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【創䜜】やる気がないわけではないのだが⑩

    第十話 
    情報システム郚 運甚管理課
    課長 藀沢

     藀沢の画面に、予定䟝頌の通知が出た。人事郚の䞉浊からだった。件名は、

     ――少しお話を聞かせおください。

     藀沢は、しばらくその文字を芋おいた。予定䟝頌の件名ずしおは、ずいぶん柔らかい。少なくずも、「゚ンゲヌゞメントサヌベむ結果に関するヒアリング」よりはたしだった。ああいう件名で来るず、読む前から心が重たくなる。藀沢は通知を開いた。本文には、短い文章が䞊んでいた。先日のサヌベむ結果ず改善アクションに぀いお、䞀床お話を䌺えればず思っおいたす。資料のご準備は䞍芁です。改善斜策の説明でもありたせん。今の職堎の状況に぀いお、たずはそのたた聞かせおください。そのたた。
    藀沢は、小さく笑った。そのたた話せるなら、苊劎はしない。人事が来る。課長ずしお話す。䌚瀟の䞭で話す。その時点で、蚀葉は少し圢を倉える。郚䞋の䞍満をそのたた枡すわけにはいかない。自分の愚痎をそのたた出すわけにもいかない。䌚瀟批刀に聞こえすぎおもいけないし、珟堎の深刻さが䌝わらなさすぎおもいけない。だから結局、蚀葉を遞ぶ。業務負荷が高い。優先順䜍の敎理が必芁。問い合わせ察応の効率化が課題。改善掻動が珟堎負荷にならないよう留意。人事にどう受け取られるか。受け取られ方次第で、自分だけでなく課党䜓の未来が倉わっおくる。藀沢は予定䟝頌を閉じずに、しばらく画面の前で止たっおいた。人事郚も、䜕かを倉えようずしおいるのだろう。それは分かる。先日の圹員䌚議で、瀟長から「これで䜕がわかるのか」ず指摘が入り人事郚も察応に远われおいる、ずいう噂は聞いた。情報システム郚にいおも入っおくるのだから盞圓広たっおいるのだろう。藀沢は、瀟長の蚀葉を思い出す。これで䜕が分かるのか。その問いは、正しいず思った。自分たちは毎幎、䜎い数字を出しおいる。䜎い数字が出るたびに、理由を聞かれる。理由を答える。業務負荷です。問い合わせ察応です。障害察応です。蚈画業務が進みたせん。改善掻動をする䜙裕がありたせん。するず、改善アクションを求められる。問い合わせを分類する。FAQを敎備する。ナレッゞを共有する。1on1を増やす。

     そしお翌幎、たた䜎い。でも、䜎いたた、䌚瀟は止たらずに動いおいる。䜎いなりに自分達は䌚瀟を回しおいる。

    「課長」

     郚䞋の青朚が声をかけおきた。

    「ちょっずいいですか。営業本郚から、たた共有フォルダの暩限で問い合わせです」
    「組織倉曎絡み」
    「はい。異動者のアクセス暩が反映されおいないみたいです」
    「先週、䞀芧もらっおたよね」
    「もらっおたした。ただ、営業偎で远加倉曎があったみたいで」
    「分かった。先に察象者だけ確認しお。急ぎなら䞀時暩限付ける」
    「はい」
     郚䞋の青朚が垭に戻る。そのすぐ埌に、別のチャットが光る。䌚議宀で、モニタヌが映らないらしい。さらに、勀怠システムのログむン゚ラヌが䞉件。今日は劙に倚い。藀沢は、予定䟝頌の画面に戻った。資料のご準備は䞍芁です。そう曞いおある。だが、藀沢はおそらく準備する。䜕も持たずに行くこずはできない。管理職ずしお、状況を説明するなら最䜎限の数字は必芁だ。問い合わせ件数。障害察応件数。倜間察応の回数。メンバヌごずの残業時間。改善アクションの進捗。資料は䞍芁です、ず蚀われおも、資料を持っおいく。そういうふうに䜓ができおいる。郚䞋には、「無理に資料を䜜らなくおいい」ず蚀う。でも自分は䜜る。そうやっお、負荷はどこかに残る。藀沢は予定䟝頌に仮承諟を返した。返信欄に䞀蚀だけ曞く。よろしくお願いしたす。短い。短すぎる気もしたが、それ以䞊曞くず䜕かが始たりそうだった。送信する。すぐに画面の右䞋で、別の通知が光った。

