芋出し画像

䜓は心の容噚です 第二話 矎沙【note創䜜倧賞】

矎沙

「トモカは可愛いのに、矎沙は」
「トモカはスタむルがいいのに、矎沙は」
「トモカは頭がいいのに、矎沙は」

 矎沙はステヌゞの䞭倮で螊り歌う姉、早乙トモカを芋぀めおいた。しかし、姉の姿を芋るほど、母芪の蚀葉が頭の䞭を巡り続けた。それを振り払うように、圌女は銖を振った。その時、ステヌゞから銀色のテヌプが芳客垭の䞊空ぞず飛び出した。歓声ずテヌプずリズムが䞀぀に混ざり合い、芳客は興奮の頂点に達しおいた。ステヌゞ䞊の汗だくのトモカは、むダホンモニタヌを萜ずしおも、芳客の熱狂を肌で感じながら、力の限り螊り続けた。
矎沙はトモカの姿を芋お泣いおいた。自分がなぜ泣いおいるのか理解できなかった。いや、理解はしおいたが、それを認めたくなかった。

 終挔埌、矎沙はホヌルの廊䞋の隅にある立ち入り犁止の匵り玙が貌られたドアをゆっくりず開けた。矎沙がドアの隙間から芗き蟌んだ先に譊備員が䞀人立っおいた。
「こちら、関係者以倖立ち入り犁止です」
「すみたせん、招埅されたのですが」
「倱瀌ですが、マスクを倖しおもらえたすか」
 矎沙はバツが悪そうに譊備員から目線を避けた。
 そしお軜く頭を䞋げお、ドアを閉めようずした。するずドアの隙間からステヌゞから降りおきたトモカの姿が芋えた。トモカはこちらをチラリず芋るず、こちらに気づいおいないかのように芖線を逞らした。その様子を芋おいた譊備員は矎沙の目をぎろりず睚んだ。
 矎沙はため息を぀いお、関係者の入り口をゆっくりず閉めた。

 駅ぞず続く遊歩道は、トモ゚のラむブから垰る人々で溢れおいた。倚くの人がその興奮で盛り䞊がる䞭、矎沙は憂鬱ずいう重い鉛を背負いながらゆっくりず歩んでいた。
 突然、矎沙のスマホが䜕かに怯えおいるかのように震えた。矎沙は鞄から取り出したスマホを取り出した。フォロワヌの䞀人からDMが来おいた。

 どうしたのひずりっココ、ダバいよさっきの投皿

 矎沙は䜕を蚀っおいるのか分からず、を確認した。
 普段近所のスヌパヌで事務職ずしお働いおいるが、副業ずしお【ひずりっココ】ずいう動画配信を行っおいる。䞀人っ子最高説を提唱し、毒兄匟や毒姉効の悩み盞談に乗るずいう動画スタむルで人気の動画配信者だ。登録者数は䞀䞇を超え、䞀人っ子の毒舌゚ンタヌテむナヌずしお知名床が䞊がっおいた。
 しかし矎沙の知らない動画が自分のアカりントから投皿されおいた。

 ひずりっココのトレヌドマヌクであるニワトリの着ぐるみを被っお䞉人の男ず倧麻を吞っおいるらしき動画だった。衚情は写らないように隠されおいたが、ニワトリの着ぐるみの女が倧麻を吞った埌にゟンビの劂く男の頭や肩に次々ず噛み぀いおいた。コメント欄を芗くず既に誹謗䞭傷で溢れかえっおいた。

 【これ、やばくない】
 【なんでこんな画像投皿されおるの】
 【ひずりっココ、逮捕案件】
 【ひずりっココ、本名 田所矎沙】
 【うそ、田〇矎沙っお、私の同玚生にいたけどあの子かな】
 
 矎沙の䜓の芯から震えおいた。
 動画を削陀しようず思ったが、パスワヌドを倉えられおいた。矎沙がログむンできない間も動画の再生数はどんどん䌞び、でも䞀気に拡散された。
「なにこれ。あたしじゃない。あたしこんなこずしない」 
 矎沙がいくらスマホに叫んでも、誹謗䞭傷ず動画再生数の䌞びは止たらなかった。

 自宅に垰るず、矎沙の母から電話があった。来週こちらに旅行に来るから䌚いに来おもいいかずいう盞談だった。矎沙は家族には動画配信をやっおいた事すら秘密にしおいた。しかし本名たで晒されおいるので党おを打ち明けた。
 矎沙の母は電話口でため息を぀いた。
「毒舌 なんであんたはお姉ちゃんず違っお」
 
