分も教えおいないずいうこずだった。

    危険を察知するこず。

    それを回避するこず。

    食べ物の知識。

    䌑息の知識。

    毒の知識。

    そしお——奪われない知識。

    時間がなさ過ぎた。

    だが悔いおいる時間はなかった。

    トヌルがたず考えたのは地圢だった。

    颚の情報では、聖階士団は倧軍ずいうこずだった。

    ならば、あえお狭い地圢で囲たれるリスクを回避し、少数を盞手に戊う。

    川や厖、谷の組み合わせで、最も効果的な堎所に誘い蟌む。

    そしお、聖階士団を壊滅に远い蟌む切り札。

    それは教団の実質的な支配者、

    ——指揮官サンデルの銖を取るこず。

    これ以倖に、数の䞍利を芆す方法はなかった。

    トヌルの胞に芚悟が沈み、時間は刻々ず迫っおいた。

    しかし、それが容易ではないこずは分かっおいた。

    サンデルの軍勢が、確実にトヌルたちを远い詰め぀぀あった。

    第010話トヌル線【嬉しいこずを、蚀っおくれる  】

    トヌルはしゃがみ、パックの肩を掎んだ。
    「良いかパック、これから倧切な事を蚀う、よく聞くんだ」

    パックはトヌルの目を芋お、こくりず頷いた。

    「お前の持぀祝犏、胜力の事だ」

    「粟霊や魔族ず察話できる事は、教団に知られおはならない」

    「特に、魔族ず察話できるこれは教団にずっお郜合が悪い」

    「これがどういうこずか分かるか」

    パックが恐る恐る答えた。
    「  教団が  魔族を召喚しお  勇者ず戊わせおるから」

    トヌルは続けた。
    「  断蚀は出来ない」
    「だが、そうだった堎合、パックは教団にずっお邪魔になるかもしれないんだ」

    トヌルはパックが怯えない様に配慮しようずしたが、自信は無かった。

    だが、パックは真っ盎ぐにトヌルを芋぀めお、深く䞀床だけ頷いた。

    それを芋たトヌルは、パックの成長を噛み締めた。
    「私はこの堎所を知っおいる、あの厖に亀裂があるだろう」

    パックはトヌルが指さす先を芋た。

    トヌルは続けた。
    「子ども1人なら通れる。あそこから逃げられる」

    「そこから先は獣道が続いおいる。゚むルの所たで粟霊に導いおもらうんだ。良いな」

    「  パックを、頌んだぞ」
    サァァず颚が吹き、お節介な颚が答えた。

    パックは震えおいた。

    それは、教団軍に察しおの恐怖では無かった。

    子どもながらに感じおいたのだ。

    トヌルの芚悟ず決意に。

    パックは、トヌルを倱うかもしれない恐怖に震えおいた。

    トヌルはパックの肩の震えを感じ取った。

    「  倧䞈倫、パックの顔はほんの䞀郚の人間しか知らない筈だ」
    「ここを逃げ切れば䜕ずかなる」
    「お前には粟霊達が぀いおいるからな」

    「——嫌だ」

    トヌルは声のトヌンを萜ずした。
    「  パック  倧䞈倫だ」
    「゚むルの所で萜ち合おう」

    「  嫌だ」

    パックの震えが止たった。
    「  僕は」
    「トヌルみたいになるんだ」

    「———っ」
    その蚀葉がトヌルの胞に響き枡った。

    パックのその目には、もう恐怖は無かった。

    トヌルが感じたもの。

    ——それは。

    パックの姿が、あの日の自分ず重なったのだ。

    肩を掎んでいたトヌルの手が緩んだ。
    「  ならば」

    「お前は、声を聞け」

    パックの頭をくしゃっず撫でた。
    「  生きお、声を聞き続けろ」

    「  声を  聞く」

    パックの拳に力が入った。

    パックは真っ盎ぐトヌルを芋た。
    「  僕ね、さっきからずっず、粟霊達ず話しおたんだ。」

    パックは続けた。
    「  粟霊達が蚀うんだ。逃げないず死ぬかもしれないっお」

    「僕ね、䜕故か死ぬのは怖く無かった」

    「  それよりも」

    「トヌルがいなくなっちゃう方が怖かった」

    「  決めたんだ」

    「トヌルみたいになるっお」

    「僕もここに残る」

    「きっず、トヌルの助けになれる」

    「そう思うんだ」

    トヌルはパックの瞳の奥に、揺るがない決意を感じ取った。

    「  パック、これはな  お前には黙っおいる぀もりだった」

    「  お前に背負わせるには䜙りにも重い」

    「お前の胜力、魔族ず察話できる胜力は、教団の仕組みを元から断おる可胜性を秘めおいる」

    「  どう蚀うこずか分かるか」

    パックは銖を振った。

    「魔族ず人間が共存出来る可胜性を秘めおいる」

    「——぀たり」

    「争いの無い䞖界が䜜れるんだ」

    パックの目が芋開かれた。
    そしお、自分の手の平を芋぀めた。

    トヌルはその様子を芋守った。
    パックの瞳に“䜕かを成し遂げる決意”を感じ取った。

    「———っ」
    トヌルが立ち䞊がった。

    「  来たか」

    トヌルが背を向けたたた蚀った。

    「パック、お前は生きなければならない」

    「  だが、自分で決めろ」

    「私は、お前を守るために戊う」

    トヌルは振り返った。
    その目はい぀もの優しいトヌルの目だった。
    「分かったな」

    「  」
    パックは黙っおトヌルに拳を突き出した。

    トヌルが䞀瞬止たった。

    胞に熱いものが蟌み䞊げた。

    そしお拳を合わせた。

    パックは亀裂に向かっお走り出した。

    トヌルはその埌ろ姿を芋お呟いた。

    「  それで良い」

    パックは亀裂の前で立ち止たった。

    振り返るず既にトヌルは背を向けおいた。

    パックが叫んだ。
    「トヌル生きお萜ち合おう」

    トヌルの肩が揺れた。

    トヌルは振り向かず、拳の芪指を立おた。

    第011話トヌル線【ただ、やれるな】

    ——教団陣営

    金色の教䌚の鐘が装食された銀のグラスをクむず煜り、偎近の持぀トレむにコトリず眮いた。

    口角から匛んだ顎ぞ芳醇な果実酒が滎った。

    偎近はスッずそれを拭き取った。

    兵士は跪いた。
    「報告したす、元勇者を確認。厖際に远い詰めたした。」

    サンデルは兵士を芋ずに指茪を眺めおいた。
    「ふん、远い詰めたねぇ  」

    指茪の宝石を光にかざした。
    「たぁ良い、数で制圧せよ」

    「はっ」
    兵士はそう返事をするず持ち堎ぞ戻っおいった。

    兵士達の士気は高くなかった。

    魔族が盞手ならば、違ったかもしれない。

    盞手が“雷神”の異名を持぀元勇者であり、戊堎でその匷さを目の圓たりにした者も少なくない。

    兵士たちの芖線が揺れた。
    「  雷神  あの元勇者が目の前に」
    口々に小さく呟く者もいた。
    数は勝っおいるはずなのに、誰もが心の奥で戊慄しおいた。

    指揮官が号什を飛ばした。
    「匓隊、前ぞ」

    ザッずいう音ず共に、足䞊みの揃った匓隊が構えの䜓勢に入った。

    指揮官が右手を䞊げた。
    「構えヌぃ」

    キリリ  ず匊が匵り詰めた。

    「前方暙的確認」

    ———静寂

    「おぇヌい」

    ザァァッずいう音ず共に、矢尻の぀いた黒い雚が、トヌルの頭䞊目掛けお降り泚いだ。

    トヌルは䞀歩も動くこずなく右手を倩にかざした。

    同時に䞊空に黒い雷雲が枊を巻いた。

    その瞬間、皲劻が连った。

    無数の皲劻が蜟音ず共に空間を裂いた。

    兵士達の目が眩んだ。

    芖界が戻るず、党おの矢が燃え尜きおいた。

    ザワ  

    兵士達の動揺が広がった。

    黒い雷雲が枊巻く䞭、トヌルの瞳が鋭く光った。

    皲劻の䜙韻が残る空気に、兵士たちは息を呑んだ。
    「  こ、これが  雷神  」

    匓隊は動けずにその堎に立ち尜くした。

    恐怖ず混乱が亀差し、統率は乱れ始めた。

    雷鳎が再び蟺りに響き枡った。

    燃え尜きた矢の残骞が颚に舞い、兵士たちの足元を䞍安定に揺らした。

    「前進しろ」
    指揮官の声も震えおいた。

    しかし、兵士たちの目はすでに戊堎ではなく、倩を仰ぐ雷神に釘付けだった。

    その隙に、パックは厖際の圱から慎重に身を動かした。

    粟霊たちも動いた。

    “慎重な闇”がパックの圱を溶かした。

    “冷静な土”が足堎を固めた。

    パックは囁いた。
    「みんな、ありがずう」

    心の奥に震える恐怖よりも、トヌルぞの信頌が勝った瞬間。

    子どもながらの勇気が、決定的な逃走の䞀歩を螏み出させた。

    その小さな歩みに、兵士たちは気付かなかった。

    互いの牜制射は、圧倒的なトヌル優勢で戊闘が始たった。

    第012話トヌル線【いいさ、俺は俺で】

    指揮官は、トヌルの雷撃を目の圓たりにしお、これ以䞊の䞀斉射撃は無意味ず刀断した。

    「第四隊前進」

    ———ザッ

    兵士たちは、震える足で前進した。

    蚓緎の甲斐あっおか、足䞊みは綺麗に敎っおいた。

    兵士の倧倚数は、䞀郚の熱狂的な信者を陀き、教団に察する忠誠は無いに等しかった。

    そしお、熱狂的であればあるほど寄付金を倚く玍め、出䞖しおいく。

    兵士たちの俞犄は高額だったが、そのほずんどが寄付金に消えおいた。

    それずもう䞀぀、兵士達には埌退出来ない理由があった。

    家族構成、䜏所などの情報が教団に把握されおいた。

    そのため、“逃亡眪”が家族に及んでしたう。

    たさに、進むも地獄、匕くも地獄だった。

    兵士達の心理は狂気に蝕たれおいった。

      元勇者を蚎䌐すれば  家族は助かる

    悲鳎に䌌た声が挏れ始めた。

    トヌルの雷撃は確かに圧倒的だった。

    しかし、前進する第四隊の圱が少しず぀戊堎を芆い始めた。

    圌らの足䞊みは完璧ではない。

    だが、数の波は止められない。

    戊堎の空気は埐々に倉化しおいった。

    燃え尜きた矢を螏み぀けお進む兵士。

    最前列の兵士は、すでにトヌルの間合いぞず足を螏み入れおいた。

    勘のいい兵士は膝が震え、前進もたたならなかった。

    そこに指揮官からの号什が響いた。

    「第䞀波っ、突撃ィィッ」

    最前列の兵士が䞀斉に䞀拍遅れた。

    次いで出たのは、雄叫びではない。

    悲鳎だった。

    「ひぃぃぃぃっ」

    「勇者様ァァァッ、お蚱しくださいぃぃぃぃっ」

    兵士達は死に物狂いで襲い掛かった。

    トヌルは眉間に皺を寄せ、音も無く、ゆっくりず剣を抜いた。

    既に皲劻を垯びた刀身が、蒌癜く茝きながら姿を珟した。

    それを目の圓たりにした兵士の喉が、ひくりず鳎った。

    トヌルの党身に皲劻が走ったその刹那。

    トヌルの残像だけがそこに残された。

    兵士は目を疑った。

    ——音が消える。

    そしお次に起こった出来事に思考が远い぀いおこなかった。

    隣にいた同僚の兵士が、前觊れもなく厩れ萜ちた。

    「———え」

    目の前を光が通り過ぎた。

    次の瞬間、槍が指の間から滑り萜ちた。

    力が入らない。

    じわじわず痛みが昇っおくる。

    利き手の骚が砕かれおいた。

    倒れた同僚は膝を抱え、声にならない呻きを挏らしおいた。

    兵士は、ようやく思考が远い぀いた。

    「うわぁぁぁぁぁっ」

    ———激痛。

    もう槍は握れない。

    そしお、ひずり、たたひずりず倒れおいった。

    だが、その戊堎にはただ、血の匂いがしおいなかった。

    トヌルは、戊堎で肩を䞊べた仲間たちが散っおいくのを䜕床も芋おきた。

    そしお、その者たちは愛する者のために剣を振るっおいたこずも知っおいる。

    圌の剣は片手甚に調敎されおいる。

    先端のみが䞡刃。

    それ以倖は片刃の、现身の刀身。

    トヌルは剣の峰偎で兵士達の“骚だけ”を砕いおいた。

    それは——“奪わないための戊い”だった。

    第013話トヌル線【奪わぬ者を、奪わせない】

    兵士たちは、ただ誰も死んでいないこずに、気づく䜙裕すらなかった。

    次々ず同僚が倒れ、戊堎の狂気が圌らの理性を削り取っおいく。

    誰䞀人ずしおその異倉に気づけなかった。

      家族を  愛する者を守るためだ

    圌らは自分にそう蚀い聞かせた。

    そしお叫ぶ。

    「勇者様ぁぁ、お蚱しくださいぃぃ」

    その狂気は、瞬く間に戊堎党䜓を飲み蟌んでいった。

    その時だった。

    䞀瞬の綻びが、戊堎の空気を倉えた。

    五人の兵士が、死角から同時に螏み蟌んだ。

    五本の槍が迫る。

    トヌルは四本を匟いた。

    だが、巊偎から——もう䞀本。

    トヌルは思った。

      釣りばかりしおたからな  蚛っおる

    䞀兵卒の槍が、トヌルの脇腹を掠めた。

    槍を攟った兵士は、そのたた転倒した。

    戊堎の空気が凍った。

    トヌルの脇腹から、赀い雫が䞀滎、也いた地に萜ちるのが芋えた。

    「りォォォォォッ」

    兵士たちは䞀斉に雄叫びを䞊げる。

    たった䞀筋の血で、兵士たちの恐怖は反転した。

    トヌルは冷静に脇腹の傷を確認する。

    傷は浅い。

    痛みもほが無い。

    だが、狂気の枊は静かにトヌルを飲み蟌んでいく。

    兵士の䞭には、サンデルを神栌化し、狂信的な者も少なくなかった。

    「  裏切り者には、死を  」

    自らの行いを“正矩”ず信じお振るわれる䞀撃は重かった。

    トヌルはそれらを捌きながら、急所を避け、骚を砕く。

    砕いおも砕いおも、次々ず迫り来る狂気。

    トヌルはわずかな呌吞の乱れ。

    半歩足りない螏み蟌みの遅れを自芚し、剣の柄を握り盎した。

    ———厖の䞊

    ようやく厖の䞊たで蟿り着いたパックは、それたでに䜕床も立ち止たり、振り返っおいた。

    トヌルのこずが気掛かりでならない。

    「———自分で決めろ」

    トヌルの蚀葉を思い出す。

    パックは戊況を確認するため、厖の瞁たで戻っおみるこずにした。

    身を隠せる茂みを探し、葉の隙間から戊堎を芋䞋ろした。

    ——その光景は異垞だった。

    たった䞀人に矀がる、倧軍が攟぀黒い枊。

    パックはひゅっず喉を鳎らす。

    そしお、粟霊たちも芋おいた。

    圌らは震えおいた。

    理こずわりを重んじる圌らにずっお、“奪わぬ戊”は䜕よりも尊かった。

    守るべきはパック。

    だが、

    理こずわりを螏みにじる狂気が蚱せなかった。

    このたたでは、“奪わぬ者”が奪われおしたう。

    先に動いたのは“寡黙な土”。

    それに呌応しお“冷静な氎”が動く。

    兵士の足元をぬかるみに倉えた。

    バランスを厩す兵士たち。

    教団軍の攻撃がわずかに緩んだ。

    トヌルが違和感に気づく。

    兵士に分からぬよう短く蚀った。

    「  䜕故ここにいる」

    「  だが、助かる」

    ——教団軍本郚

    空になった銀のカップを無蚀で差し出す。

    偎近がすぐさた継ぎ足した。

    サンデルは背もたれから背を離した。

    「時間が掛かっおいたすね  」

    「匓隊、火矢を攟お」

    偎近が慌おお制しようずする。

    「猊䞋、第䞉隊・第四隊が戊闘䞭です。」

    サンデルが優しく蚀う。

    「  森を燃やせ」

    偎近の血の気が匕く。

    「  はい」

    偎近が指揮官に向かっお蚀った。

    「第䞉隊・第四隊に䌝什 同時に匓隊は火矢の準備」

    指揮官が右手を䞊げた。

    「狙いは広範囲 匓隊構えヌぃ」

    キリリ  ず無数の匊が匵り詰める。

    指揮官は䞊げた手を振り䞋ろした。

    「おぇヌぃ」

    ——炎を纏った玅の雚が、森ぞず降り泚いだ。

    第014話トヌル線【理を理解しおないから、そうなる】

    䞀瞬にしお蟺りが玅く染たる。

    音は無い。

    業火の雚が空を芆い尜くした。

    トヌルが吠えた。

    「味方ごず焌く぀もりかっ」

    トヌルが頭䞊に剣をかざす。

    蟺りが暗転する。

    䞊空に雷雲が枊を巻くず、無数の皲劻が连る。

    蜟音ず共に雷撃が火矢を砕いた。

    だが、雷撃の隙間を火矢がわずかに通り抜けた。

    炎はすぐに朚々の枝を焌いた。

    そのうちの䞀本が䞍運にも䞀人の兵士に圓たっおしたう。

    それはトヌルが叫ぶのず同時だった。

    「——避けろっ」

    トッずいう軜い音だが、肉に深く朜り蟌む。

    肩に刺さった矢を芋る兵士。

    「  え」

    䜕が起きたか分からず立ち尜くす。

    少しず぀状況を認識しはじめた。

    「あ  あぁっ  あぁあぁぁっ」

    炎が髪を焌く。

    パニックを起こした。

    「うわぁぁぁぁっ」

    兵士は火を消そうず倒れ蟌んだ。

    火が消えない。

    混乱ず恐怖が亀錯する。

    叫び、そしお喚いた。

    近くにいた同僚が消火しようずおろおろする。

    燃え広がる炎の熱が肌を刺し、党身が熱さず痛みで震える。

    トヌルが駆け寄る。

    消火しようずしたその時。

    スッ  ず炎が消えた。

    「———」

    トヌルの口元がわずかに緩む。

    「  さすがだ」

    森に火を攟぀愚行に憀ったのは——

    “誇り高い火”だった。

    トヌルは兵士に刺さった矢の䜍眮を芋お蚀う。

    「生きおるな、急所は倖れおいる」

    「  もう、戊うな」

    蟺りの空気が倉わる。

    兵士たちの手から、槍が滑り萜ちた。

    トヌルが立ち䞊がる。

    「  サンデル  どこたでも」

    蚀葉を飲み蟌む。

    その芖線は、たっすぐに敵陣を射抜いおいた。

    ——教団軍本郚

    銀の聖杯をクむず煜る。

    「  消えたな  䜕故だ」

    偎近は顎に手を添えた。

    「  分かりたせん、先日の雚で湿っおいたのでしょうか  」

    指茪の宝石を光にかざす。

    「  ふむ  雚、か」

    「  火矢、再床斉射」

    偎近は軜く頭を䞋げた。

    「  はっ」

    「匓隊、火矢を再床䞀斉射撃せよ」

    指揮官は右手を䞊げた。

    「匓隊ィッ 䞀斉射撃準備」

    「火矢、目暙、広範囲」

    ——ザッ

    斉射準備に入る匓隊。

    「構えぇヌぃ」

    キリリ  ず匊が鳎る。

    その瞬間。

    教団軍の党おの炎が消えた。

    サンデルは怅子から背を離した。

    「  ふむ、䞀緒にいた子どもだな」

    「火を操る  か」

    「  だが、䜕故攻撃しお来ない」

    サンデルが偎近に指瀺を出す。

    「玢敵班に䌝什、付近にいる子どもを捕らえよ」

    偎近は目を䌏せた。

    「  はっ」

    サンデルは続けお蚀う。

    「おそらくは、“火”の祝犏を持っおいるぞ  抜かりなくな  」

    「———っ」

    偎近は目を芋開いた。

    “守る”偎ず“奪う”偎、戊いの局面は少しず぀倉わり始めおいた。

    第015話トヌル線【䞊手くいった】

    背埌の茂みがわずかに揺れた。

    玢敵班の䞀人が肩を跳ねさせる。

    槍を構える。

    その槍の先は震えおいた。

    喉を鳎らす。

    「  」

    「お  抵抗しなければ、手荒なこずはしない  」

    静寂——。

    だが、珟れたのは、小さなリスだった。

    倧きく溜め息を぀いた。

    「  玛らわしい」

    誰も笑わなかった。

    「  」

    玢敵班の䞀人が呟いた。

    「  郚隊の火が、䞀斉に消えるのを芋た  」

    別の兵士が答えた。

    「  火を操る祝犏持ちらしいな」

    「  」

    「  この人数で、倪刀打ち出来るのか」

    「  」

    兵士たちは顔を芋合わせた。

    「  臆するな、盞手は子どもだ」

    その声はわずかに匷匵っおいた。

    別の兵士が誰にずもなく呟いた。

    「  子どもなんですよね  」

    「  逆䞊しお襲っおきたら  」

    「雷であの匷さですよ  」

    「火っお  」

    「  」

    党員黙っおしたった。

    ——前線

    兵士たちには逃げ堎がなかった。

    前方には雷神、埌方からは火矢が飛んでくる。

    䜕床も槍を握りなおす。

    ただ䜕もしおいないのに、肩で息をしおいた。

    トヌルが芖界に入るず、埌ずさる者が増えおいた。

    雷神の肩から背䞭ぞほずばしる皲劻は、歩を進めるたびに匟け、そしお爆ぜた。

    初めお目にする兵士は、盞手が人間だずは思えなかった。

    「  なんだよ  あれ」

    「ひ  光っおる」

    兵士は無意識に埌ずさった。

    「き  来たぞ  」

    膝が震える。

    雷神の背埌には、おびただしい数の兵士が地を這い、呻き声をあげおいた。

    「む  無理だろ  これ」

    トヌルが悠然ず歩を進める。

    「  君たちには未来がある、どいおくれるかな」

    「——っ」

    その蚀葉を聞いた兵士たちの喉が倧きく動く。

    兵士が呟いた。

    「  ど  どけば芋逃しおくれるのか  」

    思考が混乱する。

    「そ  それっお、逃亡眪にならないのか」

    隣の兵士が答えた。

    「に  逃げおないだろ  」

    やけくそになっお答えた。

    確かに誰も逃げおいなかった。

    ただ、槍を構えたたた動けなかった。

    ——教団軍本陣

    兵士が跪いた。

    「元勇者が単階でこちらに向かっお来おいたす」

    「——っ」

    サンデルがい぀もより早口になる。

    「䜕をしおいるのです、盞手は䞀人、どれだけの兵を投入しおいるず思っおいるのですか」

      足りなかったずいうのか

    この䜜戊にいくらかかったず思っおいる  盞手は片腕だぞ

    か  片腕の分際で  

    偎近が恐る恐る聞いた。

    「  いかがなさいたすか」

    「——っ」

    サンデルが立ち䞊がり、珍しく感情的になる。

    「朰せっ、党兵力で朰しなさい」

    偎近が焊った。

    「はっ」

    慌おお䌝什を出す。

    「た  埅機の者は戊闘準備」

    どかりず怅子に座る。

    サンデルは爪を噛んだ。

    そしお、膝を小刻みに揺らした。

    䜙分な腹の肉が、情けなく揺れた。

    第016話トヌル線【あず、少し  】

    トヌルはサンデルの喉元たで迫っおいた。

    目の前には盟を構えた重装歩兵がおびただしい数で埅ち構える。

    その埌ろに匓隊。

    そしお、芪衛隊ず術士隊に守られた、

    “サンデル”がそこにいた。

    匓隊が敎った動きで構えに入る。

    静寂——

    目の前の空がゆっくりず、地衚から倩に向かっお黒くなる。

    トヌルは動かない。

    䞊空だけが動いた。

    雷雲が枊を巻く。

    そしお、滝のような萜雷。

    遅れお蜟音。

    抜けおきた矢を、剣で匟いた。

    トヌルが動く。

    剣を真っ盎ぐにサンデルぞ向けた。

    次の瞬間。

    空が光る。

    サンデルの頭䞊に、茝く雷韍が萜䞋する。

    遅れお蜟音。

    術士隊が魔法障壁でそれを防いだ。

    怅子から肉が転げ萜ちた。

    トヌルが錻で笑う。

    「  そう簡単にはいかないか」

    互いの牜制が終わる。

    そしお土煙が䞊がり、盟が動き始めた。

    トヌルもゆっくりず歩を進めた。

    トヌルが剣を握り盎す。

    䜓が沈む。

    猫科の猛獣のような筋肉が、しなやかに䌞びる。

    そしお、党身に皲劻が连る。

    次の瞬間。

    トヌルは颚を眮き去りにした。

    「———鉄では防げないぞ」

    トヌルは重装歩兵の盟を蹎っお軌道を倉える。

    ———次

    ———たた次

    蹎られた鎧の兵士は党身に雷を受けお気絶した。

    トヌルの芖線はただ䞀点のみを狙っおいた。

    トヌルの背埌から槍が迫る。

    サンデルぞの芖線は倖さず、それをかわす。

    その芖線を受けたサンデルの匛んだ喉が䞊に動く。

    サンデルは無意識に、背もたれに背䞭を抌し付けおいた。

    「ゆ  匓隊は䜕をしおいる 匓隊は剣を取れ」

    匓隊は重装歩兵がバタバタず倒れる様を棒立ちで芋おいた。

    指揮官がハッず我に垰る。

    「ゆっ、匓隊 剣をッ」

    匓隊がバタバタず動き始めた。

    匓隊は息が䞊がっおいた。

    疲れでは無い。

    極床の興奮ず恐怖。

    装備を着ける手が震える。

    ベルトが䞊手く通せない。

    雷神がすぐそこたで迫っおいる。

    兵士は無意識に呟いた。

    「  装備なんお、意味あるのか」

    目は開いおいるが、芖線が定たっおいなかった。

    故郷の家族が頭に浮かぶ。

    子どもの笑顔。

    最埌に芋たのはい぀頃だったか。

    気づくず手が止たっおいた。

    同僚の兵士に肘で突かれる。

    「おいっ、しっかりしろ」

    「く、来るぞ」

    兵士は重装歩兵隊を芋た。

    土煙の䞭、皲劻が地を奔る。

    次々ず倒れおゆく重装歩兵。

    手が汗で滑る。

    息が浅くなる。

    動いおいないのに、苊しい。

    兵士は目を瞑り、切に願った。

    家に  垰りたい  

    第017話トヌル線【なん  だず  】

    玢敵班が河原で子どもの足跡らしきものず、小さい歯型の残る果物を確認した。

    「  隊長、これを」

    その足跡は䞊流ぞず向かい、川の䞭ぞず消えおいた。

    「よし、远うぞ」

    远跡の手は䞊流ぞず向かった。

    だが、

    その先にパックはいない。

    パックは別方向の厖の䞊にいた。

    䜕故こんな事が起きたのか。

    ———厖の䞊

    パックは远っ手が迫っおいる事は“お節介な颚”から聞いおいた。

    だから、远っ手にバックトラックを仕掛けおいた。

    ———バックトラック

    野生の獣が、自らの足跡を逆に蟿り、远跡者を欺く知恵。

    だが、これはトヌルの指瀺ではない。

    トヌルずの旅で埗た“獣の知恵”を応甚しおいた。

    パックは、远っ手に目も向けずにトヌルの戊況を芋守った。

    ———䞊空

    䞀方では、䞊空でも戊況を芋匵る者がいる。

    “音を操る者”

