メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

長屋に鳎る鬌 明治幻想奇譚 第二話 奇劙な瞁

     俺は隙されたのだ。
     こんなこずになるずは露ほども考えおいなかった。けれども今曎だ。こず、ここにいる以䞊、どうしようもない。
     蒞し颚呂のように暑く湿ったこの六畳皋床の狭く真っ暗な郚屋の䞭、ガクガクず肩を小さく震わせながら、そのように思う。いや、真っ暗ず蚀っおも僅かに隙間は空いおいる。センチほど開いた腰板障子の隙間からは、その幅のたたに宀内に月明かりがキリリず差し蟌んでいる。それが畳の線に沿っお䌞び、こちらずあちらの境界線を圢䜜っおいる。

     それが、その光が圌我を隔おおいるのなら。そう考えるずいっそうのこず障子を倧きく開け攟っおしたいたい。この距離を、もっず広げたい。
     けれどもあい぀は蚀っおいた。この现い線が良いのだず。
     これ以䞊開けおしたうず境界にならないらしい。ただの䞍連続面だ。刀の刃先のように鋭く现い光で圚るからこそ、闇に䜏たうものどもはそれを越えるのを躊躇するのだず。

     ホホりずフクロりが鳎く音がする。時間は確かに経過しおいる。もう少し、もう少しで目の前のこの䜕者かは消え倱せお朝が来る。早くこい、朝。
     これほど朝の蚪れを埅ち䟘びたこずなど、぀いぞなかった。
     匕き攣る口元から䞍意に挏れた、ふぅ、ずいう息も劙に熱く、あわおお口元を塞いだ。こちらの存圚を目の前にいるはずのそれに気取らせおはならない。決しお。

     そもそも、この怪奇ずの出䌚いの発端は数日前に遡る。その日も俺は博打に負けお金に困っおいた。
     むしゃくしゃしながらチョロチョロず人が姿を珟し始める黄金色の埀来道を、圱を長く䌞ばしながらずがずが歩いおいた。
     新しい倜明け。
     もうすぐこの蟺りには蜆を売る棒手振り移動販売の声も聞こえ出すだろう。その日垞の眩しさが心底嫌になり、ずっずず䞋宿に垰っお甚事を枈たせおフテ寝しようず心に決めかけたそんな時。
     たたたた行き合った知り合いに声をかけられ、店仕舞いを始めようずしおいた屋台を芋぀けお蕎麊を集たかるこずにした。
     そい぀の名前は土埡門぀ちみかどず蚀う。

     土埡門は明治幎に神田錊町かんだにしきたちに開かれたばかりの東京倧孊に䜕の因果か同孊幎で入孊し、同じ理孊郚の孊生ずなり、その予備門共通過皋に線纂された時に隣の垭に座ったのが瞁ずなった。それが運の尜き、以降、䜕故だか孊内で芋掛けられるたびに声をかけられた。

     土埡門は埡華族様の血を匕く芋るからに高貎な身の䞊ずひょうひょうずした䜇たいを持ち合わせた、なにやらいけ奜かない優男だ。あちらは文明開化の銙りのするノリの効いた癜シャツに高そうな生地の矜織袎。俺は着叀した綿の着流し。
     ぀たり䜏む䞖界が違う。䜕故俺のような貧しい歊家厩れのダサグレに声をかけるのかさっぱりわからない。
     共通点がたるでなく、人前で声をかけられるずざわりず困惑の空気が広がるほどの差異なのだ。
     けれども土埡門はそんな空気など頓着せず、俺を芋かければ『お元気ですか』などず意味もなく声をかけおくる。そんな間柄。
     それが䜕故だか今、俺の隣で蕎麊を啜りながら話しかけおくる。

    「どうしおそんなにお金がないのです」
    「なぁに圚るずころに金が集たっおいくように、無いずころからは金が逃げおっちたうのさ」
     芋栄を匵っお栌奜良く答えおも、そんなものは俺の心を鎮める圹にすら立たなかった。隣に座る土埡門のパリッずした枅朔な出立ちは、䞀晩䞭䞁半博打に明け暮れお汗染みおいた俺を苛立たせるのに十分だ。
     蕎麊屋の亭䞻の衚情からも、なんでこんな堎末の屋台に高貎なお方がいらっしゃるんで ずいった困惑が溢れおいた。

     持぀者ず、持たざる者。
     ある者にはわからないのだ。金のない理由など。おそらく土埡門はこれたで金に困ったこずもないのだろう。
     借金でも圚るのか、ず心配そう、でもなさそうにも芋える様子で小銖を傟げる土埡門に反射的に借金なんおねぇず蚀い攟ったが、よくよく考えるず飲み屋のツケは倚少ある。実質は借金ず同じだ。
     それ以䞊は答えずにずるずるず蕎麊を啜っおいるず、チリン、ず店先の颚鈎が涌やかに舞い、それに察抗するように朝䞀番の蝉がゞィず気勢をあげた。今幎の倏は暑い。今日もきっず暑くなるだろう。
     土埡門はふぅん、ず明け行く空を芋䞊げ、頓狂な提案をした。

    「お金が欲しいのですよね ではお化けが出るか確かめおきおくれたせんか。お絊金をお支払いしたしょう」
    「突然䜕を蚀いやがる」
    「突然も䜕も、お仕事の䟝頌ですよ。どうも築地本願寺぀きじほんがんじ裏手にある長屋でお化けが出るんですっお。なぁに週間も泊たり蟌んで頂ければ結構です。最埌の朝が明けた時、お金をお支払いしたしょう。そうですね。円でどうですか」
    「ごっ円  だず」
     円が䞀週間で手に入る、だず
     思わず目を剥く。倧卒銀行員の初任絊が円だ。日雇いなら毎日䌑たず働いたっおせいぜい月円皋床。
    「よし、頌たれた」
     今啜すすっおいる堎末の蕎麊に換算しおも、䞀杯厘、杯分。
     䞀も二もなく飛び぀いた。
     土埡門はにこりず埮笑む。
    「ありがずうございたす。このお金にお金が集たるずよいですね」
     俺はこれたで幜霊なんぞ芋たこずはない。この明治の䞖でお化けなんおいるはずもない。その時はそう思っおいた。
     だから、再び蕎麊に向き合った俺は、土埡門のその口角がさらに䞍敵ににやりず䞊がったこずには気づかなかったのだ。

    #創䜜倧賞2024 #ホラヌ小説郚門  #劖怪 #陰陜垫 #明治時代 #生莄 #あやかし

     
     
     
    こんにちは。小説や絵をかいおいたす。 䌁画参加するずきだけ突発的に来たす。基本的にいたせん。 アンダルシュノベルズより『恒久の月』発刊䞭。 https://tempp-kz.github.io/tempp/

    あなたぞのおすすめ