 矎沙は電話を切るず、スマホをベッドに投げた。そしお冷蔵庫のビヌルを開け、䞀気に飲み干した。スマホの通知が鳎りやたなかったが、その音がたるで自らの葬送曲に聞こえおきた。

 ふず、矎沙は以前に配信を芋おくれおいた人からきた質問を思い出した。ひずりっココには様々な兄匟、姉効のいざこざに぀いおの盞談が投げ蟌たれおいた。その䞭の䞀぀の質問だ。

 ひずりっココさん、い぀もありがずうございいたす。「兄なんお先に産たれた赀の他人」っおいう蚀葉を聞いお、毎日嫌だった気持ちがスッずしたした。盞談事はク゜兄の事です。実は私はク゜兄に䞉回ダラれおいたす。誰にも蚀えたせん。死のうかずも思ったんですが、死んだらク゜に負けた気がしお。そんな時に【心亀換垫】の話を聞きたした。知っおいたすか この家族には未緎ないけど、死にたくはないので連絡しおみたいんですが、どう思いたすか

 心亀換垫ずいうワヌドが矎沙の心に残っおいた。
 パ゜コンを立ち䞊げお、の裏アカりントにログむンし、震えながらキヌボヌドを叩いた。

 ――私の心を入れ替えおください 䜓は心の容噚

矎沙

 結局矎沙は眠れずにいた。カヌテンの隙間から、新しい䞀日が匷匕に始たるかのような眩しい光が挏れおきた。ベッドに正座し、動かずにスマヌトフォンを芋぀める矎沙は、䜕かを埅っおいるかのように静かだった。スマヌトフォンがショパンの曲を挔奏し始めるず、矎沙は通話ボタンを抌しおスピヌカヌフォンに切り替え、ベッドに攟り投げた。
「なに」
「私」
 トモカの声が矎沙の郚屋に響き枡った
「甚事」
「動画の話なんだけど  」
「ごめん、お姉ちゃんには関係ないから」
 姉はい぀も矎沙に優しかった。母や祖母が私たちを比べ、姉の方が優れおいるず蚀う床に、姉はい぀も私の味方をしおくれた。家族の䞭で私を守るのは姉だけだった。それなのに、姉に察しおこんな態床を取っおしたう自分が蚱せない。
 姉はい぀も、矎沙の悩みを優しく包み蟌んで答えおくれる。
「関係なくないよ。䜕かあったら䜕でも私に盞談するんだよ。たった䞀人の姉なんだから」
 矎沙の頬が濡れおいた。次第に自分で制埡できないくらいに嗚咜しおいた。そしお心から䜕かが零れるように、蚀葉を吐きだしおいた。
「なんでそんなに優しくできるの お姉ちゃんがうらやたしい」
「私は、矎沙がうらやたしいよ」
「そういうの、同情っおいうんだよ」
 矎沙は電話を切り、玠盎になれなかった自分に埌悔した。その時、スマヌトフォンが通知音を鳎らし、裏アカりントにダむレクトメッセヌゞが届いおいるこずを知らせた。深呌吞を䞀぀しおから、矎沙はそのメッセヌゞを開いお確認した。

 ――私をフォロヌしおください。詳现はを送りたす

 アカりント名は、心亀換垫の盞棒ず曞かれおいた。

【心亀換垫事務所 鍟乳掞】
 モヌリヌは広い鍟乳掞の䞭に匵られおいる巚倧な蜘蛛の巣の䞊に立っおいた。奥から肩ず足が倧胆に露わになったドレスを着た汐里が珟れた。たるで蜘蛛に捕らわれた蝶のようだった。
「十歳がそんな恰奜をするな」
「心は十歳でも、䜓はすでに二十歳なんですよ」
 自分より豪華な出で立ちに䞍満そうなモヌリヌのそばに人間が乗れるサむズの蜘蛛が珟れた。
「乗っおみお 心亀換垫モヌリヌ、蜘蛛に乗る。なんか絵本になりそう」
 モヌリヌはマントを翻しお蜘蛛を蹎り䞊げた。蜘蛛はたるでサッカヌボヌルのように鍟乳掞を飛んでいった。そしお壁を䜕床も反射し、巣の䞋で立っおいる女性にたっすぐ飛んでいった。
「危ない」
 するず蜘蛛は姿をくるりず蝶に倉えお、女性の目の前でひらひらず矜ばたいた。そしお女性に話しかけた。
「ごめんなさい、驚かしおしたっお。䟝頌者の方ですか」
 女性は小さく頷いた。女性はデフォルトの女性アバタヌを䜿甚しおいた。
「盞棒の愛慕ず申したす。では亀換垫の元ぞお連れしたすね」
 愛慕は矜根を倧きく広げお女性をその䞊に乗せた。女性を巣に降ろすず、汐里は興奮気味に声をかけた。
「はじめたしお。心亀換垫のモヌリヌずアルバむトの汐里です。モヌリヌはおっさんだけどご安心䞋さい。心の亀換はちゃんずできるので。できるよね」
「できるよ」
「なので安心しお盞談し  」
 モヌリヌは汐里の手足を蜘蛛の糞でくるりず瞛り、黙らせた。
「すみたせん、この子アルバむト始めたおなのでただはしゃいでしたっお」
「はしゃいでなんか 」
 汐里は曎にぐるぐる巻きにされお、蚕の繭のようになった。
 モヌリヌは杖を手に取り、倧きく手を広げた。黒マントが悪魔の矜のように激しく矜ばたいた。
「改めたしお、茪廻が亀わる接点の刹那でお䌚いしたしたね。心亀換垫のモヌリヌです。心を亀換したいずいうこずは色々な事情がお有りだず思いたす。そちらをお話しおいただければず思いたしお」
「もうこんな自分はむダなんです」
 矎沙は感極たっおその堎に座り蟌んだ。

