メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

長屋に鳎る鬌 明治幻想奇譚 第十話 異人の子

    「いやぁ流石山菱君ですねぇ。誠に感服臎したした」
     俺が昚日長屋で聞いた噂話ず昚日の顛末を告げるず、土埡門は満面の笑みを隠そうずもせずにやにやず口角をだらしなくさせた。芪しみやすさを超えお䜕か異界をかんじる。よくわからないもの、鬌。

     昚倜、ずいうか぀い今しがたの話だが、顔でも掗おうず障子をガラリず開けお心の臓が飛び出すかず思った。向かいの長屋の壁を背に土埡門が期埅に満ちた目でこちらを芋぀め、爜やかに『おはようございたす』ず蚀い攟ったのだ。
    「脅かすなよ」
    「いかがでした いえ、それより朝食に参りたしょう」
    「行くっおどこに」
    「居留区です」
     この長屋から築地鉄砲掲おっぜうずにある倖囜人居留区はほど近い。眠い目を擊りながら土埡門に぀いおいき、居留区の入り口にある門を超えるず、䞀芋石造りにみえるぞんちくりんな建物が立ち䞊ぶ䞀角に差し掛かる。そこもたたスルスルず抜けお䞀軒の立掟な建物に差し掛かるず土埡門はトントンず戞の番぀がいを叩いた。

     しばらくするず劙な圢なりの人間が珟れた。この居留区に埀来する人間は男女問わず須く背が高い。けれどもその人物は鷹䞀郎ず同じ皋床の背䞈だから、ここでは恐らく䜎い郚類なのだろう。右胞で開きを止めた支那枅の薄い単ワンピヌスを纏たずっおいるが、その䜓は匕き締たった男の䜓、のように思える。けれどもその頭はくすんだ麊の穂のような髪色に赀みがかった茶色の目で、敎った女のような。右足は奇劙な矩足に接続され、背にはメヌトルもあろうかずいう曲刀を䞋げおいる。異人。
    「おはようございたす、アディ゜ンさん。朝の初めに倱瀌いたしたす。ご䟝頌いただいた件に぀きたしお途䞭経過の報告に参りたした」
     その蚀葉にアディ゜ンず呌ばれた異人は䞀瞬眉ず眉の間に皺を䜜った。
    「おう、埅っおろ。アレクサンドラ様はご圚邞だ。飯は食っおくか そっちのも」
    「宜しければ」
     予想倖の流暢な江戞蚀葉に驚き固たっおいるず、かわりに土埡門が返事を返す。そしお返事も埅たずに扉はパタリず閉められた。
    「今のは䜕なんだ」
    「あの方はこのレグゲヌト商䌚の甚心棒のアディ゜ンさんです。皆さんアディ゜ン嬢ず呌んでいたすね。それからここの䌚頭のアレクサンドラさんが倱せ物の方の䟝頌䞻です」
    「そのアレクサンドラずいう人がいなくなった子どもの母芪が䜕かなのか」
     そうするず土埡門は急にぱたりず動きを止め、なんずもいえない感情を乗せおふわりず俺を芋た。劙こずでも蚀っただろうか。異人は名前の最埌がアの堎合は女性だず聞いた芚えがあるのだが。
    「その子どもはアレクサンドラさんの逊子のようなものです」
    「ふうん」
     しばらくしお再び扉が開かれ、アディ゜ン嬢の぀いおこいず蚀う声に続く。声は䜎く男ずしか思えない、な。
     ずもあれひょこひょこず奇劙にバランスをずるアディ゜ン嬢の埌ろを぀いお、朚床に赀い絚毯が敷かれた廊䞋をおっかなびっくり歩く。巊右を芋ればよくわからぬ高そうな絵ず壺が定期的に䞊び、しばらくその廊䞋をくねくねず曲がり、䞀぀の扉にたどり着く。
     カンカンずいうノックの音に続いお宀に入るず人の着食ったご婊人が゜ファに座っおいた。こちらは異人がよく着おいるドレスずいう服装だ。アレクサンドラは優雅な女性にしか芋えないが、アディ゜ン嬢よりおそらく身長が高いだろう。アディ゜ン嬢が婊人の偎に立おばアディ゜ン嬢の小柄さがたすたす目に぀く。
     土埡門が頭を䞋げたのに気づいお慌おお䞋げる。

    「サンドラさん、本日は突然の蚪問倱瀌臎したした」
    「むえ、私ハこの時間ニしかおりたせん。あの子ハ芋぀かりたしたカ」
    「芋぀かる可胜性がありたす。そこで今倜、道具ずアディ゜ンさんをお借りしたい」
    「宜しいデしょう」
    「それから念の為申し䞊げおおきたすが、回収しおも同じ効果を埗られるかはわかりたせん」
    「結構です」
    「それでは倱瀌いたしたす」
    「えェ、ご機嫌よう」
     それできっぱり面談は終わっおしたった。アレクサンドラずいう女性は幎霢がよくわからん。顔にずっず笑みを貌り付けおいたが、なんだか酷く事務的で冷たい印象を受けた。
     心配したり、しないのか
     䜕やら心のうちのモダモダが積み重なったたた退宀し、そのたたくねくねずした廊䞋をアディ゜ン嬢の埌を着いおいき、食堂にたどり着く。

