メインコンテンツへスキップ
見出し画像

コミュニティ主義と「ポップ」の覚悟



    カルチャーのコミュニティ主義

    自分の立ち位置について考えが進んだので、一度まとめてみます。

    私は、意識せずに「ポップ」の側に立つ人間になっていました。これは何を意味するか。
    特定のジャンルに本拠地を持たない、ということです。

    特定のコミュニティに留まらず、人々の集合的な欲望と関わりながら作品やパフォーマンスを生み出す立場。
    それがここでいう「ポップ」です。

    著者プロフィール:伏見瞬
    執筆家・音楽系YouTuber。東京生まれ。
    音楽・映画・文学など、表現文化全般に関する執筆を様々なメディアでおこなう。2017~18年「第三期ゲンロン批評再生塾」で東浩紀審査賞を受賞。2018年から旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』編集長。2022年からトークイベント「歌舞伎町のフランクフルト学派」を批評家・西村紗知とともに主宰。
    著書に『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』(2021年、イースト・プレス)。2023年末からはYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年8月時点でチャンネル登録者数約6万人)
    Xアカウント:@shunnnn002


    音楽の場合顕著ですが、特定のジャンルが一つのコミュニティとして機能することがあります。
    たとえばヒップホップ・カルチャー。
    ヒップホップは一つの文化的コミュニティになっており、その一員であるかが問われます。外部の人間に、勝手に荒らされてはいけない。文化全体に愛を持つ人間によって、保たれるものがある。
    だから、外側から勝手に入ってくる奴は攻撃せざるを得ない。2025年夏に勃発したNENEとちゃんみなのBeefは、まさにそうした「ヒップホップvs.外部」の戦いとして機能していました。



    ヒップホップ以外にも、メタルだったりハードコアパンクだったり、ジャンルが一つのコミュニティを形成する例は数多くあります。現在は、ハイパーポップの現場もそのようなコミュニティ機能を有していると聞きました。作品を届ける人間と受け取る人間が同じコミュニティに所属している意識が、ジャンル自体を規定しているといっていい。
    他にも、短歌や俳句はジャンル形式とコミュニティが密接に結びついてたりする。ポピュラーミュージックの業界だけの話でもありません。

    シェルターとしての文化コミュニティ

     
    こうしたコミュニティ意識は、国家のような大きな共同体との軋轢から育まれます。
    国家は時に、あるタイプの人を不必要なものとして扱う。特定の少数派を不都合な存在だとみなす。だったら、自分たちを安全に扱うコミュニティを作っていくしかない。同性愛者の人びとが中心になって作っていったクラブ・カルチャーや、アフリカン・アメリカンやラティーノが生み出したヒップホップのカルチャーは、文字通り国家的な差別や抑圧に対抗するコミュニティとして作られていきました。国家暴力から身を守るシェルターの役割を果たした、ともいえます。

    大きなものと小さなものの対立軸で考えると、大衆的な人気を獲得するポップな存在は、コミュニティが大事にしているものを蹂躙していく対象に思えるわけです。
    巨大な産業構造に支えられたポップスターが、様々なカルチャーの上澄みをすくいながら人気と利益をえていく。そのように考えれば、ポップはシェルターとなるコミュニティから搾取する資本主義の悪魔のようにも見えます。  

    ただ、実際に搾取しているかどうかは、簡単には判別できません。
    文化的なアイデアをコミュニティの外側にいる人間が参照したとして、それが本当にコミュニティの紐帯や利益を損なっているのか。ヒップホップを参照としているK-POPはヒップホップ・コミュニティの損害になっているのか。数字で測るのは大変難しい問いです。
    少なくとも、コミュニティ内部の人間からみれば、そのような物語は説得力を持つでしょう。物語は人のアイデンティティにもなるから、おざなりにするわけにもいかないでしょう。


    コミュニティ主義を選ばない理由①


    しかし、私は巨大産業による搾取の物語の側に立ちません。

    まず、どんなカルチャーもコミュニティも産業として独立しているわけではない。
    全てが業界全体の一部であるという事実から考えれば、「ポップ産業vsコミュニティ」という対立の物語には無理があります。産業全体が潤うことによって、規模の小さいジャンルも活性化されることがある。

    具体的な例を出します。

    CDバブル時代の音楽業界では、さまざまな音楽家にチャンスが与えられました。宇多田ヒカルが特大ヒットを記録したことによって、東芝EMIはNumber Girlのようなバンドに予算を組むことができたと言われています。スピッツがブレイクしたことによって、同じ事務所(ポリドール)に所属していたフィッシュマンズが『空中キャンプ』を作ることができた。ヒップホップやクラブ・ミュージックも、音楽業界の好景気の中で経済的・文化的に発展できた。

    つまり、産業全体とそれぞれのコミュニティ・ミュージックは、相互作用の関係にある。相互作用によって双方の経済環境が成り立っているのだから、シンプルな対立では考えられません。 

    コミュニティ主義を選ばない理由②

     
     
    YouTube「てけしゅん音楽情報」を運営する、ポップアーティスト/文筆家/YouTuberのてけ(照沼健太)と批評家しゅん(伏見瞬)。毎日が楽しくなって仕事にも役立つ、音楽やアニメ、映画のカルチャー記事と、フリーランスと兼業それぞれの視点からの仕事術やメディア論をお届けします!

    あなたへのおすすめ