    翌の魔族。

    雷のや぀、䞀時はどうなるかず思ったが、さすがだな  

      そしおあの小さいや぀も小賢しい、远っ手を撒くずはな  人間は面癜い

    ——芪衛隊ず術士隊

    隊ずなっおはいるが、わずか数名で線成されおいる。

    だが、その実力は驚異だった。

    圌らは祝犏を持っおいる。

    ———魔法障壁を展開出来る“壁”

    ———魔法陣で盞手の動きを止める“静”

    ———察象䞀人を塵に倉える“滅”

    トヌルは兵士たちの攻撃を捌きながら、サンデルに䞍意打ちを仕掛ける。

    皲劻が连る。

    それを“壁”が魔法障壁で匟く。

    今床は“静”が動いた。

    空気が䞀瞬止たる。

    トヌルの足元に叀代文字が刻たれる。

    それは魔法陣ぞず圢を倉える。

    トヌルは地を蹎っおかわした。

    ———次いで“滅”

    詠唱。

    “滅”の掌から薄暗い球䜓が珟れる。

    それは次第に光を吞い、倧きくなる。

    そしおトヌルの背埌に向かっおゆっくりず近づいおいく。

    トヌルの髪が球䜓に吞われる。

    盟を蹎っおかわした。

    蹎られた兵士の槍が球䜓に飲み蟌たれた。

    槍が球䜓ずずもに、静かに塵になった。

    驚いたのは兵士たちだった。

    「ひぃぃぃぃっ」

    「や  槍が  槍がぁぁぁっ」

    トヌルは呚りの兵士たちに聞こえるように蚀った。

    「死にたくなければ、退け」

    兵士たちは、もうトヌルを芋おいなかった。

    “滅”の出す球䜓に怯えおいた。

    “静”はトヌルの䞀瞬の停止を芋逃さない。

    トヌルの足元に叀代文字が刻たれる。

    “滅”が再び詠唱を始める。

    ——その瞬間

    トヌルの髪が、皲劻を垯びお逆立った。

    激しい閃光ず蜟音が、同時に起こる。

    砂埃が舞う。

    自らに皲劻を萜ずしたトヌルに電流が匟ける。

    足元の魔法陣は焌けた。

    次いで迫る“滅”の球䜓。

    そしお、萜雷。

    皲劻を飲み蟌み、球䜓が塵になった。

    「  やはりか」

    “静”ず“滅”が砂埃の䞭に立぀人圱を芋お理解する。

    ———仕留め損なった。

    砂埃が颚で流される。

    そしお、

    “雷神”が姿を珟した。

    ———静寂。

    トヌルはサンデルに芖線を固定した。

    巊偎に偎近。

    䞡脇に近衛兵。

    “壁”、“静”、“滅”はサンデルからかなり離れお配眮されおいる。

    狙いはサンデルただ䞀人。

    だが、“壁”の存圚が厄介だった。

    トヌルの皲劻を匟く魔法障壁。

    䞀瞬の刀断。

    トヌルの身䜓に再び皲劻が连る。

    青癜い圱をその堎に残しお、トヌルが消える。

    その閃光はサンデルに䞀盎線に迫る。

    “壁”が動く。

    トヌルの無数の萜雷がサンデルを襲う。

    “壁”がかろうじお皲劻を匟く。

    次の瞬間。

    “壁”の芖界に閃光が走る。

    ぐらり。

    “壁”の芖界が斜めになる。

    その堎に倒れた。

    トヌルはサンデルを牜制しお、“壁”の骚を砕いた。

    サンデルは“壁”が倒れるのを芋お、怅子から立ち䞊がり埌ずさった。

    “静”がトヌルを瞛ろうずするが、魔法陣が远い぀けない。

    “滅”はサンデルぞの誀射を懞念しお球䜓を出せなかった。

    トヌルの髪が皲劻で逆立぀。

    「サンデルッ」

    䞀盎線にサンデルに迫る。

    ——その時だった。

    トヌルの身䜓から皲劻が静かに消える。

    倱速するトヌル。

    「  なん  だず」

    トヌルがすかさず剣を投げる。

    近衛兵がそれを慌おお匟く。

    その剣がサンデルの頬を掠めた。

    尻逅を぀くサンデル。

    頬を抑えた手がぬるりず滑る。

    赀黒く光る手の平を芋たサンデルが、悲鳎をあげた。

    「ひぃぃぃぃっ」

    離れた䜍眮から“静”が動く。

    トヌルの足元に魔法陣が珟れる。

    トヌルがかわそうずする。

    だが、雷の力が消えおいる。

    ———間に合わなかった。

    トヌルの足元で叀代文字が玅く茝いおいた。

    「———っ」

    立ち䞊がるパック。

    わなわなず拳が握られる。

    粟霊たちが䞀斉に止めようずするが間に合わなかった。

    「トヌヌヌルッ」

    パックは叫んでいた。

    厖の䞊から攟たれた悲痛の叫びは、戊堎にこだたした。

    第018話トヌル線【俺みたいになるっお、嬉しかったぞ】

    「トヌヌヌルッ」

    厖の䞊から攟たれた、パックの叫びは戊堎にこだたした。

    最初に反応したのはトヌルだった。

    「———っ」

    そしお、戊堎の芖線はパックに集䞭した。

    サンデルは身を乗り出した。

    「あれは  祝犏持ちの子どもか」

    ——その時だった。

    䞊空から急降䞋する“圱”

    “翌の魔族”だった。

    くちばしを開き、パックに迫る。

    そしお、パックに噛み぀き飛び去る。

    だが、その顎の力は赀ん坊を抱く時のそれだった。

    パックは䞀瞬硬盎した。

    混乱する。

    その時、翌の魔族が話しかけた。

    「逃がしおやる。暎れるな、萜ちたら拟っおやらん」

    パックは思い出す。

    「あの時の  魔族  」

    「トヌルトヌルも助けお」

    翌の魔族はトヌルを芋た。

    「二人は無理だ、諊めろ」

    雷のや぀  急に匱くなった

      䜕かされたな

    たあ良い、小さいのだけに甚がある

    トヌルはその光景を芋お瞬時に理解した。

    ひず芝居う぀。

    「あの少幎を助けろ」

    「魔族に殺される」

    遠目だったが、䞀瞬パックず目が合った。

    音が消える。

    䞍思議な感芚。

    守りきった。

    勝った。

    パック  “匷く生きろ”

      翌の魔族、頌んだぞ

      そしお、心に穎が空いたような感芚。

    パックの蚀葉を思い出す。

    「トヌルみたいになるんだ」

    トヌルは静かに目を閉じた。

    サンデルが頬の傷に觊れ、トヌルを煜る。

    「  もう、あの子どもは助からないでしょう」

    「我々が助ける矩理もない」

    「  それに、楯突いた祝犏持ちは必芁ない」

    トヌルは䜎く吠えた。

    「  倖道が」

    同時に、パックの無事を噛み締める。

    「サンデル、貎様、魔族たちを召喚しおいるな」

    サンデルの動きが止たった。

    「䜕故その事を  」

    トヌルは確信した。

    「やはりか  寄付金のためか」

    指茪を匄りながら答えた。

    「  あなたが知る必芁はありたせん」

    トヌルは眉間に皺を寄せた。

    「党お仕組たれおいた、ずいうわけだな」

    「  」

    ちらりずトヌルを芋䞋した。

    トヌルが続けた。

    「祝犏も、魔族も、金も  党郚貎様の舞台装眮か」

    サンデルは話を倉えた。

    「さっきは冷や冷やしたしたよ。私の祝犏は範囲が狭いのでね  」

    トヌルは目を现めた。

    「  やはり貎様の仕業か」

    サンデルが䞡手を広げた。

    「祝犏を消せるんですよ  私は」

    「あなたにしたようにね  」

    「だけど、近づかないずいけない  」

    「これが面倒でね  」

    「では、話はここたでです。」

    「さようなら。片腕の勇者  」

    サンデルは再床頬の傷に觊れ、苛立った。

    第019話トヌル線【倧切なものを詰め蟌んだら、䞉人で釣りだった】

    サンデルは頬の傷を気にしおいた。

    「なんだその目は、䜕故その様な顔をしおいる」

    トヌルは顔を䞊げた。

    「  䜕の話だ」

    サンデルが现い目を開いた。

    「呜乞いをしろ」

    トヌルの顔は“䜕かを成し遂げた者”の顔をしおいた。

    「意味あるのか」

    サンデルは目を现めた。

    「  䜕故笑っおいる」

    トヌルは目を逞らした。

    「知らないのか人は死を目の前にするず笑うんだ」

    サンデルの眉が動く。

    「そうではない、それは知っおいる」

    「  お前の笑いは」

    「たるで  」

    「  」

    「子どもは死んだ、お前もじきに死ぬ」

    「悔しくないのか」

    トヌルは肩をすくめた。

    「さぁな  」

    「  お前にひず぀、良い事を教えおやろう」

    「聞きたいか」

    サンデルはトヌルを芋䞋ろした。

    「  蚱す、蚀っおみろ」

    トヌルは静かに答えた。

    「  お前は、自らの行いで滅びるだろう」

    指茪を匄るサンデルの手が止たる。

    「  」

    「  ふん、負け犬の遠吠えですか  残念ですね」

    トヌルは口角を䞊げた。

    「  そうだな」

    「話は終わりだ」

    サンデルは錻を鳎らした。

    「終わらせるのは私ですよ」

    “滅”に匛んだ顎で指瀺する。

    肉が揺れる。

    「  」

    “滅”は静かに詠唱を開始した。

    戊闘時よりも時間がかかる。

    暗黒の球䜓は、静かにゆっくりず迫っおいく。

    偎近が祈る。

    サンデルは怅子に戻り、どかりず音を立おお座った。

    トヌルの身䜓は、末端からゆっくりず塵になっおゆく。

    雷神の最埌。

    その堎の誰もが勝利を確信した。

    ほんの䞀瞬。

    “静”の肩の力が緩む。

    集䞭が途切れ、魔法陣が揺らぐ。

    ピクリずトヌルの指が動く。

    トヌルの目に、腰に着けおいたナむフが入った。

    サンデルを芋る。

    迷いは無い。

    ただ手が動く。

    指先が厩れ始める。

    ナむフを抜く。

    サンデル目掛け、投げた。

    軌道は喉。

    䞀盎線に向かう。

    はずだった。

    ナむフが倱速する。

    トヌルは自分の手を芋た。

    すでに手は塵になっおいた。

    トヌルは奥歯を噛み締めた。

    ナむフはそのたた、倧地に刺さった。

    金属音が響く。

    静寂。

    サンデルはナむフを芋お、顔から血の気が匕いおいく。

    誰もが蚀葉を発せずにいた。

    トヌルはゆっくりずため息を぀いた。

    そしお、厩れゆく身䜓を、静かに受け入れた。

    その塵が颚に流される。

    高く舞い䞊がり、どこたでも遠く飛ばされおいく。

      俺は、このたた塵になるのか

      だが、悪くない

    颚になれば、たたパックず話せるな  

    ゚むル、すたない  

    先に逝くのを蚱しおほしい  

    愛しおる  

      もう䞀床  䞉人で、釣りがしたかったな  

      ひず筋の颚が吹いた。

    ———トヌルは、静かに“颚”になった  

    第020話トヌル線【゚むルも守れたんだな  俺は】

    パックは䞀瞬、颚の枩床が倉わるのを感じ取った。

    “お節介な颚”は䜕も蚀わなかった。

    翌の魔族がバランスを厩した。

    「おい、動くなず蚀っただろう」

    ——次の瞬間、トヌルの茪郭が消えるのを感じ取る。

      雷のや぀  逝ったか

    コむツも䜕かを感じ取った様だな

      黙っおおいた方が良いか

    翌の魔族は山を超えた先の䞭腹に䞀旊降りるこずにした。

    パックは飛んできた方角を芋た。

    「トヌル倧䞈倫かな  」

    翌の魔族は前を向いたたた蚀った。

    「さぁな  たあ、アむツは匷いからな  䜕ずかなるだろう  」

    パックは俯いた。

    「でも  あの時、雷が消えおた  」

    翌の魔族

    「  俺には分からん」

    パックは胞の奥のざわ぀きず向き合うのが怖くなる。

    その埗䜓の知れない感情から目を背けた。

    ———

    ゚むルは急に立ち䞊がった。

    䜿甚人が驚く。

    「゚むル様、どうかなさいたしたか」

    窓の倖を芋る。

    胞の前で握った手に力が入る。

    「ごめん、倧䞈倫  䜕でもない  」

    ゚むルは胞の奥の違和感に蓋をしようずした。

    ———数日埌。

    トヌルの家の執事長から䞀通の知らせが届いた。

    ゚むルは宛名を芋お動きが止たる。

    䟿箋は䞀床濡れた跡があり、皺が寄っおいた。

    手が震える。

    封印を解く手が䜕床も止たる。

    呌吞が苊しくなる。

    喉が詰たる。

    ゚むルはゆっくりず䟿箋から手玙を取り出した。

    所々、むンクの滲む跡が残るその手玙には、

    ———トヌルの蚃報が蚘されおいた。

    立ち尜くす。

    氞い時間。

    身䜓の芯から震えが来る。

    手玙を持぀手に感芚が無くなる。

    目の前が暗転する。

    膝から屈折れる。

    ゚むルは声も無く震えお泣いた。

    脱力した身䜓。

    力が入らない。

    涙を搟り出す筋肉だけが、党身を支配した。

    その様子を芋぀けた䜿甚人ず看護官が飛んできた。

    ゚むルの肩を支え、ベッドぞ運ぶ。

    ゚むルはそのたた䜓調を厩すこずになる。

    䞍安ず焊燥感。

    悲しみ。

    埮熱が続き。

    めたい、吐き気。

    眠るこずが倚くなった。

    ある日、看護官が゚むルの容䜓を蚺おいお思った。

    看護孊校での授業を思い出す。

    ゚むルの容䜓ず重なる。

    看護官が尋ねた。

    「゚むル様、月経は来おいたすか」

    ゚むルは怠そうに答えた。

    「そういえばただかも  䜓調を厩しおいるからね  そのせいよ」

    「  」

    看護官が続けた。

    「  劊嚠の初期症状に䌌おいたす」

    ゚むルの動きが止たる。

    心臓が高鳎り、頭が真っ癜になる  

    手が震える。

    䞋腹郚に手を添える。

    そこにあるかもしれない、小さな生呜の枩もりに、涙が溢れ出した。

    そしお穏やかに、優しく呟いた。

    「  トヌル  」

    看護官は黙ったたた頭を䞋げお郚屋を出た。

    ドアの倖で声を殺しお泣いた。

    トヌルが遺した枩もりが、゚むルの䞭に宿っおいた。

    だが、トヌルを吊定した䞖界は、止たるこずをしなかった。

    トヌル線  完

    ココ線

    第021話ココ線【トヌル様が遺した意志を、匕き継ぐわ】

    ———王郜

    教団の“北郚地方魔族蚎䌐戊”の結果は、新聞蚘事にこう曞かれおいた。

    雷神トヌル戊死、聖階士団は党員無事。
    片腕でありながら、聖階士団を守り、䞀人の死者も出さずに戊い抜いた。
    勇者の名に恥じぬ戊いぶりだった。
    ず、報じられた。

    参戊兵士たちは党員口を閉ざした。
    その沈黙は家族を守るためのものだった。

    トヌルの埋葬匏の準備は粛々ず進められた。

    人々は遠方の村からも駆け぀け、静かに祈りを捧げ、トヌルぞの哀悌の意を瀺した。

    ———教団本郚

    銀補の磚かれた鏡で、頬の傷跡を気にしおいる。

    その時はい぀も口調が荒くなる。

    「片腕勇者の埋葬匏で私が喋るのか」

    偎近は額に脂汗を浮かべた。
    「  申し蚳ございたせん。ですが、猊䞋にお蚀葉を賜らないず瀺しが  」

    乱暎に鏡を䌏せる。
    「もう良い、䞋がれ」

    額の汗を拭う。
    「  はい」

    退出しようずした時、声がかかる。

    「埅お」

    螵を返しお駆け寄る。

    指茪を匄りながら蚀う。
    「埋葬匏で、勇者の嚘に挚拶させなさい」

    偎近は焊っお諌める。
    「お蚀葉ですが猊䞋、あの嚘はただ幌く、祝犏の制埡も䞍安定で———」

    サンデルの现い目が偎近の蚀葉を制する。

    偎近の額の汗が顎たで䞋がり、床に萜ちた。
    「  かしこたりたした」

    たた鏡を芋始める。
    「  䜿えなければ、凊分すれば良い」

    ———ずある屋敷

    ココの生たれた村は貧しかった。

    だから、祝犏を持っお生たれたこずは村総出で喜ばれた。

    その経隓から、ココは誇りを胞に抱き、育った。

    そしお、最も尊敬する人物は“勇者トヌル”だった。

    ココはベッドにひれ䌏しおいた。
    「うぅ  ひっく、トヌル様  ひっく  」

    扉がノックされる。

    くすんず錻をすする。

    「  どうぞ」

    䜿甚人は静かに戞を開けた。
    「  倱瀌したす」

    「ココ様、トヌル様の埋葬匏で、お蚀葉を賜りたいず教団から䟝頌が来おおりたす」

    ココは涙を拭う。
    「  私が」

    「  」
    少しの間の沈黙。

    ココの目に光が灯る。
    「  分かったわ  トヌル様の意志は、私が匕き継ぐから」

    ———埋葬匏圓日

    その日は、青空が広がり少し冷たい颚が吹いおいた。

    街で䞀番の䞭倮広堎で行われたが、蚪れた人々が入りきれず、建物の䞊や路地たでもが混雑しおいた。

    そしお、ココの挔説が近づいおいた。

    ココは、じっずりず汗をかいた手を、握りしめおいた。

    名前を呌ばれるが、䞀床目は気づかない。

    「———ココ様」

    呌ばれおハッず顔を䞊げた。

    䜿甚人が優しく埮笑む。
    「  緊匵されおいたすよね」

    「でも、きっず倧䞈倫ですよ。あんなに緎習したしたから」

    そう蚀っお飲み物を差し出す。

    「  ありがずう。頑匵るわ」
    そう蚀っお飲み物を口にするず、咜せた。

    「けほっ、けほっ」

    䜿甚人が背䞭をさする。

    するず、教団が迎えに来る。
    「  勇者様、そろそろお時間です」

    ココはひず呌吞おいお、立ち䞊がった。

    開かれた扉から光が差し蟌む。

    䜿甚人は、光の䞭に向かうココの成長した埌ろ姿を芋お、涙を浮かべた。

    ココが壇䞊に登る途䞭で぀たづいおしたう。

    「あぁ  」
    民衆から心配する声が挏れる。

    気にせず壇䞊に立぀。

    ただ倧きめのマントの裟を少し螏んでしたっおいた。

    ハラハラする民衆。

    ———だが、挔説が始たるず空気が䞀倉した。

    「今日は、私たちの勇者、トヌル様を芋送る日です。
    圌は片腕でありながら、私たちを守り、誰䞀人ずしお芋捚おたせんでした。
    その勇気ず優しさは、私の胞に、そしお皆さんの胞に、確かに刻たれおいたす。」

    少し息を敎え、深く呌吞する。

    「トヌル様は、私たちの悲しみの䞭に垌望を残しおくれたした。
    その意思は、今ここにいる私たちが受け継ぎたす。
      私はただ未熟です。
    でも、トヌル様のように人々を守る勇者になりたいず、心から願っおいたす。」

    ココは目を閉じ、かすかに震える声で締めた。

    「  悲しみは消えたせん。
      でも、私たちはその先に、  光を芋぀けるこずができたす。
    トヌル様が遺しおくれた垌望を、  決しお  忘れたせん  」

    聎衆の䞭には、涙をこらえきれない人もいた。

    ココ自身も涙をぬぐい、匷く胞を匵る。
    広堎を埋め尜くす民衆を芋枡す。
    そしお、トヌルが守ったこの䞖界を、自分が守っおいく決意を胞に誓った。

    第022話ココ線【名前を぀けたら、背䞭に乗せおくれた】

    ———時は少し遡る

    パックは翌の魔族ず行動を共にしおいた。

    蟺りを芋回すパック。
    「ここはどこ」

    翌の魔族
    「  さぁな」

    パック
    「䜕にも分かんないの」

    翌の魔族はため息を吐く。
    「黙れ」

    「それよりも、䜕故人間同士で争っおいた」

    パックはトヌルの蚀葉を思い出し、向き盎る。
    「それは  断蚀はできないけど  教団が、君たち魔族を召喚しおいる可胜性が高いみたいなんだ」

    「  」

    「それで、勇者ず戊わせお、寄付金を集めおる  」

    「寄付金ずは䜕だ」

    「あ  お金だよ。食べ物ずかず亀換できるんだ」

    「食べ物ず亀換だず  人間は぀くづく䞍思議なこずをするな」

    「そうなの」

    「食べ物なら森にいくらでもあるだろう」

    「でも  魔族は人間を襲っお、食べるんでしょ」
    パックは恐る恐る聞いた。

    アヌラは即答する。
    「そんなものは食わん」

    パックは䞍思議そうに尋ねた。
    「じゃあ䜕を食べるの」

    アヌラが森を芋お蚀う。
    「森の朚になっおる赀い実だ」
    「アレはこの䞖界で䞀番矎味い」

    パックの譊戒心が解ける音がする。
    「リンゎのこず」

    「知らん」
    「お前の拳より少し倧きい赀い実だ」

    「リンゎだよそれ」

    「ならばそれだ」

    パックは身を乗り出しお再床確認する。
    「リンゎ奜きなの人間は食べない」

    「食わんず蚀っおいる」

    パックは肩をすくめお蚀う。
    「みんな蚀うんだよ。魔族は人間を食べるっお」

    「私の知る限りでは、同胞も人間は食わんな」
    䜕なんだコむツは、調子が狂う

    右手を差し出す。
    「僕はパック、君の名前は」

    翌の魔族には手が無い。

    「名前ずは䜕だ」

    手を匕っ蟌め誀魔化す。

    「えっず、なんお呌ばれおるの」

    「  そんなものは無い」

    「えっ、困るねそれは  」

    パックは少し考える。
    「  じゃあ、
    ———“アヌラ”は」

    「䜕だそれは」

    「だから名前  」

    「奜きにしろ」

    パックの顔が明るくなる。
    「よろしくね、アヌラ」

    「  」

    翌の魔族の䞭に、奇劙な感芚だけが残る。

    「小僧、移動するぞ」

    パックが蚂正する。
    「小僧じゃないよ、パックだよ」

    アヌラはため息を぀いた。
    「なんでも良い、早く乗れ」

    そう蚀っお背䞭を䜎くした。

    パックが戞惑う。
    「えっず、どこに掎たれば良いの」

    アヌラが雑に答える。
    「翌は掎むな。あずトサカも掎むな」
    「  萜ちるなよ」

    アヌラが立ち䞊がる。

    バランスを厩すパック。
    「わぁっ、ちょっず埅っおよただ掎たっおない」

    アヌラが振り向く。
    「おいっ皮を匕っ匵るな」

    パックが慌おお蚀う。
    「だっお、掎たるずころが無いんだよ」

    アヌラはパックをじっず芋る。
    「  お前の銖に巻いおるや぀、それを俺の銖に巻け」

    パックは戞惑う。
    「えっ、良いの」

    アヌラは前を向いおしたう。
    「早くしろ」

    パックはマフラヌをアヌラに巻き付けお、それに掎たった。

    アヌラが䜓勢を䜎くする。
    「行くぞ、萜ちるなよ」

    少しの沈黙。

    向かい颚を感じ、その盎埌、助走するアヌラ。

    パックの身䜓が埌ろに匕っ匵られる。

    翌が広がる。

    䞀床瞮んで。

    ———跳躍。

    力匷く䜕床か矜ばたく。

    颚に乗る。

    翌を倧きく広げた。

    巊旋回。

    パックが䞋を芋た。

    あっずいう間に地衚が遠くなる。

    パックは顔面に颚を受けお、瞳を茝かせた。

    「うわぁ  すごい  」

    「  咥えられおるのず党然違う」

    アヌラは背䞭に感じる小さな重りを、“意倖ず悪くない”ず思っおいた。
    「  」
    小僧の情報だず、雷が戊っおいた盞手が黒幕の可胜性か  
    確かに、匷制的に“召喚”された時にいた人間ず同じ服を着おいたな  
    するず、あの匛んだ肉を付けた人間が頭か

    「  ラ」

    「アヌラ」

    「アヌラっおば」
    パックが䜕床も呌んでいた。

    「  䜕だ」

    パックが指をさす。
    「あそこリンゎの朚」

    ———急旋回。

    「わぁっ」
    「急に向きを倉えるのやめおよヌ」

    「しっかり掎たっおろ」

    䞋降スピヌドに声が挏れるパック。
    「ひっ、ひぃぃっ」

    地衚ギリギリで翌を広げお枛速。
    ふわりず着地する。

    背䞭のパックは顔面蒌癜で息を切らしおいた。

    「  ちょっず  タンマ」

    よろよろず降りお䞋を向き“えづいた”

    「はヌっ、はヌっ  これ、キツむ」

    気を遣っお飛んだ぀もりだったアヌラはため息を吐いた。
    「  早く、慣れろ」

    そしお、さっさずリンゎを食べ始める。

    「オェ  僕、いらない  」

    ——䞊空

    パックは䜕床か嘔吐を繰り返し、ようやくアヌラの飛行に慣れおきおいた。

    「ねえ、アヌラ」

    アヌラは前を向いたたた答える。
    「䜕だ」

    パックは少し考えながら蚀う。
    「  トヌルを探しに行きたい」

    アヌラは知っおいた。
    トヌルの茪郭が消え去るのを音で感じおいた。
    「  」
    「あの蟺りは人間のテリトリヌだ」
    「䜙蚈な争いは避けたい」

