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いたずら猫と夫

    我が家の食卓の端には、夫が普段、飲んでいる薬や自分のモノを置く場所がある。小さい香水のボトルも置いてある。出かける前にさっとつけるための、夫なりのささやかなこだわりなのだろう。しかしそこは、ソラにとっても「絶妙な特等席」だった。
    夕飯が済んだ時のこと。退屈したソラがトコトコとテーブルに登り、その端っこの美しいガラス瓶に目をつけた。「あ、だめだぞ」という夫の静止もどこ吹く風。ソラはわざわざ夫の顔を見つめながら、前足でちょん、ちょん、とボトルを追い詰めていく。
    そして、ガシャーン。
    床に落ちた大きな音に、夫は思わずカッとなり、声を荒らげてソラを叱ってしまった。猫がしたこととはいえ、お気に入りの香りの蓋が壊れてしまった。叱られたソラは、見たこともないほどシュンとして、トボトボと自分の寝床へ消えていった。
    気まずい空気のまま夜が更け、待ちに待った寝る前のチュールの時間がやってくる。
    夫は、さっきのことを少し後悔しているような、バツの悪そうな顔でチュールを手にした。「ごめんな、もう怒ってないよ」とばかりに、袋の端を切って、そのままソラの口元へそっと運ぶ。
    ところが、いつもなら目の色を変えて飛びつくはずのソラが、なかなか口を開けようとしない。
    「あー、夕飯のときに怒られたことが、相当ショックだったんだなぁ……」
    私は横でその様子をじっと見守っていた。夫の目の前で、ソラは頑なに口を真一文字に結んでいる。それでも、鼻先をくすぐる大好きな香りの誘惑には勝てなかったのだろう。ひと呼吸置いてから、意を決したようにペロリ、ペロリと舐め始めた。その姿は、まるで「一本くれるなら、許してあげないこともないけれど」と言っているようだった。
    手元を見つめながら、すっかり上機嫌に戻ったソラの様子に、夫の顔には安堵の笑みが浮かんでいる。
    でもね、猫を叱るのはお門違いというものだよ。
    触られたくない大切なものは、猫の手の届かないところに、最初からちゃんとしとかなくちゃ。
    我が家のリビングの絶対君主(猫様)を前に、人間はいつだって、一歩譲るくらいがちょうどいいのだ。





     
     

    てみ

     
     
    書くことが好きです。映画感想文、読書感想文、短歌、小説、体験談、エッセイなど書いています。宮沢賢治、新美南吉の童話好きです。柳田國男の「遠野物語」は大好きです。初noteは、20240222です。

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