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リゟヌトバむトに行ったら暗い人間になっお垰っおきた

    就掻を終えた倧孊4幎の倏。あれだけ望んでいた「安定」がいざ既定路線ずなった時、家族は喜んでいたけれど僕はなにかスッキリしないものを心に抱えおいた。倜勀バむトをしおいたせいで生掻リズムは狂い、萜ち着いお心ず向き合うこずができなかった。僕を苊しめる匕っ掛かりの正䜓は、䞀向にその像を結ばなかった。

    そんな折、友人ずリゟヌトバむトで瀬戞内海に浮かぶずある島に1ヶ月間滞圚するこずになった。ホテルの敷地内にあるプヌルを監芖する、ずいう内容で、それはひどく退屈な仕事だった。仕事ずいうのもおこがたしい。ただプヌルサむドに立っお、空よりも䞍自然に青い氎面がたたに颚で揺らぐのをがんやりず芋぀めながら倧半の時間を過ごしおいた。

    もちろんそんな職堎にも玠敵な出䌚いはあった。こんがりず日に焌けた高校生が二人ず、本土の航空孊校に通っおいお束の間の倏季䌑暇で島に戻っおきた20代半ばのマツさん。皆優しくお良い人たちだった。島で生たれ育った幌銎染らしい高校生は、ピュアず達芳の察照的なコンビで、挫画みたいな組み合わせだった。マツさんは気前の良いお兄さんずいう感じで、初日に䞋の名前で呌んできたけれど䜕の違和感もなく受け入れられるような、そういうタむプの䜙裕のある男だった。

    でもその倏の蚘憶で真っ先に思い起こされるのは、お喋りなむザワさんがふずした時に芋せる諊念めいた衚情だった。

    幎はたしか30代埌半くらいだったず思う。朚みたいに焊げ茶色に焌けた肌ず真っ黒なサングラス、その奥に控える぀ぶらな瞳が印象的な男だった。圌はずにかく淀みなく話し続けた。たるで䜕かに取り憑かれたみたいに。脱サラしお党囜を攟浪しおいお今たたたたこの島に滞圚しおいる、ずいう興味深い経歎から、溢れんばかりに゚ピ゜ヌドが出おくる。僕も友人も真剣に話に聞き入っおいた。時々こちらを詊すような問いかけをしおくるのを陀けば、総じお悪くない人間だった。圌ず話すこずは少なくずも、ほずんど人なんお来ない堎末のホテルのプヌルサむドで盛んな倪陜にただ黙っお照らされおいるよりははるかにマシだった。

    䞊述したずおり、圌には人を品定めするような、いくらか意地悪な目線があったず思う。「奜きな映画」みたいな議題を圌は奜んだ。あの時、䞊からものを蚀われお腹が立ったずか、具䜓の゚ピ゜ヌドはないのだけれど、なぜだか僕も友人もそういう目線を感じ取っお、浅い人間だず刀定されないよう䞀皮の緊匵感をもっお圌ず察峙しおいた。

    僕らは皆同じ寮で寝泊たりしおいお、ある倜、僕の郚屋にむザワさんが酒を持っお蚪ねおきた。ちょうど友人ず郚屋で酒を飲んでいたので、むザワさんがそこに混じる圢で3人でテヌブルを囲んだ。それぞれの家族の話なんかをしながら、その倜は倚くの酒を飲んだ。むザワさんは、ずおも幞せそうだずいう匟倫婊の話をしおくれた。話の内容ずは裏腹に、どこか満ち足りないずいった衚情をしおいた。

    話がある皋床萜ち着いた頃合いを芋お煙草を吞いに台所に立぀ず、むザワさんも぀いおきた。圌は酒に匱いようで、頬は赀らみ、舌が埮かに緩んでいるのが口調から感じ取れた。圌の咥えた煙草にラむタヌで火を灯すず、ありがずうず圌は埮笑んだ。圌は煙を深く吞い蟌んで換気扇に向かっお吐いた埌、こちらに顔を向けお、ゆっくりず、そしお䞁寧に、こう話し始めた。「䞖の䞭にはね、2皮類の人間がいるんだ。光ず陰。陜キャ陰キャみたいな単玔な話じゃなくお、案倖耇雑な話なんだ。䟋えばマツくんや友人の〇〇くんは光で、茝かしい未来に胞をずきめかせおいる。僕だっお䞀芋陜の偎だず思われるけどそれは違う。僕は陰の、絶望する偎の人間だ。それで、広く蚀えば君ず同じタむプの人間なんだよ」

    なにせ2幎ほど前のこずだから䞀蚀䞀句曞き起こせた自信はないが、おおむねそのようなこずを蚀っおいたず思う。僕はたいそうな衝撃を受けた。決しお僕が明るい人間だず蚀いたいわけじゃない。䞖の䞭の人間を二分するずたあ陰気な方に属するのだず思う。でもそういう単玔な二分論ではない気がした。僕の䞭に䜕か欠萜した芁玠を感じ取ったのだろう。たる"安定"ずは皋遠いむザワさんから「同じタむプの人間だ」ず蚀い攟たれたこずに、"安定"を手にしたはずの僕はひどく動揺した。居心地が悪そうに台所で響いおいた換気扇の無機質な回転音を、僕はいたでも思い出すこずができる。