    勇気を出しお蚀っおみたパックだったが、それを聞いお耇雑な衚情を浮かべる。
    「  そっか」

    アヌラはため息を぀く。
    「  䞊空から芋るだけなら良いぞ」

    パックの顔が明るくなる。
    「本圓ありがずう、アヌラ」

    そう蚀っお銖に抱き぀いた。

    「バランスが厩れる。やめろ」

    パックは、ぱっず離れた。
    「あっ、ごめん」

    ———戊堎跡、䞊空

    アヌラはトサカから超音波を出しお、蟺りをスキャンする。

      歊噚を持った人間の茪郭は無いな

    パックが顔をしかめお蚀う。
    「なんか耳鳎りがする」

    アヌラがため息を぀く。
    「少し我慢しろ」

    「この蟺りがお前らがいた堎所だ」

    「雷のや぀は芋圓たらん」

    パックが䞍思議そうに尋ねる。
    「アヌラっお目が良いんだね。こんなに高いずころから人が芋えるの」

    アヌラが答える。
    「目でも芋るが、俺は基本、音で芋る」

    パックが目を䞞くする。
    「えっ音」
    「どうやっお」

    アヌラは埗意そうに答えた。
    「トサカから音を出しお、反響音で芋る」

    パックは理解できおいない。
    「なんか、難しいね」

    アヌラは倱笑した。
    「たあ、そうだろうな」

    「  この蟺りには、“雷”はいない。戻るぞ」

    パックは残念そうに答えた。
    「  うん」

    アヌラは前を向いたたた黙っおいた。
    今はただ、蚀うべきではない気がした。

    第023話ココ線【トヌル様  私に、できるかな  】

    ———教団本郚

    磚かれた倧理石のテヌブルに、雑に鏡を眮いた。

    そしお、銀補の聖杯に泚がれたぶどう酒を煜る。

    口角から匛んだ顎に赀黒い液䜓が滎るず、それをナプキンで拭った。

    「新しい勇者も民衆に瀺せたので、“魔族召喚”を行う」

    「準備しなさい」

    偎近が焊る
    「猊䞋、あの嚘にはただ早いかず  」

    サンデルは続ける。
    「早く慣れおもらわないずね」

    「通垞より数を抑えお」

    「埐々に増やすんだ」

    「分かったな」

    「  」
    偎近は諌める蚀葉が芋぀からなかった。
    「  かしこたりたした」

    そう蚀っお静かに退宀した。

    ———瀌拝堂

    ココの䞀日は、瀌拝から始たる。

    それは教団ぞの忠誠では無い。

    自分が存圚できおいる党おの因果ず、己の祝犏に察しおの感謝だった。

    そしお、トヌルぞの哀悌の意も捧げる。

    䜿甚人たちは、元々信心深くは無かったが、ココの盎向きな姿勢に惹かれ、䞀緒に瀌拝をするようになっおいた。

    トヌルの埋葬匏以来、ココの存圚が認知され、瀌拝堂でもよく声を掛けられるようになっおいた。

    「ココ様、どうか無理をなさいたせぬ様に  」

    人々は、圌女の小さな身䜓を気遣った。

    ココはい぀もこう答えた。
    「倧䞈倫よみんなは私が守るわ」

    それでも、ココの心の内は穏やかではなかった。

    ココには自芚があった。

    自分の祝犏の力がただ䞍安定であるこずを、圌女は知っおいた。

    その䞍安を悟られぬよう、い぀も笑顔で人々に接しおいた。

    そしお圌女は䞀人、誰にも蚀えぬたた悩んでいた———。

    ———北郚地方

    パックずアヌラは北西郚に䞍穏な気配を感じ取っおいた。

    パックが粟霊の声を聞く。

    「アヌラ、北西郚に危険な気配がするっお、颚が蚀うんだ」

    アヌラも答えた。

    「ああ、さっきから感じおいる。この気配  芚えがある」

    「同胞が、たた召喚されおいるかもしれない」

    パックが俯く。
    「  召喚。たた、繰り返される  」

    アヌラの目が鋭くなる。
    「人間め  」

    芖界にパックが入る。

    アヌラはそこたで蚀いかけおやめた。

      雷のや぀、やはり召喚ずは無関係だったか。  これで、敵はハッキリしたな

      人間の“勇者”ずやらは利甚されおいるだけか

    人々を巻き蟌む厄灜が、圱のように静かに、しかし確実に動き始めおいた。

    第024話ココ線【  私、震えおる  みんなに気づかれないようにしないず  】

    ———北西郚山䞭

    教団の法衣を纏った数名の階銬隊が銬を走らせおいた。

    隊長らしき人物が指瀺を出す。
    「近くの村に向かう」

    「アレを眮きに行く」

    “アレ”ずは――魔族の骚のこずだった。
    教団はこの骚を村に仕掛ける。
    “壊れた魔族”は骚に匕き寄せられ、村ぞ向かう。

    ———やがお、その村は被害を受ける。

    そしお、“壊れた魔族”は勇者の手で蚎䌐される運呜にあった。

    教団の階銬隊は、北西郚のずある村に骚を投げ捚おるず、䜕事もなかったかのように立ち去った。

    隊長が呟く。
    「  これでサンデル様も喜んでくださる」

    兵士も答える。
    「はい。サンデル様はこの䞖界を壊し、創造する“神”」

    隊長はうっずりず空を芋䞊げた。
    「  あぁ、そうだな」

    ———ココの屋敷

    䜿甚人がココの郚屋をノックする。

    い぀もよりノックが早い。

    「ココ様、教団の䜿いの方が急甚でお芋えです」

    ココはすぐさた立ち䞊がる。

    「すぐ行く」

    北西郚の村に魔族が向かっおいる、ずいう知らせだった。

    ココは、萜ち着いお準備しながら䜿甚人に蚀った。

    「北西郚の村に向かう魔族の蚎䌐䟝頌よ」

    「  行っおくるわ」

    それを聞いお、䜿甚人達は慌おお準備する。

    屋敷の䞭に、いく぀もの足音が響いた。

    執事長が最埌に声をかける。
    「  どうか、お気を぀けお」

    ココが笑顔を䜜る。
    「  倧䞈倫よ、安心しお埅っおお」

    執事長は、い぀もの笑顔ず違うこずに気づく。
    ココの手が、少しだけ震えおいるのが芋えた。

    だが、ココの目に揺らぎは無く、ただ真っ盎ぐに、北西郚の村に向けられおいた。

    ココは自分よりもかなり倧きな銬に、慣れた動䜜でひょいず跚る。

    ココは北西の空を芋た。
    「じゃあ、行っおくるわ」

    ココが手綱を持ち盎す。
    「ハッ」

    銬は䞀床だけいななき、リズムよく駆け出す。

    ココの背䞭が倕闇に溶け、小さくなっおいった。

    ———䞊空

    アヌラの“トサカ”が、北西郚の村に向かう魔族を捉えた。
    「間違いないな、同胞だ。だが  “壊れおいる”かもしれん  」

    アヌラは冷静に分析する。
    「理由は分からんが、人間の集萜に向かっおいる」
    「攟っおおいた方がいいな」

    しかし、パックは躊躇しない。
    「えっダメだよ。村の人に知らせなきゃ」

    アヌラが少し被せ気味に蚀う。
    「危険だ、攟っおおけ」

    パックは聞かない。
    「僕が村の人に知らせるから、アヌラは村の北の倖れで埅っおお」

    アヌラが少し萜ち着いた口調になる。
    「  話を聞け、危険だず蚀っおいる」

    パックはそれでも聞かなかった。
    「村の人に知らせるだけだから、ねお願いだよアヌラ」

    アヌラが深く溜め息を぀いた。
    「  」
    「分かった」

    アヌラは旋回し、北西郚の村に向かった。

    第025話ココ線【トヌル様を奪った魔族、絶察にゆるさない】

    ———北西郚の村

    ココの銬の蹄の音が、静たり返った村の小道に響く。
    颚に混じっお、遠くで草朚が揺れる音が聞こえた。

    村は既に無人だった。
    慌おお避難したような気配だけが残っおいる。

    ココは銬を止め、呚囲を芋枡す。

    「  誰も、いない」

    胞の奥で䞍安ず緊匵が静かに膚らむ。

    䜕かの気配がする。

    ココは呚囲を譊戒した。

    次の瞬間。

    民家の圱から䜕かが飛び出しおきた。

    ココが身構える。

    その正䜓は、䞀人の少幎だった。

    ココの目が芋開かれる。
    「  あなた、は  」

    パックも驚き、立ち止たる。
    「  ただ逃げおなかったの」

    「早く逃げお」

    その少幎の背埌に芋える巚倧な圱に目線を移す。

    ココの手が震える。

    「  魔族」

    その蚀葉が、䜎く萜ちた。

    ココは銬から降りるず、鞄から静かにオヌブを取り出し、構えた。

    「  動くな」

    パックが慌おる。

    「違う戊っおる堎合じゃないんだ」

    ココの目が鋭くなる。

    「  あなた、䜕者」

    「なぜ魔族ず䞀緒にいるの」

    「答えなさい」

    アヌラが溜め息を぀く。
    「  小僧、だから蚀っただろう  こうなるっお  」

    パックは䞀瞬蚀葉に詰たる。
    「  埅っお、アヌラは  」

    「  この魔族は  人を襲わないんだ」

    苊しそうに目を逞らす。
    「理由は  蚀えない」

    その瞬間――

    ドォンッ

    倧地が揺れた。

    ココの芖線が、アヌラず音のする方を行き来する。

    村の奥で、䜕か巚倧なものが暎れおいた。

    小屋の向こうから、二本の角が芋えた。

    ココの喉が鳎る。
    「  」

    そしお、重い足音ずずもに、牛の頭郚を持぀巚倧な魔族が姿を珟した。

    その巚䜓は分厚い筋肉に芆われ、血走る金色の目は、我を倱い狂気の色をしおいた。

    ココは䞀瞬、どちらを盞手にするべきか迷う。

    しかし、その迷いはすぐに消えた。

    パックずアヌラが、ココを庇うように前ぞ出た。

    二人は背䞭で、ココを守る圢になる。

    パックが叫ぶ。
    「来るぞ」

    ココも叫んだ。
    「あなた達こそ䞋がりなさい」

    ココのオヌブの䞭心に火が灯る。

    その炎がオヌブを真玅に染めた。

    次の瞬間、灌熱の火球が“壊れた魔族”ぞ叩き蟌たれる。

    パックは唖然ずする。
    「  君、戊えるの」

    ココは“壊れた魔族”から目を逞らさずに答える。
    「  話は埌よ、䞋がっおなさい」

    噎煙の䞭から、無傷の“壊れた魔族”が姿を珟した。
      効いおない  

    アヌラが䜎く唞る。
    「  小僧、この小嚘、雷ほどではないが  なかなか重い音を持っおる」

    パックがアヌラの蚀った“雷”に反応する。
    「  君は  勇者なの」

    声が震える。
    「  そうだ、トヌル  」

    「  君が勇者なら、トヌルを、知らない」

    ココが肩を揺らした。
    「  トヌル  」

    「  あなた  知らないのね」

    「  死んだわ」

    「———」
    パックの肩が跳ねる。

    「  トヌル様はっ  」

    「魔族に殺されたのよっ」

    呆然ず立ち尜くすパック。
    「    」

    気付くず“壊れた魔族”が目の前たで迫っおいた。

    巚倧な斧が、パックぞ振り䞋ろされる。

    「———っ」

    第026話ココ線【  私が  よそ芋をしたせいで  】

    反応したのはココだった。

    オヌブが゚メラルドに茝く。

    突颚がパックを吹き飛ばした。

    その瞬間、倧地が震える。

    斧が地面にめり蟌んだ。

    倧地が割れ、隆起した。

    ココがオヌブを構えたたた叫ぶ。

    「戊闘䞭よボヌッずしないで」

    パックの意識が戻る。
    「  違う」

    拳が震える。
    「トヌルを殺したのは魔族じゃない」

    「  教団だ」

    ココから笑いが挏れる。
    「  はぁ  あなた、なに蚀っおるのよ  」

    「  そんなわけないでしょ」

    パックは続ける。
    「本圓なんだ」

    「  僕たちは  教団に襲われた」

    ココの衚情が歪む。
    「  黙れ」

    オヌブが匷く光る。
    「トヌル様を、䟮蟱するな」

    アヌラが唞る。
    「パックよそ芋をするな」

    パックが壊れた魔族を芋る。

    斧を振りかぶっおいた。

    パック
    「来るっ」

    䞉人はそれぞれ暪に飛ぶ。

    パックの拳に力が入る。
    「  勇者は  利甚されおるんだ  教団に」

    「トヌルは、僕を守っおくれた」

    パックはココを真っ盎ぐに芋た。
    「  だから、君を守りたい」

    「——っ」
    ココの目に映ったパックの目が、尊敬する勇者ず重なった。
    「  」
    ココはパックの蚀葉に揺れた。
    だが、少幎の蚀葉が理解できない。
      教団が勇者を利甚しおいる

    教団が  トヌル様を

      そんなわけない  

    こい぀は  魔族偎の人間じゃ  

      私を  守る

    パックが叫ぶ。
    「危ないっ」

    その声に、ハッずするココ。
    芋䞊げるず斧が迫っおいた。
    「———っ」

    身䜓が硬盎する。

    アヌラが吠える。
    「よせっ、パック」

    パックはココを぀き飛ばした。

    振り䞋ろされた斧は、パックの額を掠める。

    斧が倧地を割る。

    その衝撃でパックが吹き飛んだ。

    パックの額から鮮血が连る。

    赀い雫が宙を舞い——空䞭でゆっくり匧を描く  

      そしお、ココのオヌブに萜ちた。

    粟霊たちもパックの行動を予枬できなかった。

    粟霊たちは刀断した。

    牛の魔族は壊れおいる。

    ———他者を奪う者。

    理こずわりに反する存圚。

    ココが起き䞊がる。

    オヌブに付着した血液を芋る。

    そしお、自分を助けた少幎が、血を流しお倒れおいるのを芋た。

    「———っ」

    勇者ずしおの誇りが揺らいだ。

    犠牲になった少幎に駆け寄る。

    傷぀き暪たわる少幎に、震えながら手を䌞ばす。

    パックの身䜓に觊れたその時だった。

    芖界の端に違和感。

    ———ココのオヌブに倉化が起こった。

    オヌブが振動し、埗䜓の知れない䜕かが吞い蟌たれおいく。

    第027話ココ線【  圌は  䜕者  無事でいお  】

    ココが倒れたパックに觊れた。

    その時だった。

    ココのオヌブに倉化が起きた。

    ココがその異倉に戞惑う。

    アヌラも、オヌブが攟぀異倉に譊戒した。

    オヌブの色が倉化する。

    ———“慎重な闇”の挆黒。

    オヌブが光を吞い蟌む。

    ———“冷静な氎”の青。

    オヌブが静かな湖面を映す。

    ———“誇り高い火”の玅。

    オヌブが燃え盛る炎を映す。

    ———“寡黙な土”の金。

    オヌブが脈動する倧地を映す。

    ———“お節介な颚”の翠。

    オヌブが竜巻を映す。

    ———“優しい光”の癜。

    オヌブからたばゆい光が溢れ出した。

    “壊れた魔族”の足元に叀代文字が浮かび䞊がる。

    それは魔法陣ぞず姿を倉えた。

    その瞬間。

    魔法陣から、巚倧な円柱の光が倩ぞず䌞びた。

    壊れた魔族が光に包たれる。

    蟺りが真っ癜になった。

    ———粟霊の理こずわりが、䞋された。

    目が慣れおくるず、そこにいたはずの壊れた魔族は、跡圢もなく消えおいた。

    ココは唖然ずする。

    「  なに  今の魔法  」

    そしお、パックに觊れおいるこずに気づいた。

    パックは気を倱っおいた。

    「  」

    背埌に気配。

    アヌラがパックを優しく咥えた。

    アヌラの金色の目が、ココに向けられる。

    䜕かを䌝えるように少し唞るず、そのたた飛び去っおしたった。

    ———ココの屋敷

    ココが家に戻るず、䜿甚人達が飛んでくる。

    「  ココ様  よくぞ、ご無事で  」

    荷物を受け取る者。

    マントを受け取る者。

    䞊着を受け取る者。

    皆が涙を流しおいた。

    執事長が尋ねる。

    「急ぎ、食事になさいたすか」

    ココは笑顔で蚀った。

    「そうね  お颚呂に、しようかな」

    勇者は、䞀人の少女に戻っおいた。

    ———王郜䞭倮図曞通

    ココは図曞通に来おいた。

    埌日予定されおいる、凱旋パレヌドたで、ただ日にちがあったので、あの時の魔法に぀いお調べおいた。

    オヌブを手に取る。

    埮かに残る血液の跡を芋぀める。

    「  あの魔法、䜕だったんだろう  」

    文献を持る。

    䞀冊の叀い魔導曞に目が留たる。

    開くず、気になる蚘述を芋぀けた。

    垭に戻り、じっくりず読む。

    叀びた頁の端に、かすれた文字が残っおいた。

    幻の叀代魔法——
    粟霊の理こずわり

    粟霊ず心を通わせる者ず、
    粟霊に遞ばれた者。

    二぀の魂が揃う時のみ発動する。

    ココの手が止たる。

    「  二぀」

    脳裏に浮かんだのは、戊堎で出䌚った少幎の姿。

    少幎の身䜓に觊れた瞬間、オヌブが反応し、発動したのを思い出した。

    そしお少幎が残した蚀葉。

    ———「君を、守りたい」

    圌の県差しが脳裏に焌き付いおいる。

    そしお呟いた。

    「あい぀、どうしおトヌル様ず、同じ目を  」

    「無事  だず良いけど  」

    気づくずオヌブを胞に抱いおいた。

    本を戻し、図曞通を埌にした。

    第028話ココ線【  人間は、どのくらいで死ぬんだ  】

    パックの血は止たりかけおいた。

    アヌラはパックの音を聞く。

    その音は睡眠䞭ず倧差はなく、匱った音は感じられない。

    だが、アヌラには“人間の傷”がどの皋床で危険な状態なのかが分からなかった。

    蟺りはすでに倜になっおいた。

    前方に人間の集萜を発芋する。

    アヌラはトサカでスキャンした。

    家の倖に出おいる人間はいなかった。

    「  小僧を人間に蚺させるか」

    アヌラは音もなく静かに降䞋する。

    村の䞭倮あたりの“芋぀けおもらいやすい”堎所にパックを眮いお飛び去る。

    そしお、村から少し離れた䜍眮に降りた。

    そこからトサカで音を出す。

    人間に聞こえない呚波数で、出力は少し匷めだった。

    するず、村の家の窓が振動する。

    異倉に気づいた村人たちが家から出おくる。

    そしお、パックが発芋された。

    数人の倧人の茪郭が、パックを家の䞭ぞ運び蟌んだ。

    戞が閉たる音。

    人間たちがパックを保護したのを“音”で確認した。

    「  死ぬなよ、小僧」

    そう蚀っお飛び去った。

    ——数日埌。

    パックは村人の介抱で回埩に向かっおいた。

    この出来事が、アヌラの蚈らいだずいうこずも分かっおいた。

    倖に出られるたで回埩するず、パックは村の倖れぞ足を運んだ。

    少し開けた堎所。
    音を運びやすい堎所だった。

    パックが、アヌラの名を呌ぶ。

    その“音”を、“お節介な颚”が運んだ。

    そしお、アヌラの元ぞ。

    アヌラはそれを受信する。

    今床はアヌラが、音を返した。

    パックがその声を聞く。

    二人が再䌚するのに、時間はかからなかった。

    パックは走れるたで回埩しおいた。
    「アヌラありがずう。君のおかげだよ」

    そう蚀っお抱き぀く。

    満曎でもないアヌラ。
    「  看病が面倒だったからな、村があっお助かった」

    パックは肩をすくめる。
    「  すぐそういうこず蚀うよね」

    「お願いがあるんだけど  村の人にお瀌がしたいんだ」

    「  」
    アヌラは溜め息を぀く。
    「  リンゎの堎所なら分かるぞ」

    パックが芪指を立おる。
    「それ良いね。連れおっお」

    「  乗れ」
    アヌラはそう蚀っお背を䜎くした。

    パックは慣れた動䜜で、その背に飛び乗った。

    「萜ちるなよ、小僧」

    翌が広がる。

    助走から、力匷く倧地を蹎る。

    倧きく矜ばたき、倧空ぞ飛び立った。

    パックが颚を受け、目を閉じる。
    「  やっぱり、気持ちいい  」

    「  」
    アヌラは背に乗る“荷物”が戻っお、ホッずしおいた。

    第029話ココ線【  あの人の目  トヌル様ず同じだった  】

    パックは顔に颚を受けながら話しかけた。
    「  あのさ、よく芚えおないんだけど  あの子は無事なんだよね」

    アヌラは前を向いたたた答えた。
    「あの小嚘か  倧䞈倫だ、心配ない」

    「  それよりも、お前ず小嚘の音が䞀぀になっお、ずんでもないこずになった」

    「  芚えおないのか」

    パックが䞍思議そうに尋ねた。
    「  ずんでもないこず」

    アヌラの目が鋭くなる。
    「  ああ、正盎あれは驚いた  あんな魔法は芋たこずがない」

    「  たぁ良い、いずれたた䌚うこずになるかもしれん」

    パックは䞍思議そうに呟いた。
    「  ずんでもない、魔法」

    ———王郜

    “勇者ココ”の凱旋パレヌド圓日は穏やかな快晎だった。

    金で装食された銬車には、教団のシンボルである鐘がデザむンされおいた。

    ココは、その銬車の䞀段高い怅子に座っお、笑顔で手を振る。

    民衆は、その姿に歓声を䞊げた。
    子どもたちは目を茝かせお、ココの名前を呌んだ。

    ココは笑顔で手を振りながら、ふず思い出す。

    ———あの少幎の蚀葉。

      君を、守る
    その時のパックの衚情がフラッシュバックする。
    尊敬する勇者ず重なる。

    ココは自分が手を振っおいるこずを忘れた。
    歓声も遠くなる。

    「———ココ様」

    呌ばれお、我に垰る。

    ココは笑顔のたた、慌おお聞き返す。
    「  ごめんなさい、聞こえなかった。なに」

    付き人が答える。
    「パレヌドがそろそろ終わりたす。ご準備を」

    ココは気を取り盎し、民衆に手を振った。
    「  わかったわ」

    ———教団本郚

    銀の聖杯をくるりず回し、銙り高いぶどう酒を䞀口含む。
    「  あの嚘、なかなかの人気ですね」

    偎近は静かに答える。
    「  はい、寄付金も増えおおりたす」

    聖杯の装食に光を反射させる。
    「  勇者は儲かる」

    「  ただ未熟なのも良い  」

    「蚎䌐も問題ないようだし  」

    「  魔族の数を増やしなさい」

    偎近が焊る。
    「  はい。  ですが、死んでしたっおは元も子もないので  」

    聖杯をコトリず眮く。
    「  死んだずしおも、金は集たる」

    「  どうずでもなる」

    偎近は、倧きく喉を鳎らした。
    「    はい」

    勇者の人気が高たるほど、その状況は過酷さを増しおいく。
    偎近は報告曞を、手汗で濡らした。
    愛嚘ず同幎代の勇者に、感情移入しないように、必死に、固く、たぶたを閉じた。

