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15.マーガリンはなぜ黄色いのか

    マーガリンは、なぜ黄色いのか ― バターに“化けた”油の、長い歴史

    前回、いちばん静かな整活——呼吸と瞑想の話の最後に、「次は少し時代をさかのぼって、マーガリンの話を」と予告しました。〈台所の油〉の回で、ちらっと顔を出した、あの油です。今日は、その“生まれ”を、やわらかくたどってみます。

    油の前編で、こう書きました。「マーガリンやショートニングは、もともと“液体の油を固める”発想から生まれた油脂だ」と。では——その発想は、いったいどこから来たのか。 じつはここに、フィクションみたいに面白い、でも全部ほんとうの歴史があるんです。例によって、怖がらせるためではなく、事実ベースで。最後は、いつもの「だから、整える」に着地します。どうか、最後まで。

    それは、皇帝の“募集”から始まった

    話は、150年以上前のフランスにさかのぼります。

    当時の皇帝ナポレオン3世は、困っていました。軍隊、とりわけ海軍の兵士や、暮らしの楽でない人々に、安くて日持ちのする、バターの代わりを配りたい。でも、そんな都合のいいものは、まだ世の中にない。そこで彼は——賞金を懸けて、広く募集をかけたんです。「バターの代用品を作れた者に、褒美を出す」と。

    これに応えたのが、イポリット・メージュ=ムーリエという、フランスの化学者でした。1869年、彼は牛の脂(牛脂)を、牛乳と混ぜて練るという方法で、バターに似た食べ物を作り出し、みごと賞金を勝ち取ります。これが、マーガリンの誕生です。

    面白いのは、その名前の由来。真珠のような光沢にちなんで名づけられた「マルガリン酸」という物質から、彼はこれを「オレオマーガリン」——のちに縮めて「マーガリン」と名づけました。つまりマーガリンは、生まれたときから“本物のバターに寄せて作られた、代用品”だったわけです。

    そしてもうひとつ。マーガリンは、本来まっ白なんです。あの黄色は、あとから足された色。……この“色”が、のちに大きな騒動を引き起こすことになります。

    これ、ぜんぶ“ほんとの話”です

    いつも「史実と噂は分ける」と書いているので、先にお伝えしておきます。今日の話は、噂がゼロ。 ぜんぶ、資料に残っている史実です。

    メージュ=ムーリエは、まもなくこの特許をオランダの会社に手渡し、そこから改良が重ねられて、マーガリンは国際的な商品に育っていきます。(余談ですが、このオランダの流れは、のちに世界的な巨大食品メーカーへとつながっていきます。食べ物の歴史は、そのまま産業の歴史でもあるんですね)

    でも、この話のいちばんの“見どころ”——というか、笑ってしまうくらいの騒動は、海の向こう、アメリカで起きました。

    バターに“化ける”のを、法律で止めようとした話

    マーガリンは、安い。日持ちする。しかも、黄色く染めれば、見た目はバターとそっくり。……これに真っ青になったのが、アメリカの酪農業界——つまり、バターを作る側でした。

    「このままでは、バターが負ける」。そう考えた業界は、政治に働きかけます。そして——ここからが、のちに「バター戦争」と呼ばれる騒動です。

    • 州によっては、マーガリンの製造・販売そのものを、まるごと禁止した。

    • 1886年には、国が税金をかけて、許可制にした。

    • さらに驚くのが、いくつかの州が「マーガリンは“ピンク色”に染めて売れ」という法律まで作ったこと。バターと間違えようがないよう、わざと食欲のわかない色にさせたわけです。(赤や茶色、黒を求める案まであったとか)

    さすがにこの“ピンク法”は、のちに裁判で無効とされます。それでも業界はあきらめず、今度は「黄色いマーガリンには、重い税金をかける」方向へ。1902年には、黄色く染めたマーガリンに、当時としては非常に重い税が課されました。

