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「腐るまで待って」エピローグ【note創作大賞2024】

    田原にか

    大学生の頃、実は腐らないゾンビが存在して人間と共に暮らし始めているという事を知った。そんな時、当時付き合っていた早希が僕に耳打ちした。

     「藍一君には隠し事をしたくなくて。私ね、実はゾンビなんだ」

     それが全ての始まりだ。

     チャイムが鳴った。僕はインターフォン越しに、カメラをうかがう人物を確認した。長い髪の毛に帽子を深く被った姿の女が見えた。

    「どうぞ」

     一階の入り口のカギを開けると、僕はチャイムを鳴らした女が家に入ってくるのを待った。

     女は旅行バッグを転がしながら、部屋に入ってきた。そしてバッグを開けると解体された大腿部を取り出した。僕は受け取った肉を冷凍庫に収納した。

     昔、ゾンビは人間の肉を一番美味いと感じるという話を聞いて、一つの疑問が湧いた。ゾンビの肉を人間が食べたらどんな味がするのかと。でもゾンビは腐っているはずだから食べようとなんて全く思わなかった。あの早紀の言葉を聞くまでは。

     女は帽子を脱いで長い髪の毛のカツラを取ると、テーブルに残っていた肉を指差した。

    「ねえ、藍一。これ食べていい?」

     僕は頷いた。女は一口かぶりつくと、大きな声をあげた。

    「やっぱり美味っ」
    「残しといてくれよ、梨花。それであの子終わりだから」
    「あ、そうだ」

     梨花は冷凍庫から再び大腿部の肉を取り出して、食べかけの肉が置かれた皿の横に置いた。

    「ほら、久しぶりの再会くらいしてあげないとね。お兄ちゃんがかわいそう」
    「会いたがってたからなぁ」
    「ねえ、なんでインタビュワーの男がゾンビだったってわかったの?」

     僕は握手をした時の男の感触を思い出していた。あれは携帯カイロで手を温めたあとにする握手の温度だった。夕那がゾンビとばれないようによくやっていた。

    「ま、勘だよ、勘」

     僕は昨日印刷しておいた設定の紙を梨花に渡した。梨花はそれを受け取ると、めんどくさそうにパラパラとめくった。

    「AI様々よね。こんな物語作るなんて」
    「ちゃんと設定守れよ。法律が制定されたらもっと面倒なことになるんだから」
    「やってるわよ」
    「だったらイヤリング普段からつけとけよ」
    「いやなのよね、ウサギとか子供っぽくて」
    「ダメ。ちゃんとつけとけよ。同情は人の判断力を鈍らせるってあれほど言ってるだろ」
    「今でも夕那に会いたいってやつ?」
    「やめろ」

     牛は雄雌で味が違うという。初めてだから楽しみだ。とりあえず一週間は熟成させてみよう。

     ゾンビは腐る寸前が一番美味い。

    <了>

    #創作大賞2024
    #ホラー小説部門

     
     
     
    創作大賞2025ミステリー部門入選、第一回ひなた短編文学賞大賞、2023年度新作落語台本優秀賞、2000字のホラーWeb別冊文藝春秋賞・受賞、ショートショートガーデンコンテスト最優秀賞、第一回ちくま文学賞大賞、愛媛新聞 超ショートショートコンテスト優秀賞