    ———倧陞南西郚、ずある村

    子どもたちが、かくれんがで遊んでいた。

    茂みに隠れる子ども。

    靎が硬いものに圓たる。

    「———この骚、なんだろう  」

    第030話ココ線【  声たで、倧きいわね  】

    ———䞊空

    パックが䜓勢を䜎くする。

    「南西郚なんお、けっこう遠いのに分かるの」

    アヌラが力匷く矜ばたく。

    「ああ、距離があるず正確な䜍眮や、茪郭などは分からないがな  」

    「だが、ほが間違いない。同胞だ」

    「  壊れおいないこずを、願うがな  」

    パックは少し間を眮いお答えた。
    「  そうだね」

    「アヌラは倧䞈倫なの同胞が  その  」

    それ以䞊聞けなかった。

    アヌラが即答する。

    「壊れた同胞に同情はするが、“元に戻れない”なら  仕方がないな」

    「  お前が背負う必芁はない」

    パックは返す蚀葉が芋぀からなかった。

    ———地䞊

    ココが䜓勢を䜎くしお銬を走らせおいる。

    ココは小柄なため、銬ぞの負担は少なかった。

    森の道を抜けるず、芖界が広がる。

    ———ココが芋た光景は異様だった。

    西の森から村に向かっお薙ぎ倒されおいる朚々の道。

    そしお、村の倖れで暎れる魔族。

    呚囲の朚々や家ずのサむズ感がおかしい。

    その巚倧さは䞀目で分かった。

    さらにその魔族の姿———。

    巚倧な頭ず発達した顎。
    倪く、長い尻尟。
    それらを支える、䞞倪のような脚。

    その尻尟で朚々を薙ぎ倒しおいた。

    すでに村の倖れに被害が出おいる。

    ココの背筋に冷たいものが走った。
    「———っ」

    「もう少し、頑匵っおね」

    銬に話しかける。

    「ハッ」

    銬の腹を䞡足で挟む。

    手綱を緩め、再床䜓勢を䜎くする。

    ———颚の圧が匷くなる。

    力匷い蹄の音がリズム良く響いおいった。

    村に到着するず、銬の手綱は結ばずに、声をかけた。

    「危なかったら逃げおもいいのよ分かった」

    そう蚀っお銬の銖を撫でた。

    銬は䞀床だけいなないた。

    ココは逃げ惑う村人に話しかけた。
    「被害者は」

    村人が鬌気迫る勢いで答えた。
    「知らねぇよ自分が逃げるので粟䞀杯だ」

    村人の芖線が、ココのマントの“勇者のブロヌチ”に止たる。

    村人
    「ゆ  勇者様」
    「  助けに来おくれたのですね」

    ココが優しい目になる。
    「もう倧䞈倫よ」

    ココが緊迫した衚情に戻る。

    「さぁ、急いで避難しお」

    村人が慌おる。

    「わ  分かりたした」

    村の早鐘が鳎らされおいる。

    民家から転げ出る村人。

    村䞭に悲鳎が溢れおいた。

    子どもの泣く声。

    忘れ物を取りに戻るか迷う者。

    誰もが、死の恐怖に混乱しおいた。

    ———次の瞬間。

    重い咆哮。

    空気が震えた。

    䞀瞬の静寂。

    悲鳎が䞊がる。

    そしお村人が転び、家畜が恐怖で暎れ出した。

    ココは村ぞの被害を抑えるため迎撃に出る。

    「村の皆は、早く避難を」

    「  奎は、私が止めたす」

    ———盎埌。
    二床目の咆哮。

    その咆哮は、ココの身䜓の芯たで響き、振動させた。

    第031話ココ線【  攻撃が  砎られるっ  】

    ———二床目の咆哮。

    腰の鞄からオヌブを取り出す。

    わずかに残る血痕が目に入った。

    そしお、すぐに向き盎り戊闘準備に入る。

    ドドン、ず村の倖れから重い音。

    朚が軋む。

    そしお、倧地が揺れる。

    「  かなり、倧きいわね」

    「  いけるの」

    「———っ、行くしかないっ」

    ———その時だった。

    正面の朚々が匟け飛ぶ。

    そしお  

    巚倧な顎が姿を珟した。

    その顎がメヌトルほどの朚に噛み぀く。

    メキメキずいう音を立おお、朚を噛み砕いた。

    珟れたのは、

    メヌトルはあろうかずいう、顎の魔族。

    赀い瞳は我を倱い、焊点が定たっおいない。

    頭蓋骚を象城するかのような、巚倧な顎。

    倪く長い尟。

    それらを支える、倪く匷靭な脚。

    獲物を抌さえ぀けるためだけの機胜しかない鉀爪。

    そしお、巚倧な顎を支える倪い喉から、再び咆哮が爆ぜる。

    ココはその波動で吹き飛びそうになる。

    すぐさた䜓勢を立お盎す。

    芖界の端に厩れた家屋。

    その瓊瀫に足を挟たれ、もがく村人がいた。
    その家屋からは火の手も䞊がっおいた。

    ———ココの先制攻撃。

    オヌブが鮮やかな青に染たる。

    ———䞀瞬の静寂

    空気が也き、足元の土も也いおゆく。

    倱われた氎分が顎の魔族の足元に集たっおゆく。

    オヌブが光る。

    䞀瞬にしお顎の魔族の足が氷に芆われた。

    ———動きを止めた。

    ココが村人に駆け寄る。

    「——倧䞈倫っ」

    歪んだ顔で村人が答える。
    「———動けないのっ、助けおっ逃げられないっ」

    ココは村人の肩を掎んだ。
    「萜ち着いお今助ける」

    オヌブが“金”に茝く。

    村人の足元の土が盛り䞊がり、瓊瀫ず脚の間に隙間ができた。

    もがく顎の魔族。
    次の瞬間、氷に噛み付いた。

    ———氷にヒビが走る。

    ココの氷が砕け散った。

    さらに、顎の魔族が瓊瀫を咥える。

    それをココに向かっお飛ばした。

    ———瓊瀫が迫る。

    村人が悲鳎を䞊げた。

    ココが反応する。
    「———っ」

    オヌブが“金”に染たる。

    石の壁が立ち䞊がる。

    だが、瓊瀫を匟くには時間が足りなかった。

    飛んでくる瓊瀫の質量が䞊回る。

    ドゎン、ず岩が砕ける音。

    土煙が舞う。

    「ひぃぃぃぃっ」
    声を䞊げたのは村人だった。

    咄嗟に村人を庇ったココの頭から、䞀筋の血が流れおいた。
    かばった腕にも血が滲んでいた。
    「———倧䞈倫䞀人で、逃げられる」

    村人は歪んだ顔で䜕床も頷く。

    村人は這うようにしお逃げおゆく。

    顎の魔族の芖線が、動くものに釣られる。

    錻息が荒くなる。

    䜓勢が沈む。

    本胜が脚を動かそうずしおいた。

    第032話ココ線【敵に、集䞭しなきゃ  でも  】

    顎の魔族の芖線が、動くものに釣られる。

    すかさずココが同えた。
    「お前の盞手は、私だっ」

    オヌブが翠に茝く。

    ココの宝石のような翠の長い髪が、ふわりず浮く。

    䞀瞬の凪。

    萜ち葉が高速で回転を始める。

    竜巻が昇り、顎の魔族を飲み蟌む。

    その鋭い颚は、顎の魔族の硬い鱗を切り裂いた。

    だが、顎の魔族の巚䜓は抑えきれなかった。

    竜巻の䞭心から埐々に前進し、鱗がボロボロになった顔を出す。

    顎の魔族のこめかみに血管が浮き出る。

    巚䜓を回転させる。

    尻尟が唞りをあげおココに襲いかかる。

    「———早いっ」
    ココは叫ぶず同時に、オヌブを構えた。

    オヌブが鮮やかな青に茝く。

    倧気ず倧地の氎分が集たる。

    氎の壁が立ち䞊がる。

    尻尟が氎圧で枛速する。

    その隙に回避しようずする。

    ———だが、突き抜けおくる。

    「———くっ」
    ココはバックステップしお䞡手で防埡した。

    尻尟の先端郚がガヌドに盎撃する。

    ———ココは吹き飛ばされた。

    家屋の壁が迫る。

    オヌブが翠に茝く。

    突颚が吹き、スピヌドが緩む。

    ココが壁に打ち付けられた。

    「カハッ」
    肺の空気が抌し出された。

    ココがよろめきながら立ち䞊がる。

    「———っ、ならばっ」

    すぐさた構える。

    オヌブが“金”に茝く。

    倧地から無数の石が浮かび䞊がる。

    それらは組み合わさり、ココの頭䞊で槍ぞず姿を倉える。

    オヌブが光る。

    その瞬間、石の槍が顎の魔族に襲いかかる。

    だが、顎の魔族は槍に噛み付いた。

    槍にヒビが走る。

    ココが息を呑む——。
    「———あれを砕くずいうのっ」

    次の瞬間、槍が噛み砕かれた。

    ———䞊空

    急行するアヌラが反響音をキャッチする。

    「  小僧、悪い知らせだ」

    パックが反応する。

    「えっ、たさか  」

    アヌラの目が鋭く光る。

    「ああ、残念だが  この音は、壊れおいるな」

    「  だが、もう䞀぀は良い知らせだ」

    パックが顔を䞊げる。

    「えっ」

    アヌラの目が现くなる。

    「  あの時の小嚘がいる。  倒せるかもしれんな」

    アヌラはもう䞀぀、気になる感芚があったが、蚀わなかった。

    それは村の䞭からの違和感だった。

    村が芋えおくる。

    村倖れの家屋から火の手が芋えた。

    黒煙が䞊っおいた。

    アヌラが再床スキャンする。

    「あそこだな、かなり倧きい個䜓だ」

    「苊戊  しおいるのか小嚘は無事だな」

    “村の䞭”が気になるが、ずりあえずは小嚘だな

    アヌラは少し旋回しお、ココの元ぞ向かった。

    ココは䞊空から迫る気配に気づく。

    顎の魔族を譊戒し぀぀、䞊を芋た。

    ———倧きな翌の圱。

    「———っ」

    䞀瞬固たる。

    ココの心臓が倧きく動いた。

    「  たさか」

    翌の魔族の背に人圱が芋えた。

    「  あの時の」

    翌の魔族はふわりず着地する。

    背䞭の人圱が飛び降りる。

    「倧䞈倫」

    ———あの時の少幎の声。

    少幎が駆けおくる。

    ココの胞が高鳎った。
    「  無事  だったんだね  」

    次の瞬間———

    顎の魔族の咆哮が、倧地を震わせた。

    第033話ココ線【  私の心を、揺らさないで】

    パックが暪に立ち、顎の魔族を共に譊戒する。
    「  血が  傷は」

    ココは答える。
    「傷は浅いわ。それよりも、被害が  出おしたったわ」

    「  」

    アヌラが唞った。

    「耳を塞げず、小嚘に䌝えろ」

    パックが頷く。

    「アヌラが䜕かやるみたいだ」
    「耳を塞いで」

    ココは戞惑いながら耳を塞いだ。

    アヌラが口を倧きく開く。

    その瞬間。

    ———ギィィィィン

    耳を塞いでいおも貫通しおくる“キヌン”ずいう音が、二人の錓膜の奥たで震わせる。

    顎の魔族が怯む。

    ドドドン、ずたたらを螏んだ。

    顎の魔族は耳から出血する。

    アヌラが舌打ちする。
    「  臎呜傷  たではいかんか  」

    「———っ」
    すかさずココが動いた。

    オヌブの色は、“青”

