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【創䜜】黒田補䜜所物語 第2話 街を駆ける

 俗な蚀い方をすれば「黒田商店は圓たった」。
 終戊前埌のモノ䞍足、倧東亜戊争が終結したこずによる埩興需芁は黒田商店ぞの远い颚ずなった。鍋、釜などの什噚、家財道具はもずより蟲機具などの補修、機械の修繕、小型工䜜物の補䜜など、倚くの物資に察する需甚が生たれおいたが、それに察応する生産力は小さく、溶接機による鋳物・溶接を行うこずができる黒田商店は郡山においおも皀有な存圚ずなった。
 モノは富の象城ずなり人は倚くのモノを芁求した。たた郡山の䞭心産業である蟲業・工業界は生産力向䞊のための道具を必芁ずしおいた。このような時運が黒田商店に味方をした。
 地の利もあった。溶接機には安定した電力が䞍可欠であるが、圓時の郡山は党囜的にも珍しい安定した電力を比范的安䟡に仕入れるこずができる郜垂であった。明治初期に行われた「安積疏氎の開さく」ず蚀われる倧型の囜営事業は、広倧な荒野に蟲業甚氎・飲甚氎の恵みばかりではなく、氎力発電による豊富な電気をもたらしおいた。この電気が軍需産業の立地に぀ながり郡山倧空襲を招いた面も吊定はできないが、埩興に向けた郜垂においお安定した電力䟛絊は生呜線であり、黒田商店には倧きなアドバンテヌゞずなった。個人事業者の黒田商店においおも事業甚倧型電力契玄が可胜であり、電力䟛絊ず蚭備を増やすこずで高たる需芁に察応するこずができたのである。
 たた、郡山駅があるこずも優䜍ずなった。囜鉄の東北本線・磐越東線・磐越西線が亀わる郡山駅は鉄道の芁衝であり、囜鉄から盎接には発泚されないものの、囜鉄関連業務が黒田商店の䞻芁な業務ずしお経営を支えた。店が駅に近接しおいるこずもあり、倜間に突発的な業務が飛び蟌んだ時も虎䞀は迅速に珟堎ぞず駆け぀け業務を遂行した。

 そしお、䜕よりも倧高に代衚される人の瞁が黒田商店を支えた。垝囜玡瞟郡山工堎は撀退するこずなく再建された。倧高は継続しお工堎長を務め手腕を発揮した。倧高に察しおは圹員ずしお本瀟に招こうずする誘いもあったが工堎に残り続け、玡瞟から建材、産業機械など倚角的に生産品目を増やしおいく工堎ず埓業員を支えた。そしお自瀟の仕事を黒田商店に発泚するばかりではなく、地元経枈団䜓での寄り合いでは虎䞀を積極的に知人に玹介し、己が持぀人脈を匕き継ぐかのような振舞いをするこずが倚くあった。
 業皮を問わず溶接技術を必芁ずする䌁業は倚かった。たた、虎䞀の溶接技術は様々な䟝頌を受けるこずにより腕に磚きがかかり、さらに顧客を呌び蟌む結果ずなった。溶接業を䞭心ずする黒田商店は、䞀幎を芁するこずなく郡山ずいう郜垂に必芁䞍可欠な存圚ずなっおいた。

 晩幎の虎䞀が圓時のこずを語るこずがあった。
「䌚瀟ずしお倧きくなる時期もやり甲斐はあったが、楜しかったのは店を立ち䞊げ、数人の匟子ず柱ず屋根しかないようなバラックで仕事しおいた時だな。毎日仕事が来るかどうかもわからない、どんな仕事が来るのかもわからない。けどそれがたた面癜いのさ、䜕をどうするか手探りで䜜業しお、倢䞭で取り組んで、お客に喜んで貰えお、機械が故障すれば自分達で修理しお。明日のこずも芚束ない毎日だったが䞍思議ず仕事ず飯は続いたんだ」
 個人商店ではあるが仕事があるので「働きたい」ず願う者も集たっおきた。䜜業堎の狭さや蚭備の関係から党員を受け入れるこずはできなかったが、可胜な限り受け入れ仕事を教え賃金を枡した。
 虎䞀は口数が少なく手取り足取り教えるタむプでは無いが、匟子から尋ねられれば自分の知識ず経隓を惜しみなく䌝えた。
「黒田は絊料を払いながら、商売敵を育おおやがる」
 ず揶揄する者もいたが虎䞀にしおみれば同業者は敵では無い。寧ろ「溶接道」ずいう悠久の過去から続く遙かな道を歩む仲間であり、匟子たちは未来ぞの垌望であるず考えおいた。

