
掌編小説『プールサイド』
水面から跳ねた水飛沫がきらきらと光っている。
プールで楽しそうにはしゃぐクラスメイト達の笑い声が
一体となって溢れかえっていた。
その頭上に広がる青青とした空の真ん中で
太陽は剥き出しになっていた。
中学最後のプールの授業は
自由時間になって
クラスメイト達は皆
思い思いにプールの中で遊んでいる。
プールサイドには少年一人だった。
少年はプールサイドの屋根の下で
体育座りをしながらその景色を眺めていた。
時おり、少年はその明るさを眩しく思って
自分の素足へと目線をずらした。
緑色のタイルは
夏の日差しに照らされて
屋根下に座る少年の足は乾いている。
ちょうど、足先のほんの少し前に
横一直線に伸びた屋根の影ができていた。
少年はその影と光の境界線へ
足の指を押し縮めて交互に跨いだ。
“みんなは水に濡れていて、僕だけが乾いている”
少年はどこか他人事のように呟いた。
どこからか爽やかな初夏の風が吹いた。
それは制服の隙間から這うように入ってきて、
少年の身体を巡り、またどこかへ消えていく。
その時
少年は自分の体温が火照っていることに気付いた。
熱くなった身体を感じた途端
プールではしゃぐクラスメイト達の景色が
ぼんやりと滲んでいく。
水の音や笑い声が鼓膜を揺らして
耳の奥で鳴り響いた。
連なるように胸の鼓動は速まっていく。
呼吸が浅くなり、徐々に重苦しくなった。
膝を抱え込んだ腕の中へ顔を埋める。
“僕はプールサイドにいても溺れている“
少年は脳裏に思い浮かんだ言葉を
そっと口に出した。
不意に
少年の肌に冷たい水が触れた。
顔を上げると
光が散りばめられたプールの中から
女の子が少年の方を向いて笑っていた。
水泳帽とゴーグルをしているせいで
それが誰かまでは分からない。
女の子は無邪気な手つきで
もう一度少年へ水をかける。
思わず瞑った目を開いたときには
女の子はすでに水中へとかえっていた。
水に濡れた身体を強く抱きしめると
少年はプールサイドから
ゆっくりと浮かび上がった。
(800字)
こちらの企画に参加させていただきます。
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