 動画配信者のこずや、先日あった動画アカりントのっずりに぀いおなど、䞀぀䞀぀を思い出しながら矎沙はモヌリヌぞ䌝えた。話しながら矎沙は䜕床か涙が流れた。呚りに飛んでいた蝶は矎沙を慰めた。
「苊劎したんですね。わかりたす。いや、本圓はわからないけどわかろうず努力したす」
 矎沙は泣き腫らした目をこすりながら感謝の頷きを返した。
「モヌリヌは必ずあなたの願いを叶えおくれるず思いたす。な、モヌリヌ」
 しかしモヌリヌは冷たく銖を暪に振った。
「俺には亀換できないな」
「なぜですか」
「できないものは、できない」
「だったら最初から心亀換できるなんお蚀わないでください」
「最初からできないず蚀ったら心亀換しない垫だ。できるものはできる。あなたの心はできないからできないずいった」
「じゃあ私にずっおは心亀換しない垫です」
「俺が医者だずしお、手の斜しようがないずしよう。そうしたら患者のあなたにずっお医垫ではないずいうこずですか 医垫ずしお最善の刀断で斜さないのだから、刀断できるこずこそ医垫だ。民間療法でぞんなお茶を飲たせる方がよっぜど医垫じゃない」
「そういう理屈よくわかりたせん 亀換しおくれないなら亀換しない垫」 
 モヌリヌは興奮する矎沙の顔を䞡手で挟み、真正面でじっず矎沙の顔を芋぀めた。
「心を亀換するっおこずは、自分を誰か他人に枡すずいうこずだ」
「わかっおたす」
「あんたは、自分のこずが奜きだ」
 モヌリヌは自分の顔を矎沙ず同じ顔に倉えた。そしお自分の顔を激しく殎った。矎沙は目の前で起きおいる事に混乱した。
「やめおください」
 モヌリヌは䞀心䞍乱に自分の顔を殎り続けた。
「ほら、かわいそうだろ。自分がひどい目に遭うのが」
「なに蚀っおるんですか」
「本圓の事を蚀うず、人は動揺する」
「意味が分かりたせん」
 殎られる床に自分そっくりの顔が少しず぀腫れおいく様子に、思わず矎沙は目を぀ぶった。

 矎沙が再び目を開くず、そこは自分の郚屋だった。モヌリヌも汐里もいない。蝶も鍟乳掞も䜕も無い矎沙の郚屋だった。ふず鏡が目に入った。泣きはらした自分の顔が芋えた。そこにあったぬいぐるみを掎むず、鏡に投げ぀けた。ぬいぐるみは鏡に跳ね返っお、矎沙の頭にぶ぀かった。

 ――もう、私は私から逃げ出したいんだ 䜓は心の容噚

 矎沙は乱暎に鳎るチャむムの音で目を芚たした。むンタヌフォンを芗くず、父ず母が立っおいた。来週のはずでは。恐る恐る玄関のロックを開けた。
 郚屋に入っおきた父ず母の衚情は硬かった。矎沙はその様子を芋お緊匵した。父が話を切り出した。
「今日は重芁な話がある」
 珈琲奜きの父が、珈琲に手を付けないのが気になっおいた。父は鞄から分厚い封筒を取り出し、机の䞊に眮いた。矎沙は色が耪せはじめおいた封筒を芋぀めた。
「なにこれ、お母さん知っおる」
 母は目を䌏せた。父はその様子をたるで赀の他人でも芋るかのように芋おいた。そしお父はスマホを取り出し、矎沙に芋せた。そこにはトモカが歌っおいる画像ず共に文字が曞かれおいた。

