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Photo byenjiro

【創作】蛇口から #シロクマ文芸部

     蛇口から白い蛇が出てきた。
     二十代女子としては叫び声の一つもあげなきゃならないんだろうけど、私にそんな可愛らしいさはない。蛇にそっと手を差し出すと小さな頭をキョロキョロと動かして周囲を警戒した後、手にスリスリしてきた。
    (可愛い)
     顔がほころぶのが自分でもわかった。この小さな生き物が、何で、どうやってここに来たのかは判らないけれど、スリスリを見た瞬間から飼う気持ちになった。8畳ワンルームのアパートで暮らして4年、居心地は悪くないけれど、寂しさが積もっていたのかもしれない。

     蛇を手のひらで受け止めてカラーボックスに突っ込んでいた紙袋の中に移動させ、逃げ出さないように洗濯バサミで袋を閉じた。悪いけど仮の住いを造る間は我慢してもらうしかない。ネットで蛇の飼い方を検索しながら、大き目の段ボールに水と寝床を準備する。蛇の種類がわからないから、御飯として何が良いのかハッキリしないけど、多分肉食だろうから、とりあえずソーセージを食べさせようかな。

     高校卒業まで過ごした実家がある村には小さな神社があって、白蛇が御神体として祭られていた。だから白蛇を見ても受け入れてしまったのかもしれない。蛇口から出てきた蛇に怖いとか驚くよりも、金運上昇、商売繁盛、健康長寿などの御利益をちょっと期待しちゃったのかな。
     随分と実家には帰っていない。何も良い思い出が無い田舎には会いたい人もいないし、帰りたいとも思わない。都会では特別良いことも無いけど様々なしがらみを感じず「一人の人間」として生きていけることがありがたい。
    「おやすみなさい」
     白蛇に挨拶をして電気を消した。

     シロちゃんが我が家に来た後も生活に大きな変化はなくて、懸賞や宝くじも当たらないし、お財布を拾うことも素敵な男性に声を掛けられることもない。逆にシロちゃん御飯代とかの費用分、生活がちょっと苦しくなった。
     起きて、家事をして、仕事をして、眠るだけの日常。
    「おはよう」「いってきます」「ただいま」「おやすみ」
     シロちゃんと暮らしてから幸福感は上昇している気がする。ケージにいるシロちゃんと目が合った。
     水と緑が豊かな場所ならシロちゃんは幸せになれるだろうか。
    「今度の週末、一緒に田舎に行ってみようか」
     シロちゃんが微笑んでくれたように見えた。

    (おしまい)

     
     
     
    noteは日常中心、TALESは創作小説を投稿していています。 創作大賞2025「黒田製作所物語」中間選考通過。第29回自費出版文化賞 小説部門「スプラウト」入選。 人間讃歌の物語に挑戦しています。

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