
09.塩とマグネシウム
日本人に足りない“もう一つのミネラル” ― 塩と「マグネシウム」の話
前回の予告どおり、今日は「塩」の話です。とはいえ、“塩は体に悪い、減塩しよう”という、よく聞くあの話ではありません。今日したいのは、塩の“中身”——とくに、日本人にこっそり足りていないと言われる「マグネシウム」の話です。
先に、これだけは。日本人には、減塩する傾向があります。 「塩は控えめに」という意識が、わりと行き渡っている。今日はその“量”を増やそう・減らそうという話ではなく、塩の“中身と選び方”、そしてミネラルの話です。そう思って読んでもらえたら。
塩の“中身”を、もう一度だけ
農薬の回で、食卓塩(精製塩)と天日塩の違いに触れました。おさらいすると——まっ白な精製塩は、中身のほとんど(99%以上)が塩化ナトリウム。いっぽう海水からつくる自然塩には、ナトリウムのほかに、マグネシウム・カルシウム・カリウムといった海のミネラルが、少しずつ残っています。同じ“塩”でも、製法で中身がここまで変わる。
今日は、その“残っているミネラル”のほうへ、もう一歩だけ踏み込みます。主役は、マグネシウム。
マグネシウムって、地味だけど働き者
カルシウムや鉄にくらべると、マグネシウムはどうも地味です。名前は知っていても、「で、何に効くの?」と聞かれると、案外答えられない。私もそうでした。
調べてみると、これがなかなかの働き者でした。体の中で三百種類以上の反応を助ける“裏方”で、筋肉や神経の調子、エネルギーづくりに関わっている。そして——骨。骨はカルシウムでできている、と思われがちですが、じつは体内のマグネシウムの六割ほどは骨にあって、カルシウムと組んで骨づくりを支えています。カルシウムだけ摂っても、マグネシウムが足りないと、うまく回らない。二人三脚なんですね。
不足すると、足がつる、まぶたがピクピクする、といった小さなサインが出ることがあります。強い不足や電解質の乱れが重なると、だるさやふらつきにつながることも。派手ではないぶん、“なんとなくの不調”の陰に隠れやすいミネラルだな、と思います。
そして、日本人は足りていない(らしい)
ここが、今日の肝です。
国の調査(令和元年の国民健康・栄養調査)を見ると、日本人のマグネシウム摂取量は、おとなの平均でおよそ250mg前後。いっぽう推奨量は、私くらいの世代の男性で1日370〜380mgほど。——つまり、多くの人が推奨量に届いていない、というのが実際のところのようです。
精製された塩や加工食品が増え、雑穀や海藻を食べる量が減り……と、暮らしの変化のなかで、じわじわ抜け落ちてきたミネラル。そう考えると、なんだか腑に落ちます。
正直に言うと、“1日2食”は不利かもしれない
ここは、正直に書いておきます。
じつは「食事の回数が少ない人」は、そのぶん食べる総量が減るので、マグネシウムも不足しやすい——という指摘があります。1日2食の私は、まさにそこに当てはまる。都合の悪い話ですが、隠さず書いておきます。
だから私は、“2食だからこそ”、一食一食でミネラルを意識するようにしています。少ない食事のなかに、いかに“中身”を入れるか。ここでも結局、「量より、質と中身」なんですよね。
じゃあ、どこから摂る? ― 答えは、わりと“和食”
で、マグネシウムはどこから摂るのがいいか。
先に、大事なことを。塩から摂ろうとしないでください。 自然塩にマグネシウムが“残っている”のは本当ですが、量はごくわずか。塩でマグネシウムを補おうとすると、先にナトリウムを摂りすぎてしまう。それは本末転倒です。塩はあくまで、味と、ミネラルの“バランス”のためのもの。主役の供給源では、ありません。
じゃあ主役は何かというと——これが、うれしいことに“和食”なんです。
海藻(わかめ、ひじき、あおさ、のり)
大豆製品(豆腐、納豆、味噌)
ナッツ・種(アーモンド、ごま)
雑穀・玄米、そして緑の葉物
見事に、昔ながらの日本の食卓ですよね。私が晩ごはんで、魚と一緒に味噌汁・海藻・豆腐あたりを“なんとなく”食べているのも、振り返れば理にかなっていた。狙ったわけじゃないのに。——「和食に帰る」。これが、いちばん地味で、いちばん確かなマグネシウム対策かもしれません。
ちなみに、豆腐を固める「にがり」。あれの正体は、塩化マグネシウムです。海水から塩をつくったあとに残る、あのしょっぱ苦い液。日本人は昔から、塩もにがりも、海の恵みを丸ごと使ってきたわけです。
“マグネシウム風呂”のこと ― 正直な距離感で
もうひとつ、巷でよく聞くのが「マグネシウム風呂」。エプソムソルト(硫酸マグネシウム)や、にがりを入れたお風呂ですね。「皮膚から吸収できて、食べるより効率がいい」なんて話も、よく見かけます。
私も、にがりを薄めて肌につけたり、お風呂に少し入れたりは、します。肌に馴染む感覚があるので。——ただ、正直に言います。「皮膚から吸収されて、食べるより効く」というのは、いまの科学ではハッキリしていません。「肌からはほとんど入らない」とする専門家もいます。ここは両論あります。
