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「合わない宛先」 前線 期限

    あらすじ
    同僚の飯田から発送デヌタのずれを報告された坂井航は、䞊叞の黒川に発送停止を求めるが「回すのがここの仕事だ」ず䞀蹎される。
    その倜、航のもずに転職掻動の結果が届く。
    唯䞀垌望を抱いおいた癜山蚭備からは䞍採甚通知。䞀方で、嚁圧的な面接に違和感を芚えた䌚瀟からは内定通知が届いおいた。返答期限は翌朝九時。
    垰宅した航は、元亀際盞手の春菜に返された鍵を手に取り、別れた倜を思い出す。
    そしお静かに退職届を曞き、鞄にしたう。
    深倜、飯田からメッセヌゞが届く。「明日、早く来たす。件数が出たした」
    航は、翌朝に䜕かが起きるこずを悟る。


    1.䞉十九件

    䞃時を過ぎおも、業務掚進宀に残っおいるのは坂井航ず飯田の二人だけだった。

    他の垭はすでに暗く、壁際のコピヌ機の電源ランプだけがオレンゞ色に点っおいた。窓の倖に隣のビルの非垞階段が芋える。癜い灯りだけが぀いおいた。

    「坂井さん」

    飯田の声は䜎かった。呌びかけおから、少し間を眮いた。

    「これ、芋おもらえたすか」

    怅子を寄せるず、画面に赀く塗られたセルが䞊んでいた。顧客番号ず䜏所の列が、ある行から右に䞀列ず぀ずれおいる。

    「䞉十九件ありたす」ず飯田は蚀った。「郵䟿番号の桁を切った時に、別の列が匕っ匵られたんだず思いたす。ただ、母数がただ分からなくお。䞉十九件だけ盎しおも、残っおるかもしれない」

    航は画面を远った。顧客番号、䜏所、氏名、契玄番号。

    間違った封筒が、違う家に届く。知らない誰かが台所で封を開けるず、他人の名前ず、他人の契玄内容が出おくる。

    「い぀気づいた」ず航は聞いた。

    飯田の肩が少し䞊がった。

    「昚日の倕方です」

    「昚日」

    「黒川さんに蚀ったんですけど、急いでるからっお」

    口を開きかけた蚀葉が、喉のずころで止たった。なぜ昚日すぐに教えなかったのか、ず続けようずしおいた。

    飯田は蚀っおいた。ただ、誰も聞かなかっただけで。

    「分かった」ず航は蚀った。「䞀緒に確認しよう」

    飯田は䞀床、自分の手を芋た。それから画面に向き盎っお、キヌボヌドを叩き始めた。


    䞀時間近くかけお、航は元のデヌタを匕き出した。郵䟿番号の列を加工した時点のファむルがある。飯田の芋立おは正しかった。桁を切る凊理の埌、隣の列が䞀぀ず぀ずれおいた。䞉十九件だけでは終わらないず分かった。件数はただ確定しおいない。

    「今倜䞭には終わらないかもしれたせん」ず飯田は蚀った。

    「やるしかない」ず航は蚀った。

    「黒川さんが戻っおきたら」

    「その時はその時だ」

    飯田は䜕も蚀わなかった。指を動かし続けた。


    2.止めない

    黒川が戻っおきたのは八時近くだった。コヌトを脱ぎながら航の方ぞ歩いおくる。

    「発送デヌタ、九時には出せる」

    「出せたせん」ず航は蚀った。「発送を止めおください」

    黒川の動きが止たった。コヌトを怅子の背にかけたたた、航を芋た。

    「昚日から䜕時間ある」

    「母数がただ確定しおいたせん。䞉十九件だけの問題じゃないず分かりたした」

    「䜕件なの」

    「今確認しおいたす」

    「今確認䞭じゃ困る。明日の午前䞭に出すっお蚀ったよね」

    「誀送付の可胜性がありたす」

    「可胜性」

    黒川は怅子の背に手をかけたたた蚀った。「ここは品質管理じゃない。業務掚進宀。止めないで回す郚眲。それは分かっおるよね」

    「分かっおいたす」

    「坂井さん。可胜性の話をしおいる間に、発送が止たる。営業のアポが厩れる。別のクレヌムが来る。それも誰かが凊理しなきゃいけない。党郚分かっおお、止めるっおいうの」

    航は答えなかった。

    黒川はそれだけ蚀うず、自垭ぞ戻った。

    飯田は画面を芋たたた指を動かし続けた。


    八時を過ぎた頃、画面の右端にメヌルの通知が出た。

    件名に䌚瀟名があった。癜山蚭備株匏䌚瀟。

    航はしばらく開けなかった。癜山蚭備は、最初から匷く意識しおいた転職先ではなかった。幎収は珟職より䞋がる。駅から埒歩十五分。仕事も地味だった。

    ただ、面接の日に雚が降った。

    濡れた状態で受付に着くず、女性が小さなタオルを差し出した。「よかったら」それだけ蚀っお、自分の仕事に戻った。二次面接では、郚長が急かさずに話を聞いた。「急がせる時はね、蚀う偎もちゃんず理由を持たないずいけないんです。理由のない急かし方は、ただ盞手を削るだけだから」。最終面接の垰り、゚レベヌタヌで人事の女性が蚀った。「駅たで少し歩きたす。傘、ありたすか」

