【管理職8】沈黙 / 何も言わなかった理由
管理職記事の1〜6を第1章としてマガジンにしました。そして7以降を第2章にします。
(ただの自己満です。軽く聞き流してください。)
1章はこちら。
2章はまだこちらだけですが、ぜひ!
彼は私の席の横に立っていた。
入社3年目。一通りの実務は問題ないが、自分で判断することには、まだ慣れていない。
「相談してもいいですか?」
手には、予定表があった。
「部品の入荷が遅れていて、このままだと明日のラインが止まります。A製品を優先すればB製品が遅れます。Bを優先すれば、Aの納期に影響が出ます。どちらを優先すべきでしょうか」
彼は正解を求めていた。
私は、資料を見た。状況はすぐに理解できた。過去にも何度も経験した判断だった。
「Bを優先しよう」
そう言えば、それで終わる話だった。
だが、その瞬間、私は手を止めた。
ここで答えを与えれば、問題は解決する。
しかし、彼は何も得ない。
私は、問いを返した。
「君は、どうするべきだと思う?」
彼は一瞬、固まった。
「間違ってもいい。どう考える?」
彼は、資料に目を落とした。
「A製品は重要顧客向けです。ただ、B製品は多額な損金に直結します。全体への影響で考えると……Bを優先すべきだと思います」
言い終えたあと、彼は不安そうに私を見た。
私は、少しだけ間を置き、うなずいた。
「私も同じ結論だ」
その瞬間、彼の表情が変わった。
何かを、自分で越えた表情だった。
管理職になる前の私は、答えを出すことが仕事だと思っていた。
早く、正確に、決めること。それが価値だと思っていた。
だが今は違う。
管理職の仕事は、答えを出すことではない。
答えを出せる人間を育てることだ。
答えを教えるのは簡単だ。
問いを返すのは、難しい。
時間もかかるし、不安も残る。
だが、その時間こそが、人を育てる。
その後、別のトラブルで、後輩が彼に相談している姿を見た。
「君はどう思う?」
彼は、あの日の私と同じ言葉を使っていた。
私は、何も言わなかった。
それでいいと思った。