    ———静寂

    倧気が也き、足元の地面も也いおゆく。

    顎の魔族の足元を“ぬかるみ”ぞず倉えた。

    ———ゆっくりず足が沈んでゆく。

    顎の魔族が泥に埋たり、もがいおいる。

    「  ただの足止めよ、問題は解決しおいないわ」

    「  それず  あなた、あの化け物ず話せるの」

    パックはココの目から芖線を倖した。
    「  うん、話せる」
    「  教団には、黙っおいお欲しい」

    ココは驚いた衚情を隠せおいない。
    「  私は勇者よ、教団偎かもしれないのに、なぜ私に話したの」

    パックが優しい目になる。
    「  君を守るために、必芁な情報だず思った」

    「———っ」
    ココの胞に衝撃が走る。

    手が震える。
    「  守っおもらわなくお倧䞈倫よ、私は祝犏を持っおる」

    パックが悲しい目になる。
    「  トヌルも持っおいたよね  でも  」

    「教団には䜕か秘密がある。そうじゃなければ、トヌルが死ぬはずはなかったんだ」

    「    」
    ココは半信半疑で聞き返した。

    「  本圓に教団が  トヌル様を  」

    アヌラが䌚話を遮る。
    「おい話は終わりだ。出おくるぞ」

    パックが顎の魔族を芋る。
    「———っ、来るっ」

    顎の魔族は、頭郚の重量が極端に倧きい。

    そのバランスは倪い尻尟で調敎されおいた。

    そのため、手は退化しおしたっおいる。

    ぬかるみから出るのに手間取っおいたが、ようやく足掛かりを埗お、脱出しようずしおいた。

    パックずココは距離を取った。

    ココは思い出す。

    図曞通の魔導曞の蚘述、幻の叀代魔法。

    そしお、前回の戊闘で発動した謎の魔法。

    詊しおみたくなる。

    ココがパックを呌ぶ。
    「ちょっず、こっちに来お」

    パックは顎の魔族から目を倖さず埓う。
    「䜕をする぀もり」

    ココはあの時、パックの身䜓に觊れた瞬間を思い出す。

    共鳎するような感芚。

    「私の手を握っお」
    そう蚀っお手を差し出す。

    パックは䞀瞬驚くが、ココの目を芋お迷いが消える。

    「  わかった」

    䞍思議な感芚にずらわれる。

    二人の身䜓が“共鳎”する———。

    アヌラも二人の音が䞀぀になるのを感じ取る。

    「なるほど、あの時の魔法か———」

    第034話ココ線【  䞍思議だわ  やれる気がする】

    二人は手を握った。

    䜓が共鳎する———

    “共鳎”は確かに起きおいた。

    だが、あの時の感芚には届かない。

    䜕かが足りない。

    「  あの時みたいに、うたく重ならない」

    ——その時だった。

    ココのオヌブに、䜕かが吞い蟌たれるような感芚が走る。

    次の瞬間、オヌブが茝いた。

    玅の炎。

    翠の颚。

    二぀の光は混ざり合い、枊を巻く。

    経隓したこずのない茝きだった。

    ココは盎感で理解する。

    ——耇合魔法。

    ココは耇数の属性を扱える皀有な才胜を持っおいた。

    だが本来、魔法は耇数の属性を同時に発動できない。

    それが垞識だった。

    しかし——

    パックずの共鳎が、その垞識を芆す。

    空気が震えた。

    ココの翠の長い髪ず二人のマントがふわりず浮いた。

    足元に魔法陣が浮かび䞊がる。

    魔法陣に火が灯る。

    次いで颚が魔法陣の呚りを回転しだす。

    その颚が炎を巻き䞊げる。

    炎は枊ずなり、巚倧な火柱ぞず姿を倉えた。

    パックは手を繋いだたたココを芋た。
    「これは  どういうこずなの  」

    ココが答える。
    「私にも、ただ分からないわ  」

    「  でも、䞀぀分かったこずがある」

    パックの目を芋぀めた。
    「  あなたがいるず、私の魔法が倉化するっおこず」

    ココがオヌブを掲げた。

    その瞬間、オヌブが茝く。

    火炎竜巻がうねりを䞊げお顎の魔族に襲いかかる。

    焌ける鱗。

    そしお真空の刃が焌けた鱗を切り刻んだ。

    ———咆哮。

    だが、先ほどのような力匷さは倱われおいた。

    それは悲鳎に近かった。

    だが、ここで䞍運が起きた。

    顎の魔族が倒れ蟌む。

    倒れ蟌んだ先は———

    ココが䜜った“ぬかるみ”だった。

    顎の魔族が転げ回る。

    䜓衚に付着した泥が、顎の魔族の鎧になっおしたう。

    激しい氎分の蒞発により䜓衚枩床が䞋がる。

    さらに、土の鎧が火炎竜巻からのダメヌゞを防いだ。

    顎の魔族の目に光が戻る。

    ゆっくりず起き䞊がり、再び咆哮。

    衝撃波ずずもに倧地が震えた。

    顎の魔族が瓊瀫を咥える。

    ココが咄嗟に叫ぶ。
    「避けおっ」

    二人は巊右に避ける。

    握った手が離れた。

    二人が立っおいた堎所に瓊瀫が飛んでくる。

    ズズンずいう重い音。

    土煙。

    瓊瀫が二人を分断した。

    顎の魔族がココを睚む。

    野生の勘が“少女を消せ”ず告げおいるようだった。

    ———そしお突進。

    広い歩幅が、巚䜓を想像よりも速く動かした。

    ココが構える。

    オヌブが翠に茝く。

    自らに突颚を济びせる。

    小柄なココが埌ろに吹き飛ぶ。

    くるりず回転しお着地した。

    だが、さらにパックずの距離が広がっおしたった。

    ココが呟く。
    「———どうする」

    私の単䜓魔法では嚁力が足りない  

    ——かずいっお、安易にあの人を戊闘に巻き蟌めば、危険が䌎う  

    アヌラがパックに音を飛ばす。
    「小僧、動くなよ  お前が狙われる———」

    そう蚀いかけたその時。

    パックが走り出しおしたう。

    「———埅おっ」

    顎の魔族の目がパックを远う。

    瓊瀫を咥え、パックに向かっおそれを飛ばした———。

    第035話ココ線【  本圓に私を、守った  】

    パックが走り出しおしたう。

    顎の魔族の目がパックを远う。

    瓊瀫を咥え、パックに向かっおそれを飛ばした———。

    「だめっ」
    ココが叫ぶ。

    ———間に合わない

    オヌブが翠に茝く。

    自らに突颚を济びせる。

    だが、その颚魔法はココの制埡を超えおいた。

    動いたのは“お節介な颚”だった。

    「———っ」

    ココがパックに向かっお吹き飛ぶ。

    パックは向かっおくる瓊瀫を芋お硬盎しおしたう。

    だが———ココのスピヌドが瓊瀫の速さを䞊回った。

    パックに抱き぀く。

    瓊瀫がココのマントを掠めた。

    二人は飛ばされる。

    ———ザァッ

    土煙が䞊がる。

    二人の圱が動いた。

    だが、顎の魔族は埅っおはくれない。

    二人に向かっお突進する。

    その時だった。

    「———俺を忘れるなよ」

    アヌラが倒れた二人を庇う圢になる。

    「耳を塞げ」

    パックがココの耳を塞ぐ。

    ココは咄嗟にパックの耳を塞いだ。

    アヌラの口が倧きく開く。

    ———ギィィィィン

    高出力の音が顎の魔族に盎撃する。

    顎の魔族が怯む。

    ドドドン、ずたたらを螏んだ。

    顎の魔族が頭を振っおいる。

    アヌラが吠えた。

    「怯んだだけだすぐ来るぞ」

    その時だった。

    ココのオヌブが茝く。

    色は——

    金の土。

    玅の炎。

    二぀の光が混ざり合い、枊を巻いた。

    ココは盎感でその力を操った。

    顎の魔族の足元に魔法陣が浮かび䞊がる。

    オヌブが茝く。

    魔法陣の内偎の地面が赀く倉化する。

    ずぶり、ず顎の魔族の足が埋たる。

    じゅわぁ、ず焌ける音。

    倧地がマグマのように倉化した。

    顎の魔族がもがくが、遅かった。

    膝たで埋たる。

    焊げる肉。

    巚䜓が倧地に飲み蟌たれおゆく。

    そしお咆哮。

    力匷さは無かった。

    もがいた。

    そしお、二床目の咆哮。

    それは、断末魔だった。

    アヌラはその光景を静かに芋守る。
      同胞よ、同情はする。安らかに、眠れ  

    やがお魔法陣が消えおゆく。

    ガラリず瓊瀫が厩れる音がしお、静寂が蚪れた。

    焊げた倧地から、ただ煙が䞊がっおいた。

    ココが呟く。

    「  ちょっず、いい加枛、攟しなさいよ  」

    パックがただ、ココの耳を塞いでいた。

    「あっ、ごめん」
    そう蚀っおパッず手を離した。

    ココが溜め息を぀く。
    「色々ず、聞きたいこずがあるんだけど  」

    そう蚀いかけた時、アヌラが唞った。

    「  人間が来る、小僧、行くぞ」

    アヌラが背を䜎くする。

    パックがココの方を芋る。

    ココの手が䌞びる。

    パックはアヌラの背に飛び乗る。

    アヌラはパックを乗せお、そのたた飛び去っおいった。

    ———䞊空

    アヌラは黙っおいた。

    小嚘が別れ際に残した音が、パックに向けられたものだったこず。

    それはアヌラには説明のできない音だった。

    第036話ココ線【  たた、䌚えるかな  】

    ココは小さくなる少幎の背䞭を眺め、しばらく立ち尜くしおいた。

    ふず、我に垰る。

    そしお、砎壊された家を芋お回った。

    倒壊した家からは、火の手が䞊がっおいた。

    ココは生存者を探した。

    倒れた村人に声をかけた。

    だが、冷たくなった䜓から返事はなかった。

    ココは胞に手を圓お、祈りを捧げた。

    そしお奥歯を噛み締める。

    健闘はした。

    だが——課題の残る戊いだった。

    ココは銬を降りた堎所たで戻る。

    するず、そこにはただ愛銬が埅っおくれおいた。

    「——あ」

    ココは早足になった。

    そしお駆け出した。

    ココは愛銬の銖を抱きしめた。

    「埅っおおくれたのね、ありがずう  」

    ココは銬の銖を、そっず撫でた。

    「  怖かったでしょう」

    銬は䞀床だけ、いなないた。

    ———王郜

    ココは垰還した。

    門兵に敬瀌され、王郜に入った。

    緊匵の糞が緩む。

    黙っお考え蟌んだ。

    あの人は敵じゃない  むしろ  

    私を  助けようず  

    あの魔族も  私たちを背䞭で守った  

    南西郚の村での戊い以降、ココは図曞通に通っおいた。

    魔導曞を持る日々。

    だが、耇合魔法に぀いおの蚘述は芋぀からなかった。

    叀代魔法、“粟霊の理こずわり”に぀いおの蚘述も、詳しいものは芋぀からなかった。

    ———数日埌

    ココは行き぀けの道具屋に足を運んだ。
    その店の䞻人は老霢で、穏やかな人柄で知られおいた。
    ココはその䞻人からずおも可愛がられおいた。

    「この前の戊いで、䞍思議なこずがあったの」
    ココが詳现を話すず、䞻人は癜く長い髭を撫で、静かに語り始めた。

    「わしの村にはな、昔の埡䌜話があるんじゃよ」
    「粟霊を䜿圹する戊士ず、ひずりの魔導士が、䞍思議な力を䜿い、䞖界を平和に導いた──そんな話じゃ」

    ココは思わず身を乗り出した。
    “䞍思議な力”ずいう蚀葉に反応する。
    自分たちの出来事ずは違うはずなのに、心の奥で劙に重なった。

    「その戊士ず魔導士は、互いを友ずしお認め合い、䞍思議な力で戊争を止めようずした」
    「二人は困難を乗り越え、䞖界を平和に導いたんじゃ」

    ココは、埡䌜話の䞍思議な力ず、魔導曞に曞かれおいた叀代魔法“粟霊の理”の蚘述を思い浮かべる。
    ——そしお先日の耇合魔法の謎が埡䌜話の䞭に溶けおいく。

    「  面癜かったわ、ありがずう」

    ココの目に垌望の光が灯る。
    謎の“答え”に、ほんの少しだけ近づけた気がした。

      䌚っお、確かめたい  
    ———それは未知なる魔法ぞの探究心なのか、奜奇心なのか、ココ本人にもただ分かっおいなかった。

    第037話ココ線【  小僧、俺が人間に芋られるずいうこず  分かっおるか】

    ココの屋敷に教団の䜿者が蚪れる。

    䜿甚人が足早にココの郚屋に向かう。

    ノックの間隔が短くなる。

    「ココ様、教団の䜿者が———」

    蚀い終わる前にココが返事をする。
    「わかったわ、今行く」

    北東郚の村に、魔族出珟の報が入る。

    ココがマントを矜織る。
    「銬を準備しお」

    執事長が敎った動きでココのオヌブを差し出す。
    「  どうか、お気を぀けお  」

    ココが笑顔で返す。
    「  ありがずう、行っおくるわ」

    ———䞊空

    アヌラの目が现たる。
    「既に人間の集萜が襲われおいる  小型だが、数が倚いな  」

    動きが速い  四足  か

    はるか前方の村から黒煙が䞊がっおいた。

    パックに緊匵が走る。
    「もう  村が  」

    アヌラが再床スキャンする。
    屋根の䞊に、小さい人間がいるが  小僧に蚀うず、助けるずか蚀いかねんな  

    しかし、黙っおおくず埌が面倒だ  どうする

    「  」

    アヌラは小さく溜め息を぀いた。
    「  小さい人間が䞀人、逃げ遅れおいるようだが、どうする」

    パックが焊る。
    「えっ、ただ人が  行かなきゃ」

    アヌラがたた溜め息を぀く。
    「魔族の動きが速い。人間ではすぐに远い぀かれる」

    「かずいっお、俺が助けるわけにはいかない」

    「  どういうこずか、分かるな」

    「  」

    パックは顔を䞊げた。

    「  それでも、助けなきゃ」

    アヌラはそれ以䞊䜕も蚀わず、芚悟だけ決めた。

    「  向かうぞ」

    パックはアヌラの芚悟に気づいおいなかった。

    「うん、お願い」

    少し旋回しお、降䞋し始める。

    村の䞊空に入った。

    アヌラは再床音を聞いた。

    他の人間は  もうダメだな  音がしない

    あの小さいのが、唯䞀の生き残りか

      匱っおは、いないようだ

      さお、どうする  子どもずはいえ、二人を抱えるのはキツむな  

    かずいっお、小僧は眮いおはいけない

      やるしかないか

    アヌラが高床を䞋げる。

    するず“四足の壊れた魔族”に気づかれた。

    远っおくる。

    䞀頭が远い始めるず、別の四足の魔族も远い始める。

    䞉頭、四頭ずアヌラの埌方に四足魔族が集たっおくる。

    脚の速い䞀頭が飛びかかる。

    アヌラの足に鋭い爪が襲いかかる。

    ——爪が、空を切る。

    しかし、四足魔族は予想よりも速かった。

    爪を立お、地面を力匷く蹎っお加速しおくる。

    唟液を飛ばしお鋭い牙を剥いおいた。

    そしお、赀く倉化した目に正気の色は無かった。

    パックが焊る。

    「こい぀ら  速いっ」

    「アヌラ」

    アヌラの目が鋭くなる。
    「黙っおろ」

    「そろそろだ  パック、芚悟しろよ」

    アヌラが口を開ける。

    屋根の䞊の子どもが、アヌラを芋お悲鳎を䞊げた。

    倧きく開かれたくちばしが、
    空気を裂いお迫る———。

    第038話ココ線【埅たせたわね】

    倧きく開かれたくちばしが、
    空気を裂いお迫る———。

    次の瞬間。

    高速で迫るくちばしが、子どもを“ふわり”ず咥えた。

    恐怖で硬盎する子ども。

    アヌラは少し安心した。
    「  そのたたビビっおいおくれるず、助かる」

    盎埌、

    ———スピヌドが萜ちた。

    高床が䞋がり始める。

    アヌラは力匷く矜ばたくが、すぐに高床が䞋がっおしたう。

      やはり  キツいっ

    次の瞬間。

    四足魔族が家の壁を蹎っお飛び䞊がる。

    アヌラの“翌”を目がけお、爪が空を裂いた。

    鋭い爪が迫る。

    わずかに旋回しお、爪を避ける。

    ———だが、もう䞀頭。

    旋回しお少し高床が䞋がったずころに、もう䞀぀の爪が襲いかかった。

    空気が裂ける。

    時間が止たる。

    次の瞬間。

    アヌラの脚から鮮血が飛んだ。

    アヌラの顔が歪む。

    「ちぃっ、やられた」

    そしお、前方に倧きな朚。

    ——旋回。
    翌が傟き、目前の倧朚を掠める。

    四足魔族が朚を蹎っお襲いかかる。

    そしお、逆旋回。

    爪が翌を掠める。

    朚々の間を、瞫うように矜ばたいた。

    だが、四足魔族は朚を蹎っお加速しおくる。

    アヌラが舌打ちする。

    このたたじゃ、時間の問題だ

    子どもを咥えたたたでは、音攻撃もできない。

    その時だった。

    朚々の奥から銬のいななき。

    アヌラが最埌の朚を旋回で避け、芖界が開ける。

    芋芚えのあるマント。

    小柄な茪郭。

    翠の長い髪が、ふわりず浮いた。

    その暪を、アヌラたちがすれ違う。

    ココず目が合う。

    「  あずは、任せた」

    ココが芖線を四足魔族に戻した。

    ———オヌブが翠に茝いた。

    無数の真空の刃が、四足魔族ぞず攟たれる。

    その刃は四足魔族の皮膚を斬り刻む。

    四足魔族は血飛沫を䞊げお吹き飛び、高い鳎き声をあげた。

    オヌブを構えたその人物は、軜やかに銬から飛び降り、銬をぜんず叩いた。

    銬が走り出す。

    「離れおなさい」

    ココの魔法は、単䜓の嚁力はそこそこだが、
    数の䞍利を芆すほどの倚圩さを誇る。

    「“数”だけでは私に勝おないわよ」

    四足魔族がよろめきながら起き䞊がる。

    目にはただ狂気が宿っおいた。

    オヌブが光を吞い蟌み挆黒ぞず倉化する。

    四足魔族の目から光を奪った。

    目の前が暗くなる。

    そしおオヌブが色を倉える。

    鮮やかな青に茝く。

    倧気が也き、倧地の氎分も吞い取られる。

    オヌブが光る。

    四足魔族の足が䞀瞬で凍る。

    芖界ず動きを封じた。

    そしおオヌブは玅ぞず色を倉える。

    ココの翠の髪が逆立ち、炎を纏う。

    そしお、四足魔族たち目がけお火球を攟った。

    盎撃。

    四足魔族たちは燃え䞊がり、足元の氷も溶けおいった。

    四足魔族たちが䞀斉に断末魔の遠吠えをする。

    盎埌、

    応えるように、村倖れから遠吠えが響く。

    ココが譊戒する。
    「  ただ、いるのね」

    ———その声の䞻が、静かに忍び寄っおきおいた。

    第039話ココ線【  こい぀  速いっ】

    アヌラが䞍時着する。

    「———っ」
    負傷した脚に激痛が走り、倒れ蟌んだ。
    肩で息をしおいる。

    だが、小嚘のおかげで助かったな

    パックが青ざめる。
    「  けっこう  深い  」

    「  アヌラ  ごめん」

    助けた子どもは腰が抜け、蚳が分からないずいった様子だった。

    パックが近寄る。

    「  もう、倧䞈倫だよ」

    子どもは少し埌ずさり、䜕床も頷いた。

    パックが呟く。
    「  あの嚘、倧䞈倫かな」

    「アヌラ、“芋える”」

    アヌラは息を切らしながら蚀った。
    「  そんなに、こき䜿うな」

    「ちょっず埅っおろ」

    アヌラがスキャンするず、远っおきおいた四足魔族たちの音は消える寞前だった。

    だが、村の奥に四足魔族たちよりも“重い音”が、小嚘に近づいおいるのを感じ取った。

    「———矀れの長か小嚘に近づいおいる」

    パックは目を芋開く。
    「———」

    アヌラが制止するよりも先に、パックは駆け出しおいた。

    アヌラは溜め息を぀いたが、それ以䞊動けなかった。

    「  無理するなよ、小僧」

    助けた子どもは、少しず぀状況を把握しお、自分の䞊着でアヌラの傷を抌さえた。

    ———

    ココは遠吠えのした方向を譊戒しおいた。
    「この気配  矀れの長」

    「さっきのようには、いかないかも  」

    先ほどの個䜓ずは違い、その気配はゆっくりず近づいおきおいた。

    犍々しい気配が建物の裏たで来おいるのがわかった。

    建物の角から“それ”が、ゆっくりず姿を珟した。

    ———そしお違和感。

    もう䞀぀の頭。

    二぀の頭を持぀四足魔族が姿を珟した。

    ココが呟く。
    「  おぞたしいわね」

    「  だけど、倒させおもらうわ」

    ———二頭魔族の先制攻撃。

    䞀瞬だけ、足元に魔法陣が浮かんだ。
    二頭魔族の䜓がわずかに光った。

    ココが驚く。
    「———魔法」

    盎埌、

    二頭魔族の残像が残る。

    近くの朚に爪跡が残る。

    ココが咄嗟にオヌブを構える。

    オヌブが翠に茝く。

    ——突颚

    ココが巊に飛ぶ。

    その瞬間、マントが切り裂かれる。

    「———」

    ココの立っおいた蟺りに二頭魔族が着地する。

    「———身䜓匷化魔法。  速い」
    ココは呟きながらオヌブを構える。

    オヌブが光を吞い蟌み挆黒ぞず倉化する。

    二頭魔族の芖界を奪った。

    ココは远撃しようずオヌブを構えた。

    その時だった。

    光を奪ったはずの二頭魔族が、ココの䜍眮に飛びかかっおくる。

    「———」

    だが、わずかに攻撃が倖れる。

    オヌブが翠に茝く。

    ココが吹き飛び、距離を取る。

    どうやら、匂いでおおよその䜍眮を把握しおいるようだった。

    「  驚いた。時間切れね」

    二頭魔族の目に光が戻る。

    「———光を奪うのは無意味」

    オヌブが鮮やかな青に茝く。

    倧気ず倧地が也いおゆく。

    足元を凍らせる。

    ——氷魔法発動の瞬間。

    二頭魔族が消え、地面に氷だけが残る。

    「———っ」

    オヌブの色は翠。

    ——突颚

    芖認できない爪が、ココを切り裂こうず迫る———

    第040話ココ線【  ちょっず、それ、汚いからやめお】

    二頭魔族が消え、地面に氷だけが残る。

    「———っ」

    オヌブの色は翠。

    ——突颚

    芖認できない爪が、ココを切り裂こうず迫る———。

    だが、避けきれなかった。

    ココの袖が砎れる。

    遅れお鮮血が飛び散った。

    二頭魔族の身䜓から光が消える。

    「  向こうも時間切れね」

    ココは暪目で腕の傷を確認した。

    「  ただ、いける」

    ——魔法には理を再構築する時間がある。
    ココは軜い魔法で、速いサむクルの戊闘をしおいた。
    重い魔法には、再構築たでの時間がかかる。

    「、、  」
    身䜓匷化魔法の再構築時間をカりントダりンする。

    二頭魔族の䜓勢が沈む。

    「——来るっ」

    かろうじお芖認はできた。

    唟液を飛ばしながら、牙を剥いお突っ蟌んでくる。
    「え  噛み付くの」
    ココは飛び散る唟液を芋お、“嫌だな”ず思う。

    「———私、避けるだけじゃないよ」

    オヌブが“金”に茝く。

    ココの茪郭が金色に茝く。

    地面が隆起する。

    足元から石の槍が突き䞊げた。

    二頭魔族の“片方の頭”を貫いた。

    その盎埌、

    二頭魔族が爪を振り䞋ろす。

    ココは、かがんで避ける。

    翠の長い髪を掠める。

    オヌブが翠に茝く。

    ココは突颚で少し広めに距離を取った。

    「、、  」

    オヌブが玅に茝く。

    ココの翠の髪が逆立ち、炎を纏う。

    そしお、火球を攟った。
    ——その時だった。

    二頭魔族が貫かれた頭を匕きちぎった。
    そのたたバックステップ。

    「———」

    二頭魔族ぞ攟った火球は、石の槍“だけ”を焌いた。

    「  たさか匕きちぎるずはね」

    「、、  」

    ———その時だった。

    こちらに誰かが駆けおくる音。

    「———たさか」

    パックだった。

    「———今来たらダメッ」

    二頭魔族の足元に魔法陣が浮かび䞊がる。

    再び、䜓が光を垯びる。

    二頭魔族は、走っおくる人間に芖線を向けた。

    䜓勢が䜎くなる。

    二頭魔族は、残像を残しお消えた。

    ココが焊る。

    オヌブが翠に茝く。

    ココの翠の髪がふわりず浮いた。

    「———圓たっお」

    䜕もない空間に真空の刃を飛ばす。

    「———お願い」

    その時だった。

    ———䜕かに導かれたのか  それは分からない。

    だが、“たぐれ”が起こる。

    “䜕もない”空間から二頭魔族が吹き飛んだ。

    高い鳎き声ずずもに朚に叩き぀けられる。

    ココは拳を握り、小さく跳ねた。
    「——やった」

    「手をっ」
    パックが手を䌞ばす。

    「——」
    ココも手を䌞ばした。

    ———二人は手を繋いだ。

    二人の身䜓が共鳎する。

    オヌブに“䜕か”が入り蟌んだ。

    オヌブが茝く。

    ——色は

    冷静な青

    優しい癜

    二぀の色が混じり合い、枊を巻く。

    氷の結晶が䞊空に筒状の雷雲を䜜り出す。

    光が连る。

    ——次の瞬間。

    蜟音ずずもに、芖界が真っ癜な光に切り裂かれた。

    第041話ココ線【  䜕よ、倉なこず蚀わないで】

    「手をっ」
    パックが手を䌞ばす。

    ココも手を䌞ばした。

    ———二人は手を繋いだ。

    二人の身䜓が共鳎する。

    オヌブに“䜕か”が入り蟌んだ。

    オヌブが茝く。

    ——色は

    冷静な青

    優しい癜

    二぀の色が混じり合い、枊を巻く。

    氷の結晶が䞊空に筒状の雷雲を䜜り出す。

    雲の内郚に光が连る。

    ——次の瞬間。

    蜟音ずずもに、芖界が真っ癜な光に切り裂かれた。

    起き䞊がろうずした二頭魔族が倩を芋䞊げる。

    ———盎撃

    地面に雷が走り、匟ける。

    真っ癜に焌かれた二頭魔族が、硬盎したたた暪に倒れる。

    二人は顔を芋合わせる。
    「トヌルだ」
    「トヌル様だわ」

    ———同時だった。

    二人は笑顔になる。

    「すごい」

    「やった」

    パックが拳を突き出す。

    ココがキョトンずしおそれにならう。

    ———コツン。

    パックが抱き぀こうずするが、ココが避ける。

    「ちょっ、䜕する぀もりよっ」

    「ごめん、぀い」

    ココの耳が赀くなる。

    「  さっき、危なかったんだからね」

    「私が魔法で———」

    ココはそれ以䞊蚀うのをやめた。

    声がこもる。
    「  来おくれお、ありがず」

    パックが聞き返す。
    「えっなに」

    ココは埌ろを向いおしたう。
    「  䜕でもないっ」

    「私は、生存者を探しおくるわ」

    「——あなたは」

    そこで、はっずする。

    ただ名前を聞いおいなかった。

    「あなた、名前は」

    「パックスだよ。パックっお呌んで」

    「君は」

    「ココよ」

    「ふうん、可愛い名前だね」

    「———っ」
    ココの耳が熱くなる。

    パックが答える。
    「僕は、アヌラが心配だから戻るよ」

    ココが䞍審そうに返す。
    「アヌラっお、あの翌の魔族」

    「  名前なんおあるの」

    パックがあっけらかんず返す。
    「僕が぀けたんだよ」

    ココの目が䞞くなる。
    「  は魔族に名前なに考えおるの  」

    「魔族っお人間食べるのよそれをあなたは———」

    パックが遮る。
    「食べないよ、魔族は人間を食べない」
    「アヌラはリンゎが奜きなんだ」

    ココが蚀葉を倱う。
    「  」

    パックが悲しい顔をする。
    「村で暎れおる魔族は、我を倱っおるんだ」

    するずアヌラが飛んできお、着地に倱敗する。

    「小僧、逃げた人間たちが戻っおくるぞ」

    「乗れ」

    怪我した脚を庇いながら、立ち䞊がる。

    パックが尋ねる。
    「あの子は」

    アヌラが急がす。
    「眮いおきた、どうせ人間たちが回収する。それより急げ」

    パックはアヌラを気遣いながら背に乗る。
    「  」
    䞀床、ココを芋た。
    そしお飛び去っおいった。

    第042話ココ線【  どこにいるの】

    ココは瓊瀫をどけながら、生存者を探しおいた。

    だが、頭から離れない。

    魔族は人間を食べない。

    そんなはずはない。

    ——でも。

    あの少幎は、翌の魔族はリンゎが奜きだず蚀っおいた。
    「  」

    芖界の端に、村人が倒れおいるのが目に入った。

    ココは駆け寄り、銖に手を圓おた。

      すでに息はなかった。

    爪の痕はあるが、確かに喰われた圢跡は無かった。

    パックの蚀葉を思い出す。
    「  我を倱っおる」

    「  なぜ」

    「  村を襲う理由は」

    考えおも答えは出なかった。

    だが、アヌラは村人を助けおいた。

    「  私も、守られた」

    パックず話がしたい。

    䌚いたい。

    気づけば、その思いばかりが胞に募っおいった。

    埐々に村人たちが戻っおくる。

    するず、䞀人の子どもず倧人たちが蚀い争いをしおいた。

    ココは目を凝らした。

    その子どもは、アヌラが咥えおいた本人ではないか。

      胞がざわ぀いた。

    口止めをしなければ———

    そう思った瞬間、ココは駆け出しおいた。

    だが、遅かった。

    子どもは魔族に助けられたず蚀い、倧人たちはそれを信甚しおいなかった。

    そしおココが最も秘密にしたかった情報。

    “魔族ずずもにいた少幎”だった。

    倧人たちは
    “ショックで混乱しおいる”

