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長屋に鳎る鬌 明治幻想奇譚 第八話 井戞端の噂

     家鳎。それは俺も聞いたこずがある。鳎屋ずも蚀う。
     だがこれは土埡門がいうずころでは、家を鳎らせるか屋敷を鳎らせるかの違いらしい。そしお家鳎ずは家や道具から原因もなく音がしお揺れる珟象、だ。
     しかし家ずいうものはそもそも軋むものである。これが異人の暮らすどしりずした石の家であれば異なるのかも知れぬが、朚ずいうものは氎分を含んで膚らみ抜けお瞮み、その際に収瞮しおパキリず音が出るものだ。そしお匷颚が吹けば家だっお揺れはするだろう。

     『劖怪』の家鳎は小さな小鬌の姿をしおいる。それが倧勢で寄っおたかっお家を鳎らす。そのようなむメ゚ゞだ。けれどもそのむメ゚ゞは近幎のもので、安氞1776幎に刊行された鳥山石燕ずりやたせきえんの画図癟鬌倜行がずひゃっきやこうで出来たもの。それ以前は普通の鬌のような姿で描かれおいた、らしい。
    「石燕以前の家鳎は、倧きく描かれるものが倚かったのです。鍟銗しょうきのように、ね」
     鍟銗ずいえば疱瘡陀けや孊業成就に有名だが、その姿はたさに鬌。嘉氞1853幎刊行の狂歌癟鬌倜行きょうかひゃっきやこうでも、家鳎の姿はそのように描かれおいるらしい。
     ずもあれ俺が昚倜芋たあの巚倧な鬌、のようなものも家鳎の姿、なのだろうか。

     そう思った日目は、倕刻には長屋の朚戞をくぐった。
     未だ明るい時分、長屋の井戞には䜕人かの人だかりができおいた。䞃茪を持ち出しお倕选甚の煮炊きをしおいるらしい。その䞭で芋知った顔がある。
    「あぁ、お前さん、䞀昚日はすたなかったねぇ。あの埌、みんな少しばかり匕っ越しちゃったっお聞いおさぁ。あたしゃ驚いちゃったよう」
    「先日の。私もあの埌倧家さんから聞いたんです。それで私は匕っ越したばかりで申し蚳ねぇっおこずで、誰もいなくなった間に異垞がないか確認しおくれっお倧家さんに頌たれたしお」
    「ぞぇ」

     䞀昚日の朝に話をした䜏人ず土埡門ず打ち合わせた文蚀を口に出すず怪蚝な顔をされた。
    「ねぇお前さん。あんたこの長屋の噂知っおお入っおきたんだよね、なにせあの郚屋に䜏んでるわけだしさぁ」
    「え、この兄さんあの郚屋に䜏んでるの」
    「あ、はい。その、䞁床真ん䞭の郚屋に」
     急にざわ぀く井戞端。
    「ねぇねぇお兄さん、本圓に『出る』のかい あの郚屋」
    「ねぇ、お小倜さよちゃん。昚日の倜、この井戞のずころでそりゃぁもう綺麗な鬌を芋たっおいう話をしおたよねぇ」
     それは倚分土埡門のこずなんだろうな、ず思い぀぀、話は俺を攟っおどんどんず進む。どうやらこのお小倜ちゃんずいうのは霊感ずいうものがあるらしく、前々からこの俺が間借りしおる長屋に異倉があるず感じおいたらしい。たあ、昚日の倜の鬌ずやらは幜霊ではなく生きおる人間なわけだが、でも土埡門は生きおる人間の感じはしねぇな。よくわからねえもの、鬌。
     たさか。あの優男が
    「それで幜霊は出るんですかっ」
    「ええずその、幜霊っ぀か、倜になるずなんだか家が揺れたす」
     お小倜ちゃんは、期埅半分、期埅倖れ半分を顔に浮かべた。
    「家が そういやお前さん、地震があったかずも蚀っおいたねぇ。ぞぇ、寝がけおたわけじゃないんだ」
    「ええ、たぁ、本圓に揺れたず感じたんです」
    「お小倜ちゃん、あんた感じたかい」
    「いえ、揺れたでは。でも前の前に䜏んでた人ず仲良かったんで、色々聞いたんですぅ」
     よくよく聞いおみるず、以前は巊官の倫婊が䜏んでいたらしい。それで道具やらが倜䞭にガタガタず揺れだすようになり、そのうちに郚屋党䜓が揺れだしお気味が悪くなっお匕っ越したそうな。
     その時、他の郚屋ではその揺れを感じおいなかったようだ。けれども揺れを感じるのは、必ずしも俺が今泊たっおいる郚屋だけではないらしい。隣の郚屋も以前は同じように揺れを感じる倫婊が䜏んでいお、その倫婊はずっず揺れを感じるだけだった。しばらく䜏んだ埌に他に移っおいったらしい。

     そうするず䜕か劙だ。
     他の䜏人は音や揺れたでしか認識しおいないのか。それじゃあ俺が芋たあの鬌のような存圚は䜕なのだ。
     家鳎
     いや、それよりも気になったこず。昚倜話かけた奥方は幎の功ほど、お小倜ちゃんは歳すぎくらいに芋える。
    「お二人は銀座倧火より前からここに䜏んでらっしゃるんです」
    「お小倜は結婚しお日本橋の方から越しおきたけど、私ゃずっずここだねぇ」
    「倧火の前埌で居留区の子どもがいなくなったそうなのですが、それに぀いお䜕かご存知ありたせんか」
     釣瓶が萜ちるがごずく日が陰り、急に冷たい颚が吹いた。
    「お熊くたさん、それっお」
    「これ、お小倜」
     二人は困惑したかのように顔を芋合わせた。䜕かを隠しおいるずいうよりは、どうしたものだか刀断が぀かないような顔。
    「歳くらいの子どもなんですが、行方がわかれば探すように頌たれおいたしお。もう幎も前になるのですが」
     少しの沈黙の埌、お熊がようやく口を開く。
    「ううん、私も焌け出されたんだよぉ。あっずいう間に火が広がっおね、私以倖の家族は今もどこにいるんだかわかんないんだよ」
    「それは  ご愁傷様です」
    「いや、今はそれなりに暮らしおっから別にいいんだけどさ。その時にちょっずした噂になったんだよ、その異人の子どもが」

     噂。どんな噂なんだろう。
     土埡門は党く行方が知れないずしか蚀わなかった。隠しおいるのか、いや本呜は子䟛探しのはずだ。隠す理由はないだろう。
    「そうだねぇ。お兄さんいい人そうだからなぁ。これは秘密っおこずになっおるんだけどね」

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    こんにちは。小説や絵をかいおいたす。 䌁画参加するずきだけ突発的に来たす。基本的にいたせん。 アンダルシュノベルズより『恒久の月』発刊䞭。 https://tempp-kz.github.io/tempp/

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