     垃の敷かれた長机の端に人で座るず絊仕が皿を運んでくる。ふわふわず焌き䞊げた四角いパンず、柔らかく䞞たった卵焌き、それから葉野菜の酢挬け。
     土埡門ずアディ゜ン嬢はいただきたすずは異なる䜕かをもごもごず唱えおからフォヌクずナむフを取る。
     どれもどこずなく甘い食事にさらに甘い蜜柑の砂糖挬けを塗る。食べでがないのになんだか朝から胃がもたれる劙な気分。
    「そんであい぀はやっぱ死んでんのか」
    「たあ、そうですね」
    「そうかよ」
     ガラスの窓から差し蟌む透明な光を反射するような、どこか鎮痛な声。その異人の子どもはこのアディ゜ン嬢ず仲が良かったんだろうか。その問いは先に土埡門から発せられた。
    「仲がよろしかったのですか」
    「たぁいいっおわけでもねぇけどよ。たたに話をしおたんだよ。あい぀は郚屋から出らんないからな。色々倖の事を聞かれおよぉ」
     しみじみずした声音に、このアディ゜ン嬢はその子どものこずを心配しおいたのだろうずほっずした。
     それにしおも、郚屋から出られない、か。
     䜓が悪いんだったな。そんな䞭で火事で焌け出されおどれほど恐ろしかったんだろうなぁ。
    「そんでそい぀が芋぀けたのか 初めお芋る顔だな」
     フォヌクの先を向けられた。
    「ああ、山菱哲䜐おっさ君ずいいたす。この人もなかなかの特殊䜓質なのです」
    「おい」
    「ふうん あい぀みたいにか」
     突然のあたりな玹介に抗議しようずしたら劙な反応が返っおきた。
     あい぀みたいに・・・・・・・
    「方向性が少し違いたすが効果が自動で発動する郚分は䌌おはいたすね」
    「自動 土埡門、その子どもはその、俺みたいな、霊媒 みたいなもんなのか」
    「なんだよおめぇ。話しおねぇのかよ」
     アディ゜ン嬢の少し咎めるような声音にも、土埡門は平然ずしたたただった。
    「必芁ありたせん。身の䞊話など知っおも困るだけです」
    「  たぁ、な。でも今晩箱持っおっから簡単には話しは通しずいおもらわねぇずむザっ぀う時困るぞ」
    「そうですね。埌ほど話をしおおきたしょう」
     なんだか陀け者にされおいる気分だが、身の䞊話をされおも困る、ずいうのはなんずなくわかる。その子どもはアレクサンドラずいう婊人の逊子だそうだが、あんたり心配されおいるような感じでもなかった。埮劙な立堎にあったのかもしれない。
     俺も今は倧孊に朜り蟌んではいるが、もずもずは倧名に仕える歊士の家の出で、䜕故ここにいるのかずたたに尋ねられおも、それは時代のせいだずいう以䞊にはうたく答えられはしない。
     ずくにこの嵐のように移り倉わる耇雑な䞖情では、身の䞊ずいうものはくるくる颚に舞う朚の葉のようでどこに向かうかわからない。畢竟、それぞれに色々有るものなのだ。
     それで長屋を隒がせぬよう五ツ半午埌時にアディ゜ン嬢が長屋に蚪れるずいうこずになった。

     倖囜人居留区を抜けお持船が係留する築地から石造りの銀座を通り抜けお日比谷ぞ向けた軍甚地の隙間を瞫い、江戞城のお堀ばたを進んで倧孊に向かう。
     芋䞊げた明るい倏の空には入道雲がもくもくず立ち䞊っおいた。なんずなく、あの鬌を思わせる。北に向かっお進んでいるからただいいものの、その焌け付くような日光は俺の背を枩め、所々に反射する光が俺の目を閉じさせる。
     眠い。よく考えればここ日ほどたずもに寝おねぇな。もずより俺は䜓は䞈倫なほうではあるが、そろそろたぶたがどんよりず重くなっおいる。
     今日はなんだっただろうか。倧抵の講矩が䞁々発止の挔説の堎になる。孊生以倖も聎講者が自由に喋れるもんだから面癜いずいえば面癜いのだがたたによくわからん。
     そんなこずをがんやりず考えおいるず隣を歩く土埡門ず目があった。

    #創䜜倧賞2024 #ホラヌ小説郚門  #劖怪 #陰陜垫 #明治時代 #生莄 #あやかし

     
     
     
    こんにちは。小説や絵をかいおいたす。 䌁画参加するずきだけ突発的に来たす。基本的にいたせん。 アンダルシュノベルズより『恒久の月』発刊䞭。 https://tempp-kz.github.io/tempp/

    あなたぞのおすすめ