
2日で読了。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はなぜここまで面白いのか
何かないかな。そう思って本屋に立ち寄ることがあなたにもあるでしょう。私にもありました。結構疲れていて、一段落はしているものの仕事も続いていて、何かで現実逃避したい。
目に入った棚の一番前、よく見えるところに、前から気になっていた「プロジェクト・ヘイル・メアリー」が置いてありました。映画化するそうです。なので面白そうではある。しかし中身はよくわからない。Amazonのあらすじを引用すると
未知の物質によって太陽に異常が発生、氷河期に突入しつつある地球。ひとり宇宙へ飛び立った男は、人類を救うミッションに挑む!地球上の全生命滅亡まで30年、人類の命運を賭けた一大プロジェクトに挑む宇宙飛行士の奮闘を描く、極限のエンターテインメント!
となっている。なるほどSFだな。海外のSFだと三体も面白かったし、宇宙だし!これ買って読んでみようかな。
最近は積読気味だったので、あまり自分に期待せず読み始め、あれあれあっという間に上巻が終わり、下巻も終わりました。2日で読み切ったと思います。電車の中ではもちろんのこと、食事中も片手に持ち、トイレにも持ち込み、寝るとか風呂とか、そういう本が読めない時間以外は全部読んでました。つんどけなかった。
インターステラーとか、三体とか、あとメッセージ(小説の邦題は「あなたの人生の物語」)がお好きな方には間違いなくおすすめです。
何が面白かったのか?
スピード感やドキドキハラハラの展開、舞台の壮大さはもちろんなのですが、私にとっては、他者理解の話でした。ちょっとその視点で書いてみようと思います。
ここから先、物語の前半部分のネタバレを含みます!核心には触れません。一切事前情報なしで楽しみたい方は、もはや読んでみてください!
というわけでプロジェクトヘイルメアリーです。メアリーさんの話ではない。ヘイルメアリーというプロジェクトが、いわゆる人類を救うミッションのことなんですけど、そのミッションは結構難易度高く、正直失敗なんですね。これはもう無理でしょうとなる。そこで、新たな登場人物が出てくるわけです。
その新たな登場人物は、人間ではない。他の星の生き物です。そして、ここがミソなのですが、人間のことを知っているわけではない。たまたま、ミッションの途中で、お互いにハプニングとして出会うんです。
なので、「私は今あなたの心の中に直接語りかけています」的なことは起こりません。こちらの言葉もあちらの言葉もお互いわからず、いやそもそも言葉という概念があるのか?つまりコミュニケーションそのものがあるのかないのかもわからないところから、
え、どうしよう?
と考えながら進めていくんです。
この流れ。
あー、これは、
私だ。
この主人公(グレース)は仕事している私と同じ、家族の中の私とも同じ。異星人か人間かは、大きな違いではないのかもしれない。私は仕事で様々なクライアントと対話をします。どんなに言葉を尽くしても、理解されないときは理解されない。理解された、と思った時が一番危ういのかもしれない。
日本語は通じる。でもそれだけ。それ以外のことは、なんとなくわかった気でいるけど、実は何もわかっていない。同じ仕事の目的を共有しているつもりでいても、実は少しずつズレていて、並走する路線がいつのまにかいなくなってしまうように、とんでもないところで気づく。あれ、今私はどこにいて、誰と話してるんだろう。何を。この人はどこを向いているんだろう。
その目は何をみているんだろう。
その奥に、何があるんだろう。
グレースも、同じように相手との距離感を測りながら、少しずつ仮説と検証を繰り返し、コミュニケーションを図っていくのですが、大変です。なかなか進まないし、他のいろんな事件も起こるしで、きつい。もう終わりにしたくなる。
終わりにしても良い。仕事なら、担当を外れるなり、何なら辞めることだってできる。人との関係に距離を置くこともできる。たとえ家族でも。ではなぜグレースはそうしなかったのか?ミッションに対する責任感?寂しさ?生きる希望?
そういう主人公もいるでしょう。でもグレースは違いました。何者かわからない宇宙人が作った謎の通路に足を運び、なんと宇宙服を脱いでこういうのです。
額に玉の汗が浮かび、強いアンモニア臭で涙が出てきても、ぼくはひるまない。好奇心が勝っている。誰も僕を責められないだろう?
あくなき好奇心。興味。知りたい、という根源的な欲求。それが他者とのコミュニケーションへの思いを支えている。ここが何より面白いと思いましたし、私もそう考えられる、と思いました。
グレースは探究する仕事についていたこともあり、人より好奇心が強いということは言えるでしょう。でもそれは、私やあなたも少なからず持っているはずです。
仕事を通じていろんな人を知りたいし、組織を知りたいし、仕組みを知りたい。困りごとを知りたい。どうやったら解決できるか、知りたい。とにかく知りたい。だから本を読むし、想像するし、グレースになる。
わたしはこの本を読みながら、グレースと共に考え、探究し、相手について、星について、ミッションについて、子供達について考えました。グレースとして、私として。だから読む手は止まりません。新たに出てくる謎、問い、困難。手触りがある。私の話。
好奇心を携えて挑めば、必ず私の知らない何かが見えてくる。そして分かり合える。そういう、勇気を与えてくれる小説です。
ちなみに異星人とのコミュニケーションで言えば、冒頭でも書いた「メッセージ」という映画も最高に面白いです。こちらもそう簡単にコミュニケーション取れませんが、やはり好奇心を糧になんとかしていきます。
小説版のタイトルは、「あなたの人生の物語」です。はからずも本記事のテーマと呼応していて不思議です。
結局分かり合えたかどうかは良くわからないものなのかもしれません。原理的に。そこを諦めれば、なんにでも立ち向かっていける、そんな気がします。あ、これは村上春樹さんですね。理解とは誤解の総体である。
この辺りについてはまた別の記事で書いていこうと思います。
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