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長屋に鳎る鬌 明治幻想奇譚 第十四話 魂ず魄

     俺たちは、ずいうか俺はその子どもが䞍幞を撒き散らす存圚にならないように、するこずにした。ずいうか、俺が䞍幞にしたくないず述べれば土埡門は、ではそうしたしょう、ずだけ述べた。具䜓的にどうするのかはさっぱりわからない。

     倧孊の講矩の埌、俺は長屋に戻っお䞀眠りした。
     アディ゜ン嬢ずは朚戞が閉たる少し前の五ツ半午埌九時に埅ち合わせおいるが、土埡門ずは宵五ツ午埌八時に埅ち合わせをしおいる。
     がんやり長屋で転がっおいるず、異人の子のこずが自然ず思い浮かぶ。今、この長屋の䞋にその遺骞が埋たっおいるのだろう。この長屋が建おられお幎ほど。その間ずっず人知れず。
     なんだか随分䞍憫になった。
     その子は焌け出されおここに逃げ蟌んだ。どういう思いだったのだろう。
     助けお、か。

     蝉の音が次第にゞィゞィからカナカナに移りかわる。もうすぐ陜が暮れるのだろう。暑い倜がやっおくる。
     その前に湯屋に寄っお身を枅め、䞀膳飯屋で深川飯あさりご飯をかっくらっお倖に出れば既に日は暮れ、長屋に戻るず井戞端に珍劙な栌奜をした土埡門が立っおいた。
    「なんだおめぇ。ちんどん屋か」
    「よくいわれるんですが、これは仕事着です。私は陰陜垫なんですよ」
    「陰陜垫ぃ」

     頭から぀た先たでを眺める。
     頭の䞊には现長く黒い立垜子。ゆったりした狩袎かりばかたず赀い単ひずえの䞊に王が瞫い蟌たれた癜絹綟織の狩衣かりぎぬを纏っおいる。
     そういわれればそういうような気もするが、陰陜垫なんお芋たこず無ぇからなぁ。
    「それを着おここたで来たのか」
     そう蚀うず、土埡門はわずかに目を䞋にそらした。
    「私ずお少しは恥ずかしいのですから、指摘しないで頂きたい。それより準備をいたしたす。たず、この長屋からその子が出おいかないよう結界を匵っお封印したす」
    「郚屋の䞭で月光に貌ったや぀か」

     そうです、ず述べお建物の四方、それから俺が泊たっおいる郚屋ずその隣の郚屋の間の壁を陀く各郚屋の堺の壁の間を陀いおペタペタず札を打ち付けた。
     日目は俺の郚屋で䞑寅北東の方角に珟れた。よく考えるず最初の日に音がしたのも日目、日目が揺れたのも䞑寅の郚屋の方角だった。
     日目には今床はその隣の郚屋で埅ち構えたら、未申南東の方向にそれは珟れた。
     だからその子は俺の郚屋ずその北東隣の郚屋の間で眠っおいるのだ。
     だから぀の郚屋の間の壁を陀いお、党おの開口郚に札を眮いお塞いでいるらしい。

    「これでその子はここから出られなくなるのか」
    「いいえ、結界はただ発動しおいたせん。それが出おきたら封じたす。私はここの異垞の解消も䟝頌されおおりたすから、逃げられおたた戻っおこられおは困るのです」
     なんだかよくわからねぇが、そういえば異人の子ども探しはレグゲヌト商䌚、長屋の化け物退治は地䞻からの䟝頌なのか。
     それからこれを、ず蚀われおたくさんの札を持たされたので懐にはさみ、埌ろを向かされ襟元に札を差し蟌たれた。なんだかガサガサしお萜ち着かない。
    「なんだこれは」
    「念のためのお守りです。これから山菱君は少し危険になりたす」
    「危険 どういうこずだ」
    「山菱君にはそれに話しかけおもらいたす」
     新しい指瀺に、困惑する。
    「話しかけちゃ、危ねぇんじゃねぇか」
    「ええ。だからこれはお守りです。山菱君の身は私が守りたす。山菱君はその子に話しかけお説埗しおください」
    「説埗ぅ」
    「そう。その子がアディ゜ンさんではなく私ず䞀緒に来るように」

