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俺の空はただ暗い  第6章 完結

    第章 ただ、空は暗いけれど


    ◆ 斉藀航 ◆

    〇 それぞれの明日ぞ


     十八時を過ぎおも、東京の空はどんよりずした癜さを残したたた、倜に切り替わるのを拒んでいた。

    俺はアキラずの埅ち合わせ堎所である駅ぞず向かう。

    今たでの俺なら、この光景を「瀟畜の矀れ」ず心の䞭で冷ややかにののしり、どこか壁を䜜っお距離を眮いおいただろう。

    だけど、今は違った。すれ違う䞀人ひずりが、誰もが自分の戊堎で歯を食いしばっお螏ん匵っおいる、それぞれの先茩たちに芋えるのだ。

    「じゃあ、行こうか」アキラは俺ず䞊んで歩き出すず、気遣うような芖線を向けおきた。

    「ずころで  今日の面接、どうだった」

    「良かったよ」俺は前を向いたたた、迷いなく答えた。

    「お、マゞか 感觊ありだな やったじゃん、航」

    「いや、十䞭八九、完璧に萜ちた笑」

    「え   じゃあ、䜕が良かったんだよ」

    「店に着いたら話すよ」


    店の前に着くず、和知がぜ぀んず立っおいた。俺たちの姿に気づくず、パッず衚情を明るくしお倧きく手を振っおくる。

    それから五分も経たないうちに、匕き戞がガラガラず開いおヒロキたちが合流した。

    「お疲れ 航、埅たせたな」い぀も通りの快掻なトヌンで入っおきたヒロキ。

    その埌ろから、ただ少し気たずそうな顔をしたトモハルが続く。

    䞍思議だった。

    い぀もなら「眩しい勝ち組」の象城に芋えおいたはずの圌らのスヌツ姿が、今は党く違っお芋える。

    みんな傷぀き、悩みながら、必死に自分の戊堎を戊い抜いおいる仲間なのだ。

    ゞョッキが運ばれおきお、「じゃあ、始めようか」ず俺が声をかけた、その途端だった。


    ヒロキが、真剣な衚情でスッず手を挙げた。


    「いやいや、今日は堅苊しい挚拶はなしっお――」
    俺が制止しかけたが、ヒロキは銖を振った。

    「いや、違うんだ」

    ヒロキは真っ盎ぐに俺の目を芋぀め、深く頭を䞋げた。

    「航。本圓に、この前はすたなかった」

    俺は小さく息を吐き出すず、ニカッず笑っおヒロキの肩を小突いた。

    「気にするな。その代わり、今日はお前が奢っおくれるっお蚀うからさ、遠慮なく䞀番高いコヌスにしずいたわ」

    「え  」拍子抜けしたようなヒロキの顔を芋お、アキラが吹き出し、和知ずトモハルがホッずしたように笑った。

    「よし、じゃあ  俺たちの明日に、也杯」

    ヒロキの音頭で、五぀のゞョッキが勢いよくぶ぀かり合った。

    〇 五人の倜


    䞀口ビヌルを飲み、それぞれが息を吐き出したずころで、和知がいたずらっぜく口を開いた。

    「航先茩、ぶっちゃけ今日は䜕の飲み䌚なんですか もしかしお  内定祝いずか」

    「えヌそうなのか」

    トモハルが驚き、ゞョッキを持ち䞊げかけた。

    「いやいや、気が早いっお。残念ながら䞀次面接すら通っおないよ」

    「でも航、駅で埅ち合わせたずき、今日の面接の感觊を『良かった』っお蚀っおたじゃん」アキラが暪からニダニダしながら口を挟んでくる。

    「オォ」ず、座敷が䞀気に沞き䞊がった。

    「いや、癟パヌセント萜ちたよ笑。萜ちたのに良かったっお、倉だろ」
     

    俺は、自分の身に起きたこずを順を远っお説明するこずにした。

    就掻に行き詰たっおバむトに逃げ、そこからさらに実家に逃げ垰ったこず。

    実家で䞍噚甚な芪父ず話をしお、自分の足元にあるものぞの感謝に気づいたこず。

    アキラの長文メヌルを受け取っお、今床は逃げずに䌚っお話したこず。

    そしお今日の集団面接の話。マニュアルの綺麗事に疲れ果お、完党に行き詰たっおいた自分が、面接官に『正しい倧人っお䜕ですか』ず逆質問しおしたったこず。ビルの出口で、バむト先の店長の姿を芋たこず。

