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国境超え アルバニアへ弾丸往復

コトルからクロアチアに行けなかった夜、モンテネグロのスリリングな3時間


モンテネグロのコトルの日中の観光を終えて、首都ポドゴリツァに戻ってきた。

すでに日は暮れていた。
昼間に見たアドリア海の青さはもうなく、駅前には黄色い街灯の光がぼんやりと広がっていた。

夜のポドゴリツァ駅前

次に目指すのはコソボだ。
コソボの首都プリシュティナ行きの国際バスは1日2便だけ。
次のバスは21時30分発。

時計を見ると、あと3時間ほどある。

できれば、この日はクロアチアの有名観光地ドブロブニクまで行きたかった。
しかし、ベオグラードからの寝台列車が遅れたことで、時間がタイトになりすぎた。
国境越えの時間が読めないクロアチア行きは諦めるしかなかった。

コトルまでは行けた。
それだけでも十分としよう。

そう思いながらも、心のどこかに少し物足りなさが残っていた。

地図をチェックする。

ポドゴリツァからアルバニア国境まで、思ったより近い。
画面の上では、行けそうに見える。

本当に行けるか?

国によっては、地図上では近く見えても、道中の交通事情で思わぬ時間がかかることがある。
それでも、この距離なら何とかなるかもしれない。

駅前に停まっていたタクシーに近づいた。

「アルバニアのボーダー。行ける?」

運転手は、こちらを見て首をかしげた。
英語はほとんど通じないようだった。

私はスマートフォンの地図を見せ、国境のあたりを指さした。

「ここ。アルバニア。行って、戻る。バス、21時30分」

運転手は少し考えたあと、誰かに電話をかけた。
早口の現地語がしばらく続く。
そして、その電話をこちらに差し出してきた。

受話口から、英語の声が聞こえた。

「彼は英語が話せない。どこへ行きたいんだ?」

「アルバニアの国境まで行って、すぐ戻りたい。21時30分のコソボ行きのバスに乗りたい」

少し沈黙があった。

「時間はぎりぎりだけど、行けると思う。ただ、急がないといけないね」

その言葉を聞いた瞬間、私の中で変なスイッチが入ってしまった。
頭の中でミッションインポッシブルのテーマ曲が鳴り始めた。

とにかく行ってみたい。
行ってみよう。

次のコソボ行きのバスまでの3時間。
その空白に、アルバニア国境越えを無謀にもねじ込むことにした。

タクシーは夜のポドゴリツァを出た。

街灯が少しずつ減っていく。
窓の外は暗くなり、対向車のライトだけが鋭く流れていく。
運転手はほとんど話さない。

スピードアップ。

周りを見ても、真っ暗な道をひたすら走るだけだった。

間に合うのか。
本当に戻れるのか。
そもそも、夜に国境まで行って大丈夫か。

当時読んだガイドブックには、アルバニアでは武器を使った犯罪の報告があると書かれていた。
コソボ紛争などの影響で、武器が広く出回っているという説明もあった。

もちろん、国全体を簡単に危険だと決めつけることはできない。
ただ、夜に、言葉がほとんど通じないタクシーで、国境へ一人で向かっている。
冷静に考えると、なかなか無茶をしている。

そして、車はガンガン進んでいく。

やがて、明るい建物が見えてきた。
国境検問所だ。
タクシーの窓越しに、係員の姿が見える。
大型トラックのライトがまぶしい。
暗闇の中に、検問所だけが白く浮かび上がっていた。

モンテネグロ側の国境検問所

タクシーを停めて、運転手に少し待つように伝え、てくてく歩いて検問へ向かう。

並んで待っている人は誰もいない。
高速道路の料金所のような窓口に、パスポートを差し出した。
ページをめくる音がして、係員がこちらを見る。

パスポートには出国スタンプは押されず、あっさりと、私はアルバニアに入った。

とはいえ、街まで行く時間はない。
国境を越えたところで、すぐに空気が変わった気がした。

暗い。
人が少ない。
そして、なぜか少しざわついている。

国境を越えてすぐ、タクシーの営業らしき男が近づいてきた。
こちらに何か話しかけてくる。
言葉はよくわからない。

その瞬間、胸の中にあった好奇心が、すっと警戒心に変わった。

ここで無理をする必要はない。

アルバニアの奥へは行かない。
今回は、それで十分だ。
国境を越えたことだけ確認して、すぐに引き返す。

アルバニア側の国境検問所

おそらく、これまで私が訪れた国の中でも、板門店で北朝鮮側のエリアを歩いた時に匹敵するくらい、最短滞在の国となった。

入国して、少し空気を吸って、すぐ戻る。
まさにタッチアンドゴーのアルバニアだった。

アルバニア入国時にはスタンプが押されなかったが、モンテネグロへ戻る時に、車のアイコンが入ったスタンプが残った。

アルバニア国境で押されたスタンプ。ALのイニシャルと陸路らしく車のアイコンが入っていた。


「ゴーバック。モンテネグロ。ポドゴリツァ」

運転手はすぐにうなずいた。

車は再び、夜の道をポドゴリツァへ向かった。

国境から猛スピードでポドゴリツァへ戻るタクシー

時計を見る。
コソボ行きのバスの時間が近づいている。

運転手は、来た時よりかなりスピードを上げているように感じた。
前方のトラックの赤いテールランプが、暗い道の中で揺れている。

駅前のバスターミナルに戻ってきた時、ようやく息をついた。

非常にスリリングな時間だった。

その短い往復には、地図を見ているだけではわからない緊張感があった。

国境は、線ではない。
暗い道があり、検問所があり、言葉の通じない運転手がいて、近づいてくる知らない男がいて、時計を気にしながら戻る自分がいる。

その全部が、私にとっての国境体験だった。

手元に残ったパスポートに押された小さなスタンプ。
そのスタンプを見るたびに、夜の国境の光、言葉の通じないタクシー、近づいてきた知らない男、そして時計を気にしながら戻ったあの時間を思い出す。


「アルバニア」
バルカン半島の西側にある国で、首都はティラナ。
人口は約280万人ほど。
アドリア海とイオニア海に面し、かつては鎖国的な社会主義国家として知られていたが、今ではヨーロッパの中で少しずつ観光地としても注目されている。

またいつか改めて、首都ティラナや世界遺産の町を、自分の足でてくてく歩いてみたいと思う。

そして私は、何事もなかったような顔をして、次のコソボ行きのバスを待つのだった。

つづく