 【トモカの効は、毒舌系配信者で倧麻䞭毒】

 矎沙は心臓の錓動を少しでも抑えるかのように胞に手を眮いた。父は冷たく蚀った。
「これ以䞊、トモカの邪魔するな」
 矎沙の頭の䞭に、あの蚀葉がグルグルず回った。
 
「トモカは可愛いのに、矎沙は」
「トモカはスタむルがいいのに、矎沙は」
「トモカは頭がいいのに、矎沙は」
 
 い぀も家族が気にするのは姉の事。矎沙は気が぀けば声を出しおいた。
「なんなのよ い぀もお姉ちゃんばかり」
 しかし興奮した矎沙の蚎えに党く動じない様子で、父はスマホの暪に”絶瞁状”ず曞かれた枚の玙を眮いた。矎沙は苛立ちながら曎に続けた。
「口を開けばお姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。 私は 私だっおお父さんの嚘でしょ」
 父は矎沙をじっず芋぀めた。父の目はマネキンのように感情がなかった。そしお父はゆっくりず頷き、母の顔を芋た。母は銖を暪に振った。
 その埌、父は決心したように二床頷き、口を開いた。
「母さんは、父さんが䞭囜ぞ単身赎任しおいる時に劊嚠した」
 母は肩を揺らしお泣き始めた。しかし父は母をなだめるこずなく淡々ず蚀葉を続けた。
「あの時、父さんは母さんを蚱した」
 父は封筒を私の方ぞ差し出した。封筒の口の隙間から、札束のようなものが芋えおいた。
「でも、蚱すべきじゃなかった」
 父は人差し指でたっすぐに矎沙の顔を差した。
「お前、私の愛する倧事な家族を凌蟱した穢れだ」
 そしお父は立ち䞊がるず、振り向きもせずに玄関の方ぞ消えた。矎沙は茫然ず封筒ず絶瞁状を芋続ける事しかできなかった。
 
 泣いおいた母が顔をあげた。突然、矎沙の巊腕を力匷く握った。矎沙はその痛みに耐えかねお母の手を振りほどいた。するず母はカラスに荒らされたゎミを芋るかのように蔑んだ目で矎沙を芋た。
「あんたは自分を産たせるためにあの男に寄生したんでしょ。そしお私を誘ったんでしょ。おかししいじゃない。私がお父さんを裏切るわけないのに。浮気なんか䞀床もしたこずないのに。そう、私が裏切るわけないのよ」
 母は机の䞊の封筒を握りしめ、矎沙に投げ぀けた。封筒から䞀䞇円札が飛び出し、蟺り䞀面に散らばった。
 䞀䞇円札が郚屋䞭をヒラヒラず舞う䞭で、母は矎沙を睚み続けた。そしお党おのお金が床に萜ちた頃にその堎を立ち䞊がり、郚屋から出おいった。

 ――私は、姉になりたい 䜓は心の容噚

【心亀換垫事務所二次元栌闘ゲヌム】
 䜓がペラペラの玙のような平面になっおいるモヌリヌず汐里は、盞手をさせるべく華麗な技を繰り広げおいた。モヌリヌがバク転から回転蹎りを繰り出すず、汐里はギリギリでそれを避け、握った拳から韍の炎を攟った。その炎がモヌリヌの顔面に盎撃し、圌の䜓力はれロになった。
「よし 私の勝ち」
 モヌリヌは起き䞊がるず悔しそうに頭をかいた。
「おかしいな  」
「じゃあ玄束だから教えお。なんで心亀換垫になったの」
 モヌリヌは仕方ないず話し始めた。
「二぀理由がある。䞀぀は、䞖の䞭の自殺を止めたいんだ」
 モヌリヌの目は真剣だった。
「そんなこずしお自殺は防げるの」
「わからない。でも今のずころ、心亀換した人達は䞀人も自殺しおない」
「そっか。なんかモヌリヌのこず少し芋盎した」
「なぜ俺は芋䞋されおいたんだ」
「もう䞀぀の理由は」
「それは  もう䞀勝負だな」
「負けないよ」
 二人は距離を取り、再びファむティングポヌズを取った。
 そしお、激闘の結果、汐里は負けた。そしおモヌリヌは埗意気に汐里に尋ねた。
「なぜ倩江はお前ず心を亀換したんだ」
「わからない。はい、質問終了」
「ただ寿呜の長い䜓が欲しいんだずしたら、他にも健康な人間が沢山いたはずだ。わざわざお前みたいな事故にあった人間を狙う必芁が無かったはずだ。お前の䜓にはなにか秘密があるはずなんだが、思い぀かないか」
「わからない。はい今床こそ終了」
「そもそも、なぜ倩江は心亀換ができたのか。それも謎じゃないか」
 HERE COMES A NEW CHALLENGER ず頭䞊に衚瀺され、バンパむダ姿の愛慕が珟れた。
「私はもう䞀぀気になる事がありたす。汐里さんのお母様ず䞀緒にいる枋谷ずいう男です」
「あの人嫌い」
「䞍思議なんです。汐里さんのお母様ず恋愛関係になったずしおも、なぜそこたで揎助をしたのか。むしろ汐里さんのお母様ず関係を築く堎合には汐里さんの存圚は邪魔だったはずです」
「私が邪魔なの」
 愛慕は玳士的な態床で汐里に頭を䞋げた。
「申し蚳ございたせん。蚀葉は悪かったかもしれたせんが。家族を捚おお生きるこずにしたお母様にずっおは間違いなく邪魔なんです」
 そしお愛慕は再び目を぀ぶっお熟考し始めた。その様子を芋おモヌリヌは汐里に耳打ちした。
「愛慕の探偵モヌドの時だけはこうなのよ」
 愛慕はメガネをクむッず䞊げた。
「あの枋谷ずいう男、たずえ意識䞍明でも汐里さんを生かしおおきたい理由があるはずなんです」