だから私は、マグネシウム風呂を「ミネラル補給の手段」とは考えていません。位置づけとしては、前に書いた432Hzの音と同じ。効くかどうかは分からないけれど、温かい湯に浸かるのは、それだけで心地いい。 私にとっては、それで十分。調子は実体験としては良く感じられる、というくらいの距離感です。ミネラルを“入れる”なら、やっぱり食から。ここでの私の実体験ベースという立ち位置としては、はっきりさせておきたいところ。
塩は、昔から“力”が握ってきた ― ミネラルが“抜けた”日
最後に、少しだけ背景の話を。「なぜ、わざわざ自然塩を選ぶ必要があるの?」の答えにもなります。
塩は、生きるのに欠かせないぶん、昔からずっと“力ある側”に握られてきました。——たとえば、これは真偽の定かでない俗説ですが、江戸時代には「塩抜きの刑」という拷問があった、と語られることがあります(作家・司馬遼太郎の記述として紹介されることが多い話です)。塩を抜いた食事を続けると、気力までしぼんで、やがて何もかもどうでもよくなる——だから自白させるのに使われた、と。史実として裏づけるのは難しいので、あくまで“そんな話が伝わっている”くらいに聞いてください。ただ、こんな俗説が生まれるほど、「塩は命に関わる」と昔の人が感じていたことは、なんとなく伝わってきます。
実際、日本でも塩は長く“国のもの”でした。1905年(明治38年)、日露戦争の戦費調達も背景に、塩は専売制になります。以来ほぼ一世紀、私たちは「国が決めた塩」を使ってきたわけです。(塩と権力の話は、フランスの塩税や、農薬・砂糖の回とも、根っこは同じですね)
そして決定的だったのが、1971年(昭和46年)。「塩業近代化臨時措置法」という法律で、海水を干す伝統的な塩田が全廃され、「イオン交換膜製塩」に一本化されます。効率がよく、天候にも左右されず、真っ白で純度の高い塩がつくれる。——けれど、その代わりに、海水にあったマグネシウムなどのミネラルは、ごっそり抜け落ちました。浜辺の塩田は埋め立てられ、工場や団地へと姿を変えていく。私たちが「塩」と呼ぶものが、ほぼ塩化ナトリウムだけの姿に変わった瞬間です。——伝統の製法が、法律を変えてまで手放された。そう言っても、言い過ぎではありません。
でも、話には続きがあります。この変化に「待った」をかけた人たちがいました。学者や料理人、消費者が集まって“自然塩を取り戻そう”と動き、伝統製法の塩を細々と守り続けた。私がふだん使っている「海の精」も、じつはこの復活運動から生まれた塩です。そして1997年(平成9年)、塩の専売はついに廃止され、私たちはまた、自然塩を自由に選べるようになりました。
おわりに ― だから、整える
塩は、敵じゃない。でも、“どんな塩か”は、選べる。
そして塩よりもっと、日々の食のなかで意識したいのが、こっそり足りていないマグネシウム。海藻、大豆、ナッツ、雑穀——「和食に帰る」だけで、その多くは取り戻せます。
派手なサプリでも、怖い陰謀でもなく。裏返して選んで、和のものを食べる。ただ、それだけ。
痩せるより、整える。ミネラルの“バランス”を取り戻すのも、その一つです。
だから、整える。
次回は、その“抜けた二十年”のあとの話を。戦後、日本の食卓はどう変わっていったのか——ちゃぶ台の上の「当たり前」を、もう一度ながめてみます。
※無理はしないでください(これだけは)
塩分は、摂りすぎも注意です。高血圧や、腎臓・心臓に持病のある方、むくみやすい方は、塩もマグネシウムも“増やす”前に、専門家の力を借りてください。
マグネシウムは、サプリやにがりの摂りすぎでお腹がゆるくなることがあります。とくに腎臓の働きが弱い方は注意を。
妊娠中・成長期の方、薬を飲んでいる方、食で苦しんだ経験のある方は、自己判断で無理をしないでください。合う・合わないには、個人差があります。

参考
マグネシウムの働きと1日の摂取量/健康長寿ネット(健康・体力づくり事業財団) https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-mg.html
日本の塩つくりの歴史(1971年の法改正と塩田廃止)/伯方塩業 https://www.hakatanoshio.co.jp/salt/history/
ごあいさつ(自然塩復活運動と「海の精」の誕生)/海の精 https://www.uminosei.com/uminosei/aisatsu/
塩業近代化臨時措置法をめぐる経緯/データベース『えひめの記憶』(愛媛県) https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:1/26/view/3615
塩の制度の歴史(1905年の専売制と、その背景)/公益財団法人 塩事業センター https://www.shiojigyo.com/siohyakka/number/history.html
エプソムソルトの経皮吸収に関する科学的評価(Gröber et al., Nutrients, 2017 ほか。経皮吸収は科学的に未確立との指摘)
※「塩抜きの刑」は一次史料での確認が難しい俗説のため、本文でもその旨を明示して扱っています