    すると、メーカーも知恵を絞ります。白いマーガリンに、黄色い着色料の小袋を添えて売るようになったんです。買った人は、家で袋をもみもみして、自分で黄色く染めてから食べる。当時の子どもの、ちょっとした“お手伝い”だったといいます。……食べ物を、法律をかいくぐって、家庭で色づけする。なんだか、すごい時代ですよね。

    この黄色をめぐる争いは、驚くほど長く続きました。最後まで規制を残していた州が、その色の法律を手放したのは——なんと1967年。マーガリンが生まれてから、じつに約100年後のことでした。

    そして、“植物油を固める”技術がやってきた

    さて、ここで〈台所の油〉前編の話と、つながります。

    生まれたてのマーガリンは、牛脂——つまり動物の脂で作られていました。ところが20世紀の初め、液体の植物油に水素を加えて、固くする技術(水素添加)が実用化されます。これで、安い植物油からでも、マーガリンが作れるようになった。より安く、より大量に。産業としては、大成功です。

    でも、前編で書いたとおり、この“固める”工程の途中で、意図せず生まれてしまうのがトランス脂肪酸でした。バターに寄せるために、油を固める。その技術の、副産物だったわけです。マーガリンの歴史と、トランス脂肪酸の話は、じつは根っこでつながっていたんですね。

    で、今の私たちの食卓は?

    こう書くと、また「マーガリンは悪だ」と聞こえそうですが——そうではありません。 ここは、前編とまったく同じ結論です。

    いまのマーガリンは、メーカーの努力でトランス脂肪酸がぐっと減っていて、ふつうのバランスの食事なら、過度に恐れる必要はない。これが、公的な評価の、まっとうな線です。「マーガリン=即・毒」と煽るのは、いまの日本では言いすぎ。そこは、正直に。

    私がこの歴史から受け取ったのは、もっと別のことでした。私たちの食べ物は、“中身”より先に、値段と、見た目と、法律と、売り方をめぐって争われてきた——という事実です。黄色いかどうか。バターに見えるかどうか。真珠のような、きれいな名前。……食べ物そのものの良し悪しより、そっちが延々と問題にされてきた。砂糖の回でも、塩の回でも、くり返し見てきた景色です。食を握る者が、“語られ方”まで動かしていく。

    だから、整える

    マーガリンの長い歴史を持ち出したのは、この油を悪者にしたいからではありません。

    前編でも書いたとおり、私自身は、マーガリンやショートニングを、今はまったくとっていません。でもそれは、知ったうえでの、私の選択です。誰かに「やめなさい」と言うつもりは、まったくありません。バターがあればバターを、なければ何もつけない。パンやお菓子は、裏返して「ショートニング」の文字を見てから選ぶ。……ただ、それだけ。

    見た目に化けさせられてきた歴史を知ると、逆に、こう思うんです。黄色いから、おいしそうだから、で選ぶのはやめて、裏を返して、中身で選ぼうと。こわがるより、知って、選ぶ。マーガリンも、その名前の由来も、ぜんぶ知ったうえで、私は今日も台所の一本を、自分の目で選びます。

    化けた色に、惑わされない。裏返して、中身を見る。

    だから、整える。

    次回は、また少し肩の力を抜いて。台所に住みついた“見えない住人”——味噌やぬか漬けの「発酵」の話を、やわらかく。梅の回のような、日本の台所の知恵に、もう一度。

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    ※無理はしないでください(これだけは)

    • ここに書いたのは史実の紹介と、あくまで私個人の選択です。「これを避けるべき」と勧めるものではありません。

    • 脂質の“合う・合わない”や必要な量には、個人差があります。脂質異常症などで治療中の方、妊娠中・成長期の方は、自己判断で極端な油の制限をせず、必要なときは専門家の力も借りてください。

    • どの油も「これだけ摂ればいい/これは絶対ダメ」という話ではありません。大切なのは、いつもの“量と、質と、バランス”です。


    参考

     
     
    がんばるのを、やめませんか。 暮らしと気持ちを整える=整活。整えば、体はあとからついてくる。 合言葉は「痩せるより、整える。」 小さな習慣をひとつずつ、やさしく届けます。 気軽にフォローしてくれると嬉しいです。

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