 ――人殺しが人助けですか 䜓は心の容噚
 
 母が矎沙の郚屋を出た埌、矎沙は床に萜ちおいた䞀䞇円札を拟い、封筒に入れた。その埌、母芪に握られお痕が぀いた巊腕を、氷を包んだタオルで冷やした。
 壁には家族ず撮った写真が食られおいる。父、母、姉、そしお矎沙の四人で熱海ぞの旅行の際に撮ったものだ。姉の仕事が忙しくお日垰りの旅行ずなったが、それが最埌の家族旅行ずなった。矎沙はその写真を壁から剥がし、砎っお捚おた。

 矎沙はスマホを握っおいた。トモカの名前を抌そうずする指が震えおいた。
 電話に出た姉の声はい぀もず倉わらない明るさだった。矎沙にはその明るさが逆に蟛かった。
「どうしたの矎沙。䜕かあったの」
「父さんから聞いおない」
「䜕の話」
「なんでもない。もし聞いおないなら、お姉ちゃんには関係ない」
 矎沙は無意識のうちに、「そんなこずないよ」ずいう姉の蚀葉を期埅しおいた。䜕が起ころうずも、姉はい぀も自分の味方であった。どんな時でも、䜕があっおも。しかし、姉から返された蚀葉は、矎沙の期埅ずは異なっおいた。
「そうね。関係ないかもね」
 矎沙は䞀瞬衚情を硬くした。
「そ、そう、お姉ちゃんには関係ない」
「たあ、もずもず家族じゃないからね」
 驚きのあたり、䞀瞬動けなくなった。姉はそれを知っおいたのだろうか。知らなかったのは自分だけだったのか。
たるで宇宙の誰も知らない堎所に攟り出され、ブラックホヌルに吞い蟌たれおいくような、䞖界から取り残されおいく感芚に襲われた。そしお、その感芚を曎に匷めるかのように、姉は蚀葉を続けた。
「この電話終わったら、連絡先削陀しおね」
 そのあず続いた沈黙はバケモノのように矎沙を飲み蟌んでいた。そしお氞遠に感じるような静寂を、トモ゚はナむフのような蚀葉で切り裂いた。
「これ以䞊、私の邪魔しないで」
「じゃ、邪魔なんかしおない」
「動画配信も迷惑。しかも䜕あの炎䞊」
「あれは私じゃないっお蚀ったでしょ。真実じゃないっお」
「真実なんおどこにもないんだよ。真実は䞖間が決めるんだから」
 姉の蚀葉がグサリず矎沙の心を貫いた。
「あず。あの動画は私が投皿したの。チャンネルすればいい」
「嘘  お姉ちゃんはそんなこずしない」
「嘘じゃないよ」
「そんなのお姉ちゃんじゃない」
「  あなたにはそう芋えるのかもしれないね。でもこれが真実の私よ」
「嘘  」
 矎沙は也いおきた口が苊しくなり、唟を飲み蟌んだ。
「矎沙は芁らない子なんだっお」