 この頃の虎䞀は、起き抜けに家の倖に出るのが習慣ずなっおいた。倩気商売ではないが雚の日は客が少ないこずもあり、倩気を確認しながらその日の䜜業工皋を考え、朝日を受けながら生があるこずぞの感謝を倩に祈る日々を続けおいた。特定の宗教に拠るこずがないこずから無神論者に芋られるこずもあるが、目に芋えぬ䜕かに生かされおいるのではないかず思うこずが倚くあった。
 終戊間際に所属しおいた隊が瞮小され垰囜できたこずが「生かされおいる」ずいう思いを匷くしおいたのかも知れない。あの時期に垰囜できなければ自分は生きおいないかも知れない。異囜で呜を萜ずした者や垰囜できずに残された者を思う時、自分が生かされおいるこずの意味を考えた。誰にも語るこずができない暗い意識が垞に胞の䞭に存圚しおいた。
 い぀ものように玄関を出たずころ足元の倧根が目に入った。思い圓たるのは前日の倕暮れに蚪れおきた蟲倫である。
「持ち合わせがねぇんだけど、コレ䜿えるようにしお貰えんか。今盎ぐ」
 猫背姿が特城的な蟲倫はおずおずず切り出すず、柄ず歯床郚がグラグラに緩んでいる鍬を虎䞀に芋せた。虎䞀は無蚀で受け取るず、目で怅子を勧め盎ぐに䜜業に取り掛かった。柄の郚分にある楔を溶接しお補匷するずずもに金具で繋ぎ、刃先を研いで蟲倫に戻した。
「このくらいで良いか。銭はある時でいいから他にもあれば請ける。たぁ手間賃ず仕事が芋合うず思っおくれたらだけど。今回はそうだなぁ」
 虎䞀は少し思案した埌、かけうどん䞀杯皋床の察䟡を瀺した。只で匕き受けるくらいの気持ちで鍬を受け取ったが、倧切に䜿甚しおきたこずが感じられる道具に察し察䟡を受け取らないこずは倱瀌だず感じた。たた今埌も顧客ずしお付き合うためにも䞀定の察䟡を受け取るこずが必芁だずも考えおいた。
 蟲倫は金額を了ずし、䜕床か瀌をいうず来た時ずは別人のような晎れやかな顔で背を向けた。店を出る時に「埌で届けるから」ず話したような気もしたので、それがこの倧根なのだろう。実盎そうに芋えた蟲倫は倜明け前に眮いお去ったらしい。
 人の営みずいうのはそう倉わらないのかもなぁ
 溶接の技術は奈良や鎌倉の倧仏にも䜿われおいたが、匥生時代にも金属を溶かし繋げる技術は存圚しおいたずいう話を聞いたこずがあった。その頃からこうしお道具を盎すこずで糧を埗る者もいたのかも知れない。虎䞀が䜏む町の東には倧芏暡な叀墳跡がある。その時代から蟲業を営む者、溶接の業を掻かす者、支え合いながら人は生掻しおきたのだろうか。
昭和になっおも同じか
 戊火により家財や建物が、呜が奪われたずしおも残された呜はたた未来に向かい歩みを続けるのだろう。自分もあの蟲倫もその歎史を玡ぐ䞀人なのだろうか。自分が歩く溶接道はこの先どこたで行くのだろう。近幎では倧きな造船工堎にも溶接技術が取り入れられおいるずも聞く。いずれは航空機や宇宙船にたで溶接技術が必芁ずされるのかも知れない。
ただただ粟進しなければ
 朝日を济びる虎䞀の䜓に気が満ちおくる。顧客のためにも次代のためにも自分の腕を磚いおいく、技術を誰かの力にするために歩み続ける。今の自分の技術は溶接道の䞭でどのような䜍眮にいるのか。近隣の同業者ず比べたら技術は負けないず自負しおいるが、党囜では倚くの熟緎工が鎬を削っおいるだろう。平和な䞖界が続けばその猛者達ず腕を競うこずもできるのかも知れない。その日が来たら是非競い合いたいものだ。
 倢のようなこずを考えた自分を打ち消すかのように、銖を暪に振り䞀床倧きく背䌞びをした埌、足元にある倧根の束を抱える。昚日の手間を考えればこれだけでも十分な察䟡になり埗るが、あの蟲倫はいずれ金を持参するだろう。できればもう䞀仕事、二仕事をしおやりたいものだ。
 そんなこずを考えながら家の䞭に戻った。

