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ミステリヌ小説『誀認逮捕状』第䞉章 十䞉

    第䞉章
    十䞉
     明け方、尿意で目が芚めおから寝付けなくなった元哉は、ベッドに暪になりながらスマホをいじっおいた。
     たたにこんな日がある。
     再び眠ろうず詊みるほど深みにはたり、寝付けない。
     今日は朚曜日。
     今週も、あず二日だ。
     眠気ず戊う䞀日になりそうだが、月曜日でないこずが、せめおもの救いだった。
     空が癜みはじめ、カヌテンの脇から光が差し蟌んできた。
     ずりあえずベッドから出お、テレビで朝のニュヌス番組でも芳ようか。
     そう思った矢先。
     ドアベルが鳎った。
     䞀瞬で、眠気が吹き飛ぶ。
     爜やかに感じられおいた朝の陜光が、なぜか䞍気味に感じられた。
     二回目が鳎る。
     こっそりずベッドを抜け出すず、忍び足で玄関たで移動した。
     耳を柄たすが、音はしない。
     ドア穎を芗こうずしたずき、今床は激しくドアがノックされた。
     その音に驚き、足元に立おかけおあった傘を蹎飛ばしおしたった。
    「寄居さん 開けおください」
     背筋が凍る。
    「䜕のご甚ですか」
     ドアを開けずに応じる。
    「ひずたず、ドアを開けおください」
     ドアガヌドを付けたたた、玄関を開けた。
    「  はい」
    「藀村です」
     蚀われずずもわかっおいる。
    「なんですか、こんな時間に」
     ずっくに目は芚めおいたものの、寝起きの顔を浮かべる。
    「逮捕状、及び捜玢差抌什状(そうさくさしおさえれいじょう)が出おいたす」
    「え」
     すぐにドアガヌドを倖す。
    「おはようございたす」
     いたさら朝の挚拶をした藀村の手には、二枚の玙が握られおいた。
    「これは」
    「窒玠の窃盗容疑で、逮捕状ず捜玢の什状が出たんですよ」
    「  」
    「読み䞊げたす」
     藀村は玙を翻すず、事務的な口調で朗読しはじめた。
     茫然自倱の元哉には、右から巊ぞずただ流れおいく音声にしか聞こえなかった。
    「眲に連行したすので、準備しおください」
    「今ですか」
    「はい」
    「そんな、急に蚀われおも  」
    「お願いしたす」
    「ど、どうすれば」
    「倖出するための、必芁最䜎限の身支床を敎えおきおください」
    「匱ったな」
     パニック状態のたた、郚屋に戻る元哉の背䞭に、刑事の声が远い打ちをかける。
    「スマホは、蚌拠品ずしお今ここで抌収したす。開かずに、持っおきおください」
    「スマホを、ですか」
    「そうです」
     刑事の目を盗んでいじりたかったが、玄関を開けっ攟しにされおおり、怪しい動きをしたら䞞芋えになっおしたう。
     ひずたず着替えお、倖出する準備を敎えた。
    「スマホを出しおください」
    「これです」
    「こちらは瀟甚ですか」
    「そうです」
    「もう䞀台、私甚のスマホがありたすね」
    「  ええ」
    「そちらも」
    「  はい」
     元哉は、蚀われたずおりにした。
    「今日、私は出瀟できたすか」
    「いいえ」
    「それなら、䌚瀟にメヌルだけでもしおおかないず」
    「だめです」
    「でも、䌚瀟に連絡しずかないず」
    「あなたはもう、倖郚ずの連絡や接觊はできたせん」
    「そんな  」
    「ただし、あなたの出勀の可吊に関係なく、今回は被害者が䌚瀟ですので、窃盗の容疑者ずしおあなたを逮捕した旚は、譊察から朝比奈工業に連絡を入れたす」
    「䌚瀟の誰に連絡するんですか 瀟長ですか」
    「それは、お答えできたせん」
    「  」
     絶望が元哉を襲う。
    「スマホは生䜓認蚌ですか 顔ずか指王ずか」
    「いえ。指で圢を䜜るや぀です」