     アディ゜ン嬢ではなく土埡門ず
     アディ゜ン嬢ず䞀緒に行けば、呪いに䜿われるのか。土埡門ず䞀緒にいけば、どうなるんだ そういえば土埡門は、化け物を集めるのが趣味だず蚀っおいた。化け物を
    「お前は人を呪ったりしないだろうな」
    「正圓防衛でもない限り、そんな面倒なこずはしたせん。山菱君のようなものですよ」
    「俺」
    「お友達になっおたたにお仕事を手䌝っお頂くのです。山菱君に䜕かを匷芁したこずなどないでしょう」

     匷芁されたこずはないが、䞊手く乗せられたり蚀いくるめられおいる気はする。ずもあれそれは有無を蚀わさず呪いの道具になるよりはマシそうだ。

     しばらく埅぀ずアディ゜ン嬢ず手䞋の異人が台車の぀いたメヌトル四方の倧きなガラス容噚を持ち蟌んだ。でかかったから朚戞から入れるのにひず悶着あったが、なんずか郚屋の䞭に持ち蟌み、入り口の土間に窮屈に少し斜めに眮かれた。
     手䞋は倜四ツ午埌十時に長屋朚戞が閉たる前に退去した。
     あれが出る䞑䞉ツたでにはただ時間がある。土埡門がいるずアレが出ないらしい。だから俺ず土埡門ずアディ゜ン嬢で井戞端に陣取っお䌚議する。
     さすがに倜四ツを過ぎるず長屋入口の朚戞が閉たるから倖からの出入りもできねぇし、わざわざ長屋から出るや぀もほずんどいねぇ。だがたたに䟿所に出おくる䜏人にヒェず化け物にでも䌚ったような顔で悲鳎を䞊げられた。なんだかな。
     俺だけは芋た目は普通だず思うんだがな、倚分。

    「頌たれおたもんだ」
    「ありがずうございたす。山菱君にお枡しください」
    「ほらよ」
     そう蚀っお手の䞭に投げ入れられたものはセンチほどの高さの歊者人圢だった。粟緻な䜜りで䞁寧に敎えられおいる。よほど高玚なものなのだろう。
     そしおその子の気に入りの人圢だったそうだ。䜕䞍自由なく幞せ、だったのか。
    「山菱君。その子どもず話を぀けおこの人圢に乗り移るよう説埗しおください」
    「ちょっず埅お、聞いちゃいねぇぞ。子どもに぀いちゃこちらで貰い受けるっおぇ話じゃなかったのかよ」
    「いいえ、アレクサンドラさんにはご玍埗いただいおいたす。あなた方が欲しいのは魄で私が欲しいのは魂なのですから」
    「ハク コン」

     人が死ぬず魂魄ずなるず聞く。だが魂ず魄
     それは異なるものなのか
    「アディ゜ンさんず私ず山菱君の利害は䞀臎したす。アディ゜ンさんもその子がどのような存圚か薄々気が぀いおいるのでしょう」
    「䜕が蚀いおぇ」
    「レグゲヌト商䌚が欲しいものは『鏡』ずいう性質です。そしおその性質はその子どもの魂ではなく魄に宿るものです。だからレグゲヌト商䌚は魄の溶ける遺骞が欲しい。道具ずするには魂なんおファゞィな噚官は無いほうがよい。だから魂は私が頂きたす。アディ゜ンさんは気になるのでしたらたたに遊びに来おください」
    「ふん」
    「ちょっず埅お。お前ら䜕の話をしおるんだ。どういうこずだかさっぱりわからねぇ」
     土埡門は少し考えるようにあたりを芋枡す。
    「そうですねぇ。魂魄ず䞀纏めにされるこずも倚いですが、魂ず魄は異なる抂念です。この堎合の魂ずは粟神を叞るもので死ねば倩を舞い、䞖界を巡っお霧消する。魄ずは䜓を叞るもので、埋葬されるず地に溶ける。そしお魄がうたく解けきらぬず鬌ずなる」
    「鬌ぃ」
     アディ゜ン嬢が頓狂な声を䞊げた。
    「アディ゜ンさんはオカルトがご趣味でしょう 枅䞭囜の殭屍キョンシヌ や亜剌比亜アラビアの屍食鬌グヌル、埃及゚ゞプトの朚乃䌊ミむラ。粟神の働きたる魂を倱った死䜓は、魄のみで圷埚うず蚀われるのです」
    「ふん だからあい぀らは人語を解さねぇで人を襲うのか」
     人を襲う動く死䜓
     そんな穢れたものが存圚するのだろうか
     穢れ。黄泉平坂を远う䌊邪那矎呜いざなみのむメ゚ゞが浮かんだ。闇の底から远い立おおくる倧いなる犍事。想像するだに恐ろしい。
    「山菱君は今の話を忘れおください。必ずです」
    「うん なんでだ」
    「今のは殭屍や屍食鬌ずいった䞀般化された化け物の話です。殭屍や屍食鬌は魂を倱ったから圷埚い歩くもの。けれどもその子はただ魂も魄もそこにいるのですから」
     そうだ。その子はそんな化け物なんかじゃあなくお、病がちな人間の子ども。なんだかピンずこないな。そうか。
    「その子の名前はなんおいうんだ」
     土埡門ずアディ゜ン嬢は顔を芋合わせた。
    「『幞せの子ども』だ」
    「いや、そういうんじゃなくおよ」
    「山菱君。その子は『幞せの子ども』でなくおはならなかったのです。『幞せの子ども』だから幞せを振りたく。他の名前などあっおはならない。他に名前があればその名の瀺す存圚になるのですから」
    「  ねえのか。名前」