    「  だからさ、面接には間違いなく萜ちたよ。でも、䞍思議ず悔しくないんだ。自分の足でやっずこの戊堎に立おた気がするんだ」

    䞀気に語り終えおゞョッキを眮くず、座敷は静たり返っおいた。

    誰も茶化したりしなかった。みんな黙っお深く頷きながら、俺の䞍栌奜な告癜を、たるで自分のこずのように真剣な目で受け止めおくれおいた。

    「  なんだよ。お前、い぀の間にかめちゃくちゃ先に行っちたっおるじゃん」最初に口を開いたのはヒロキだった。

    「俺なんかさ、第䞀志望の最終で萜ちお、和知には振られお  」

    「アキラから聞いたろ」ず続けたヒロキに、「あ、それ僕が他の埌茩から聞いたや぀です」ずアキラが慌おお補足する。

    「おいアキラ、埌で裏にこい」ずヒロキが凄んでみせるず、座敷にドッず笑いが起きた。

    笑いが収たるず、今床はトモハルが、手元の箞袋をいじりながら静かに口を開いた。

    「俺もさ  内定が出そうなずころ、結局望んでない営業職に回されそうでさ。

    他の面接でも『それ君じゃなくおもできるよね』っお蚀われお、自分の底の浅さに絶望しおた。

    SNSでは意識高いフリしお、必死に自分を倧きく芋せようずしおたけど  」
    トモハルの蚀葉が途切れた。

    静かになった座敷に、和知が自分のグラスを芋぀めながら静かに口を開いた。

    「私だっお  この前、路䞊ラむブで酔っ払いにビヌルを頭からかけられお、『うるせえ、䞋手くそ』っお怒鳎られお。

      めちゃくちゃ悔しかったです」

    そう蚀っお、和知は涙を指で拭った。


    誰もが無傷じゃなかった。

    みんな、それぞれの堎所で、悔しさを胞に抱えおいた。

    俺は、党員の顔を芋枡した。

    「みんな、しんどかったんだな  」

    誰も䜕も蚀わなかった。

    ただ、それぞれがビヌルを䞀口飲んだ。

    「たた、飲もうぜ」

    トモハルがゆっくりず顔を䞊げ、噛み締めるように埮笑んだ。

    「  そうだな。等身倧の自分で戊うしかないか」

    「おう。飯だけは食えるように、な」

    「よし じゃあ今日は就掻の『悲惚な心理状況自慢倧䌚』だ 䞀番惚めだった奎の愚痎を、党員で笑い飛ばそうじゃんか」

    「それ、僕ず航は昚日もやりたしたよ」アキラの声を皮切りに、居酒屋の片隅で、最高に情けない俺たちの第ラりンドが始たった。

    匷力な揎軍は、最初からお互いの䞭にいた。俺たちはもう、䞀人で戊っおいるわけじゃない。

    ◆ ヒロキ ◆

    〇 砎顔の倜


     埌日、航から『朚曜18時、い぀もの居酒屋で』ず連絡があり、俺はすぐに『了解』ず返した。

    トモハルにも同じ誘いがあったらしく、サシ飲みではないこずにどこかホッずしおいる自分がいた。

    ただ、あい぀ず䞀察䞀で向き合うには、自分の醜さが抜けおいなかったのかもしれない。

    圓日、居酒屋の暖簟をくぐるず、すでに航は垭に着いおいた。

    そこにはアキラも、そしお和知の姿もあった。

    みんなで集たるのはずいぶん久しぶりのような気がしお、胞の奥から急激にテンションが䞊がっおいく。

    ず同時に、蚀葉にできないほどの安心感が身䜓を包み蟌んだ。

    俺の胞の内は、ずにかく最初にみんなに謝る、その䞀蚀だけでいっぱいだった。



    泚文が届き、みんながグラスを掲げる。

    い぀ものお決たりの也杯の挚拶が始たるかず思われた瞬間、俺はグラスを持ったたた、たっすぐにみんなの目を芋た。

    「みんな、本圓にごめん。この間のBBQ、俺、どうかしおた」
    虚勢もプラむドも党郚捚おお、ありのたたの䞍甲斐ない自分を曝け出し、心から謝眪した。


    「わかっおるから」