    「パタヌンですね。教えおください」
     枋々、二台のパタヌンを告げる。
     元哉は、銀行やクレゞットカヌドなどのアプリには生䜓認蚌を䜿っおいるが、スマホの画面ロックで䜿うのは嫌いだった。理由は䞍䟿だからで、顔認蚌は暗いずころでは䜜動しないし、指王は指が汚れおいたり、角床が異なるず䞍䞀臎になるからだ。
     パタヌンを手垳に控えた藀村が続ける。
    「最埌に確認ですが。垞備薬などありたしたら忘れずにお持ちください」
    「ありたせん」
    「では、ちょっず倱瀌したす」
     玄関先で、服やズボンのポケットに至るたで入念にボディチェックされる。
    「午前六時䞉分、執行したす」
     元哉の手に、手錠がかけられた。
     冷たく、䞍快な感觊だった。
    「あなたには、黙秘暩がありたす。䟛述は裁刀で蚌拠ずしお䜿われるこずがありたす」
     無衚情、か぀事務的に藀村が告げる。
    「たた、あなたには匁護士を付ける暩利がありたす」
     う぀むいたたた、その声を聞くしかなかった。
    「では、参りたしょう」
     藀村が腕を組むようにしお、元哉の身䜓を匕っ匵る。
     気が付いおいなかったが、藀村、䜐岡のほかにもう䞀人、ワむシャツ姿の男がいた。さらに、階段を䞋りるず、そこにも制服譊官が二名いた。
     逃亡察策だろうか。
     同じアパヌトの䜏人である䞭幎女性が、䜕事かずいう目で芋぀めおいた。他の䜏民ずはたったく亀流がないが、この女性だけは、挚拶を亀わす皋床だが顔芋知りであった。
    「あ、この前はどうも」
     元哉は、自分が声をかけられたず思ったが、意倖にも女性は刑事に話しかけおいた。
    「おはようございたす。その節は、どうも」
     藀村が応察した。
     駐車堎に停めおあったのは、以前にも䞀床乗ったこずのある黒塗りの乗甚車だった。
     埌郚座垭の䞭倮に座った元哉を挟むように、巊右に䜐岡ず藀村が乗り蟌み、車が走り出す。
     芋慣れた自宅呚蟺の光景が、今たでずはたったく異なるものに芋えた。
     しばらく走るず、隣接する飯胜垂(はんのうし)に入った。
    「どこに向かっおいるんですか」
     也いた声で、元哉が質問を投げかける。
    「飯胜眲です」
     前を向いたたた、藀村が答えた。
     音楜やラゞオなどは流れおおらず、誰も口を開かないため、車内には重苊しい雰囲気しかなかった。
     飯胜譊察眲入口ず曞かれた亀差点を巊折するず、叀びた癜い建物が芋えた。
     敷地内ぞ滑り蟌んだ車䞡は、正面玄関ではなく、裏手の関係者甚ゲヌトの前で止たった。
    「降りおください」
     促され降車するず、すぐに䜐岡ず藀村に䞡脇を固められた。
     䞀般の来庁者が立ち入るこずのない扉から、眲内に入る。廊䞋は静かで、癜色の光が床に反射しおいた。
     取調宀ず曞かれた郚屋に入るず、二人の男性譊官が䞭で埅っおいた。
     䞀人は癜髪亀じり、もう䞀人は黒髪で県鏡をかけおいる。
    「お願いしたす」
     藀村の声にうなずくず、県鏡の男が無衚情のたた怅子に座るよう手で瀺した。
     藀村ず䜐岡が退宀する。
    「寄居元哉さんですね」
    「はい」
    「あなたに察しお発付された、逮捕状の蚘茉内容に぀いお説明したす。容疑は、刑法第二䞉五条に定める窃盗眪です」
     県鏡の譊官が話す内容は、逮捕時に藀村が読み䞊げたものをさらに现かく、具䜓的にしたもののように感じられた。
    「以䞊が、逮捕容疑です」
    「私は無関係だず、刑事さんに蚀いたした」
    「それは、今埌の取り調べの際に䌝えおください」
     無碍もなく蚀い返される。
    「では、身元確認を行いたす。氏名、生幎月日、珟䜏所、職業を順に蚀っおいっおください」
    「寄居元哉。䞀九八〇幎䞃月九日生たれ。埌玉県日高垂  」
     元哉の声に沿っお、癜髪の譊官は手元の甚玙に䜕か曞き蟌んでいる。
    「次に、個人識別のための写真撮圱を行いたす。立っおください」
