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【創作】題名のない物語 第14話 分枝

     珍しくお父さんが先に帰宅していた。リビングを覗くとテーブルの上には、グラスと少しのおつまみが乗っていて、もうお酒を飲み始めていた。
    「ずいぶん早かったのね」
    「今日は健康診断を受けてきた。まだまだ若い体と医者に褒められたよ」
     嬉しそうな顔で話していますけど、だからといって飲み過ぎてはいけないと思いますよ。
    「良かった。お父さんには、まだまだ元気でいてもらわないと」
    「もちろんさ、ひ孫の顔を見るまでは元気でいるぞ」
    「じゃぁ、お酒はほどほどにしてね。後、私は娘だから良いけど、職場では結婚とか出産の話を女性にしないでね。傷つく子もいるから」
    「そうだな、酒もそろそろ終わるか。ところで、お前の職場では、そのセクハラとかパワハラは大丈夫なのか」
     もしかしたら、お父さんはそのことを聞きたくて早めに帰宅したのかしら。
    「セクハラもパワハラも大丈夫だよ。一度だけ隣の課長に強く叱られたけど、皆が助けてくれたし。新入社員にすぐ声をかけてくるような男性は、ちゃんとお断りしているよ」
    「そうだな、すぐ口説いてくる異性は下心で動いているからな。まぁ、気をつけていても落ちるのが恋というものでもあるがな」
    「お父さんと、お母さんのようにね。私も一杯、貰おうかしら」
     部屋で着替えてからあらためて、お父さんと乾杯する。
    「酔って言うのも何だがお前は聡い子だから、正直、あんまり心配してないというか、信用しているというか。安心しているというか……。母さんは何て言うかわからないが、お前に好きな男ができたら、父さんには教えてくれ。必ずお前の味方になるから。お前が選んだ男なら信用する」
    「そんな人はいないけど、信用していいですよ。お父さんと、お母さんの娘ですから」
     ふいに、木元の姿が頭に浮かぶ、あの「変わった人」の話をしたら、お父さんはどういう反応をするのだろう、空気が読めなくて、仕事に熱心ではなくて、新人の女の子に興味を示さない草食系男子。今はまだ好きでもないので、わざわざ話すこともないでしょうね。この嬉しそうな顔がどんなふうに変わるのか見てみたい気もしますけど。
     お父さんと自分のグラスにワインを注いだ。
     今は穏やかな時を楽しみましょう。

    (第14話 おわり)

    第1話

    #創作大賞2025
    #恋愛小説部門


     
     
     
    noteは日常中心、TALESは創作小説を投稿していています。 創作大賞2025「黒田製作所物語」中間選考通過。第29回自費出版文化賞 小説部門「スプラウト」入選。 人間讃歌の物語に挑戦しています。

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