
【男子宝石】#毎週ショートショートnote
「男子宝石」という店は他の宝石店とは少し趣が異なる。
男性のための宝石。それは男性が身につける宝石はもちろん、男性が誰かに贈るための宝石…つまり、客は男性だけ。
だからといって堅苦しいわけでもない。商品の値段もある程度幅がある。
確かに現代は若い男子の方がアクセサリーをつけることに抵抗はない。
ただ宝石となるとどうだろうか?
そういう懸念を抱きながら取材に向かった。
店はオーナーの祖父の代から続いているという。
店に出している最高価格は200万円のカフスボタン。
それが似合う男性になれということか?それとも男性用にデザインされた宝石でもここまで甘美なものが出来るというのを見せつけるためなのかはわからない。
「アンティークですね」
「ええ。これは曽祖父がデザインしたものです」
オーナーは本当に宝石が好きなようで、こちらが一を訊ねるとその何倍もの答えが返ってくる。
「これはひょっとしてお売になるつもりはない?」
「いえいえ。これに相応しい人がこれを求めたらお譲りいたしますよ」
お譲り…ときたものだ。
「私に似合う宝石はどのあたりでしょうかね?」
そう訊ねるとオーナーはさも可笑しいというように笑い出した。
「すみません。笑うなどと」
オーナーは目尻の涙を拭きながら言う。そんなにおかしな話なのだろうか?
「ご自身でわからないうちは、ここにはないということです」
オーナーはそう言ってにっこり笑った。だけどその笑みに冷たさを感じた。
「あなたはまだそれほど宝石に興味を持たれていらっしゃらないようです」
図星だ。
「こののち、この店があなたのお力になれることを祈っています」
「はい」
誘導されたかのように頷いた。
「いつか僕が宝石を欲することがあったら、必ずこの店に来ます」
「お待ちしております」
オーナーはそう言って頭を下げた。
店を出て、ほぅと息を吐いた。
男子宝石。この店自体もだけど、男の宝石道は舐めてかかってはいけないようだ。
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本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です。