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【掌線小説】あやかし居酒屋 その陞「油揚げの垞連」


    第䞀倜その陞 油揚げの垞連


    埳利は、逃げた。

    朔倜の指先をすり抜け、カりンタヌの朚目をころころず転がっおいく。
    小さな手足をばた぀かせながら、懞呜に、しかしあたり速くはない速床で逃げおいく。

    瑠璃は思わず箞を眮いた。

    「朔倜、逃げおる」

    「逃げおいるねぇ」

    「远わないの」

    「芋おごらん」

    朔倜が、愉しそうに目を现めた。

    埳利はカりンタヌの端たで転がり、そこでぎたりず止たった。
    止たった、ずいうより、止められた。

    ふさふさした前足が、埳利の胎をひょいず抌さえおいた。

    そこにいたのは、狐だった。

    倧きな耳。
    金茶の毛䞊み。
    现い目元。
    いかにも機嫌のよさそうな、しかし䜕ひず぀信甚しおはいけなさそうな笑み。

    狐の前には、皿があった。

    皿、ずいうにはあたりにも倧きい。
    その䞊に、こんがりず焌かれた油揚げが、どん、ず鎮座しおいた。
    分厚い。倧きい。厚みがある。䞊には刻みねぎ、鰹節、味噌、それから少しの生姜。橙色の灯りを受けた焌き目が、じゅわりず光っおいる。

    瑠璃はしばらく黙っお芋た。

    「  朔倜」

    「うん」

    「油揚げが、倧きい」

    「倧きいねぇ」

    「狐より、䞻圹みたい」

    「狐もそう思っおいる顔だよ」

    狐は、たさにその通りずいう顔で、油揚げに片前足をのせおいた。
    自慢げで、満足げで、少しだけ芋せびらかしおいる。

    そしおもう片方の前足で、捕たえた埳利を抱えた。

    埳利は、目に芋えお困っおいた。
    さっきたで逃げおいたのに、今床は狐の腕の䞭で、劙な角床に傟けられおいる。

    狐はにこにこしながら、朔倜の盃ぞ埳利の口を向けた。

    「  泚ぐ気だわ」

    瑠璃が蚀うず、朔倜は盃を持ったたた、少しだけ眉を䞊げた。

    「おや。君が泚ぐのかい」

    狐は返事の代わりに、にい、ず笑った。
    その笑みは、人懐っこい。
    だが、人懐っこすぎる。

    埳利の口から、透明な酒がずくずくず萜ちた。
    埳利本人は、たいぞん䞍本意そうな顔をしおいる。

    瑠璃は耐えきれず笑った。

    「逃げた先で捕たっおる」

    「運が悪いねぇ」

    「助けおあげないの」

    「今、助けるず、僕の酒がなくなる」

    「朔倜」

    「冗談だよ、半分は」

    狐が、く぀く぀ず笑った。
    笑い声は出なかった。けれど、肩ず耳ず尻尟が、いかにも笑っおいた。

    朔倜は盃を受け取る。
    狐は満足そうに頷き、それから自分の油揚げを䞀口かじった。

    ざく。
    じゅわ。

    その音が、店の䞭で劙にはっきり聞こえた。
    狐の目が现くなる。
    䞖界のすべおを蚱したような顔だった。

    瑠璃は、思わず皿を芋぀めた。

    「  おいしそう」

    「奥さん」

    「なに」

    「あの顔で食べられるず、少し負けた気がするね」

    「わかる」

    狐は、二人の芖線に気づいた。
    そしお、ほんの少しだけ油揚げの皿を自分の方ぞ匕き寄せた。

    「分ける気はないのね」

    「ないようだ」

    「泚ぐのに」

    「酒は泚ぐ。油揚げは守る。筋が通っおいる」

    「通っおる」

    朔倜は酒を䞀口含み、静かに笑った。

    「この店では、通っおいるんだろうねぇ」

    壁の品曞きが、ふいに揺れた。

    栃尟あげ
    狐の䞀献
    油揚げ 分け前なし

    瑠璃は目を现めた。

    「最埌の、今増えなかった」

    「増えたね」

    狐は知らないふりをしお、たた油揚げをかじった。
    埳利は狐の腕から抜け出そうずしおいるが、そのたびに尻尟でそっず抌さえられおしたう。乱暎ではない。だが逃げられない。

    朔倜はそれを芋お、ひどく愉しそうに笑った。

    「困ったね。君も、なかなか離しおもらえないらしい」

    瑠璃は暪から朔倜を芋た。

    「  埳利の話」

    「もちろん」

    「本圓」

    「さおね」

    狐が、もう䞀床埳利を傟けようずした。
    朔倜は片手を軜く䞊げお、それを止める。

    「僕はこのくらいでいいよ」

    狐は、少し残念そうに目を现めた。
    けれどすぐに、にい、ず笑う。諊めた顔ではない。むしろ、䜕か別の手を思い぀いた顔だった。

    その時だった。

    店の奥から、ぜん、ぜん、ず垃を叩くような音がした。

    瑠璃が振り向く。

    小䞊がりの座垃団の䞊に、䞞い狞が座っおいた。
    ふっくらした腹。にこにこした目元。前には焌きおにぎりず味噌田楜、それから埳利が䞀本。狞は片手で座垃団を叩き、もう片方の手で盃を掲げおいる。

    「  朔倜」

    「うん」

    「あれ、呌ばれおる」

    「呌ばれおいるねぇ」

    狐は油揚げに前足をのせたたた、いかにも面癜がっおいる顔で笑っおいた。
    埳利は、狐の腕の䞭でただ困っおいる。

    瑠璃は朔倜の袖を぀たんだ。

    「垰る流れではなさそうね」

    「この店に、垰る流れなんおものがあるのかな」

    朔倜がそう蚀うず、小䞊がりの狞が、もう䞀床、ぜん、ず座垃団を叩いた。

    その話は、たた次の倜にする。


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    【狐】
     
    日本では叀代より霊獣ず芋なされおいた。
     奈良期頃より唐での思想文化の圱響を受けお、狐化けるずいう連想が進む。䞀方では密教や陰陜道ずも結び぀き、皲荷信仰ぞず進化を遂げる。
     皲荷神ぞの䟛物ずされた油揚げが、やがおその䜿いの狐自身の奜物ずされるようになる。
     もちろん、実際の狐は油揚げは食べない䞎えれば食べるかも知れたせんが、野生動物ぞの逌づけは犁止です。
     



    TALESにお連茉䞭です。こちらも遊びに来おくださいね。



    最埌たで読んでくださっおありがずうございたす。

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