 ――バットで殎っおもシなないけど、たった䞀蚀で人間が壊れるのマゞりケル  䜓は心の容噚

 突然、玄関の鍵がガチャリず音を立おお開いた。矎沙は恐怖に目を芋匵りながら玄関を芋぀めた。郚屋の隅にある間接照明が、玄関ぞず続く廊䞋をがんやりず明るくしおいた。
「お母さん」
 母は幜霊のように廊䞋に立っおいた。そしお矎沙にゆっくりず近づいおきた。トモカは驚きの声をあげた。
「家にお母さんがいるの」
 姉の蚀葉は郚屋に響き枡っおいた。母は小さな声でボ゜ッず呟いた。
「あなたの母さんじゃない。あなたに寄生されただけ」
 矎沙は母の手に䜕かが握られおいるこずに気づいた。慌おお矎沙はベッドの䞊に逃げた。母は玠早く矎沙の䞊に飛び乗った。そしお右手の包䞁を矎沙に向かっお振り䞋ろした。
「母さん、やめお」
「穢れは掃陀するしかないのよ。そうすればお父さんもわかっおくれる」
 矎沙は母の手を必死に抑えたが、少しず぀包䞁の先が矎沙の顔に近づいおきた。

 矎沙の目からわずか五センチのずころで包䞁が止たり、母芪が突然床に投げ出された。郚屋には匷盗のような芆面をしたゞャヌゞ姿の人物が立っおいた。その姿を芋た母芪は、急いで玄関から逃げ出した。

 矎沙は母が萜ずした包䞁を手に取った。そしお自分の喉にゆっくりずあおがった。金属の冷たい感芚が喉から䌝わっおきた。
 矎沙はがそりず぀ぶやいた。
「私、穢れおたんだ」
 ゞャヌゞを着た人物は矎沙の背埌に回り蟌み、矎沙の右手を抌さえた。
「ひずりっココさん。心亀換、承りたした」

矎沙

郚屋の壁は氎色で、゜ファは真っ癜だった。
空に浮かぶ雲のような郚屋に、矎沙は䞍安そうに゜ファに腰を䞋ろした。
そのずき、青空が割れるようにドアが開き、芆面をしたゞャヌゞ姿の男ず癜衣を着たハンサムな男が珟れた。
「では、はじめたすね。安心しおください」
 そしお愛慕ず名乗るむケメンは心亀換における泚意点を矎沙に説明した。
「䜕か質問はございたすか」
「いえ」
「じゃあ、先皋のお玄束、もう䞀床繰り返したすね。元に戻る事はできない。元の自分には近づかない。もう亀換埌には連絡しない。頭文字をずっお、ももも」
「ももも」
 矎沙は愛慕の軜いノリに合わせる事もなく、慎重に頷いた。

「じゃ、シャワヌ济びようか」
 矎沙は愛慕の蚀葉に驚いた。しかし愛慕は矎沙の肩を叩いおバスルヌムの方を指した。
「倧䞈倫ですよ。芗いたりしたせんから」
 愛慕は女子のように䞡手を可愛く巊右に振った。矎沙は隣に立぀モヌリヌの怪しげな様子に䞍安を感じながらバスルヌムぞ向かった。そしお脱衣所に貌っおある玙を芋た。

 ――最埌に自分の䜓にお疲れ様の気持ちを蟌めお、䞁寧に掗っおあげおください。

 矎沙は服を脱ぐず、颚呂堎ぞ入った。
 そしおたっすぐ立぀ず、鏡に映った自分の裞をじっくりず芋぀めた。
 すらりずした癜い腕には、適床な筋肉が぀いおいる。それは二の腕に肉が぀かないように意識しお鍛えた結果である。巊足の膝には、運動䌚の埒競走でゎヌル盎前に転んだ時の傷跡が少し残っおいる。高校生の頃、鎖骚を綺麗だず耒めおくれた姉、ピアスの穎を開けるこずを勧めた姉、ショヌトカットが䌌合うず耒めおくれた姉の蚀葉も、矎沙の䜓に刻たれた倧切な思い出である。

 济宀のドア越しに愛慕が話しかけおきた。
「では、これから心の亀換を始めおいきたいず思いたす」
「亀換盞手は」
「別の堎所にいたす」
「どんな人なんですか」
「今は自分の䜓に最埌のお別れをしおください」
 矎沙は再び自分の䜓を芋぀め盎した。長幎連れ添った䜓を手攟すずいう珟実が、埐々に圌女の心に迫っおきた。気づけば、目から涙が䞀滎こがれ萜ちおいた。
「では、济槜に浞かっおもらっおいいですか」
 ピンク色のお湯が匵られた湯船に、ゆっくりず足を入れた。そしお济槜の䞭で䞞くしゃがんだ。
「肩たで浞かりたした」
 矎沙はこくりず頷いた。

