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陽だまりに咲く #5

    第五章 しつれん


    伊織が凛に告白すると知った日和。
    ひまわりの花束を手渡したあとも、胸のざわつきは消えなかった。
    家に帰っても落ち着かず、思わず助けを求めた相手は、昔から恋愛相談を聞いてくれていた直哉だった。
    失恋を確信しながらも言葉にできない想いを抱える日和と、ただ静かに隣にいてくれる直哉。
    変わらない関係の中で過ごした、長い夜の物語。


    第五章 しつれん

    家に帰ってからも

    何も手につかなかった。

    テレビをつけても内容が入ってこない。

    スマホを見ても

    特に連絡は来ていない。

    当たり前だ。

    伊織は今頃

    凛に告白しているのだから。

    ベッドに倒れ込む。

    考えないようにしよう。

    無理だった。

    結局スマホを手に取る。

    LINEを開く。

    少し迷ってから送信した。

    🚨緊急要請🚨

    今日会えない?

    送信から一分も経たないうちに既読がつく。

    別にいいけど。

    どこ行けばいい?

    思わず笑った。

    理由も聞かないんだ。

    さすが直哉。

    駅前の居酒屋!

    了解

    それだけ。

    十分だった。

    *

    「お待たせ」

    十分後。

    直哉が店に入ってくる。

    「早くない?」

    「近かったから」

    嘘

    昔から知っている。

    この男はこういう時だけフットワークがおかしい。

    たぶん直哉なりの優しさ。

    注文を済ませて

    乾杯もそこそこに

    直哉が口を開いた。

    「それで」

    「あー」

    グラスを見つめる。

    なんて言えばいいんだろう

    「伊織がさ」

    直哉は何も言わない。

    「今日、お店に来たの」

    「うん」

    「花買いに」

    「うん」

    「告白するんだって」

    一瞬だけ

    直哉の動きが止まった気がした。

    でもすぐに元に戻る。

    「そう」

    「凛に」

    「うん」

    沈黙

    うるさい居酒屋なのに

    私たちのテーブルだけ静かだった。

    「ひまわり選んだ」

    「日和が?」

    「うん」

    「そう」

    また沈黙

    「失恋、したかも。

    っていうか、した」

    ようやく言葉になった。

    「そっか」

    直哉の声が小さく聞こえる。

    泣きそうなのに

    笑ってしまう。

    「伊織のあんな顔、初めて見た」

    好きな人の話をする顔だった。

    楽しそうで

    嬉しそうで

    少し照れていて

    私の知らない顔だった。

    ぽろり

    テーブルに雫が落ちる。

    やばい

    泣くつもりじゃなかったのに。

    「ごめん」

    慌てて目を擦る。

    その時

    目の前にティッシュの箱が置かれた。

    「ありがとう」

    「どういたしまして」

    直哉はそれ以上何も言わない。

    昔からそうだ。

    慰めるのは下手だけど

    隣にいてくれる。

    「直哉」

    「ん?」

    「来てくれてありがと」

    「別に」

    「助かった」

    直哉は少しだけ笑った。

    「それはよかった」

    少しだけ空気が軽くなる。

    すると直哉はいたずらっぽく笑った。

    「でも日和、とりあえず今日は飲むしかないんじゃない?」

    「それしかないか〜」

    「飲むぞ!」

    「すみません!生2つ!」

    「いいねぇ日和!その調子!」

    普段そんなに盛り上げたりすることはないのに

    こういう時だけ軽い空気を作ってくれる。

    けどごめん。

    今日だけは

    今日だけは頼らせて。

    直哉しか

    聞いてもらえる相手、いないから。

     
     
    ライブハウス勤務20代独身 なんでもできるし、何にもできない ふとっちょ乙女

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