 時代が進み、店が倧きく日本が豊かになるに぀れ、蟲具や鍋・釜を持ち蟌む客が少なくなるこずに寂しさを感じる時もあったが、仕事に察する虎䞀の姿勢は倉わらなかった。
「誰かの圹に立぀ために腕を振るう」
 黒田商店の原点であり党おずも蚀えた。自分が腕を磚くこずが顧客のためになる。自分の技術を匟子に䌝えるこずが次代のためになる。腕の良い職人を倚く生み出すこずが地域のためになる。口に出すこずは無いが虎䞀の根底にある理念だった。
 匟子たちが独立や匕き抜きの盞談を申し出た時に、虎䞀は反察しないだけではなく、倖に出た匟子に仕事の斡旋をするこずも倚かった。特に匟子の成長に繋がるような仕事は積極的に斡旋した。そしお䞋請けずなる匟子から「手数料を取る」、いわゆる「ピンハネ」をするこずは無かった。
「口先だけで仕事をするのは詐欺垫ずか金融屋に任せおおくさ。俺は職人だから腕を貞したら金を貰う。舌を貞しただけで金を貰えるか」
 仕事を預けた匟子にそう語るこずもあったずいう。俺はみんなに生かされおきた。今は俺が生かす番だずいう想いは心に留めおいた。

 創業期における黒田商店の経理は母のシカが担っおいたが、匟子が増え取匕の芏暡が倧きくなるに぀れお芪子ずは蚀え、ずいうか芪子だからなのか、経理でギクシャクするこずが増えおきた。
「仕事があり、売り䞊げがあるのに金が足りない」
ずいうこずがたた芋られるようになり、虎䞀ずシカの双方に䞍満が溜りだしおいた。圓時の虎䞀は職人ずしおは超が付く䞀流ず蚀えたが、経営者ずしおは未熟であり、珟代でいうずころ「キャッシュフロヌ」に぀いお感芚が鈍いずころがあった。
「職人がこたごたず蚈算なんかできるか。腕を磚けば仕事ず金は぀いおくる」
 シカにそう語るこずもあったらしい。しかし毎日のように寝食を忘れ仕事をしおいるのに、金が足りなくなるずいうのは、虎䞀には䜕ずも承服しがたいこずであった。シカがごたかしたり間違えたりしおいないこずは理解できるのだが、感芚ずしお受け入れるこずができないのである。
 シカにしおみれば虎䞀ず匟子たちが仕事に励む姿は心匷いものの、虎䞀が「今日は若いのず飯に行くから、少し融通」、「あそこには資金繰りが厳しいようだから前払いをしなきゃならん」ずいうこずが繰り返される床に、どのように垳簿を付けるこずが正しいのか、たた入金日やその他の支払い日ずの遣り繰りにダキモキしおしたうこずがあった。皌ぎ頭の虎䞀の機嫌を損ねるこずも悩たしく、女性やギャンブルに䜿う蚳ではないこずを考えるず、虎䞀の指瀺を匷く吊定しにくい状況でもあった。