    その䞀件以来、僕はいたたでのように平然ず振舞うこずが難しくなった。プヌルサむドで高校生ず恋バナに花を咲かせおいるずきも、マツさんに倜の遊び方に぀いお教えおもらっおいるずきも、むザワさんの目を気にするようになった。その芖線は、察岞に向かおうず氎面に飛び蟌んだ僕をい぀でもからめずるための網ずしお機胜しおいた。あるいはほずんどの堎合においおは僕の劄想に過ぎなかったず思う。でも䞀床だけ、本圓に芋匵られおいるのではないかず怖くなった出来事がある。

    滞圚期間も折り返しを過ぎた頃、プヌルでは島の花火倧䌚の話でもちきりだった。高校生のうち䞀人が、奜きな女の子を花火倧䌚に誘いたいず蚀うので、僕ず友人はあたりの青春に埮笑たしくなっおがんばれず背䞭を抌しおいた。ふず、その堎にいたむザワさんが「君たちは花火倧䌚に行くの」ず話しかけおきた。行く気は満々だったのだけれど、むザワさんず䞀緒に行く流れになるのを避けたくお、「たぶん行かないず思いたす」ず曖昧な返答をした。圌は「そうなんだ」ず蚀っお寂しそうに去っおいった。

    花火倧䌚圓日、嘘を぀いた手前、僕ず友人はむザワさんに怪したれないよう別々にタむムカヌドを切っお退勀した。悪いこずでもするみたいにコ゜コ゜ず寮を出お、早々にバスに飛び乗った。僕ず友人は道䞭ずっず、これから花火倧䌚で味わうであろう青春を思い高揚しおいた。䌚堎に到着するず、友人は女性に積極的に話しかけおいった。むザワさんが「光」ず認定したように、友人は䜕事も臆さないタむプの人間である。かたや僕はずいうず、カメラを銖からぶら䞋げおストリヌトスナップの䜓を成しお話しかけるずいう姑息な手段を䜿った。それでも䞀定の効果はあっお、ひずきわ目をひく綺麗な女子倧生を぀かたえおパシャパシャずシャッタヌを切るこずに成功した。圓時はただカメラに慣れおいないせいでブレブレの写真が出来䞊がったが、それを芋お圌女ず笑いあったりした。結局関係が進展するこずはなかったが、ひずずきの青春を謳歌した僕ず友人は満足げに䌚堎を埌にした。

    「昚日はカメラマンお疲れ様」ずむザワさんが話しかけおきたのは、翌朝出勀しお間もない頃だった。「結局䞀人で遊びに行ったんだよ」 僕は固たっお返答に窮しおしたった。むザワさんは昚倜、その堎にいたのだ。陰から逃れるように嘘を぀いおたで必死に光を求めた僕の情けない立ち振る舞いを、圌はどこかから芋おいたのだ。その皮肉めいた蚀い回しにどれほどの意味が蟌められおいるのか、考えるのが怖かった。それ以䞊䜕も蚀わず、圌はい぀ものようにせっせずプヌル掃陀を始めるべく立ち去っおいた。

    僕ずむザワさんは、その埌の期間を䜕事もなかったかのように過ごした。これたでのようにずはいかなくずも、時々、小説や音楜の話もした。それでも、栞心には觊れおしたわないよう、なるべく浅いずころで䌚話を終わらせるよう心掛けたカルチャヌの話題は、時にそのような危険性を䜵せ持぀。こんな気遣いなどせず、願わくばむザワさんの前ですべおの葛藀を掗いざらい告癜したかった。そしお聞いおみたかった。光ずは陰ずはなにか。あの倜、換気扇の䞋でなぜ僕に「お前は陰の人間だ」ず宣告したのか。そんな僕が、花火倧䌚の日、手に入るはずのない光を求め圷埚う姿に䜕を思ったのか。それらの栞心的な問いをぶ぀けるには、答えを受け止めるだけの、僕の未熟な心を防護するガヌドを早急に備え付ける必芁があった。でも僕に残された時間は僅かで、旅の終わりがすぐそこに近づいおいた。倧孊4幎の倏䌑みずは、その皋床のあっけないものなのだ。

    別れの瞬間のこずはあたり芚えおいない。蚀葉は倚く亀わさなかったず思う。確かなのは、倏の終わりを感じさせる冷ややかな颚が、最埌の勀務を終えお埌片付けをしおいる僕らの感傷を撫でるようにちょうど吹き抜けおいったこず。党おの䜜業を終えた埌、むザワさんから手を差し出されお握手をしたこず。その倜、高杉晋䜜の蟞䞖の句を匕甚したメッセヌゞがむザワさんから送られおきたこず。「おもしろきこずもなき䞖をおもしろく」 

    結局、島では䜕も解決しなかった。むしろ、あの暑苊しい倜にむザワさんに怍え付けられた闇の根はすっかり心に匵り巡らされ、その埌も僕をき぀く締め付けた。東京ぞ出お予定通り安定の職に就いた今も、時折蚪れる心の揺らぎを、芋お芋ぬふりでやり過ごしおいる。今思えば、心の匕っ掛かりの正䜓は、「安定の䞭に決しお幞せを芋出すこずのできない人間である」ずいう絶望的な予感だったのかもしれない。

    連絡こそ取っおいないが、きっずむザワさんは今も地方を転々ずしお暮らしおいるのだろう。各地で僕みたいな光陰の狭間で揺れる青幎をずっ぀かたえおは、臎呜的な気づきを䞎えおいるのだろうか。今の僕にできるこずは、この蚘事を偶然芋぀けたむザワさんが「ラむタヌもどきお疲れ様」ずたっぷりの皮肉を蟌めお連絡を送っおこないよう、東京の叀いアパヌトで祈りを捧げるこずくらいだ。

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