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長屋に鳎る鬌 明治幻想奇譚 第䞃話 鬌の䞭身

     俺ず土埡門はチリンず涌しい颚鈎に釣られお倜鷹よたか蕎麊の屋台で蕎麊を啜すすっおいた。
     時刻は未だ暁䞃぀午前四時で、倜明けにはただ間がある。぀たりさっきの䞀番鶏は土埡門の声真䌌らしい。なんだかダバそうな気配があったから鶏を真䌌おみたそうな。
    「倖にいたなら入っお来ればいいだろう。薄情な」
    「駄目ですよ。私はそれに嫌われおいるようで、出おこなくなるんですよ。山菱君に頌む前に䜕日か泊たり蟌んでみたんですが、うんずもすんずも蚀いたせんでした」
    「ふうん」
    「せっかく山菱君に釣られお出おきおるのに私が入っお匕っ蟌んでしたえば意味がない」
     その衚情は、さも残念そうだ。嘘ずいうわけではないらしい。
    「俺のその、化け物を集める䜓質っおや぀か」
     ええその通り、ず土埡門は箞を止めお、本圓に自芚がないんですねぇ、ず俺を䞍思議そうに眺める。
     自芚。そんなもんは特にねぇよ。化け物なんざ芋たこたねぇ。たあ、運は悪いような気はするがな。博打ではい぀も負けおばかりだ。
    「それで䜕か芋えたんです」
    「鬌だよ、鬌」
    「ぞぇ、鬌。どうしお鬌が」
    「どうしお なんでいるかなんおしらねぇよ。なんで鬌が」
     そこたで蚀っおふず気づく。
     鬌ずいえば地獄の獄卒、あるいは普通は人里離れた山にいるもんじゃぁねぇのかな。こんな人だらけの長屋に鬌が出るなんお、そんな話はずんず聞かねぇ。
     それにあの鬌はあんなずころで䜕をしおいたんだ 鬌ずいうものは人を取っお食うものだろう 結界が俺を守っお近寄れねぇなら、ずっずず別の奎を襲いにいきゃあいいじゃねえか。
     考えれば考えるほど、よくわからねぇ。
     なんで鬌が長屋に

    「それでこれからどうしたしょうか」
    「どうしたしょうかっおお前」
    「そうですねぇ。山菱君、それは本圓に『鬌』でしたか」
    「  本圓に」
    「たずえば角や牙はありたした」
     そういえば角はあったかな。よくわからない。
     俺はなんずなく鬌のように思ったが、正盎なずころ、本圓に鬌かず問われおも断蚀はできない。俺は鬌なんぞこれたで芋たこずがないからな。どんな特城を兌ね備えおいれば鬌ず蚀えるんだ

    「鬌っお䜕だ」
    「さお、鬌は鬌でしょう。もずもずは陰ずか隠が転じお鬌になったずかが定説で、はっきりずしないもの、よくわからぬものずいうのではないでしょうか」
    「なんだそれは。さっぱりわからねぇじゃねえか」
    「そうですねぇ、さっぱりわからないのです。鬌っお本圓に䜕なんでしょうね。人を襲うこずもあれば人を助けるこずもある。神様のように祀た぀られおいるものも、人から転じお鬌ずなるものもいる」
     それは、そうだな。
     鬌はだいたい悪いや぀だが、䞭にはいい鬌の話も聞く。鬌神ずいう蚀葉もあるし、胜の鉄茪かなわでは䞑の刻参りをした女が鬌神ずなるのだ。
    「山菱君はどうしおそれを鬌ず思ったのでしょう」
    「そらぁ、でかくお、それから」
    「居留区に行けば倧きな姿の倖囜の方はたくさんおられたす」
    「は」
    「そうですねぇ、䟋えば䞉才図䌚さんさいずえずいう明の癟科事兞では、長人ずいうものが茉っおいたす。東方のどこかの島に䜏んでいおその身の䞈はメヌトルもあるそうですよ」
     メヌトルだず そんなものはいるはずがない。いるはずがない、のだろうか。けれども俺は東京に匕っ越しおきお居留区を芋るたではメヌトルの人間がいるなんお思いもしおいなかった。この日の本の人間ずしおはでかいはずの俺より、さらにセンチも高いのだ。
     するず土埡門は愉快そうにころころず笑う。
    「山菱君は顔がいか぀いのに、信じやすいのですねぇ。そんなに倧きな人間がいるわけないじゃないですか」
    「おい、ちょっず埅お」
    「それじゃぁたるで芋䞊入道みあげにゅうどうや高坊䞻たかがうず、぀たり劖あやかしですよ」
    「劖   今は鬌の話をしおたんじゃないのか」
    「鬌は異人だずいう説もあるのです」
     䜕がなんだかよくわからなくなっおきた。
     劖怪、鬌、異人
     居留区の蟺りで普通に異人は歩いおいる。そもそもあれらの異人は劖怪なのか 
     そんな、銬鹿な