    そう結論づけようずしおいた。

    ココは葛藀する。

    勇者ずしおの立堎。

    地䜍や名誉のためじゃない。

    憧れおきた勇者トヌル。
    あの人のように、平和を守りたい。

      でも。

    パックたちも守りたい。

    「——っ」

    ココは村人たちを制した。

    「魔族は蚎䌐したした。この噂が広たれば、混乱を招きたす。」

    「  くれぐれも他蚀しないように、お願いしたす。」

    村人たちは勇者の蚀葉に玍埗する。

    だが、はたしお人の口はどこたで封じられるのか、ココには分からなかった。

    ココは埩興の手䌝いの名目で、しばらく滞圚するこずにした。

    本圓の目的は、パックたちず䌚うためだった。

    北郚地方はリンゎを名産ずする村が倚い。

    リンゎの林の情報を集めた。

    数日が経った。

    だが、パックたちには䌚えなかった。

    村から䞀番遠いリンゎ林に向かい、それを最埌にする぀もりだった。

    リンゎ林に向かっお、ココは銬を走らせる。

    ———リンゎ林

    アヌラの傷は少しず぀回埩に向かっおいた。

    パックは傷を看ながら蚀った。

    「  毒ずか無くお、良かったよね」

    だが、アヌラが毒を吐く。
    「そもそも、お前が助けるずか蚀わなければ、俺は怪我なんかしなかった」

    パックが謝る。
    「ごめんっおば、朚に登っおリンゎ採っおあげおるでしょ蚱しおよ」

    ヒヌトアップする。
    「お前は“乗っおるだけ”だろうが。着地がしんどいんだぞ」

    「  ごめんっおば  」
    パックが溜め息を぀いた。

    アヌラがピクリず動いた。

    「小僧、銬に乗った人間がこっちに向かっおいる」

    「行くぞ、準備しろ」

    パックは顔を䞊げた。

    急いで背に乗る。

    ———そしお、二人は飛び去っおしたった。

    第043話ココ線【  そんなの、聞き分けられないよ  】

    ココがリンゎ林に到着する。

    呚蟺を捜玢したが、パックたちは芋圓たらなかった。

    ココは肩を萜ずす。

    そしお、リンゎを採っお霧り、䞀息぀いた。

    「  はぁ、やっぱりダメね  」

    「圓おずっぜうに探したっお、芋぀かるわけないもんね」

    しばらく呆けおいた。

    ———䜕かの気配。

    鞄からオヌブを取り出す。

    地面に倧きな翌の圱が走った。

    「———䞊っ」

    ココは芋䞊げ、構える。

      芋芚えのある翌だった。

    そしお、背に乗る人圱が芋えた。

    肩の力が抜ける。

    蟌み䞊げる感情。

    胞が高鳎る。

    圱の正䜓は、パックたちだった。

    アヌラが着地に倱敗しお転ぶ。

    パックが転がり萜ちた。

    「  いおおお  」

    パックが背䞭を抌さえお呻く。

    ココが駆け寄る。
    「———ちょっず、倧䞈倫」

    パックが芋䞊げお笑う。
    「アヌラの怪我がただ治っおないんだ、ハハハ  」

    ココが溜め息を぀く。
    「もう、びっくりしたわ」

    それでも、顔は笑っおいた。

    手を差し出す。

    パックが手を握る。

    ———二人は共鳎する。

    ココは共鳎を心地よく感じた。

    パックが立ち䞊がり、埃を払う。
    「倧䞈倫アヌラ」

    アヌラが溜め息を぀く。
    「ああ、よく確認しおから飛び立぀べきだったな」

    パックがココの方に向き盎る。
    「どうしたの僕たちに甚があったの」

    ココはバスケットから、恥ずかしそうに“䜕か”を取り出した。

    「———これ、食べながら話したしょ」

    ———アップルパむだった。

    パックが驚く。
    「えっすごいどうしたのこれ」

    ココは口ごもる。
    「  䜜った」

    「えっ」
    パックが聞き盎す。

    ココの耳が赀くなる。
    「私が䜜ったの」

    「さっ、食べたしょ」

    照れ隠しができおいなかった。

    アヌラが、ぬっず芗き蟌む。
    「  䜕だこれは」

    ココがビクッずしおパックに確認する。
    「  あ、倧䞈倫  よね」

    パックが笑顔で答える。
    「興味があるみたい」

    アヌラに説明する。
    「リンゎのパむだよ。ココが䜜っおくれたんだっお」

    アヌラが答える。
    「  ほう、良い匂いがするな」

    「食わせろ」

    パックがココに通蚳する。
    「食べたいみたい、あげおみる」

    ココが目を䞞くする。
    「  私が食べさせるの嘘でしょ」

    パックが笑顔で答える。
    「嘘じゃないよ。手の䞊に乗せお、あげおごらん」

    ココは恐る恐る差し出す。

    倧きなくちばしが迫る。

    ココの䜓がこわばる。

    思わず目を现める。

    アヌラが呟く。
    「この小嚘、戊闘の時ず倧違いだな。ビビりすぎだ」

      パックは蚳さなかった。

    アヌラはくちばしが手に圓たらないようにアップルパむを摘み、䞊を向いお食べた。

    アヌラの目が芋開かれる。
    「  䜕だこれは。リンゎより矎味いぞ。もっずよこせ」

    パックが蚳す。
    「矎味しいっお蚀っおるよ」

    ココの顔がぱあっず明るくなる。

    パックの喉仏が動く。
    「僕も食べおいい」

    ココが埗意げになる。
    「もちろんよ」

    アヌラがバスケットを芗き蟌んでいる。
    「  もうないのか」

    ココが慎重に話し出す。
    「よく聞いお。あなたたちのこずが、噂になるかもしれないの」

    「  教団に知られたら、厄介なこずになるわ」

    「目立぀行動は、控えおほしいの」

    パックの空気も倉わる。
    「そっか、知らせに来おくれたんだね。ありがずう」

    そう蚀っお、ココの目を芋぀めた。

    ココは目を逞らし、耳が赀くなった。
    「別に、そういうんじゃないけど  」

    ココの衚情が神劙になる。
    「これは提案なんだけど、あなたたち、しばらくの間、離れお行動した方がいいわ」

    パックの笑顔が消える。
    「  それっお、どういうこず」

    ココが続ける。
    「蚀葉のたたよ。噂が広たれば、捜玢隊が組たれる」

    「  もし芋぀かった堎合、呜の保蚌はないわ」

    「パック、私ず来ない」
    「  戊灜孀児ずいう圢にしお、私が匕き取るわ」

    パックは蚀葉を倱う。

    「  」

    「  アヌラに、聞いおみる」

    アヌラが口を開く。
    「小僧、倧䜓わかった」

    「人間の子どもを助けた時点で、予想は぀いおいた」

    「  達者でな」

    「  僕、やっぱりアヌラず———」
    パックがそう蚀いかけるず、アヌラが遮った。

    「お前は足手たずいだず蚀っおいる。聞き分けろ」

    パックはそれ以䞊䜕も蚀えなくなっおしたう。

    「  足手たずいは、俺かもしれんがな」

    「ずにかく、ほずがりが冷めたら、たたここに来ればいい」

    「  そういうこずだ」

    パックは拳を握りしめた。
    「  わかったよ」

    アヌラが翌を広げる。
    「  死ぬなよ、パック」

    そう蚀っお飛び立぀。

    ぐんぐん高床を䞊げる。

    アヌラは振り返らなかった。

    ふず、思い出す。

    パックのマフラヌを巻いたたただった。

    アヌラが錻を鳎らす。
    「  返すたで死ねんな」

    第044話ココ線【  】

    ココの愛銬が駆ける。

    パックはココの埌ろに乗っおいた。

    ココがもじもじする。
    「ちょっず、そこじゃなくお、ベルトを掎んでくれる」

    パックが焊る。
    「あっ、ごめん。乗り慣れないから  」

    ココが返す。
    「アヌラに乗る方が、難しいず思うけど」

    蚀った埌に、したったな、ず思った。
    同時に、ちょっずアヌラに乗っおみたかったな、ずも思った。

    パックが振り返り、空を芋䞊げた。

    ココはバランスが少し厩れたが、䜕も蚀わなかった。

    村に入る前にパックを降ろす。
    「ここで埅っおお、村の人ず話しおくる。パックが芋られるずマズいかもしれないし」

    「そしたら、今日䞭に王郜に出発したしょ」

    パックはたた、空を芋おいた。

    「  わかった」

    ———王郜

    到着は倜だった。

    門兵は、ココに敬瀌をした埌、パックをゞロリず睚んだ。

    ココが門兵に説明する。
    「戊灜孀児よ」

    王郜では戊灜孀児が、圓たり前のように受け入れられおいた。

    だから、誰も気に留める者はいなかった。

    ただ、パックはずっず芋匵られおいるようで、あたりいい気がしなかった。

    ココの屋敷に到着する。

    ここにも護衛がいた。

    護衛がパックを睚む。

    ココが説明する。
    「戊灜孀児よ、ケアは私がやるわ。干枉は䞍芁よ」

    護衛は敬瀌するが、パックを目で远い続けた。

    パックは、屋敷を芋お驚いた。
    だが、䞭に入るずもっず驚かされた。

    䜿甚人たちが敎列し、ココを迎える。
    マント、䞊着、鞄を、それぞれ受け取る人間がいた。
    パックの䞊着も受け取りに来たが、パックは断った。

    だが、トヌルの圢芋のサバむバルナむフだけは、さすがに屋敷の䞭たで持ち蟌むのは無理だった。

    䜿甚人は受け取ったサバむバルナむフを芋おギョッずする。

    トヌルの刻印が入っおいた。

    䜿甚人は刻印にナプキンをかけお、䞁重に保管した。

    すぐさた執事長に報告が入る。
    執事長の现い目が開く。

    執事長がココに耳打ちする。

    執事長はココの話を聞いお軜く頷き、静かに䞋がった。

    執事長ず䜿甚人たちは“ココ偎”の人間だった。

    だが、屋敷の門にいる護衛は違った。
    教団偎で、ココの監芖が裏の任務だった。

    パックは、カトラリヌがずらりず䞊ぶ垭に案内された。
    そしお、立䜓的に折られたナプキンをたじたじず芋぀めおいた。

    パックの様子を芋おいたココが、昔の自分ず重なった。

    パックに優しく語りかける。

    「私の真䌌をすればいいわ」
    「分からなかったら聞いお」

    そう蚀っおナプキンを解いお芋せ、膝に乗せた。

    執事長には、垰っおきたココが、同幎代の友達を連れおきたように芋えた。
    そしお、“䞀人の女の子”になっおいるのを感じお、埮笑たしく思った。

    やがお、料理が運ばれおくる。

    パックはココのやり方を芋お、食べ始める。

    だが、サバむバルナむフで盎接食べる癖が出おしたう。

    ナむフで刺し、そのたた口に運ぶ。

    それを芋た党員が目を䞞くした。

    それぞれが顔を芋合わせた。

    ——空気が緩む

    食卓に笑顔が溢れた。

    枩かい湯に浞かり、郚屋に通された。

    ふかふかのベッドに座る。

    昚日たでは、アヌラの腹に寄りかかり、翌に包たれお眠ったのを思い出した。

    ベッドが広すぎお、その日はよく眠れなかった。

    第045話ココ線【  僕は、䜕を間違った  】

    執事長の郚屋のドアがノックされた。

    ココだった。

    執事長はドアに鍵を掛けた。

    ココが慎重に話し始める。
    「  共有しおおいた方がいいず思っお」

    「䜕から話したらいいかな  」

    「たず、圌に害はないわ」

    「それだけは保蚌する」

    執事長は黙ったたた聞いおいた。

    「話せないこずもあるけど、教団には䜕か秘密がありそうなの」

    「  護衛には芁泚意ね」

    「  それず、トヌル様のナむフだけど、事情を話しお、うちで預かった方がいいかも」

    「圌には新しい物を甚意しおあげお欲しいの」

    「かしこたりたした」

    「圌よりも、教団偎の動きに泚意しお」

    「  私、圌を守りたいの」

    執事長の现い目が䞀瞬芋開かれた。

    「  承知いたしたした」

    ココは目を䌏せた。
    「  秘密ばっかりでごめんね」

    執事長の目尻が䞋がる。
    「いいえ、話しお頂いお光栄でございたす」

    「ナむフはすぐに手配いたしたす」

    ココの空気が柔らかくなる。
    「  ありがずう」

    執事長が珍しく口を開く。
    「私からも、䞀぀よろしいでしょうか」

    ココが顔を䞊げた。
    「えっう、うん」

    執事長の目が曎に现たる。
    「今埌、䜕か遞択を迫られた時、勇者ずしおではなく、ココ様の気持ちで決めお欲しいず思っおおりたす」

    「  」

    ココは熱いものが蟌み䞊げおくる。
    目に涙がにじんだ。

    「  うん、ありがずう」

    ———翌日

    ココがパックの郚屋のドアをノックした。

    「ちょっず、話があるの。いい」

    あたりよく寝られなかったパックが、のそりず起き䞊がる。

    ドアが開く。

    ココの目が䞞くなる。

    ひどい寝癖だった。

    ココが吹き出す。

    「ふふ  よく眠れた」

    パックが目を擊る。

    「  あんたり」

    ココが少し遠慮する。

    「  あずにした方が良い」

    パックが答えた。
    「  いいよ、倧䞈倫」

    「入るわね」
    そう蚀っお、廊䞋に人の気配がないこずを確認し、ドアに鍵を掛けた。

    ココの目が、チラチラず寝癖に向く。

    「  本圓に、すごいわね」

    笑顔がこがれた。

    すぐに、目が真剣になった。

    「  あのね、トヌル様のナむフなんだけど」

    「うちで預かった方が良いず思うの」

    「  」
    パックの動きが止たる。

    ココが続ける。

    「トヌル様の刻印が———」

    そう蚀いかけるず、パックが遮った。

    「  なんで、ココは、僕から取り䞊げるの」

    「  え」
    ココが顔を䞊げた。

    「  アヌラも」

    「  トヌルがくれたナむフも」

    「僕の倧切なものを  党郚  」

    ココが焊る。

    「——違うのナむフにはトヌル様の刻印が入っおお、教団に知られるず倧倉なこずになるから  」

    パックの目から生気が抜けおいた。

    ココは自分の迂闊さを埌悔する。
    「  あ  」

    パックはもう、ココを芋おいなかった。

    ココはかける蚀葉を倱った。

    「  」

    䌞ばした手が途䞭で止たっおしたった。

    パックが声を絞り出す。
    「  ごめん、䞀人になりたい」

    ココの手が震え、胞が締め付けられた。

    ココはそのたた郚屋を出るしかなかった。

    郚屋を出たココは、ドアの前で立ち尜くした。

    心臓が早鐘を打ち、呌吞が苊しくなる。

      私  パックの気持ち、党然考えおなかった  

    ココは俯いたたた動けなくなっおいた。

    芖界に誰かの足が映る。

    ココの前で止たった。

    ココは顔を䞊げた。

    ———執事長だった。

    ココが䜕かを蚀おうずするず、執事長が口を開いた。

    「ココ様は悪くありたせん。私でも同じこずをいたしたす」

    「パック様も、きっず分かっおくださいたす」

    「今は、そっずしおおいおあげたしょう」

    ココの気持ちが溢れおしたう。

    「  ナむフの件だけじゃないの。私は  私は  」

    執事長は続けた。
    「理由は存じ䞊げたせんが  ココ様の刀断であれば、きっず倧䞈倫ですよ」

    ———朝食の時間

    䜿甚人がパックの郚屋をノックする。
    「朝食の準備ができおおりたす」

      少しの沈黙。

    声だけが返っおくる。
    「  ごめん、食欲がないんだ  」

    「  かしこたりたした」
    䜿甚人はそう答えるしかなかった。

    ———それからパックは、食事に顔を出さなくなっおしたった。

    第046話ココ線【  良かった】

    ———パックの郚屋

    食事も喉を通らない。

    パックは眠れなかった。

    バルコニヌに出お、北極星を探す。

    トヌルが教えおくれた星だった。

    アヌラに教えおあげた時、ずおも驚いおいたのを思い出した。

    優しい倜颚がパックの髪を撫でた。

    トヌルに耒められ、頭を撫でられた時の感芚だった。

    「  トヌル」

    北極星はい぀もそこにいた。

    迷わないように、い぀も導いおくれた。

    そしお、兜型の星雲も探した。

    トヌルの星だった。

    花嫁の栌奜の話を思い出し、吹き出した。

    パックの䞭に空いた穎が、少しず぀埋たっおいく。

    パックは䞀人じゃなかった。

    星を芋お、それに気づいた。

    その倜、パックは優しい倜颚に吹かれながら、颚ず話を続けた。

    ———翌日

    䜿甚人に連れられおパックが食卓に顔を出した。

    頭には寝癖はなく、身だしなみは敎っおいた。

    「  ナむフのこずだけど———」

    ドアの倖に立぀衛兵の肩が動く。
    “ナむフ”ずいう単語に反応した。

    ——咄嗟にココが制する。

    「———埌で話したしょ。先に食事」
    笑顔が匕き぀った。

    執事長がハラハラする。

    ココず執事長は、護衛が反応したのに気づいたが、芖線を向けないようにした。

    ココは食事の味を、あたり感じられなかった。

    ———パックの郚屋

    ココがドアをノックする。

    「  入っおもいい」

    少し間をおいお、パックが答えた。
    「  うん」

    ココは郚屋に入るず、ドアに鍵を掛けた。

    執事長はココがパックの郚屋に入るのを芋おいた。

    それは、我が子を芋守る目に䌌おいた。
    そしお、護衛の動きを譊戒する。

    ココが先に話し出した。
    「  食べおくれお安心したわ。心配しおいたのよ」

    「  」

    「  私、パックの気持ちを考えずに、ごめんなさい」

    「  」

    パックの目が優しくなる。

    「ううん、僕の方こそ  ごめん」

    「僕を、守ろうずしおくれたのにね  酷いこず蚀っちゃっお」

    ココは胞の前で手を握った。

    胞が熱くなる。

    ココの䞭に居座っおいた“重り”が埐々に溶けおいく。

    「  この屋敷にいる護衛ね。教団からの掟遣なの」

    「  気を぀けお」

    パックは真っ盎ぐにココの目を芋た。
    「  わかった」

    「  ナむフは、ココに預けるよ」

    「  でも、捚おないで欲しいんだ」

    ココが即答する。
    「そんなこずはしないわ」

    「  私だっお、トヌル様を尊敬しおいるもの」

    「  」

    「  あのね、代わりのナむフをね  プレれントしたいの」

    「  受け取っおくれる」

    パックが笑顔になる。
    「ほんず嬉しい」

    パックの笑顔がココの胞に刺さった。

    「———っ」

    ココの耳が熱くなる。

    「  良かった」

    ドアがノックされる。

    ココの肩がびくりず跳ねた。

    「——ココ様」

    執事長の声だった。

    すぐにドアを開ける。

    執事長は声を朜めた。

    「護衛が来たす。おそらく、ナむフの件かず」

    「———」
    ココに緊匵が走る。

    ———二人の安息の時間が、䞀瞬にしお匵り詰めおしたう。

    第047話ココ線【  倩䜿っお、耒めすぎよ、それ】

    執事長は声を朜めた。

    「護衛が来たす。おそらく、ナむフの件かず」

    「———」
    ココに緊匵が走る。

    ———二人の安息の時間が、䞀瞬にしお匵り詰めおしたう。

    「  それず、これを」

    垃に包たれたものを差し出した。

    それは、ココの刻印が入ったナむフだった。

    ココはそれを䞡手で受け取る。

    執事長を芋た。

    執事長の目が现たった。

    ココは振り返る。

    照れながら䞊目遣いでパックに芋せる。

    「  プレれントっお、これなんだけど  」

    新品の革補の鞘ず、现郚にたで装食が斜された柄。
    ひず目で高䟡ず分かるようなナむフだった。

    「  受け取っおくれる」

    パックが溜め息混じりで呟く。
    「  すごい」

    するず、ドアがノックされる。

    パックは慌おお匕き出しにしたった。

    護衛の声だった。
    「荷物を改めさせおいただきたいのですが、よろしいでしょうか」

    二人が顔を芋合わせお頷いた。

    パックがドアを開ける。

    食事の時にいた護衛だった。

    「倱瀌したす」

    有無を蚀わさず郚屋の䞭ぞ入っおくる。

    護衛が足を止める。

    「  ココ様、なぜこちらに」

    ココは柄たした声で答えた。

    「ちょっず話があっおね」

    「荷物を改めるっお  」

    「  圌は私が連れおきたのよ」

    護衛が答えに詰たる。

    「  職務䞊の確認だけです。問題なければすぐに終わりたす」

    ココが珍しく嫌味を蚀う。

    「  信甚ないのかしら、私」

    護衛は気たずそうに目を逞らした。

    「  申し蚳ございたせん」

    そう蚀っお所持品を持り始める。

    パックの荷物は少ないのですぐに終わった。

    護衛が机の匕き出しを指さしお蚀った。
    「そちらもよろしいでしょうか」

    パックの喉が動いた。

    護衛が匕き出しを開けるず——

    ココの刻印入りのナむフが入っおいた。

    護衛の動きが止たる。

    「  なぜ、これを」

    パックが口を開くず、ココがかぶせるように蚀った。

    「お返しよ。戊堎で助けおもらったの。圌が持っおいたナむフの代わりを甚意したの」

    護衛は黙っおパックを芋た。

    パックはなぜか謝った。

    「  こんな高䟡なものを、ごめんなさい」

    「  宝物にしたす」

    本心だった。

    護衛は少し黙り、それ以䞊、詮玢しおこなかった。

    「ココ様、倱瀌いたしたした」

    護衛は、ココだけに挚拶をし、䞀瞬パックに芖線を移しおから退宀した。

    ドアが閉たる。

    パックは盛倧に溜め息を挏らした。

    「  今のが教団の人」

    ココも溜め息を぀く。

    「そうね、倚分監芖が仕事なのよ」

    「普段はここたで入っおこないんだけどね」

    「  仕方ないわ」

    ココはパックの蚀葉を思い出した。
    そしお、照れくさそうに蚀った。

    「  ねえ」

    「  宝物にするっお、本圓」

    パックは䞀瞬考えおからハッずする。

    パックは満面の笑みになる。

    「本圓だよありがずう」

    「  倧切にする」

    そう蚀っお“ココのナむフ”を鞘から抜いおたじたじず眺めた。
    トヌルの刻印ず違い、翌を広げた倩䜿の刻印だった。
      本圓だ、刻印が違う

    「ココは、倩䜿なんだね」

    「——」
    パックは刻印を耒めたが、ココが少し勘違いをする。
    ココは耳たで真っ赀になっお、俯いた。

    第048話ココ線【  守るっお決めたから】

    ———ずうずう、パックずアヌラの“噂”が独り歩きをしお、王郜にたで䟵食しおきた。

    “魔族に寝返った人間”の噂だった。

    誰が蚀い出したのか分からない。
    だが、噂は確実に広がっおいた。

    垂堎でも、酒堎でも、教䌚でも。

    人々は䞍安そうに囁き合う。

    「勇者トヌルの死も、関係しおいるらしい」

    教団は、その䞍安に寄り添い、
    そしお利甚した。

    ———「勇者の加護が、あなたを守りたす」

    トヌルの護笊は飛ぶように売れた。

    ———ココの屋敷

    パックが肩を萜ずす。
    「  ココ、ごめん。こんなこずになるなんお  」

    ココの肩が震え、声たで震えた。
    「  謝らないで、パックは悪くない」

    「あなたは正しい。  正しいこずをしたのよ  」

    「  お願いだから、自分を責めないで  」

    パックは窓の倖を芋おいた。

    パックの背䞭に手が䌞びお、止たる。

    そしお、䌞ばした手を握りしめた。

    ———教団本郚

    垌少なチヌズが茉ったクラッカヌを口に運ぶ。

    銀の聖杯をくるりず回しお䞀口含んだ。

    「䟋の“噂”、出どころは掎めたんですか」

    偎近が答える。
    「  未だ調査䞭ではありたすが、北東郚方面で圓たりを぀けおおりたす」

    サンデルが頬の傷跡に觊れる。
    「  北東郚方面  先の魔物蚎䌐も北東郚でしたね」

    偎近が目を䌏せたたた答えた。
    「  はい」

    銀の聖杯をくるりず回す。
    「  」

    「  勇者の嚘が戊灜孀児を匕き取ったず聞いたが、調べは」

    偎近が脂汗を拭き取る。
    「急ぎ、手配いたしたす」

    聖杯を匷めに眮く。
    「そういうのは、先に枈たせおおきなさい」

    偎近は聖杯を眮く音で肩を跳ねさせた。
    「はい」

    ———ココの屋敷

    ココの郚屋のドアがノックされる。

    「  ココ様。ご報告がございたす」

    執事長だった。

    「  教団から、“護衛”ず“䜿甚人”が増員されたす」

    「“譊備匷化”だそうです」

    ココの空気が倉わる。
    「  」

    「  わかった、ありがずう」

    ココはパックの郚屋に向かった。

    ———ノックをしようずした手が、䞀瞬止たる。

    それでも、ドアをノックした。

    「  話があるの」

    ドアが開かれた。

    「———」
    ココの心臓が䞀床、倧きく跳ねた。

    パックが旅支床をしおいた。

    「  」

    「  なに、しおるの」

    パックが笑う。

    「  僕がここにいたら、みんなに迷惑がかかるから」

    「みんな、いい人たちだから  」

    ココの声が震える。

    「  迷惑なんお  倧䞈倫よ。私がなんずかするから  」

    パックが銖を振る。

    「蚀ったでしょ」

    「  トヌルが僕を守っおくれたように」

    「  君を守るっお決めたんだ」

    その蚀葉がココの心に深く入り蟌む。

    「  あ」

    胞の前で握られた手に力が入る。

    パックが続ける。

    「  僕がここにいたら、君を危険にさらす」

    「それだけは、したくない」

    「倧䞈倫、心配ないよ」

    「  」

    「  元に  戻るだけさ  」

    ココの口が開く。

    だが蚀葉が出おこない。

    心の䞭で同じ蚀葉が繰り返される。

      行かないで

      私にも、守らせお

    パックはすでに“ココのナむフ”を腰に着けおいた。
    それをココに芋せお“本圓の笑顔”を浮かべた。

    「———倧切に䜿うよ。トヌルのナむフは、ココに預けるから」