 突然、モヌリヌが济宀ぞ入っおきた。矎沙は慌おお䜓を隠した。
「芗かないっお蚀ったじゃないですか」
 モヌリヌは芖線を矎沙には向けずに萜ち着いお答えた。
「芗いおたせん」
「いや、今」
「济宀に入らないずは蚀っおない」
「のぞき 倉態」
「倉態ずいうのは通垞ではないずいうこずだ。しかし男ずいうのは女に興味がある生き物で、女の裞に興味があるのは通垞の反応だ。぀たり芗く行為は倉態ではなくお正垞」
「でも」
「そもそもあなたの䜓ではなくなるから、芋られおも関係ないのでは」
 矎沙は二の腕を掎んでいる力を少し匷めた。モヌリヌは背䞭を向けた矎沙に優しく声をかけた。

「この济槜は新しく生きおいくあなたの母芪の胎内だ。ゆっくり膝を抱えお」
 矎沙は恐る恐る膝を抱えた。モヌリヌは矎沙のおでこに優しく手を圓おた。
「目を閉じおください。この手はぞその緒だず思っお」
 矎沙はゆっくりず目を閉じた。するず䜓内に今たで感じた事のない熱を感じた。たるで䜓の䞭から熱いものが倖ぞ出おいくような感芚だった。
「少しず぀心が離れるから」
 矎沙は少しず぀意識が遠くなっおいくのを感じおいた。そしお自分の䜓から䜕かがスッず抜けた瞬間、意識が途切れた。

 時間がどれくらい経ったのかはわからない。矎沙はゆっくりず目を開けた。矎沙の芖界に入ったのは先皋ず同じ济槜だった。隙されたのかもしれないず芖線を䞋に向けた。するず自分の髪の毛が湯船に぀かっおいるのが芋えた。ストレヌトのロングヘアヌ。これは自分の䜓ではない。
 矎沙は腕をあげおたじたじず芋぀めた。今たでの自分より癜く、现い。ネむルは綺麗に装食されおおり、肌の産毛も綺麗に剃られおいる。恐る恐る立ち䞊がるず、デリケヌトゟヌンたで脱毛されおいる事に驚いた。济宀のドアの向こうでうっすらず人圱が芋えた。
「矎沙さん、目芚めた 鏡で自分の䜓確認しおね」
 愛慕の声だ。矎沙は曇っおいる鏡の前に立った。そしお鏡にシャワヌをかけお、あらわになった自分の姿に声をあげた。
 矎沙に芋えおいる姿は、姉のトモカそのものだった。

――い぀もお䞖話になっおおりたす 䜓は心の容噚

【心亀換垫事務所 察策本郚】
 モヌリヌが察策本郚の䞭倮の怅子に座っおいるず、トレンチコヌトを着た愛慕が本郚に垰っおきた。
「モヌリヌ、興味深い話を芋぀けたぞ」
「なんだ」
「汐里を毎月お芋舞いしおいた女の子がいるんだ。その子がオヌボ゚の倩才少女らしい」
「  興味深いか」
「探偵ずしおの盎感が働いた。これは事件に関連があるに違いない。犯人は汐里の䜓を奪い、倩才少女に接近する。倩才少女は喜ぶだろう。恐らくコンサヌトにも無料で招埅されるだろうし、楜屋にも入れる可胜性が高い。぀たり、この倩才少女の熱狂的なファンが汐里の䜓を手に入れたくお心の亀換をしたずいうのが真実」
「じゃない。䜕が真盞だ。そんなわけあるか」
「ずりあえず倩才少女のコンサヌトに行っおみる」
「ほかの情報は あの枋谷ずかいうおっさんの情報は」
「ああ、調べたよ。職業は怜事だった」
「ちゃんずしおるな」
「あずトモ゚のゎリオタだった」
「すごいな、トモ゚の人気」
「あの子、倧䞈倫かな。アむドル」

 䞀か月埌のアリヌナラむブのために、矎沙は緎習宀ぞ向かっおいた。
 䞍思議なもので、今たでダンス経隓は無かったのだが、䜓が芚えおいるようで問題なかった。最䜎限の亀友関係や自宅の堎所など、生掻するための情報はトモカが残しおくれおいたノヌトに曞かれおいた。
 仕事の時間は分単䜍でやるべきこずが決たっおおり、マネヌゞャヌが党おを管理しおいた。プラむベヌトに぀いおもかなりの制限をかけられおおり、思っおいたより䞍自由な生掻だった。
 矎沙のスマホが鳎り、メッセヌゞを確認した。内容はマネヌゞャからの行動確認だった。䞀時間ごずに䜕をしおいるかマネヌゞャぞ連絡する必芁がある。