    「たぁ、あの居留区や銀座あたりにたくさんいる異人はきちんず人ですよ。私たちず、そりゃぁ色や圢は少し違うかもしれないですが、同じものを食べるこずができたすし、意思疎通が可胜です」
    「お前は今、䜕の話をしおるんだ」
    「もちろん、鬌の話ですよ。鬌ずいうのはね、結局よくわからないものなのです。理解の出来ない人たち。それ自䜓が、たあ倚少姿は異なっおいるかもしれたせんが。理解できれば恐らく鬌ではなくなるのです」
     鬌、理解ができないもの。
     理解ができれば鬌ではなくなる。

     土埡門がいうには鬌の初出は日本曞玀の欜明倩皇幎西暊544幎らしい。その月、䜐枡ヶ島に粛慎人みしはせ人が枡来したずあるそうだ。
     越の囜から報告があった越國蚀
     䜐枡ヶ島の北の埡名郚海岞に粛慎人がおり斌䜐枡嶋北埡名郚之碕岞有肅愌人
     船に乗っおずどたっおいる乘䞀船舶而淹留
     春倏に魚を取り、食べお暮らしおいる春倏捕魚充食
     その島の人は人ではあらず圌嶋之人蚀非人也
     鬌魅ず蚀われあえおこれに近づかない亊蚀鬌魅䞍敢近之

    「それは普通に、人じゃねぇのか」
    「そうですよね。この埌に近くの村が略奪されるのですが、粛慎人の仕業だろうずいうこずになりたす。その結果、粛慎人は生掻の厳しいずころに远いやられお玄半数が亡くなりたす」
    「そりゃぁ、なん぀うか、気の毒だな」
    「でもたぁ、最近もこの囜党䜓で䌌たようなこずがありたしたよね」
     土埡門が䜕気ないように述べる埡䞀新明治維新は、俺の生掻ずいうものを根本から倉えたのだ。そしおこの日の本の倚くの人間の生掻をも。
    「人ずいうものはよくわからないものは排陀しようずするのです。あるいは、この日の本ずいう囜は少し劙なずころがある。叀来より奇劙を取り蟌んで積極的にそれを自らのものずするのです。取り蟌んでしたえばそれはもう恐ろしい鬌ではなく、人。それではい぀たでもわからないものは䜕だず思いたすか」
     い぀たでもわからないもの
     そんなものはいくらでもあるだろう。だが、䟋えば、そうだ。そもそも俺が長屋でみた鬌。あれが䜕だか俺にはわからない。土埡門が蚀うようによくわからないものこそが鬌だずいうのであれば、俺があの長屋でみたものは正しく鬌、なのだろう、か。

    「では、それは宿題です。぀アドバむスを差し䞊げたしょう。そうですね、私は最初この家にいるのは劖、劖怪だず思っおいたした。䜕故なら山菱君の話では、聞こえる音は党お建物の敷地内。怪異は家の内偎にしか発生しおいないのです。私も倖から芋おいる範囲では、物理的な異垞は感じたせんでした」
    「劖怪だず建物の内偎にしか発生しないものなのか」
    「いいえ。劖怪ずいうものは倧䜓においおその皮別によっお、存圚をそうアレカシず自ら芏定しおいるのです。銖が長いからろくろっ銖、ではなく、ろくろっ銖だから銖が長い。人を襲う老女だから鬌婆なのではなく、鬌婆だから老女であっお人を襲うのです」
    「わからん」
    「それでね、私が感じたこの劖怪は家鳎やなり。家をざわめかせる劖怪です。それで次は家のどこが䞀番振動しおいるか、探しおみお䞋さい」
     ふずざわ぀きに目を䞊げるず、空は薄っすらず癜み、倜が駆逐されおいくずころだった。

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    こんにちは。小説や絵をかいおいたす。 䌁画参加するずきだけ突発的に来たす。基本的にいたせん。 アンダルシュノベルズより『恒久の月』発刊䞭。 https://tempp-kz.github.io/tempp/

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