    パックはココの衚情を芋お、気持ちを察した。

    パックは笑っお蚀った。
    トヌルならきっず、こう蚀うはずだ。
    「———光栄だなっお」

    そう蚀い残し、パックは郚屋を出おいった。

    ココはひずり、郚屋に残された。

    そしお、ココは目を閉じた。
    涙が頬を぀たい、萜ちた雫が床を濡らした。

    第049話ココ線【  倉なのに、声かけちたった  】

    王郜ぞ“入る”のは䞀筋瞄ではいかないが、“出る”のは簡単だった。

    門番も、去る者には“守りの手”は差し䌞べなかった。

    パックは王郜を芋枡せる高台たで来た。

    ココのナむフに觊れる。

    䞀床振り返る。

    「  ココ、ありがずう」

    屋敷を出る前に、執事長から“旅の必需品”を枡されおいた。

    パックは力匷い足取りで、王郜を埌にした。

    パックの向かう先は“北郚方面”だった。

    “アヌラ”の蚀葉を思い出す。

    「  たた、ここに来れば䌚えるだろ」

    目指すは玄束の堎所。

    リンゎ林。

    やがお、倪陜が倩頂から傟き始める。

    パックは朚陰の岩に座っお干し肉を霧っおいた。

    するず、行商人の銬車が目の前を通りかかった。

    行商人は、身なりの貧しい少幎を䞀瞥する。
    だが、通り過ぎようずした時、腰に着けたナむフに目が止たる。

      䞊等なナむフだな  刻印入り

    金を持っおいそうには芋えないが  

      䞀応、声かけおみるか

    「こんにちは、䞀人旅ですか」

    パックが顔を䞊げた。

    「  こんにちは」

    行商人は続ける。

    「どちらたで行かれるんですか」

    パックが返答に困る。

    「  えっず、北郚方面  です」

    「北郚方面ですか。今、向こうは“翌の魔族”が出たすから。気を぀けおください」

    「——」
    パックが“翌の魔族”に反応する。

    「ちょうど良い歊噚がありたすが、ご芧に———」

    行商人がそう蚀いかけるずパックが被せた。

    「———“翌の魔族”を知っおるの」
    「知っおるこずを、聞かせおください」

    行商人が気圧される。

    「  」

    「  ええ、もちろん知っおいたす」
    行商人はほくそ笑む。

    「  ですが、私は商人なので“ただ”で教えるわけにはたいりたせん」

    パックの腰のナむフを芋る。

    行商人は安物のナむフを差し出す。
    「そちらのナむフず私のナむフを亀換しおいただければ、お教えしたしょう」

    「——えっ」
    パックの動きが止たる。

    ナむフを倧事そうに手で芆う。
    「  これは、ダメなんだ」

    「お金なら持っおるよほら」

    じゃらっず音をさせお巟着を芋せた。

    行商人が驚く。
    「———」
      こい぀バカか有り金党郚芋せるや぀があるか

    しかし、“翌の魔族”ぞの食い付きが異垞だな  “仇”か

      これは、カモれるな

      吹っ掛けおみるか

    「  はい、珟金でも結構です」

    「ですが、芋たずころ装備が少々心もずないかず  」

    「装備品ずたずめおお買い䞊げいただければ、お安くいたしたす」

    「  いかがでしょうか」

    行商人が笑う。
    「  ご予算は  いかほどでしょうか」

    パックが無防備に巟着を開く。

    「———っ」
    行商人は目を芋開いた。

    巟着の䞭身に聖金貚が芋えた。

      おいおいおい、マゞかよ。貎族様のお忍びか

      いや、喋り方がおかしい

      䜕なんだコむツは  

    パックが顔を䞊げる。
    「  僕、蚈算が苊手なんだ。数えおくれる」

    そう蚀っお巟着を差し出した。

    「バカっ、やめろっ」
    行商人は思わず口を抌さえる。

    パックが驚く。
    「えっ、ダメ」

    行商人がむラ぀く。
    「  そうじゃねぇ、今すぐ閉めろ」

    「  有り金芋せるや぀があるか  ったく」

    「  」

    「北郚方面っお蚀ったな」

    「俺も同じ方向だからよ」

    「  」

    「  その金、俺に預けおくれたら、連れおっおやるっお蚀ったら、どうする」

    「———ほんずありがずう」
    パックがたた笑顔で巟着を差し出した。

    「  」
    行商人は額に手を圓おた。

    「  ダメだこい぀  」

    ———その数奇な巡り合わせは、誰が導いたのか  二人の間に、䞀筋の颚が通り抜けた。

    第050話ヘル線【  コむツ、䜕者だ】

    行商人が玠の顔になる。
    「俺は“ヘル”、お前は」

    パックが右手を差し出す。
    「パックスだよ。パックっお呌んで」

    ヘルは差し出された右手を芋る。
    「  パック、ね」
      もう少し譊戒しろっおの

    そしお、握手した。

    顎で合図する。
    「乗っおいいぞ、でもな“ただ”じゃねぇぞ埌で請求するからな」

    パックが笑顔になる。
    「わかった、ありがずう」

    亀枉は成立したが、ヘルは玍埗いっおいない。
    「  おい、いくらか聞かねえのか」

    パックがポンず手を叩く。
    「そっか、いくらなの」

    ヘルはやはり、玍埗いかない。
    「  埌で、請求する」

    「  」

    「次の町で、飯奢っおくれよ」

    「よろしくな、パック」

    パックが䞍安そうに財垃を芋る。

    「  足りるかな」

    「足りるだろ」
    ヘルが思わず突っ蟌んだ。

    「  はぁ」

    しばらくの沈黙。

    「  お前、出身どこよ」

    パックの顔が曇る。
    「  僕の村は、もう無いんだ」

    ——“無くなった村”を知らない倧人はいなかった。

    「  」

    「  そうか、すたなかったな」

    「  じゃあ、“翌の魔族”は  仇、なのか」

    「  」
    パックは答えられなかった。

    ヘルは勝手に察した。
    「  聞いお悪かったな」

    そしお、話題を倉えた。

    「お前、剣は䜿えるのか」

    パックは肩をすくめた。
    「  少しだけ」

    ヘルは前を向いた。
    「  少し  か」

    「  魔族なんざ、党郚ク゜だがな」

    「  悪いこずは蚀わねえ。仇蚎ちは、やめずけ」

    「  ろくな終わり方、しねぇぞ  」

    パックは俯いた。

    「  うん」

    ヘルが西の空を芋る。

    「  今日は野宿だな」

    ヘルは、これから䞀緒に野宿する盞手が、倧金を持っおいるこずに気づく。

    倧きく喉を鳎らした。

    きょろきょろず蟺りを芋たわした。

    ヘルは恐る恐る確認した。

    「  お前、その金、誰かに芋せたこずあるか」

    パックが銖を振る。
    「無いよ。なんで」

    ヘルは、ちょっずむラっずした。
    「なんでじゃねえよ  ったく」

    「財垃、もう䞀個売っおやるから、その金、分けお持およ」

    パックが玠盎に頷く。
    「その方がいいなら、そうするよ」

    ヘルが溜め息を぀く。
    「そういうずこだぞ  お前」

    パックが慣れた手぀きで、火を“すんなり”ずおこす。

    “誇り高い火”のおかげだ。

    それを芋たヘルが感心する。
    「  倧したもんだな」

    「  でもよ、なんかさっきから  䞍穏な気配がしねえっ぀うかさ」

    「  い぀もず違うんだよな  」

    「  獣の気配もねぇし、お前、トヌル様の護笊ずか持っおるのか」

    パックは少しだけ目を䌏せお、苊笑いした。

    ヘルは皮肉を蚀った。
    「  俺には買えねぇ代物だがな」

    ———パックの野宿は、粟霊たちが党力で守っおくれおいた。

    ヘルがそれを、知るこずはなかった。

    第051話ヘル線【良いもん食わしおもらうぜ】

    ヘルは星を芋䞊げた。

    「パック、お前、知らなそうだから教えおやる」

    「あのな、俺たち行商人は——あの星を目印にしおる」

    北の空を指差した。

    「あの星はな、あそこから動かねぇ」

    「迷っおも、あれ芋りゃ戻れる」

    「  」

    パックは䜕も蚀わなかった。

    その星を、すでに知っおいた。

    同じこずを、昔——教えおくれた人がいる。

    パックはもう䞀぀、星を探した。

    それは“雷神の星”だった。

    ———翌朝

    ヘルは目を芚たすず、熟睡しおいたこずに気づいた。

    ヘルはぞっずした。

    野宿は危険が䌎う。

    だから、眠りが浅くなるのは普通のこずだった。

    パックを芋るず、すでに起きおいお、焚き火に枯れ枝をくべおいた。

    「  あ、おはよう」

    緊匵感がない。

    ヘルはパックの朝の挚拶に気が抜けた。

    ヘルは頭を掻いた。
    「  調子狂うぜ」

    次の瞬間、ヘルは目を疑う。

    ——パックが朚の枝を霧っおいた。

    「  お前、䜕しおんだ」

    パックが口を拭う。

    「歯磚きだよ」

    ヘルが同情する。

    「  お前、苊劎しおんだな」

    パックが別の枝をヘルに枡す。

    「やっおみる矎味しいよ」

    ヘルが“矎味しい”に反応する。

    「  䜕だず」

    半信半疑で、枝を受け取り、異垞がないかぐるりず確認する。

    そしお、意を決しお霧った。

    「———」

    「  䜕だこれ、矎味ぇ  」

    パックが笑った。

    「歯茎が腫れにくくなるよ」

    ———出発前

    パックが焚き火の跡を䞁寧に片付けおいた。

    ヘルは少しだけため息を぀いた。
    「  火皮は消したし  そのたたでいいだろ」

    パックが焊る。
    「ごめん、すぐ終わるから」

    灰を埋めお痕跡を消した。
    トヌルの教えだった。
    そしお、ヘルの銬車に飛び乗った。

    銬車が䞀定のリズムでのんびり進む。

    その音だけが響いおいた。

    ヘルは前を向いお、黙ったたた手綱を握っおいた。

    パックの野営の知識、立ち居振る舞い、そしお所持金の倚さ。
    考えるほど、釣り合いがおかしかった。

    「  なぁパック、お前、䜕者なんだ」

    パックが返答に困る。

    「  戊灜孀児だったんだ」

    「  良い人に助けおもらっお」

    パックは空を芋䞊げた。
    「——でも、旅に出なきゃいけなくなったんだ」

    「  このお金は、その人が持たせおくれたんだ」

    「必芁になるからっお」

    ヘルはそれ以䞊聞かなかった。

    同時に、金を奪わなくお良かったずも思った。

    「———だったらさ、なおさらその金、倧事に䜿えよ」

    「すぐに他人を信甚するな」

    「  痛い目みるのは自分なんだからよ  」

    パックは頷いた。
    「  わかった、ありがずう」

    䞘の䞊たで来るず、遠くに村が芋えおきた。

    ヘルが䌞びをした。

    「  パック、“奢り”の件、よろしく頌むぞ」

    ——ヘルの錻歌が街道をなぞっおいった。

    第052話ヘル線【たぁ、良いか】

    ———村に到着した。

    村は街道沿いにあり、宿屋や飲食店などが倚かった。

    ヘルは到着するずすぐ、村長に販売蚱可をもらいに行った。

    王郜で仕入れた品は、地方でよく売れる。

    そしお、地方の特産品を王郜で売り、生蚈を立おおいた。

    戻っおきたヘルは、すぐに出店の準備を始めた。

    パックは財垃を甚意しお埅っおいた。

    「あれ 食べに行かないの」

    ヘルは䜜業を続けながら答えた。

    「品物は“鮮床が呜”だからな」

    「ここで食えそうなもん、適圓に買っおこい」

    「任せおよ」

    じゃらっず掟手な音をさせお、パックは財垃を取り出した。

    ヘルがツッコむ。

    「  埅お。小さい方の財垃で行け」

    パックは頭をかいた。

    「あ、そっか」

    ヘルは盛倧にため息を぀いた。

    ——数分埌

    パックが、すごい数の䞲焌きを買っお戻っおきた。

    「おたけしおくれたよ」

    ヘルの肩が萜ちる。

    「  お前、それ、買わされたんだよ」

    「  ったく」

    隣の露店の店䞻が「景気が良いな」ず笑い、パックから䞲焌きを数本買っおくれた。

    だが、二人で食べるにはただ倚かった。

    ヘルは、子連れの客の子どもに残りの䞲焌きをサヌビスし、その芪に商品を買わせた。

    パックは、ヘルの機転を暪から芋おいた。

    ——そしお、日が萜ちおくる。

    呚りの露店も、ぜ぀ぜ぀ず店じたいを始めおいた。

    ヘルはふず、ゎミ箱の䞭に捚おられた倧量の䞲に目を留めた。

    笑いが蟌み䞊げおくる。

    「  クッ」

    「  ハハッ、ったくよ」

    「  初日にしおは、たあたあだったな」

    ヘルも店じたいを始めた。

    ———

    ヘルは、前から行っおみたかった店に足を運んだ。

    店番をするずきの、“よそ行きの服”を着おいた。

    パックの栌奜が少し気になったが、“たあ、倧䞈倫だろう”ず楜芳芖しおいた。

    カラン、ずドアの鈎が鳎る。

    腕にナプキンを掛けた店員が、二人を迎えにきた。

    「いらっしゃいたせ」

    「  お二人、で、よろしいですか」

    店員は笑顔のたた、パックを芋た。

    ヘルは“よそ行き”の口調で答えた。

    「ああ、テラス垭、空いおたす」

    店員はかしこたった。

    「あいにく、テラス垭は満垭でしお。店内のお垭でしたらご案内できたすが、いかがなさいたすか」

    ヘルは軜く頷いた。

    「じゃあ、店内で良いよ」

    「  こちらぞ」

    店員は手のひらを向けお案内した。

    店員はヘルの怅子を先に匕いた。

    ヘルが座る。

    続いお、パックの怅子を匕いた。

    パックは膝の裏に怅子が圓たり、よろけながら座った。

    そしお、店員にお瀌を蚀った。

    「ありがずう」

    するず、隣の垭の“身なりの良い客”が、聞こえるように呟いた。

    「  この店は乞食が来るのか」

    「料理の匂いが台無しだな」

    ヘルが舌打ちする。

    「  チッ」

    パックを芋るず、テヌブルに䞊ぶカトラリヌをたじたじず芋぀めお、気づいおいなかった。

    「パック、やめだ。別の店にするぞ」

    そう蚀っお、入り口ぞ向かう。

    「えっ なんで 来たかったんでしょ」

    パックは急いで立ち䞊がった。

    ヘルは振り向いお、肩をすくめた。

    「  気が倉わった。もっず気楜に食べたくなっおな」

    「行くぞ。぀いおこい」

    ヘルは黙っお前を向いたたた歩いた。

    パックはヘルの方をちらちらず芋ながら歩いた。

    倜颚が、少し冷たく感じた。

    ヘルは居酒屋の前で足を止めた。

    そしお、芪指で店を指した。

    「ここ、矎味ぇからよ。入るぞ」

    パックは店の看板を芋た。

    「僕、お酒飲めないよ」

    ヘルが笑う。

    「バヌカ、酒以倖もあるっ぀うの」

    「酒を飲たせるための店だからな。料理は栌別だ」

    「  ミルクもあるぞ」

    ヘルは、歯を芋せお笑った。

    パックも぀られお笑顔になる。

    「じゃあ、それにする」

    二人は店に入った。

    自分たちで怅子に座った。

    ヘルはどかりず座り、足を組んだ。

    店員を呌び、酒ずミルク、それから料理をいく぀か泚文した。

    二人は、届いたゞョッキずミルクのコップをぶ぀けた。

    ヘルは酒を思いっきりあおった。

    食道が熱くなった。

    そしお、肺の空気党郚が、ため息になった。

    ——その日の酒は、栌別だった。

    第053話ヘル線【蚈算  嫌い】

    小さめの村では、四日目にもなるず、埐々に客足が遠のいた。

    「  がちがちだな」

    ヘルは北の方角を芋た。

    「明日、次の村ぞ出発するぞ」

    パックの耳には、ヘルの声が入っおいなかった。

    指を折っお数えおいる最䞭だった。

    「おい、間違っおる。やり盎し」

    「ヘルが話しかけるからだよ  」

    パックはぐったりしおいた。

    毎日、お金の蚈算をさせられおいた。

    だが、少しず぀理解しおいるようだった。

    そしお、自分の所持金の倚さに驚いおいた。

    その額は、ヘルが売っおいる商品の倀段を倧きく䞊回っおいた。

    パックは南の方角を芋た。

    ココ  ありがずう

    パックがハッずする。

    ヘルに、恐る恐る聞いた。

    「  蚈算、銬車でもやるの」

    ヘルはパックをゞロリず芋た。

    そしお、すぐに笑顔になった。

    「銬車は、勘匁しおやる」

    パックからため息が挏れた。

    そしお、間違えた蚈算をやり盎した。

    ——翌日

    パックはい぀もより早く目芚めた。

    今日は“お勉匷”が䌑みだからだ。

    パックは荷物の積み蟌みを手䌝った。

    二人は、銬車を預けおいた店の䞻人に挚拶し、出発した。

    「  なあ、パック。北郚方面のどの蟺りに行くんだ」

    パックは少し考えた。

    「  リンゎ林、だね」

    ヘルはパックの方を向いた。

    「  はぁ んなずこ、䜕の甚があんだよ」

    パックは苊笑いした。

    「あはは  その近くに、お䞖話になった人がいるんだ  」

    「  玄束したから  」

    ヘルは䜕気なく聞いた぀もりだったが、“リンゎ林”ずいう蚀葉が少し匕っかかっおいた。

    パックはよく、䜕かを探すように空を芋おいた。

    地面に翌の圱が走るず、すぐに芋䞊げた。

    ——そしお、“翌の魔族”ぞの食い぀き。

    ヘルは、それが気になっおいた。

    商人をしおいるず、自然ず掞察力が身に぀く。

    客がどの蚀葉に反応するか。

    そのわずかな挙動を読むこずが、売り䞊げに盎結するからだ。

    ただ、そんな自分に疲れるずきもあった。

    鈍いたた生きられたら、さぞかし楜だろうず思うこずもあった。

    パックが䜕かを隠しおいるのは分かった。

    だが、それが䜕かは分からない。

    パックがのらりくらりず、話をはぐらかすからだ。

      はぁ、分からないふりは疲れるぜ  ったくよ

      やっぱり、“翌の魔族”が関係しおやがるのか  

      魔族のやろう、パックに䜕しやがったんだ

      人に䌚うっお蚀っおたが、そい぀は生きおるのか

      分からん

    ヘルは、䜕床目かも分からない舌打ちをした。

    小さな違和感が、頭の䞭に匕っかかり続けおいた。

    それが、じわじわず圢になっおいく。

    気づけば、そんな自分にいら立っおいた。

    そしお、ヘルは考えるのをやめた。

    「そういえばさ、魔族に寝返った人間の噂、知っおるか」

    「ずんでもねぇ野郎だよな」

    ヘルは話題を倉えた぀もりだった。

    パックの動きが止たる。

    「  うん、知っおる」

    ヘルはパックの反応を芋おしたった。

    「  」

    「  たぁ、ただの噂だしな」

    「  」

    銬車の音だけが、やけに倧きく聞こえた。

    ———ヘルはたた、考えるのをやめた。

    第054話ヘル線【私が、守る】

    ———王郜

    パックが屋敷を出お間もなく、教団から掟遣されおきた䜿甚人に動きがあった。

    その目的は、パックの郚屋ず屋敷の倉庫を捜玢するこずだった。

    だが、パックは“痕跡”を消す術をトヌルから教わっおいた。

    パックの郚屋からは、䜕も出おこなかった。

    屋敷の倉庫も執事長が管理しおおり、怪しい物は保管されおいない。

    問題なのは——

    ココの郚屋に保管されおいる、“トヌルのナむフ”だった。

    トヌルの生前、ココは圌ず䜕床か顔を合わせおいた。

    だが、“譲り受けた”ずいう説明をするには、ナむフがかなり䜿い蟌たれおおり、二人の関係を考えるず少し䞍自然だった。

    決定的な蚌拠ではない。

    それでも、教団に“疑念”を抱かせるこずになる。

    ——それは、避けるべきだった。

    パックの郚屋ず倉庫から䜕も出おこなかった以䞊、䜿甚人は捜玢の手を広げる必芁があった。

    だが、執事長の管理に隙はなく、捜玢は難航しおいた。

    䜿甚人はココの郚屋の前で、巊右を確認した。

    そしお、ドアノブに手を䌞ばした。

    ———その時

    廊䞋の角から、声がかかった。

    䜿甚人の手が止たる。

    声の䞻は、執事長だった。

    「ココ様の郚屋は、蚱可された者以倖は入れたせんよ」

    「  ココ様は留守䞭のはずですが、䜕かご甚ですか」

    䜿甚人の声がうわずった。

    「郚屋の掃陀を、ず思いたしお。知らずに倱瀌いたしたした」

    「  」

    執事長は、その堎で沈黙した。

    ただ、目だけは䞀切そらさなかった。

    䜿甚人は軜く頭を䞋げ、ココの郚屋を埌にした。

    廊䞋の角を曲がるたで、背䞭に芖線を感じおいた。

    ——この䞀件を知ったココは、それ以来、トヌルのナむフを手攟さなくなった。

    結局、ココの屋敷からは䜕も出おこなかった。

    やがお捜玢は打ち切られ、掟遣されおきた䜿甚人は静かに姿を消した。

    だが、それは疑いが晎れたこずを意味しなかった。

    極めお小芏暡ではあるが、教団は“ココの屋敷にいた少幎”の捜玢に乗り出した。

    ———街道を進む銬車

    ヘルは、たたパックに小蚀を蚀った。

    「なあ、その高そうなナむフだけどよ。あんたり他人に芋られないようにしろよ」

    「金持っおるっお思われるず、面倒だからよ」

    パックは玠盎に聞き入れた。

    「うん、分かったよ」

    そう蚀っお、䞊着に隠れる䜍眮ぞナむフを着け盎した。

    第055話ヘル線【  俺は、結構本気で蚀ったんだぜ】

    ———䞊空

    倧きな翌の圱が、リンゎ林を走った。

    その圱は䞊空をゆっくりず旋回し——

    ふわりず地䞊に舞い降りた。

    そしお、リンゎを遞り奜みした。

    最も色艶が良く、赀みの匷いものを遞び、倧きなクチバシでむしり取った。

    翌の魔族にずっお、リンゎ林は“玄束の堎所”だった。

    もう䞀床、人間がいないか、トサカで呚囲をスキャンした。

    トサカが振動し、“人には聞こえない音”が呚囲をなぞる。

    だが、玄束した者の茪郭は、今日も芋圓たらなかった。

    リンゎを次々ずむしり取った。

    そしお、腹が満たされるず倧きな翌を矜ばたかせ、飛び去っおいった。

    そのルヌティンが、途切れた日は䞀床もなかった。

    ——北郚地方のずある村

    パックずヘルは店じたいを枈たせ、次の村ぞの出発準備を終えた。

    この村で䞖話になった“隣の店の䞻人”にも、二人で挚拶をした。

    そしお、村を出発した。

    ——その日の倕方

    “隣の店の䞻人”が片付けをしおいるず、教団兵士に声をかけられた。

    聞かれたのは——

    “䞀人旅をする少幎の目撃情報”に぀いおだった。

    “隣の店の䞻人”は手を止め、顎に手を添えた。

    「  さあ、心圓たりはないな。すたんね」

    ——ヘルの銬車

    「お前、蚈算、だいぶ慣れおきたじゃねぇか」

    ヘルが珍しく、パックを耒めた。

    パックは肩をすくめた。

    「  毎日やらされおるからね」

    そう蚀いながらも、どこか埗意げだった。

    ヘルも埗意げに笑った。

    「ハハッ、埌で俺様に感謝する時が来るぞ」

    「  」

    ヘルはパックず出䌚っおから、今日たでのこずを思い出した。

    「どうだ。商人になるなら、匟子にしおやるぞ」

    パックは笑顔になり、芖線を萜ずした。

    「  それは倚分、無理かな  」

    ヘルの笑みが、わずかに匕き぀った。

    「  ハハッ  本気にすんな」

    「  」

    やがお、二人の圱が長くなっおきた。

    次の村が、遠くに芋え始めた。

    「  野宿は必芁なさそうだね」

    「  だな」

    ヘルの折り返し地点ずなる村が、ゆっくりず近づいおいた。

    「  なぁ、パック。俺は、あの村から北には行かねぇんだ」

    「  えっ」

    パックはヘルの方を向いた。

    ヘルは前を向いたたた続けた。

    「だからよ、あの村でパァッず景気良くいかねぇか」

    「割り勘でよ」

    ヘルがパックに向き盎り、ニカッず笑った。

    パックは吹き出した。

    「  そこは、“俺の奢り”じゃないの」

    ヘルは指を暪に振った。

    「銬車の代金だよ。それでチャラにしおやる」

    「  」

    パックが真顔になった。

    「  やっぱり、僕が出すよ」

    「  割り勘でいいっお」

    「  ヘルがいなかったら、ここたで来るの、倧倉だったし」

    「  あず、蚈算教えおくれたし」

    「楜しかったし」

    パックの声が、ひずきわ倧きくなった。

    ヘルの胞に、䜕かが蟌み䞊げおきた。

    頬が匕き぀るのを止めるために、パックの蚀葉を遮った。

    「わヌったよ」

    「  じゃあ、お前の“奢り”な」

    「  だがな、金は倧事に䜿えよ」

    パックが真顔で蚀った。

    「だから“奢る”んだよ」

    「えっず  先行投資 でしょ」

    「——」

    ヘルは思わず、パックに向き盎った。

    「  」

    「  蚀うじゃねぇか。投資なら、利益を返さねぇずな」

    「  俺のこず、忘れんなよ」

    パックは拳を突き出した。

    ヘルの目が䞞くなる。

    「  生意気だな」

    ——二人は拳を圓おた。

    「  すぐには出ねぇんだろ」

    「  店、手䌝えよ」

    「分かった」

    ——二人の旅の終着点は、もう目の前たで迫っおいた。

    第056話ヘル線【  お前、本圓に䜕者だ】

    ——村に到着した。

    ただ日は沈んでいなかったため、ヘルは営業蚱可だけを取りに行った。

    その埌、二人は宿を探した。

    宿の䞻人が宿垳を確認する。

    「個宀ず  二人郚屋、どちらも空いおたすね」

    「盞郚屋でいいだろ。安いし」

    ヘルは迷わずに決めた。

    郚屋に入るず、ベッドにどさりず仰向けになった。

    「  メシ、どうすっか」

    「んヌ  ヘルは䜕食べたい」

    パックは倩井を芋䞊げおから、ヘルの方を向いた。

    「  今日は、軜く枈たせるか」

    ヘルは頭の埌ろで手を組み、倩井を芋぀めた。

    二人は食事を枈たせ、郚屋に戻った。

    「  」

    互いに目を合わせなかった。

    「  明日も早いし、寝るか」

    「  うん」

    







    





    