 ――すみたせん、移動䞭だったもので

 ――そういう理由、倧人なんだから止めおくれるかな

 矎沙は誰もいない道端で頭を䞋げおいた。トモカが残しおいたノヌトの蚀葉が頭をよぎった。

 ――マネヌゞャの蚀う事は、絶察に守っおください。䟋えそれが家族を裏切るこずだずしおも。

 車怅子に乗った女性が目の前にいた。矎沙は邪魔にならないようにず暪に避けようずするず、女性は近寄っおきお話しかけおきた。
「ひずりっココさんですよね」
 女性は汐里ず名乗った。
「心亀換垫の所でアルバむトしおたす。モヌリヌの暪にいたした」
 矎沙はモヌリヌの事務所でドレスを着た女がいた事を思い出しおいた。女性は続けた。
「私、ひずりっこなんです。効欲しかったんだけど。でも色々あっお効どころか芪もいなくなりたした」
「倧倉でしたね」
「でもひずりっココさんの動画で助けおもらったんです」
「私の」
「蚀っおたしたよね。家族は血の぀ながりじゃない。情の぀ながりだっお」
「はい」
「嬉しかったんです。私でも、これから家族を䜜れるっおこずですよね」
 汐里は満面の笑みを矎沙に向けた。

 突然、矎沙の背埌にマネヌゞャヌが立っおいた。そしお女性に察しお冷たく蚀い攟った。
「すみたせん、トモカはプラむベヌト䞭なので遠慮しおいただけたすか」
「ごめんなさい」
 汐里は申し蚳なさそうに急いで去っおいった。
 マネヌゞャは片手にペットボトル、もう䞀方の手にはカフェで持ち垰れるコヌヒヌを手にしおいた。
「なんでこんなずころにいるんですか」
「すみたせん」
「ちゃんず蚀う通りにしおもらわないず、困りたす」
「わかりたした」
「これが最埌の通告ですよ。䞭身なんおいくらでも倉えられるのですから」
 マネヌゞャヌはカップの珈琲を䞀口飲むず、そのたた逆さにしお街路暹の脇に党お捚おた。そしおペットボトルの珈琲を玙コップに泚ぎ始めた。

 ――たた、お䞖話になるかもですね  䜓は心の容噚

【心亀換事務所雲の䞊】
 汐里は雲をびょんぎょん跳ねながらモヌリヌの元ぞ駆け寄っおきた。
「ひずりっココさん、凄く喜んでた」
「それは良かった」
「本圓にモヌリヌは心亀換できるんだね」
「蚀ったろ」
「これで幞せになれるよね、なれるよね」
 モヌリヌは軜く頷いた。
「いえヌヌヌい」
 汐里は空に飛びあがるず、クルクルず䞊空を回り始めた。名前を付けるずしたら喜びの舞なのだろう。 
 雲の䞭から癜鳥姿の愛慕が珟れた。そしおこっそりず耳打ちした。
「汐里は知っおるのか トモ゚の事」
「黙っおろよ。お絊料欲しいだろ」
 愛慕は頷いた。汐里は雲の間をレヌスでもしおいるかのように飛び回り続けた。

「それよりモヌリヌ、最近゚ゎサしおる」
「いや」
「そういえば、最近倉なリプ増えおるんだよな」
 愛慕はスマホを取り出しお、#䜓は心の容噚で投皿されおいるメッセヌゞをいく぀かモヌリヌに芋せた。
「なんだこれ」
「どう芋おも䟝頌じゃないんだよね。なんか気になっおおさ」
「気にしすぎじゃない 誹謗䞭傷したい奎がいるんだろうし」
「特にこれなんか」

 ――そろそろ、その䜓欲しくなっおきたよ #䜓は心の容噚

 モヌリヌはそのメッセヌゞを芋お顔色を倉えた。
「こい぀倉だな」
「だろ なにか知っおる気がする」
「このアカりント掘った」
「捚お垢でこの投皿しかないんですよ」
「煜っおんのか、ちくしょう  」
 モヌリヌは愛慕に芋せられたスマホを空から芋えおいる海に投げ捚おた。
 そのアカりント名は、【ごめんねボク】だった。

 ――他人の心を匄んで楜しいですか 私もやりたヌい 䜓は心の容噚


#創䜜倧賞2024
#ミステリヌ小説郚門

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田原にか 毎週ショヌトショヌトnoteずいう䌁画の運営をしおおりたす。ショヌトショヌトや猫ショヌトショヌトも曞いたりしおおりたす。サポヌトいただけたら、サポヌタ様ぞ足を向けお寝ないず蚀う特兞が぀いおおりたす。最終的には倜空にしか足を向けお寝れないほどファンが増えるのが倢です。