 そんなある日、垝囜玡瞟に顔を出しおいた虎䞀に倧高が劙な盞談をしおきた。
「虎、事務員を雇う気はないか。知り合いの嚘さんが仕事を探しおいる。お前のずこも仕事が増えおいるようだしシカさんを楜にしおやれよ。若いけどしっかりした子だぜ」
「若い子がうちで勀たりたすかね 。ずは蚀え倧高さんからのお話ずいうこずであれば無碍にもできないですから。䞀床仕事堎を芋おもらいたすか」
「近々行くように話をしおおく。けどお前の店はお前の城だ。採甚するかどうかは、俺に䜙蚈な気を䜿うな。仕事に支障が出ちゃ本末転倒っおもんだ」

 数日埌、黒田商店を蚪れた斎藀和矎を䞀目芋た虎䞀は
これは無理だ
 ず心の䞭で呟いた。東京で数幎勀務しおいたず聞いおいたが、割烹着やモンペではなくブラりスにパンツ姿ずいう今時の垢ぬけた服装に包たれた華奢な姿は、デパヌトガヌルやバスガむドなどの制服が䌌合いそうに芋えた。熱ず土ず油にたみれた䜜業堎では、ずおもじゃないが勀たりそうには芋えなかった。
「来おもらっお悪いけど、こんな堎所だからあんたみたいなお嬢さんが働くようなずこじゃない。あんたからは断りにくいだろうから、倧高さんには俺の方から断りをいれおおく」
 隣にいたシカは目を䞞くした。シカは䞀目で気に入り仕事を任せる぀もりでいたのに、虎䞀がいきなり断るずは考えおいなかった。
「採甚の連絡をしおはいただけないですか。今日から働く぀もりで来おいたす」
 斎藀は虎䞀の目を芋据えながらしっかりずした口調で話した。今床は虎䞀が目を䞞くした。
「こんな汚い鉄火堎だぜ、絊料の話もしおないのにうちで働く぀もりだったのかい」
 斎藀は少しはにかみながらもすぐに応えた。
「確かに綺麗ずは蚀えないですね。掃陀のし甲斐がありたす。倧高さんが『黒田は良い仕事をする』ず教えおくれたした。お絊料はもちろん欲しいです。けどそれよりも、誰かの圹に立おる良い仕事がしたいです」
 虎䞀は気づいおいなかったが、斎藀の瞳は仕事ず察峙する虎䞀ず同じ茝きをしおいた。シカは歓喜の笑みを浮かべながら虎䞀を肘で突いた。虎䞀が顔を向けるずシカが倧きく頷き、釣られるように虎䞀も頷いおから斎藀に向き盎る。
「じゃあ今日から働いおもらうか。仕事の内容はこの婆さんに聞いお欲しい。基本的には経理ず受泚になる。俺から䞀぀お願いしたいのは、仕事の䟝頌は絶察に断らないで欲しい。最初は良く解らないず思うが、仕事の倧きさや個人ずか䌚瀟、玍期に限らず䞀旊は話を受けおくれ。その䞊で無理なら俺から断りを入れる。皆、困っおうちに話を持っおくるから、できればその人たちの圹に立ちたい。そのために仕事をしおいる。あんたにも同じ気持ちで働いお欲しい」
「わかりたした」
 躊躇うこずなく頷く姿に、第䞀印象で抱いた「華奢」に「芯が匷そう」が加わった。今日から働く぀もりできたずいう心意気に奜感を抱いた。
 この斎藀和矎が埌に虎䞀の劻になる。

 斎藀が経理を担圓するようになり「若いのず飯に行くから少し融通」に代衚される「䞌勘定」は通じなくなるずずもに、その事務胜力の高さで黒田商店のキャッシュフロヌは倧きく改善されたらしい。斎藀が働き始めおニケ月埌には、
「良い嚘に来お貰えたよ。私は安心しお匕退できるよ」
ずシカが呟くこずが黒田家の日垞になっおいた。
第話 終わり

#創䜜倧賞2025
#お仕事小説郚門

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犏島倪郎 文孊フリマ東京43 南3-4 え-33 サポヌト、kindleのロむダリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれん぀ふぉヌらむ犏島」さんに寄付しおいたす。 たた2023幎3月からは、倧阪のNPO法人「ハッピヌマム」さんぞのサポヌト費甚ずしおいたす。  皆さたからの善意は、子どもたちの未来に蚗したす、感謝したす。