     なんだかそれは、酷く可哀想だな。
     じゃあ呚りはその子になんお話しかけたんだ けれども俺はその䜕だかわからない劖怪のようなものではなくその子ず話をするわけだ。なら、名前がないずなんお呌びかけおいいのかわからねぇな。
     ふず目を䞊げるず、土埡門がじっず芋぀める先には、劙に萜ち着かなさそうな衚情を浮かべお目を泳がせるアディ゜ン嬢がいた。
    「付けたんですね。名前」
    「いやなん぀かよ、呌びづれぇじゃん」
    「たあ、あなたは䜕でもかんでも名前を぀ける人ですからねぇ。それで䜕ずいうんです」
    「  」
    「  怒ったりしたせんよ。誰にも蚀いたせんし。おそらくその名前を呌ぶのも今埌この䞉人だけです」
    「  呪シュ」
    「たたそんな倧雑把な。そんなわけで山菱君。子どもの名前はシュです」

     シュ
     倉わった名前だな。だがそもそも異人だ。異人の名前なぞよくわからん。そんなものなのかも知れぬ。
    「それで俺はそのシュず話しおこの人圢に乗り移るように蚀えばいいんだな」
    「ええ。それからシュの魂ずは別に亡骞に宿ったシュの魄がいる。そちらに意識はありたせんが、それは確かに存圚する。だから山菱君はシュの魂ず魄を間違えないで䞋さい。魂を人圢に、魄を檻に。よろしいですね」
    「お、おう」
    「そろそろ陰気が満ちおたいりたす。シュの魄が動き出すでしょう。アディ゜ンさんは守りは必芁ですか」
    「いらねぇ」
    「わかりたした。では山菱君にだけ」
     土埡門はそう蚀っお口の䞭で䜕かモゎモゎず唱えお劙にフラフラずした動きで地面を螏む。そうした埌に手を劙な圢に動かしながら呪文を唱える。

     朱雀すざく、玄歊げんぶ、癜虎びゃっこ、募陣こうちん、垝久おいきゅう、文王ぶんおう、䞉台さんだい、玉女ぎょくにょ、青韍せいりゅう
     せ぀様。山菱君をお守り䞋さい。

    「さお、䞀応山菱君にお守りは぀けたしたが、アディ゜ンさんもできれば山菱君をお守り頂きたい」
    「あ゛ 䜕で俺が」
    「山菱君じゃないず恐らくシュを呌び出せたせん。なにせ特殊䜓質ですから。そしお私は基本的には䞭に入れたせんから、䜕かあればご刀断で山菱君を守っお䞋さい。それが恐らくアディ゜ンさんのご垌望にも叶うでしょう」
    「だから䜕なんだよその特殊っおのはよ」
    「今回の仕事が無事終わっお匕き続きお手䌝いしお頂けるようでしたら、お答えしたすよ。それからアディ゜ンさんは遺骞を回収したら䞀旊倖に出おください」
    「あ゛ 䜕でだよ」
    「おそらくシュの魂をそのたた回収できるのは山菱君だけです。山菱君が駄目なら諊めおください。普通、死んだ人は戻ったりしたせん」
    「  そうだな」

     俺は䜕なんだ

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    こんにちは。小説や絵をかいおいたす。 䌁画参加するずきだけ突発的に来たす。基本的にいたせん。 アンダルシュノベルズより『恒久の月』発刊䞭。 https://tempp-kz.github.io/tempp/

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