
あの日の余白|第二章 〜名前が表示された夜〜
でも、 嬉しかった。
普通に。
たぶん顔に出ないようにするので必死だったと思う。
だってその日の私は、 ずっと“友達の方がお似合い”だと思っていたから。
だから、 どうして自分に連絡先を聞くのか、本当にわからなかった。
その日の帰り道。
友達はずっと彼の話をしていた。
『やばくなかった?』
『絶対モテるやんな』
私も笑いながら、
『うん、かっこよかった』
って返していた。
でも、頭の片隅には、 帰り際のあの言葉が残っていた。
『俺も連絡先聞いていい?』
あれは、 たまたまだと思っていた。
みんなで遊んだ流れとか、 その場の空気とか。
深い意味なんてないと思っていた。
だって私は、 自分が誰かに選ばれる側だなんて思っていなかったから。
当時はまだLINEなんてなくて、 連絡先を交換するっていうのは、 メールアドレスを教えることだった。
家に帰ってしばらくして、 携帯が震えた。
知らないアドレス。
恐る恐る開くと、 彼の名前が書いてあった。
少しだけ心臓が跳ねた。
それから何度かメールをするうちに、 友達がぽつりと言った。
『なんか、気に入られてるんじゃない?』
『え?』
『だって、私がいる前で連絡先聞いてたやん』
その時初めて、 “気を遣われていた”ことに気づいた。
友達はたぶん、 最初からわかっていたんだと思う。
彼が見ていたのは、 自分じゃなくて私だったってこと。
でも私は、 そんなふうに思われる理由が、 まだわからなかった。