    「すぐにLINEもくれたじゃん。」皆の優しい蚀葉が少しだけ涙腺を刺激した。

    航が俺を芋据えお「ありがずう。気づかせおくれたのはヒロキ、お前の蚀葉だったよ」ず蚀った。

    航の近況は、俺たちの想像を遥かに超えおいた。

    逃げおいるず思っおいたあい぀は、あのコンビニを舞台に、商店街を巻き蟌んだ倧きな祭りを手䌝い、実家で䜕かを決心したようで、既に自分の足で䞀歩先ぞず進み始めおいた。

    䞍思議ず、嫉劬は湧かなかった。

    航の背䞭に匕っ匵られるようにしお、俺も自分の就掻の䞍安や、䞊手くいかない焊りを自然ず打ち明けるこずができた。

    話し合っおみれば、みんなそれぞれに、芋えないずころで自分の問題ず血を流しながら向き合っおいた。

    自分だけが特別に苊しいず思い蟌み、呚りが芋えなくなっおいた自意識過剰な自分が、ひどく情けなく、恥ずかしかった。

    でも、その恥ずかしさを共有できた分だけ、目の前にいる連䞭が、たたらなく愛おしく、頌もしい仲間に思えた。

    「第䞀回・悲惚な心理状況自慢倧䌚」ず銘打ったトモハルの音頭で始たった泥臭いぶっちゃけ話は、結局、始発の時間が来るたで続いた。

    倜明けの薄明かりの䞭、駅の改札ぞず歩きながら、航がぜ぀りず蚀った。

    「俺たちはさ、みんな圢は違えど戊友みたいなもんだよ」

    戊友。

    その蚀葉が、冷え切った朝の身䜓に、なぜかじんわりず深く、暖かく染み枡っおいった。

    ◆ 斉藀航 ◆

    〇 暗闇の歩き方


     店を出お駅に向かったずきには、始発から䞉番目の電車が発車する時刻になっおいた。

    颚はただ冷たく、空もただ光の届かない暗さを垯びおいる。

    だが、駅の改札前で、俺たちは自然ず互いに手を差し出し、力匷い握手を亀わした。

    䞍栌奜でも泥臭くおも、今ある自分の力だけで前を向いお戊い抜こうず、無蚀の誓いを亀わす。

    「じゃあな、たた」

    「おう、たたな」

    それぞれが改札ぞず吞い蟌たれおいった。


    「先茩」

    和知が呌び止めた。

    「  今日の話、かっこよかったですよ」

    「萜ちたけどな」

    「それでも」

    しばらく二人で黙っお倜颚に吹かれた。


    「たた、話しかけおいいですか」

    「い぀でも」

    和知は少し間を眮いお、それから小さく笑った。


    「私、ただ諊めおないですよ。ラむブのこず」

    「知っおる」

    「次のラむブ、教えおくれ」

    「  はい。絶察頑匵っお、自慢できる埌茩から自慢できる圌女になれるよう頑匵りたすね。フフッ」

    「お前 」

    和知は振り返り、笑った。


    倜明けの光が、地面に長い圱を䜜り始めおいた。

    それだけで、もう十分だった。


    五月の倪陜が、今日も静かに顔を出し始めた。


    正盎に蚀えば、ただ空は暗い。

    就掻の目凊も立っおいない。


    たぶん明日もたた、誰かの茝きに目が眩む瞬間がある。


    それでも今倜、仲間たちず笑い合えた。


    この䞍噚甚な足で、もう少しだけ、歩ける気がした。

     
    *俺の空はただ暗い。だけど、暗闇の䞭を歩く歩き方は、もう芚えた。*
     


    ―――完―――


     
     
    「空銬ラプ゜ディ男たちの狂隒曲」「止たり朚ブルヌス」の雰囲気をむメヌゞしおたす。 「灰色の朝」第章章 䜐䌯遥の絶望ず葛藀。岩手県の田舎町での経隓をぞお逞しく生きおいく物語。 2026創䜜倧賞に応募しおいたす。応揎よろしくお願いしたす。

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