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11.台所の油〈前編〉油の正体と、避けている油

    台所の油、選び直してみた〈前編〉― 油の“正体”と、ひとつだけ避けている油

    前回の予告どおり、今日は「フライパンの油」の話です。

    うちの台所にも、いつからそこにいるのか思い出せない油のボトルが、一本あったりします。特売でなんとなく買って、揚げ物に使って、また戻して……。毎日のように口に入るのに、いちばん“顔”が見えていない食材——それが、油かもしれません。

    油の話は、思いのほか奥が深いので、二回に分けます。前編の今日は、油そのものの“正体”と、上手なつきあい方。後編で、じゃあ実際に何を選ぶか(話題の米油や、わが家の一本)、という順番で。例によって、怖がらせるためではなく、事実ベースでやわらかく。最後は、いつもの「だから、整える」に着地します。どうか、最後まで。

    まず、“あぶら”の正体を、ざっくりと

    油といっても、中身は「脂肪酸」という部品のかたまりです。この部品に、大きく二種類ある。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸。むずかしい名前ですが、覚えなくて大丈夫。台所目線で言うと、違いはこれだけです。

    • 飽和が多い油は、常温で固まりやすい。(バター、ラード、パーム油、ココナッツ油など)

    • 不飽和が多い油は、常温で液体のまま。(なたね油、オリーブ油、米油、ごま油など)

    これが「融点(溶ける温度)」の正体です。冷蔵庫でオリーブ油が白く固まったり、ラードが常温で白く固まっているのは、この脂肪酸の“性格”の違い。ただそれだけの話なんです。

    ただし、不飽和の中に“例外”がある――トランス脂肪酸

    ここで、正直に付け足しておきたいことがあります。

    「不飽和は液体で、なんとなく体によさそう」——そう思いたくなりますが、じつは不飽和脂肪酸の中に、はっきり気をつけたいものが、ひとつだけあります。トランス脂肪酸です。

    液体の油を、バターのように“固く”したい。そんなときに使われてきたのが「水素添加」という技術です。ところが、この途中で、意図せず生まれてしまうのがトランス脂肪酸。マーガリンやショートニングは、もともとこの「液体の油を固める」発想から生まれた油脂で、昔は、このトランス脂肪酸をわりと多く含んでいました。

    そしてこれは、噂話ではなく、世界がそろって“減らそう”としている、数少ない油です。摂りすぎると、悪玉コレステロールを増やすなどして、心臓の血管の病気(冠動脈性心疾患など)のリスクが上がる——ここは、WHO(世界保健機関)も各国の機関も、おおむね一致して認めているところ。WHOは「トランス脂肪酸からとるエネルギーは、全体の1%未満に」と目標を示し、世界から減らす行動計画まで立てています。飽和・不飽和の“性格”の話とは、ちょっと別格の扱いなんですね。

    ただ——ここも冷静に。日本では、そこまで神経質にならなくていい面もあります。 メーカー各社が自主的に減らしてきて、いまのマーガリンは、昔(十数年前)にくらべてトランス脂肪酸が十分の一以下まで下がっている、という業界の資料もある。日本人の平均摂取量も、WHOの目安(1%)よりずっと低い水準だと評価されています。だから「マーガリン=即・毒」と煽るのは、いまの日本では言いすぎ。揚げ物やお菓子に偏らない、ふつうのバランスの食事なら、過度に恐れる必要はない——これが公的な評価の、結論です。

    そのうえで、これは完全に私の選択なのですが——このことを知ってから、私は、マーガリンやショートニングを、なるべくとらないようにしています。外食でも、ホテルの朝食でも、マーガリンは普通に出てきます。パン屋さんのパンや市販のお菓子には、原材料表示に「ショートニング」の四文字をよく見かけます。そういうとき私は、バターがあればバターを、なければ何もつけない。パンも「ショートニング」の表示がないものを、なるべく選ぶ。……ただそれだけのことです。誰かに「やめなさい」と言うつもりは、まったくありません。

    ここでも、やることはいつもと同じ。裏返して、「ショートニング」「マーガリン」「部分水素添加油脂」の文字がないかを見る。 気になる人だけ、そっと避ければいい。知って、選ぶ。それだけで十分だと思っています。

    「沸点」より、「発煙点」を見る

    油を語るとき、じつは「沸点」はあまり役に立ちません。油は、沸騰する前に、煙を出して壊れ始めてしまうからです。

    だから調理でほんとうに気にしたいのは、発煙点(スモークポイント)。文字どおり「煙が出はじめる温度」で、これを超えて熱し続けると、風味も栄養も損なわれ、体にうれしくない物質も出やすくなる、と言われています。

    ざっくりの目安を表してみました。(※精製の度合いやメーカーで幅があるので、あくまで“だいたい”です)

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    ポイントは、高温には発煙点の高い油、香りを楽しみたいときは発煙点の低い油を“仕上げ”に、という使い分け。エキストラバージンや焙煎ごま油を、最初からガンガン熱してしまうのは、じつはちょっともったいないんですね。

    油は「古くなる」――酸化の話

    もうひとつ、大事なのが「酸化」です。

    さっきの不飽和脂肪酸は、液体でいられる代わりに、光・熱・空気・時間に弱いという弱点があります。これらにさらされると、じわじわと酸化して「過酸化脂質」という劣化物ができていく。揚げ油を何度も使い回すと、色が濃くなって、いやな匂いがしてくる——あれが、酸化のサインです。

    過酸化脂質が体にどう影響するかは、断定を避けたいところですが、「わざわざ食べたいものではない」のは確かでしょう。だから、わが家で気をつけているのは、こんな“がんばらない”工夫です。

    • 小さめのボトルを買って、早めに使い切る(大容量の徳用は、酸化との競争になりがち)

    • 遮光ボトル、または戸棚の中(火のそば・窓辺を避ける)で保管する

    • 揚げ油を、いつまでも使い回さない(色と匂いが変わったら、潔く替える)

    新品を買うより、まず「今ある油を、劣らせない」。ここは今日からできます。

    だから、整える(前編)

    油は、毎日、確実に口に入る。それなのに、いちばん“顔”が見えにくい食材です。でも、性格(飽和か、不飽和か)と、弱点(熱と、酸化)と、避けたい一種類(トランス脂肪酸)——この三つを知っておくだけで、台所での向き合い方は、ずいぶん変わります。

    こわがるより、知って、選ぶ。まずは今ある一本を、劣らせないことから。

    だから、整える。

    次回〈後編〉は、いよいよ「何を選ぶか」。最近ブームの米油の“ほんとのところ”、スーパーの棚では見かけないのに大量に使われている「見えない油」、そして、わが家の定番の一本の話を、やわらかく。


    ※無理はしないでください(これだけは)

    • 油の“合う・合わない”、必要な脂質の量には、個人差があります。持病のある方、脂質異常症などで治療中の方、妊娠中・成長期の方は、自己判断で極端な油の制限や変更をせず、必要なときは専門家の力も借りてください。

    • 本文の発煙点などの数値は「だいたいの目安」です。精製の度合いやメーカーで変わります。

    • どの油も「これだけ摂ればいい/これは絶対ダメ」という話ではありません。大切なのは、いつもの“量と、質と、バランス”です。


    参考

    ※本文の発煙点などの数値は「だいたいの目安」です。精製の度合いやメーカーで変わります。

     
     
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