    「  」

    ヘルが詊すように話しかけた。

    「  起きおるか」

    「  なに」

    パックも起きおいた。

    ヘルが続けた。

    「お前、リンゎ林に行けば、“玄束の人”に䌚えるのか」

    パックが寝返りを打った。

    「  倚分」

    「  」

    ヘルの返事が少し遅れた。

    「  そうか」

    「  䞀人で平気か」

    パックが答えた。

    「倧䞈倫」

    ヘルも寝返りを打ち、パックに背䞭を向けた。

    「  なら、良かった」

    「  」

    二人は黙ったたた、しばらく眠れなかった。

    ——翌朝

    二人は店の準備を始めた。

    い぀もず同じ流れだった。

    やがお、倪陜の䜍眮が高くなっおきた。

    ヘルはパックに、昌食の“お䜿い”を頌んだ。

    い぀も通りだった。

    ヘルが䞀人で店番をしおいるず、教団兵に声をかけられた。

    明らかに客ではなかった。

    どこか、嫌な感じがした。

    ヘルはひずたず、話を聞いた。

    “䞀人旅をしおいる少幎”を探しおいる、ずいう内容だった。

    「  」

    ヘルは顎に手を添えた。

    少し考える玠振りを芋せる。

    「  」

    「  芋た気がするな」

    「  知っお、どうするんだ」

    「  」

    教団兵は黙った。

    ヘルは䜜り笑いを浮かべた。

    「  あず、俺は商人なんでね」

    そう蚀っお、貚幣を入れる箱を指した。

    教団兵が貚幣を入れた。

    「たいど、どうも」

    「南の分岐点で芋た気がするな  そこから西の村ぞ向かったず思う」

    「  その埌は知らねぇ」

    ヘルは教団兵から芖線を倖した。

    教団兵は、そのたた立ち去った。

    しばらくしお、パックがサンドむッチを抱えお戻っおきた。

    ヘルは銎れ銎れしくパックの肩に手を回した。

    そしお、耳元で囁いた。

    「  お前、教団に远われおるのか」

    パックの肩が跳ねた。

    「  」

    「  昌は動くな。今日の倜、出発しろ」

    「  教団には嘘の情報を枡しずいたからな。感謝しろよ」

    「  」

    拳でパックの肩を軜く叩き、そのたた拳を突き出した。

    「  」

    パックはゆっくりず拳を圓おた。

    その日、二人はあたり話さなかった。

    やがお、人通りがたばらになった。

    店の片付けを枈たせ、宿ぞ戻った。

    「  」

    ——そしお、二人は宿でグラスを軜く圓おた。

    音は、小さかった。

    二人は他愛もない話をした。

    「  」

    少しの沈黙のあず、パックが立ち䞊がった。

    「  」

    ヘルはベッドに腰掛け、グラスを芋぀めおいた。

    「  楜しかったぜ」

    「  たたな」

    パックが最埌の荷物を背負った。

    「  ヘル、ありがずう」

    「  たた、どこかで。きっず」

    ヘルは䜕も蚀わず、倩井を芋䞊げたたた、右手を䞊げた。

    ——静かな別れ。

    そしお、パックは倜の闇の䞭ぞ、歩を進めた。

    第057話ヘル線【  手数料は匕かせおもらうぜ】

    ———パックは街道を倖れ、森の䞭を進んだ。

    倜の森には、音が溢れおいた。

    葉を螏む音が、倜の森にかき消された。

    もう、隣にヘルはいない。

    だが、足取りは重くなかった。

    “寡黙な土”が足元を固め、

    “優しい光”が月明かりで足元を照らしおくれた。

    パックは䞀人じゃなかった。

    ——そしお

    玄束を繋ぐのは、“音”。

    パックは真っ盎ぐに、リンゎ林ぞず向かった。

    ——宿屋

    ヘルは酒を泚いだ。

    ちびりず飲んだ。

    味がしなかった。

    りむンナヌを霧る。

    今床は、酒を喉に流した。

    やっず、味がした気がした。

    だが、ぜっかりず空いた穎は、酒ず぀たみでは埋たらなかった。

    「  明日からは、䞀人郚屋だな」

    そう呟いた。

    鞄から、䞀本の枝を取り出した。

    皮を少し剥いお、霧った。

    少し甘い、ハヌブの味がした。

    「  ハハッ、これ、売れるかもな」

    たたりむンナヌを霧る。

    枝の味が混ざり、顔をしかめた。

    笑いが蟌み䞊げおきた。

    「ハハッ」

    「  ありがずう、か」

    「倧したこずしおねぇっ぀うの」

    明日からは䜿いっ走りがいないこずに、改めお気づいた。

    「  ありがずうは、俺の方だったか」

    その倜は、い぀もより独り蚀が倚かった。

    ———翌朝

    パックは川の氎で顔を掗った。

    氎面に、自分の姿が映った。

    芖線が、氎底ぞず吞い蟌たれた。

    その時、翌の圱が暪切った。

    咄嗟に空を芋䞊げた。

    アヌラだったら、通り過ぎるわけがない。

    そう思った。

    小川に沿っお、北䞊した。

    川のせせらぎや鳥の声、“森の音”が少し懐かしく感じた。

    䞀床立ち止たり、ココのナむフを抜いた。

    朝日が、刃に反射した。

    そしお、ゆっくりず鞘に戻した。

    ———王郜

    ココは、日課である朝の瀌拝に向かった。

    支えおくれる人たちぞ感謝し、トヌルを远悌し、そしお“パックの無事”を祈った。

    パックが䜿っおいた“トヌルのナむフ”に觊れた。

    服の䞭のナむフは、枩かかった。

    瀌拝を枈たせ、教䌚を出た。

    以前ほど、“噂”を耳にするこずはなくなっおいた。

    子連れの芪子に声をかけられ、元気をもらった。

    ココはその日も、前を向いお歩いた。

    ———䞊空

    アヌラは、トサカで呚囲をスキャンした。

    人間が近くにいないこずを確認した。

    そしお、パックの“茪郭”は、今日も芋぀からなかった。

    それでもアヌラは、毎日リンゎ林ぞ通った。

    ———ヘルの露店

    ヘルは、歯磚き甚の枝の実挔販売を始めた。

    ——枝を霧る商人がいる。

    そんな噂が、巷で話題になっおいた。

    客の前で、実際に枝を霧っお芋せる。

    「歯茎が腫れにくくなりたすよ」

    倧・䞭・小。

    曲がったものや、真っ盎ぐな枝。

    さたざたな䜿い方を実挔した。

    元手は、“ただ”だった。

    綺麗に敎えお、商品化した。

    それは、飛ぶように売れた。

    「  先行投資、されちたったからな」

    売り䞊げの䞀郚は、プヌルされた。

    ——“発案者”ぞず還元するためだった。

    第058話ココ線【  ん臭うな】

    ———䞊空

    反響音が、人間の茪郭を捉えた。

    ——翌の胞が跳ねた。

    もう䞀床、萜ち着いおその茪郭を芋た。

    人間は二人。

    だが、玄束の人物ではなかった。

    姿を芋られないよう、距離を取った。

    その日は時間をずらしお、出盎すこずにした。

    だが、腹は満たされおいない。

    翌は、別のリンゎの朚を探した。

    人の手が入ったリンゎの実ほど矎味いこずを、翌は知っおいた。

    だからずいっお、人に芋぀かる危険を冒すわけにはいかない。

    倜間は、人が少ない。

    翌は、倜でも飛ぶこずができた。

    食事を目的ずするずきは、倜間に行動するこずが倚かった。

    ———森の䞭

    パックが村を出おから、たもなく䞞䞀日が経ずうずしおいた。

    蟺りは、すでに暗くなっおいた。

    だが、森の䞭は静けさずは無瞁だった。

    虫の声、葉のざわめき、川の流れ。

    森は、さたざたな音で溢れおいた。

    ふず、“お節介な颚”が異倉に気づいた。

    “寡黙な土”は、パックの足元に気を配った。

    “優しい光”は、パックの足元を照らした。

    “冷静な氎”は、川の流れで音をかき消した。

    “慎重な闇”は、圱の存圚を闇に玛れ蟌たせた。

    ———粟霊たちは“異倉”を察し、䞀斉に沈黙した。

    パックは気づかないたた、歩を進めた。

    次の瞬間、パックの足元を圱が暪切った。

    身䜓が䞀瞬匷匵るほどの、倧きな圱。

    音もなく滑空しおきたその存圚は、䞀床だけ倧きく矜ばたき、前方の開けた堎所に舞い降りた。

    粟霊たちはそわそわした。

    パックの手が震えた。

    恐怖ではなかった。

    闇に䜇む、倧きな翌のシル゚ット。

    光る金色の目。

    次の瞬間、その圱が声を発した。

    「  小僧、生きおたか」

    パックは蚀葉を倱った。

    「  」

    「  小僧じゃないよ」

    アヌラが錻を鳎らす。

    「  埅たせすぎだ」

    パックは肩をすくめた。

    「  けっこう頑匵ったんだけどな」

    雲の切れ間から、月明かりが差した。

    アヌラの銖に、パックのマフラヌが巻かれおいるのが芋えた。

    「———」

    パックの足が、少しず぀速くなった。

    そしお、走り出した。

    アヌラは身を屈めた。

    パックは———

    その背䞭に飛び乗った。

    「  萜ちるなよ」

    アヌラは助走に入った。

    パックの身䜓が、埌ろに匕っ匵られた。

    アヌラは䞀瞬、身䜓を沈めお———飛び立った。

    アヌラは“荷物”の分だけ、力匷く矜ばたいた。

    懐かしくお、心地良い重さだった。

    パックの髪が、埌ろぞ流れた。

    緩やかに、巊旋回。

    倜空ぞ舞い䞊がる倧きな翌は、瞬く間に倧地を小さくした。

    二人は、しばらく黙っおいた。

    再䌚の颚を感じおいた。

    パックはふず、手綱代わりに握っおいたマフラヌを芋た。

    「  」

    そしお、匂いを嗅いだ。

    「  」

    「  これ、掗おっか」

    アヌラは無衚情で答えた。

    「  頌む」

    第059話ココ線【  成長したのは良いが、面倒だな】

    ———リンゎ林

    リンゎを摘み取ろうずしたアヌラが気配を感じ、振り返った。

    「  」

      この感じ、同胞か

      倧きいな

    アヌラは、パックに䌝えるか迷った。

      できれば、攟眮するのが埗策なんだが  

      小僧は攟っおおかないだろうな

      しかし、たた人間に芋られるず厄介だしな  

    パックが、アヌラの顔を芗き蟌んだ。

    「  どうかした」

    アヌラはパックに向き盎った。

    「  」

      小僧の勘が鋭くなっおる

      それずも、俺が態床に出しおいたか

    アヌラはパックの成長を煩わしく感じるず同時に、なぜか感動に䌌たものを芚えた。

    「  」

    「  萜ち着いお聞け」

    「  ただ距離はあるが、同胞の気配がする」

    パックの動きが止たった。

    「  」

    「  倒さなきゃ、ダメな感じ」

    アヌラは、パックの優しさにため息を぀いた。

    「  “壊れた同胞”に同情するな」

    「それよりも、行くのか」

    「  たた、人間に芋られるず厄介だぞ」

    パックは少し考えた。

    「  分かっおる」

    「  」

    「  でも、行かなきゃ」

    アヌラは、パックの成長を噛み締めた。

    「  たずは、状況を把握しに行く」

    「  どう動くかは、その埌だ」

    「  うん」

    パックは萜ち着いお頷いた。

    アヌラが䜓勢を䜎くした。

    パックは最埌にリンゎをもうひず霧りしお、アヌラの背に乗った。

    ———䞊空

    遠方に、巚倧な圱を捉えた。

      ズズン

    重い音が響いた。

    巚倧な魔族の埌方には、螏み朰された朚々によっお、森の䞭に道ができおいた。

    パックは目を芋開いた。

    「  倧きい」

    アヌラは、違和感を拭いきれなかった。

    「  」

      人間の集萜に向かっおいるのか   なぜだ

      小嚘は こっちに向かっおいるのか

      䞍確定芁玠が倚すぎる

    「  小僧、同胞は人間の集萜に向かっおいるようだ」

    「  ゆっくりだが、時間の問題だ」

    「たずは近づいお、俺が音で匕き぀けおみる」

    「合図をしたら、耳を塞げ」

    パックは喉を鳎らした。

    「  分かった」

    アヌラは慎重に翌を傟けた。

    「攻撃が来るかもしれん、しっかり掎たっおろ」

    亀の魔族を譊戒し぀぀、ゆっくりず距離を詰めた。

    “壊れた魔族”たでは、ただ距離があるはずだった。

    だが、その党容は容易に確認できた。

    呚りの朚々ずのサむズ感が、明らかにおかしかった。

    近づくに぀れ、地響きが聞こえおくる。

      ズズン

    十数メヌトルほどある朚々が、次々ず螏み朰されおいく。

    背を芆う甲矅ず尻尟の先には、鋭い棘のようなものが生えおいた。

    それは巚倧な亀のような姿をしおいた。

    アヌラは矜ばたかず、滑空したたた接近した。

    亀の魔族は森の朚々を優に䞊回る巚䜓だった。

    亀の魔族が銖を持ち䞊げ、アヌラたちを芖界に捉えた。

    アヌラは亀の魔族ず目が合い、党身に緊匵が走った。

    しかし、亀の魔族はアヌラから芖線を倖し、再び村の方向ぞ向き盎った。

    その行動に、アヌラは違和感を芚えた。

    目を现める。

      無芖、だず

      どういうこずだ

      目的があるように芋えるが  

      正面からは危険か  

    アヌラは譊戒し、亀の魔族の埌方ぞ旋回した。

    その時だった。

    倧きな颚切り音が、アヌラたちに襲いかかる。

    亀の魔族の長い尻尟が、朚々を薙ぎ倒しながら、アヌラたちぞ迫った。

    「———っ」

    アヌラの目が芋開かれた。

    無数の倧朚が飛んでくる。

    回避の軌道が、ない。

    ——避けきれない

    パックが息を呑んだ。

    「アヌラ——」

    第060話ココ線【自信が無くなるな  】

    「———っ」

    アヌラの目が芋開かれた。

    無数の倧朚が飛んでくる。

    回避の軌道が、ない。

    ——避けきれない

    パックが息を呑んだ。

    「アヌラ——」

    アヌラは即座に、䞊昇の軌道を取った。

    だが、迫る倧朚が芖界を埋めた。

    「——くっ」

    やはり、避けきれない。

    その時、“お節介な颚”が動いた。

    アヌラの翌が、匷い颚の力を受けた。

    揚力が䞀気に増した。

    颚を切り裂いお迫る倧朚が、アヌラの足先をかすめた。

    パックは恐る恐る顔を䞊げた。

    「  かわせたんだ  」

    「  颚さん、ありがずう」

    アヌラは舌打ちした。

      このサむズで、この速床  冗談だろ

    だが、亀の魔族はすでに興味を倱ったように、再び進行方向ぞ向き盎った。

      ズズン

      ズズン

    䜕事もなかったかのように、歩みを再開した。

    パックが震える声で蚀った。

    「  止めなきゃ  」

    アヌラが䜎く返した。

    「  やるぞ」

    高床を䞊げお旋回し、亀の魔族の頭郚ぞ向けお軌道を修正した。

    「  耳を塞げ」

    パックはぎゅっず目を閉じ、耳を抌さえた。

    次の瞬間。

    亀の魔族の銖が瞮んだ。

    「———っ」

    アヌラの背筋に、冷たいものが走った。

    アヌラは急旋回した。

    その盎埌——

    亀の魔族の銖が䌞び、巚倧な頭郚が猛スピヌドで襲いかかった。

    短いくちばしのような鋭い口が倧きく開き、アヌラの翌をかすめた。

    「——うわぁっ」

    パックがバランスを厩し、萜䞋した。

    アヌラはすかさずパックを咥え、距離を取った。

    アヌラが息を切らした。

      こい぀は、ただデカいだけじゃないな

    再び䞊昇した。

    パックを䞊ぞ攟り投げた。

    「——わぁっ」

    悲鳎を䞊げるパック。

    アヌラは萜ち着いお、パックを背䞭でキャッチした。

    パックの顔が青ざめる。

    「  心臓に悪い」

    亀の魔族は正面に向き盎り、たた進み出した。

    アヌラは少し考えおから、䞋降した。

    「  䜎空から森の䞭を飛んで、接近するぞ」

    パックは思わず聞き返した。

    「  えっ 朚を避けながら」

    「  それしかない」

    アヌラは有無を蚀わせず、森の䞭ぞ入った。

    目の前に迫る朚々を、瞫うように飛行した。

    パックはアヌラのアクロバット飛行に、喉をひゅっず鳎らし、䜓勢を䜎くした。

    アヌラは朚々を避けながら、トサカで呚囲をスキャンした。

    亀の魔族の頭郚の茪郭を、正確に捉えた。

    「  耳を塞げっ」

    パックは慌おお耳を塞いだ。

    アヌラの翌が、朚々ず平行になった。

    森を抜けた、その瞬間。

    亀の魔族の頭郚の巊偎に出た。

    アヌラはくちばしを倧きく開いた。

    その瞬間——

    ——ギィィィン

    アヌラのトサカが震え、空気が歪んだ。

    音が“塊”ずなっお、叩き぀けられた。

    森の朚々が震え、葉が䞀斉に散った。

    亀の魔族の偎頭郚に盎撃した。

    頭郚が右ぞ倧きく傟いた。

    亀の魔族は停止した。

    耳から出血しおいた。

    「——やった」

    パックが叫んだ。

    停止したはずの亀の魔族の銖が、ゆっくりず元の䜍眮ぞ戻った。

      ズズン

      ズズン

    歩みは止たらなかった。

    アヌラは目を现めた。

      効かない  か

    気絶させる぀もりだったんだがな  

    「もう䞀床やるぞ」

    トサカを振動させ、音を増幅させた。

    アヌラがくちばしを開いた。

    ———亀の魔族ず目が合った。

    「——っ」

    亀の魔族の銖が、瞬時に瞮んだ。

    頭郚が甲矅の䞭に収玍された。

    ———ギィィィィィィィン

    今床は地面が軋み、空気が悲鳎を䞊げた。

    だが——甲矅に防がれた。

    亀の魔族の頭郚が、再び顔を出した。

      ズズン

    歩みは、止たらない。

    パックが叫んだ。

    「アヌラ」

    アヌラは音攻撃を止めた。

    「  ダメだ」

    短く吐き捚おた。

      硬いずか、そういう次元じゃない

      どうする

    亀の魔族は、ただ前ぞ進んだ。

    たるで——

    人間たちの村を螏み朰すこずだけが、存圚理由であるかのように。

    パックの顔が匕き぀った。

    「  止たらない  」

    アヌラは䞀瞬だけ黙った。

    そしお——

    「———䞀旊、離れるぞ」

    即座に刀断した。

    「  これは、無理だな」

    その蚀葉に、パックの瞳が揺れた。

      ズズン

    その音が、焊燥を煜った。

    村ぞ到達するのは、時間の問題だった。

      このたたじゃ、村が  

    その時——

    粟霊たちがざわめいた。

    アヌラが振り返った。

    䞀頭の銬を駆る、小柄な茪郭を捉えた。

    アヌラが錻を鳎らした。

    「  やっず来たか」

    第061話ココ線【  正しいこずっお、䜕】

    粟霊たちがざわめいた。

    アヌラが振り返った。

    䞀頭の銬を駆る、小柄な茪郭を捉えた。

    「  やっず来たか」

      ドドドッ、ドドドッ

    銬の蹄のリズムが、蟺りに響いた。

    「  どうどう」

    手綱を匕く、少女の声。

    銬が䞀床、いなないた。

    亀の魔族から少し距離を取った堎所で、ココは銬から降りた。

    「  安党な堎所たで、離れおいなさい」

    そう蚀っお、銬の銖を撫でた。

    銬は理解したように、䜕床か振り返りながら静かに離れおいった。

    ココは銬を芋送るず、静かに振り返った。

    そしお、亀の魔族を芋䞊げた。

    「  倧きいだけじゃ、なさそうね」

    そう呟いた瞬間、䞊空に翌の圱を捉えた。

    「——っ」

    その翌には、芋芚えがあった。

    その背に乗る人圱も、知っおいる。

    胞の前で握った手に、力が入った。

    「  」

    「  無事で、よかった  」

      今床は私に、守らせお

    䞊空を飛ぶ翌が、降䞋しおくる。

    ココは涙を芋られぬよう、静かに拭った。

    颚が、翠の長い髪を揺らした。

    翌が砂埃を巻き䞊げ、舞い降りた。

    その背に乗っおいた人圱が、飛び降りる。

    駆け寄っおくる。

    「———っ」

    「  あ」

    ココは䞡手を広げそうになり、思いずどたった。

    パックが目の前で止たり、笑顔になった。

    「来おくれたんだね」

    「あの倧きいや぀、村に向かっおるんだ」

    「  でも、止められなくお」

    ココは、蟌み䞊げた感情を振り払った。

    「“来おくれた”は、私のセリフよ」

    「  アむツを止めるのは  私の䜿呜」

    「  」

    「でも、あなたがいるず心匷いわ」

    「二人で、倒したしょう」

    そう蚀っお、手を差し出した。

    パックは頷き、ココの手を握った。

    二人の心臓が、同じ錓動を打った。

    呌吞が溶け合う。

    二人の身䜓が、共鳎する。

    二人は亀の魔族を芋䞊げた。

    ココのオヌブぞ、䜕かが吞い蟌たれおいく。

    オヌブが光り茝いた。

    ———色が倉化する。

    “金色に茝く土”

    “玅に燃え盛る炎”

    “光を吞い蟌む闇”

    䞉぀の色が混じり合い、枊を巻いた。

    亀の魔族の足元に、叀代文字が浮かび䞊がる。

    それは魔法陣ぞず倉化しおいった。

    魔法陣ぞ、光が吞い蟌たれおいく。

    そしお、倧地が暗くなった。

    亀の魔族の足が、地面にめり蟌んだ。

    重力堎が狂い始め、巚倧な身䜓が重く沈んだ。

    やがお、土は灌熱のマグマぞず倉化した。

    亀の魔族の足が、飲み蟌たれおいく。

    マグマが、亀の魔族の鱗を焌いた。

    亀の魔族はもがいた。

    だが、身䜓が重く、思うように抜け出せない。

    苊痛の叫びが、森に響いた。

    その振動は、䞉人の心をえぐった。

    “お節介な颚”ず“冷静な氎”、“優しい光”は、ただ迷っおいた。

    ほんずうに、亀の魔族に救いの手はないのか  

    その答えを、出せずにいた。

    二床目の叫びには力がなかった。

    必死に足掻く魔族の姿を、粟霊たちはこれ以䞊芋おいられなかった。

    アヌラは黙っお、亀の魔族の冥犏を祈った。

    ココは、䞎えられた䜿呜の重さをただ受け入れた。

    だが、耐えられなかったのはパックだった。

    「  」

    「  こんなの、酷いよ  」

    「  魔族たちは、悪くないのに」

    ———その蚀葉が、粟霊たちを動かした。

    せめお、苊したせぬように  

    その盎埌——

    ココのオヌブが震えた。

    第062話ココ線【  芚悟を決めたはずなのに  】

    ココのオヌブが震えた。

    さらに、茝きを増した。

    ココは、繋いだ手から流れ蟌んだ䜕かが、身䜓の䞭心を通り、党身ぞず広がっおいくのを感じた。

    そしお、オヌブが色を倉え始めた。

    “光の癜”

    “氎の青”

    二぀の色が混ざり合い、枊を巻いた。

    亀の魔族の身䜓が、淡く茝いた。

    苊悶に歪んでいた衚情が、和らいだ。

    そしお、鳎き声が止んだ。

    だが、その光景こそ、最も残酷だった。

    亀の魔族は、ゆっくりずマグマに飲み蟌たれおいった。

    その光景を目の圓たりにした䞉人の䞭に、耐えられなかった者がいた。

    ——それは、䜿呜を受け入れたはずのココだった。

    肩を震わせ、倧粒の涙を流しおいた。

    ココの異倉に最初に気づいたパックは、繋いだ手に優しく力を蟌めた。

    手から䌝わる優しさに、ココの心が折れた。

    肩を瞮たせた。

    声が挏れた。

    そしお、ココはパックの胞で泣いた。

    パックは手を繋いだたた、もう片方の手を優しく肩に添えた。

    アヌラは二人の音を感じ、亀の魔族を少しだけ矚たしく思った。

    自分にも最埌があるずしたら、二人はここたで感情をあらわにしおくれるのか。

    アヌラには、ただ自信がなかった。

    だからずいっお、二人に䞋手に出るほど、自分を過小評䟡しおはいなかった。

    そしお、ココの様子を芋おため息を぀いた。

    「  小僧、小嚘に蚀っおやれ」

    「  お前の涙で、同胞は救われた——ずな」

    パックはココを抱きしめながら蚀った。

    「  ねぇ、ココ」

    「  アヌラが蚀っおる」

    「  ココの涙で、あの魔族は救われたっお」

    ココは肩を震わせたたた、䞀床だけ頷いた。

    やり堎のない感情を、涙で掗い流す方法しか芋぀からなかった。

    やがお、ココのオヌブからゆっくりず光が消えた。

    そしお、蟺りは静寂に包たれた。

    ココのすすり泣く声だけが、パックの耳にい぀たでも残っおいた。

    パックが憀った。

    「  こんなこずが、い぀たで続くんだ  」

    「  だが——劙だ」

    アヌラの䞭に、ひず぀の疑問が浮かび䞊がった。

    「  同胞が、人間の集萜に向かう理由が分からん」

    「  こい぀は、草食性の同胞だ」

    「  人間を襲う理由がない  」

    パックがアヌラを芋た。

    「  それっお、どういうこず」

    アヌラが続けた。

    「  蚀葉の通りだ。さっきの同胞は、人間を襲うはずがない」

    「  人間を、襲うはずがない」

    パックが、アヌラの蚀葉を繰り返した。

    ココの泣き声が止たった。

    「  どういう、こずなの」

    パックが通蚳した。

    「  さっきの魔族は草食性で、人間を襲うはずがないっお、アヌラが  」

    ココの目が芋開かれた。

    「——」

    「  䜕ですっお」

    「  でも、我を倱っおいるんでしょ」

    パックはココに向き盎った。

    「  うん」

    「  でもね、村に向かっおいたこずに違和感があるっお、アヌラが」

    「  村の人に、話を聞いおみるのが良いかも  」

    「  」

    ココは頬の涙を拭った。

    「  分かったわ」

    「二人は埅っおお」

    䞉人はリンゎ林で萜ち合う玄束を亀わした。

    そしお、パックずアヌラは飛び去っおいった。

    第063話ココ線【  トヌル様は、どこたで知っおいたの】

    ——亀の魔族が珟れた村

    避難しおいた村人たちが、埐々に戻り始めおいた。

    ——だが、その衚情に安堵の色はなかった。

    ココは村人たちに話を聞いた。

    だが、出おくるのは愚痎ばかりだった。

    結局、有力な情報は䜕ひず぀埗られなかった。

    ——䜕かを芋萜ずしおいるのか。

    ココの䞭には、疑念だけが残った。

    ——王郜、ココの屋敷

    王郜ぞ戻ったココは、たず執事長に盞談した。

    執事長の動きが止たった。

    「  ココ様、魔族が村ぞ向かう理由は、私にも分かりかねたす」

    「  」

    「  ですが」

    執事長の声が䜎くなった。

    「  ここからは、私の勘になりたすが  」

    「  この件は、教団には蚀わない方がよろしいかず存じたす」

    ココの空気が倉わった。

    「  私の方でも、叀い友人に圓たっおみたす」

    「  ココ様におかれたしおは、くれぐれも慎重にお願いいたしたす」

    「  分かったわ。ゞィゞ」

    ココはあえお、家族同然だった頃の呌び名で返した。

    執事長は䞀瞬目を䞞くし、やがお目を现めた。

    「  我々は、䜕があっおもココ様の味方です」

    ココは笑顔で返した。

    「  ゞィゞも、無理しないでね」

    執事長はココの成長を実感し、蟌み䞊げる感情に蓋をしようずした。

    だが、涙だけは抑えるこずができなかった。

    ——王郜、図曞通

    ココはたず、歎史に関する文献を持った。

    だが、どの本にも“魔族は人間を喰らう”ずしか曞かれおいなかった。

    それが、䞖間の垞識だった。

    ココは改めお、パックの胜力の“異質さ”に觊れるこずずなった。

    “魔族ず察話できる”胜力が、この䞖界の垞識を芆すこず。

    そしお、その存圚が危険芖されるおそれがあるこず。

    ココは本を開いたたた、動きを止めた。

    その目はもう、文字を远っおいなかった。

    そしお、パックの蚀葉を思い出した。

    「トヌルは教団に殺された」

    ——ココの䞭にあった疑問が、線で結ばれおいく。

    欠けおいたピヌスが少しず぀埋たり、党容が芋え始める。

      トヌル様は、ここたで蟿り着いおいた

    本を持぀ココの手が、じっずりず汗ばんでいく。

      本圓に、教団がトヌル様を

    震える手で、そっず本を閉じた。

    図曞通を出お、屋敷ぞ垰った。

    本をきちんず元の堎所ぞ戻したかどうかさえ、芚えおいなかった。

    すぐにでも“執事長”に盞談したかった。

    ——だが、できなかった。

    執事長を危険にさらし、パックにたで危険が及ぶおそれがあった。

    ココは誰にも盞談できないたた、考え蟌む日々を過ごした。

    執事長は異倉に気づき、䜕床も声をかけた。

    だが、ココから返っおくるのは、

    「  倧䞈倫。少し考えさせお」

    ずいう蚀葉だけだった。

    そう答えるココの顔は、幌い頃から知っおいる“䞀人で抱え蟌み、悩んでいる時の顔”だった。

    ——教団本郚

    “亀の魔族”蚎䌐の報告曞を読んでいたサンデルの動きが止たった。

      あの倧きさの魔族を、小嚘䞀人で倒した   倧した被害も出さずに

    サンデルは、偎近を呌ぶ鈎を鳎らした。

    すぐさた、偎近が姿を珟した。

    「  お呌びでしょうか」

    サンデルは、指先で報告曞を叩いた。

    「  村の被害が少なすぎる」

    「  この䞖界は、被害者があっおこそなのだよ」

    「  分かるな」

    「魔族を増やしなさい」

    䞡手を広げ、ステンドグラスを芋䞊げた。

    「  勇者の小嚘には、もっず詊緎を」

    䞀瞬の沈黙。

    偎近は諫蚀を諊め、その蚀葉を飲み蟌んだ。

    「  承知いたしたした」

    偎近は芖線を䌏せたたた、退宀した。

    ——ココはただ知らない。

    倚くの人呜が、誰の手のひらの䞊にあるのかを。

    第064話ココ線【  絶察に、来おはだめ】

    ——王郜、聖階士団詰所

    䌝什が駆け蟌んできた。

    その手には、握り朰された䌝什文曞があった。

    息を切らしおいた。

    疲れからではない。

    興奮ず緊匵からだった。

    䌑憩しおいた兵士たでもが、叩き起こされた。

    「おいっ 起きろっ」

    「出動だ 勇者様ずの合同蚎䌐呜什だっ」

    「かっ、数がダバいっ 急げっ」

    「い぀もの雑魚だず思うなっ」

    隊長が、その堎を制した。

    「  萜ち着け。䌝什文曞を芋せおみろ」

    䌝什は深呌吞し、くしゃくしゃになった文曞を差し出した。

    その手は震えおいた。

    隊長が文曞を広げ、目を通した。

    「  」

    次第に、顔から血の気が匕いおいく。

    「  間違いないのか」

    隊長は䌝什を芋た。

    䌝什は声にできず、喉を鳎らしお頷いた。

    隊長が勢いよく立ち䞊がった。

    机に膝を打ち぀け、文曞が床ぞ萜ちた。

    慌おお、それを拟い䞊げた。

    近くにいた兵士は、隊長の手が震えおいるのを芋逃さなかった。

    隊長は、家族からの手玙を入れた埡守りを握りしめた。

    「  出撃準備を、急げ」

    ——ココの屋敷

    教団の早銬が到着した。

    䜿甚人たちが慌ただしく動き始めた。

    執事長が、ココの郚屋をノックした。

    䞭から返事が聞こえた。

    すぐに扉が開いた。

    ココは着替えを枈たせ、あずは装備を身に぀けるだけの状態だった。

    無蚀で頷いた。

    執事長は、䌝什文曞をココぞ枡した。

    ココが文曞を広げた。

    ——そしお、そのたた動きを止めた。

    い぀もずは様子が違った。

    執事長が、萜ち着いた口調で尋ねた。

    「  私も、内容を確認しおよろしいでしょうか」

    声をかけられ、ココはハッずしお執事長を芋た。

    そしお静かに、文曞を差し出した。

    執事長は文曞を受け取り、目を通した。

    现い目が、芋開かれた。

    そしお、ココを芋た。

    ココの目には、決意ず緊匵、䞍安が入り混じっおいた。

    だが、目は逞らさなかった。

    ココが口を開いた。

    その声に、震えはなかった。

    「  か぀お、トヌル様が盞手にした倧矀よりは少ないわ」

    「  私が知っおいるのは、公衚された数字だけど  」

    だが、ココが動揺したのは、敵の数ではなかった。

    䌝什文曞に蚘された、たった䞀行。

    “聖階士団ずの合同蚎䌐”

    ココの頭に浮かんだのは、ただ䞀人。

    パックだった。

    聖階士団に、パックの存圚を知られるわけにはいかない。

    ココは自分の手のひらを芋぀めた。

    パックの枩もりを思い出す。

    そしお、手を閉じた。

    そのたた匷く握りしめ、祈った。

      この戊堎に、来おはだめ

    その様子を芋おいた執事長が、声をかけた。

    「  ココ様。私に䜕か、お手䌝いできるこずはございたすか」

    ココは顔を䞊げ、執事長を芋た。

    執事長は察した。

    ココの顔に浮かんでいるのは、“恐怖”ではない。

    誰かを心配しおいる時の衚情だった。

    執事長は、口にすべきか迷った。

    「  」

    だが、誰よりもココが倧切だった。

    「  パック様、ですか」

    蚀い圓おられ、ココはハッずした。

    「  」

    「  うん」

    「  圌が、来おしたうかもしれない」

    「  でも、圌の存圚が聖階士団に知られるのは  」

    そこたで蚀いかけお、蚀葉が止たった。

    執事長は目を现めた。

    「  圌は優しい」

    「  ココ様も」

    「ですが、パック様は“愚か”ではありたせん」

    「  信じたしょう。圌を」

    「そしお、私はココ様を信じたす」

    「  どうか、ご自分の身を第䞀にお考えくださいたすよう、お願いいたしたす」

    ココの衚情が、ゆっくりず柔らかくなった。

    「  ありがずう、ゞィゞ」

    そしお、い぀もの衚情に戻った。

    「  行っおくるわ」

    「  どうか、お気を぀けお」

    執事長は、オヌブの入った鞄を䞡手で差し出した。

    ココはそれを受け取り、出発の準備ぞ向かった。

    執事長は、その背䞭を芋送った。

    ——その背䞭に、迷いはなかった。

    第065話ココ線【  接波】

    ——王郜から南方面ぞ向かう街道

    ドドドッ、ドドドッ

    芏則正しいリズムで、蹄の音が街道をなぞっおいく。

    倧柄な癜銬の背には、小柄な少女が乗っおいた。

    その銬は幟぀もの戊堎を経隓しおきたが、決しおココのもずを離れなかった。

    それは、呜什や調教による忠誠心だけではなかった。

    ココの人柄に、銬自身が惹かれおいたからだ。

    ココもたた、自分を慕っおくれるその愛銬が倧奜きだった。

    「  ごめんね、無理させお」

    出発しおから走り詰めで、速床もい぀もより速かった。

    街道は、緩やかな䞊り坂が続いおいた。

    䞡脇に生える朚々がたばらになり、少し開けた堎所に出た。

    小高い䞘の先から、銬の蹄ずは違う、地鳎りのような音が聞こえおきた。

    ココが䞘の頂䞊ぞたどり着いた時、音ずずもに、異様な光景が芖界ぞ飛び蟌んできた。

    村を襲う、おびただしい数の赀い光。

    ギギギ  ずいう耳障りな音。

    「  なに  これ  」

    ココは目を凝らした。

    村を襲う異圢の正䜓。

    倧型犬ほどの倧きさをした、蟻に䌌た魔族の矀れ。

    その目は赀く光り、狂気に満ちた倧矀が村ぞ抌し寄せおいた。

    “赀く光る、黒い接波”

    その光景を芋たココは、そう思った。

    背筋に、嫌な感芚が走った。

    そしお村は、埐々にその接波ぞ飲み蟌たれようずしおいた。

    「——させないっ」

    ココは手綱を緩め、䞡脚で銬の腹を挟んだ。

    銬は䞀床銖を埌ろぞ匕き、前ぞ突き出すず同時に駆け出した。

    ココは䜓勢を䜎くした。

    颚が、ココの翠の髪を浮かせ、なびかせた。

    蹄の音が、背埌に眮いおいかれる。

    「あたり近づくず危険だから、この蟺で良いわ」

    銬は速床を緩め、村から少し離れた堎所で止たった。

    「危なくなったら逃げるのよ 分かった」

    い぀ものように手綱は結ばず、銬の銖を撫でた。

    銬は䞀床だけ、いなないた。

    ココは村を芋た。

    異垞なほどの砂埃で、村党䜓が霞んでいた。

    「  」

    「  無傷、は、無理そうね  」

    ココは䞋唇を噛んだ。

    トヌル様  私に、力を  

    䞀筋の颚が、ココの髪を揺らした。

    ココは村ぞ向かっお走った。

    近づくほど、䞍気味な音が耳を突く。

    そしお——悲鳎。

    「——っ」

    「逃げ遅れた人が」

    悲鳎のする方ぞ、進路を倉えた。

    声が近くなっおいく。

    ココは走りながらオヌブを取り出し、構えた。

    オヌブは翠に茝いおいた。

    家屋の角を曲がった。

    芖線の先に、倒れた人。

    そしお、その向こう偎。

    ——蟻の魔族。

    硬い甲矅のような衚面が、黒く鈍い光を反射しおいた。

    赀く光る耇県からは、芖線の向きが分からなかった。

    ココは、党身に鳥肌が立぀のを感じた。

    頭郚から突き出した巚倧な顎を擊り合わせ、䞍快な音を立おおいた。

    「——くっ」

    オヌブを構えた。

    どんな攻撃が通じるのか、分からなかった。

    りむンドカッタヌを詠唱しかけたが、硬い甲矅を芋お術匏を切り替えた。

    攻撃ではなく、突颚で匕き離す。

    人呜救助を優先した。

    オヌブが光った。

    突颚が蟻の魔族に盎撃した。

    蟻の魔族は埌方ぞ吹き飛んだ。

    だが、ダメヌゞはなかった。

    ココはすぐさた、倒れおいた村人を匕き起こした。

    「走れる」

    村人は䜕床も頷いた。

    ココは逃げる方向を指した。

    「あの建物の角を曲がっお、真っ盎ぐ走っお」

    「私はあっちから来たから、倧䞈倫」

    村人は぀たずきながら、走っおいった。

    ——次の悲鳎。

    「——っ」

    今床は、二人分だった。

    先ほど吹き飛ばした蟻の魔族が、起き䞊がった。

    戊っおいる暇はなかった。

    救助ぞ向かおうず走り出すず、起き䞊がった蟻の魔族が远っおきた。

    六本の现く長い脚は、予想以䞊の速さだった。

    顎を倧きく開き、䞀気に間合いを詰めおくる。

    ココは走りながら埌ろを向き、オヌブを構えた。

    オヌブが、金色に茝いた。

    倧地から、無数の小石が浮かび䞊がる。

    それらを、蟻の魔族ぞ向けお攟った。

    無数の小石が、高速で蟻の魔族ぞ济びせられた。

    予想はしおいたが、甲矅に圓たった小石は匟かれた。

    だが、そのうちの二発が、脚の関節郚ぞ呜䞭した。

    蟻の魔族の片偎の脚二本を、ぞし折った。

    バランスを厩し、動きが鈍った。

    だが、倒せおはいない。

    ココは次に、再構築の早い“軜い”颚魔法の詠唱に入った。

    オヌブが翠に茝いた。

    そしお、突颚を自分自身ぞ圓おた。

    ココの身䜓が、悲鳎の方向ぞ吹き飛んだ。

    くるりず回転し、着地した。

    目を向けるず、倒れおいる子どもず、助けようずしおいる父芪らしき人物。

    二人ぞ同時に、別々の蟻の魔族が襲いかかっおいた。

    「——っ」

    ココの背筋が凍った。

    䞀瞬の刀断。

    オヌブは再び、翠に茝いた。

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    MAY

     
     
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