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【小説】極上のインタビュー(21)

     数日後の昼下がり、僕は時雨堂に足を運んだ。
     店には数人の買い物客がいて、三代目とスタッフの女性があわただしく対応している。その様子を見ながら待っていると、三代目が落ち着いたところで声をかけてくれた。
    「先日はありがとうございました、母の仕事を引き受けてくださって」
    「こちらこそ、ありがとうございます。お母さまに会いに行こうと思ってるんですけど、大丈夫ですか?」
    「あ、いま行ったら、きっと忙しいって怒鳴られますよ」
     言葉とは裏腹に、三代目が楽しそうに笑う。

    「植木さんに書いてもらったパンフレットを店に置いたら、びっくりするほど大勢の方がもらいに来たんです。それで、母の稼業もいま大忙しで」
    「あ、それなら安心しました。何か手落ちがあったのかと」
    「いえいえ、母が忙しいのはいいことですから。本人は『在庫の箱をさばきたかっただけなのに、なんでこんなに客が来るんだ』なんて贅沢言ってますけど」
     ふと、その様子が頭に浮かぶ。どうしようもなくゆり婆らしい。
    「本当にありがとうございました。母の稼業は、とにかく他人に信じてもらうのが難しいんですよ。でも、植木さんはパンフレットを読んだ人が、すっと受け入れられるように書いてくださった。これが大きかったと思います」
    「そう言っていただけて、すごく嬉しいです」
     僕もゆり婆からの依頼がなければ、涙の香水を知ることもなかった。もしかしたら、封じ込めた思いがいつか腐敗して、また心を病んでいたかもしれない。

    「じゃあ、今日はお菓子を買って帰ります」
     僕はそう答えると、ガラスケースを覗きこんだ。
     紫のアジサイをかたどった練り切りが、真ん中に並んでいる。寒天だろうか、花びらに乗った小さな水滴。息子には和菓子の才があるんだよ、ゆり婆の言葉を思い出した。
    「アジサイの練り切りと、豆大福をひとつずつください」
     次に奈緒に会えるときは、時雨堂の和菓子をお土産に持っていこう。涙の香水の話は……まだしなくていいかな。

    「言っておくけど、ただ涙の香水を塗るだけじゃ、何の意味もないからね。それをつけて、行動した人だけが願いを叶えられるんだ」
     ゆり婆の声が、耳の奥で聞こえたような気がした。

    〔了〕

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