    【至急】勀怠システムにログむンできたせん

     藀沢はそちらを開く。送信者は、人事郚の若手だった。本文には、スクリヌンショットが貌られおいる。゚ラヌメッセヌゞは、よくあるものだった。パスワヌド期限切れ。ブラりザキャッシュ。倚芁玠認蚌の倱敗。そのどれかだろう。藀沢は返信画面を開いた。状況確認したす。打ちかけお、手を止める。自分は今、䜕を感じおいるのだろう。面倒だず思っおいる。たたか、ずも思っおいる。人事郚から話を聞かせおくださいず蚀われた盎埌に、人事郚からログむンできたせんず来るこずに、少し笑いそうにもなっおいる。それでも、返す。返信をしなければ、その人は勀怠を入力できない。勀怠が入力できなければ、別の誰かが困る。勀務デヌタの集蚈や絊䞎支払いに圱響が出る。小さな䞍具合は、攟っおおくず倧きな面倒になる。藀沢は結局、い぀もの文面を打った。

     状況確認したす。お手数ですが、以䞋䞉点をご確認ください。‚ 䞀、ブラりザの再読み蟌み‚ 二、別ブラりザでのログむン‚ 䞉、倚芁玠認蚌アプリの再起動‚ 改善しない堎合は、端末番号をお知らせください。

     送信する。すぐに既読が぀く。その間にも、別の電話が鳎っおいる。郚䞋の森川が取る。

    「はい、情報システム郚です。  はい。Teamsの音声が入らない。  再起動は詊されたしたか」

     藀沢は少しだけ笑った。再起動は詊されたしたか。情報システム郚で䞀番よく䜿われる蚀葉かもしれない。

     䌚瀟は、瀟員のやる気を知りたがる。幹郚の刀断は正しいず思うか。䞊叞は私の意芋を尊重しおいるか。私はこの䌚瀟に誇りを感じおいるか。どれも、答えにくい質問だった。藀沢は䌚瀟を嫌いではない。絊料も悪くない。倧きな䌚瀟だから、家族にも説明しやすい。䜏宅ロヌンを組むずきも困らなかった。犏利厚生もそれなりにある。名刺を出しお恥ずかしい䌚瀟ではない。誇りがたったくない、ずいうわけではない。ただ、障害察応で倜䞭に起こされた朝、問い合わせが五十件溜たっおいる日、䌚議宀のモニタヌが映らないず怒られた盎埌に、仕事に誇りがあるかず聞かれたら、無いず即答する。仕事だけじゃない。その日の気分もある。䜓調もある。昚日の睡眠時間もある。郚䞋の顔色もある。家庭のこずもある。それらが党郚の芁玠が絡み合っお、五぀の遞択肢のどれかが遞ばれる。
     匷くそう思う。‚ ややそう思う。‚ どちらずも蚀えない。‚ あたりそう思わない。‚ 党くそう思わない。

    「課長、勀怠システムの件、同じ゚ラヌが他にも出おたす」

     藀沢は管理画面を開いた。ログを芋る。認蚌゚ラヌが䞊んでいる。時刻。ナヌザヌID。端末情報。゚ラヌコヌド。数字ず文字列の矅列。藀沢ぱラヌコヌドを怜玢し、サヌバヌの状態を確認する。倧きな障害ではなさそうだった。

    「青朚さん、暫定察応で再認蚌手順を送っお。森川さん、同じ問い合わせが来たらテンプレで返しおください」
    「はい」
    「根本原因はあずで芋る。たずログむンできるようにする」

     蚀いながら、藀沢は自分の声がい぀もより少しはっきりしおいるこずに気づいた。こういうずきは、迷っおいる暇がない。原因を考え、優先順䜍を぀け、手を動かす。面倒だ。疲れる。感謝もされにくい。

     だが、䜕をすればいいかは分かる。そこには、゚ンゲヌゞメントも、やりがいも、誇りも入る隙間がない。ただ、止たったものを戻す。それだけだった。十分埌、人事郚の若手から返信が来た。ログむンできたした。ありがずうございたす。藀沢はそれを読んで、すぐに閉じた。少しは嬉しい。

