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Photo byryotsuchida

#19 桁違いの自由に隠れて、私は少し新しくなる

    すこし伸びて重くなった髪を切りに、
    電車に乗る。
    今日の目的は、それからパーマをかけること。

    ​美容院へは、いつも一人で行く。
    いつもの美容院へ行く。

    誰かと待ち合わせるわけでもなく、
    終わったあとに誰かと
    ごはんを食べる約束があるわけでもない。
    ただ、自分のためだけの時間を、
    ぽつりと抱えて電車に揺られている。
    車窓を流れる景色を眺めながら、
    私はこの、誰にもお邪魔されない静かな時間が
    とても好きだ、と思う。
    ​
    目指すのは、東京にある美容院。
    ​私の暮らす街から少し離れた
    その場所へ行くたびに、
    私はいつも同じ新鮮さで、
    東京という街のにおいを嗅ぐ。

    駅の改札を出ると、
    途端に押し寄せる人、人、人。
    みんながそれぞれに違う歩幅で、
    違う方向を向いて歩いている。

    ​東京にくるたび、
    私はいつも不思議な解放感に包まれる。
    ここは、どんな人でも暮らしていける自由さが、どこか他の街とは桁違いなのだ。
    誰も私をじろじろと見ないし、
    私も誰の邪魔もしない。
    冷たいとか無関心というのとは少し違う。
    お互いの存在をただ「そこにいるもの」
    として受け入れる、
    風通しのいいやさしさが、
    この過密な街にはある気がする。

    ​自分の「好き」を、なんのてらいもなく、
    存分に発揮していい場所。
    それが私にとっての東京だ。
    突飛な服を着ていても、
    風変わりな靴を履いていても、
    この街は「ふうん、そうなんだ」と、
    ただ静かに微笑んで通り過ぎてくれる。

    だからこそ、ここに来ると、
    自分の輪郭がいつもより少しだけ、
    はっきりと色づくような心地がするのだ。

    ​美容院の扉を開けると、
    いつものお気に入りの香りがした。
    鏡の前に座り、
    美容師さんといくつかの言葉を交わす。
    私のオーダーを、
    彼女は魔法のように汲み取ってくれる。
    ハサミが髪を刻む、規則正しい音。
    それから、パーマ液の少し気だるい匂い。

    なんだか自分が、
    丁寧に扱われるべき特別なものになったような、幸福な錯覚に満たされる。
    雑誌のページをめくる指先も、いつもより少しだけ、おっとりとした動きになる。
    ​
    数時間後。
    鏡の中に、さっきまでとは少し違う私がいた。
    ゆるやかに波打つ新しい髪は、
    まるで私のなかの、
    まだ見ぬ自由な部分を
    引き出してくれたかのようだ。

    ​美容院を出ると、
    東京の街にはすっかり夕方の気配が満ちていた。
    新しい髪に触れる風は、
    心なしかさっきよりも涼しく、優しい。

    ​一人で歩く東京の道。
    私は誰でもないし、
    同時に、何にでもなれる気がする。

    新しくなった髪をほんの少し揺らしながら、
    私はまた、
    私だけの時間を抱きしめるようにして、
    駅へと向かう電車へと歩き出す。
    この街の自由な空気を、
    胸いっぱいに吸い込みながら。




    今日も最後まで読んでくださって
    本当にありがとうございます。

    東京って古くも新しくもあって
    好きなんですよね。
    好きな町ってありますか?

    では、また会いましょう。

     
     

    naco

     
     
    現在40歳。2人の娘の母。パン屋でパート。元小学校教諭、幼稚園教諭免許あり。毎日の暮らしの中でふと感じたこと、今までの経験を書いています。ここにきてくださったあなたの心が軽くなりますように。