
「あなたは三人目です」 第二章 防犯カメラ
翌朝、僕は駅前交番を訪れた。
昨日見た男。
僕と同じ顔をした男。
あれが見間違いだったとは思えなかった。
受付にいた若い警察官へ事情を説明する。
「自分と同じ顔の人物を見た……ですか?」
困ったような笑みを浮かべられる。
当然だ。
自分でも信じ難い話だった。
「監視カメラだけでも確認できませんか。」
警察官は少し考えたあと、駅前商店街の防犯カメラ映像を確認してくれた。
昨日、午後三時四十二分。
僕が喫茶店を飛び出した時間だ。
映像が再生される。
画面には喫茶店から飛び出す僕の姿が映っていた。
その数秒後。
黒いパーカー姿の男が路地へ入っていく。
「止めてください。」
映像が停止する。
男の横顔が映った。
僕は思わず息を呑んだ。
間違いない。
僕だった。
髪型。
輪郭。
歩き方。
すべて同じだった。
警察官も画面を見比べる。
「……兄弟ですか?」
「一人っ子です。」
嘘ではない。
少なくとも、そう聞かされて育った。
警察官は首を傾げる。
「ここまで似ている人は珍しいですね。」
「映像を拡大できますか。」
男の顔が拡大される。
その瞬間、違和感を覚えた。
男の左頬。
小さな傷跡がある。
僕にはない。
「別人……。」
そう呟いた時だった。
映像の中の男が、突然立ち止まった。
そして。
防犯カメラの真上を見上げる。
まるで。
そこにカメラがあることを知っていたかのように。
次の瞬間。
男はゆっくり笑った。
警察官が眉をひそめる。
「気味が悪いですね。」
だが僕は、それ以上に気になることがあった。
男は笑ったあと。
真っすぐカメラへ向かって口を動かしていた。
音声はない。
何と言ったのか分からない。
「読唇術はできませんか?」
「残念ですが……。」
僕は画面を見つめ続けた。
何度も。
何度も。
その口の動きを追う。
短い言葉だった。
四文字か、五文字。
不意に、背筋が凍る。
頭の中で、その口の動きが言葉へ変わった。
『見つけた。』
昨日。
路地裏で聞いた声と同じだった。
「やっと見つけた。」
偶然とは思えない。
僕は警察署を出た。
空は厚い雲に覆われている。
駅前の人混みを歩きながら、昨日拾った紙を取り出した。
『一人目は失敗した。』
その裏側に、昨日はなかった文字が浮かんでいることに気付く。
震える手で読み上げた。
『三人目だけが、ここへ来る。』
その瞬間。
スマートフォンが鳴った。
非通知。
ためらいながら通話ボタンを押す。
雑音だけが聞こえる。
やがて、小さな女の声がした。
「見つけちゃったんだ。」
誰だ。
「もう遅いよ。」
「あなたは……。」
返事はない。
代わりに、静かな笑い声だけが続く。
そして最後に、はっきりと一言だけ聞こえた。
「後ろ。」
反射的に振り返る。
歩道には、大勢の人が行き交っていた。
その中で。
ただ一人だけ。
黒いパーカーの男が立っていた。
男は人混みの向こうから、ゆっくりと右手を上げる。
まるで昔からの友人に挨拶するように。
そして口だけが動いた。
『昨日も会ったよね。』
僕の全身から血の気が引いた。
昨日。
僕はこの町へ来ていない。
それなのに――
あの男だけは、確信しているように笑っていた。
(第二章 了)
――第三章へ続く――