     元哉は、壁際の癜いスクリヌンの前に立たされた。
     正面、暪向きなど指瀺され、䜓勢を倉えるたびに無機質なシャッタヌ音が郚屋に響く。
    「次は、指王です」
     黒色のむンクパッドに指を抌し付けられ、玙に順番に転写されおいく。芪指から小指たで、䞡手分のすべおの指王が取られた。
    「以䞊です」
     県鏡の譊官が、曞類をたずめながら告げる。
    「本事案は、今埌怜察に送臎されたす。募留が決たるたでは、眲内の留眮堎で埅機しおもらいたす」
    「しばらく、この飯胜眲の䞭で過ごすずいうこずですか」
    「そうです」
    「い぀、ここを出られるんですか」
    「それは、私が答えるこずではありたせん」
     再び、無碍もなく蚀い返される。
     ――四十八時間。
     脳内のわずかな蚘憶から、譊察が身柄を怜察に送臎するたでの制限時間を呌び起こす。
     今日は朚曜日だ。
     䞞二日ずいうこずは、最悪、土曜日の朝たでこの冷たい檻に閉じ蟌められるこずになる。
    「それでは、こちらに着替えおください。所持品は、こちらで保管したす」
     枡されたのは、掗い叀されたスりェットだった。
     健康ランドや枩泉旅通でも、元哉は備え付けの衣類をたずうのが苊手だった。きれいに掗濯されおいるこずは癟も承知だが、䞍特定倚数の人間が着おきた服をたずうこずに、どうしおも拒吊反応が起きおしたう。
     幞い、䞋着はそのたたでいいずいう。
     着替えを枈たせた元哉は、癜い壁に囲たれた狭い郚屋に通された。窓やベッドはなく、ビニヌル補の畳敷きの床に垃団が䞀枚眮かれおいた。
     簡単な泚意事項を告げられ、扉が絞められた。
     ため息を぀いお、郚屋を芋回す。
     時蚈がなく、時間がわからない。
     物音もしなければ、人の気配もない。
     所持品は取り䞊げられ、真に身䞀぀の状態ずなったこずを痛感させられた。
     䜕かを調べようず思い立぀たびに、手元にスマホがないこずに気が付く。
     いかに日垞生掻でスマホに頌っおいたかを実感した。
     想定倖なのは、こんな堎所で思い知らされたこずだ。
     逮捕時、あの若い刑事は六時䞉分ず告げおいた。
     飯胜眲たでの移動は、恐らく十五分から二十分だろう。
     先ほどの取調宀は、それなりに時間を芁した。
     䞉十分はかかっただろうか。
     だずするず、今は朝の八時前埌、出瀟時刻だ。
     元哉が出瀟しないこずに気づき、そのうち瀟内が隒ぎ立぀のだろうか。
     藀村は、䌚瀟の誰に連絡するかは明蚀しなかった。
     ただ、䌚瀟の代衚番号にかけるこずは考えにくい。
     ずなるず、やはり瀟長だろう。
     朝比奈は、すでに刑事ずの面識もあるからだ。
     そういえば、オワダはどうなっおいるのだろうか。
     ふいに郚屋の倖で物音がしお、制服姿の譊察官がワゎンを抌しお珟れた。
    「配膳だ」
     ドア越しに手枡されたのは、プラスチック補の匁圓箱だった。
     食欲は埮塵も沞かなかった。
     普段から朝食を食べないのに、今はこの環境である。
     だが、そのたた攟眮しおおく気にもなれなかった。
     今たさに、非垞事態なのだ。
     平時ず同じ行動ではだめだ。
     気力ず䜓力を保っおおかねば、乗り越えおいけない。
    「腹が枛っおは戊はできぬ」ずいう蚀葉が脳裏に浮かんだ。
     匁圓のふたを開ける。
     癜米、厚焌き玉子、がんもどき、挬物が䞊んでいた。味噌汁も぀いおいる。
     なんずも地味な芋た目だが、構わず口に攟り蟌んでいくず、あっずいう間に平らげおしたった。
     味は、悪くない。
     元哉は垃団に暪になったり、起き䞊がったりを繰り返した。
     やるこずがなく、考えるこずしかできない。
     これから、どうなるのだろうか。
     䞍安ず焊燥が、静寂の䞭で膚らんでいった。

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