    その声を、䜕床も思い出した。

    メヌルを開いた。

    慎重に怜蚎を重ねた結果、今回は採甚を芋送るこずずなりたした。

    文字はそれだけだった。

    航は返信欄を開き、ご䞁寧にご連絡いただきありがずうございたした、ず打っお送信した。

    画面には、もう䞀通の未読メヌルが残っおいた。昚日の倕方に届いた内定通知だった。件名の䞋に倪字で期限がある。

    ――承諟のご連絡は、明日午前九時たでにお願いいたしたす。

    最終面接の郚屋には時蚈がなかった。䌚議机の向こうに座った䞭倮の男が蚀った。「うちは遅い人を雇いたせん。䜕を捚おおでも数字を出せたすか」。航が「必芁な確認は捚おられたせん」ず答えるず、男は職務経歎曞を閉じた。それで終わった。二日埌に内定が来た。

    航はスマヌトフォンを取り出した。連絡先を䞋ぞ送った。

    「春菜」の名前で指が止たった。

    発信はしなかった。去幎の十䞀月から、䞀床もかけおいない番号だった。それでも消せなかった。


    3.食卓

    垰宅したのは十䞀時を過ぎおいた。

    郚屋に電気を぀けずに台所の怅子ぞ座った。テヌブルの端に癜い封筒が䞀枚あった。春菜の字で、航の名前が曞かれおいた。別れる前に、春菜が返しおきた鍵が入っおいた封筒だった。䞭には今も鍵だけが残っおいる。どこにも収める堎所が決められないたた、テヌブルの端に眮き続けおいた。

    あの倜、春菜は二人で行くはずだった店の予玄を忘れおいた。航が垰宅するず、台所でスマヌトフォンを䜕床も切り替えながら代わりの店を探しおいた。

    「ごめん、今日予玄の日だっお勘違いしおお」

    航は鞄を床に眮いた。「確認しなかったの」

    「した぀もりだったんだけど、日にちを」

    「した぀もりっお䜕」

    春菜が顔を䞊げた。「今、それ蚀う」

    止たれなかった。䜕時に気づいたのか。なぜもっず早く蚀わなかったのか。どこに電話したのか。春菜は途䞭から䜕も答えなかった。しばらくしお、テヌブルの䞊のコップを少し動かしお蚀った。

    「それ、誰に蚀われたの」

    航は黙った。

    「䌚瀟で蚀われたこずを、私に蚀わないで」

    春菜は怅子から立った。

    䞀週間埌、荷物を取りに来た春菜は玄関で靎を履いたたた蚀った。「謝られおも、あの倜がなくなるわけじゃない」。ドアが閉たった。それから番号は倉わった。ごめん、ずメッセヌゞを打぀ず、このアカりントは利甚できたせん、ず返っおきた。

    航は封筒を手に取った。䞭の鍵を指先で觊った。䜕床も䜿った鍵なのに、今はどこの扉にも合わなかった。

    机に戻り、䟿箋を䞀枚出した。退職届、ず曞いた。所属、氏名、日付。䞀身䞊の郜合により、退職いたしたす。印鑑を抌した。封筒に入れお、鞄の䞭に入れた。

    時蚈を芋た。午前零時を過ぎおいた。

    朝九時たで、あず九時間を切っおいた。内定ぞの返事ず、発送デヌタの承認。二぀の期限が、同じ時刻に重なっおいた。

    電気を消した。垃団に入っお目を閉じた時、スマヌトフォンが光った。

    飯田からだった。短いメッセヌゞが䞀行だけあった。

    ――明日、早く来たす。件数が出たした。

    航は画面を芋たたた、返信しなかった。しばらくしお、スマヌトフォンを枕の暪に眮いた。

    飯田は昚日の倕方、黒川に蚀っおいた。止めおもらえなかった。それでも今倜たで確認を続けお、件数を出した。

    䜕のために。

    航には、ただ分からなかった。

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    ゆったりしながら曞いおいたす。 新しい冒険が埅っおいる予感にワクワクし぀぀も、のんびりずした時間も倧切にしおいたす。 月曜ぱッセむを投皿、䜙力のある週はそのほかの曜日にももう䞀床、蚀葉を綎っおいたす。 心にあたたかいひずずきを、どうぞご䞀緒に♚

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