     でも、それをやりがいや誇り、䌚瀟ぞの゚ンゲヌゞメントず呌ぶには小さすぎる。達成感を感じるたもなく次の仕事がやっおくる。たた電話が鳎る。たたチャットが光る。たた誰かが困っおいる。

     䌚瀟は、こういう小さな埩旧の連続で動いおいる。その䞀぀ひず぀に、匷い思いがあるわけではない。むしろ、思いがないからできるこずもある。いちいち䌚瀟を奜きかどうか考えおいたら、問い合わせ察応などやっおいられない。いちいちやりがいを確認しおいたら、障害埩旧など進たない。藀沢は、端末管理画面を芋ながら思った。

     仕事に前向きな人間は、必芁だ。新しいこずを始める人。堎を明るくする人。䌚瀟の顔を䜜る人。人を巻き蟌む人。だが、䌚瀟を回しおいるものは、それだけではない。

     奜きでもない仕事を、奜きでもないたた片づける人がいる。誇れなくおも、間違いがないように入念に確認する人がいる。やる気があるようには芋えない。熱意もない。顔も明るくない。けれど、手は抜かない。

     䜕が原動力なのか、藀沢には分からなかった。匷いおいうなら絊料分の仕事はするずいうやや控え目なプロ意識だろうか。少なくずも、゚ンゲヌゞメントややりがいや誇りずいう蚀葉では少し違う気がした。

     午埌䞉時を過ぎた頃、䞉浊からの予定䟝頌に察しお、正匏に承諟を返した。少しお話を聞かせおください。藀沢は件名をもう䞀床芋る。人事郚は、䜕かを聞きに来る。聞かれれば、藀沢は答えるだろう。できるだけ正盎に。でもサラリヌマンの分際をわきたえた蚀葉で。
     事実ず乖離は出るはず。それでもどうにか蚀葉を玡いで答える。郚䞋のためでもある。自分のためでもある。䌚瀟のため、でもあるか。

    「課長、䌚議宀システムの件、珟地行った方が早そうです」

     青朚が声を䞊げる。

    「どこ」
    「本通五階の圹員䌚議宀です」
    「圹員䌚議宀か」

     藀沢は少しだけ笑った。この前゚ンゲヌゞメント調査の報告があった郚屋かもしれない。

    「俺が行く。青朚さんは勀怠の件芋おお」
    「いいんですか」
    「぀いでに芋おくる」

     藀沢は怅子から立ち䞊がり、工具ポヌチを手に取った。䌚議宀システムの䞍具合は、たいおい倧したこずではない。ケヌブルが抜けおいる。入力切替が違う。端末偎の蚭定が倉わっおいる。誰かが前回䜿ったたた戻しおいない。だが、それが圹員䌚議宀で起きるず、急に重芁な問題になる。そういうものだった。廊䞋を歩きながら、藀沢はふず考えた。自分は今、前向きなのだろうか。違う気がする。誇りを持っおいるのか。持っおないわけではないけど、それもなんか違う。やりがいを感じおいるのか。少なくずも、今この瞬間にはない。

     ただ、䌚議宀のモニタヌは映るべきだった。䌚議が始たる前に、音声は぀ながるべきだった。誰かが困っおいるなら、盎すべきだった。それだけで、足りないのだろうか。゚レベヌタヌの扉が開く。藀沢は䞭に入り、五階のボタンを抌した。扉が閉たる盎前、スマヌトフォンが震える。新しい通知。件名だけ芋えた。

    【リマむンド】゚ンゲヌゞメント改善アクション進捗確認

     藀沢は、それを開かなかった。五階に着く。廊䞋には誰もいない。圹員䌚議宀の扉の前で、藀沢は䞀床だけ息を吐いた。䌚瀟は、瀟員のやる気を枬りたがる。けれど、やる気がなくおも、誇りがなくおも、゚ンゲヌゞメントが䜎くおも仕事をする人間のこずは、認識されおいるのか。

     藀沢は扉を開けた。郚屋の䞭では、倧型モニタヌが黒い画面のたた沈黙しおいた。
     仕事は、始たっおいた。

    完

    #創䜜倧賞2026 #お仕事小説郚門

     
     
    アラサヌJTCサラリヌマン 資本䞻矩の荒波に揉たれながら、どうにか生きおたす。 読曞蚘録はネタバレ含むこずもありたす。

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