メインコンテンツへスキップ
見出し画像

#体は心の容器です 第五話 真相【note創作大賞】

    田原にか

    真相


     汐里は“窓”のDMを最初から見れるようにスクロールした。そして父と窓とのやりとりを見始めた。

    【娘を取り戻す方法知ってる】

     ――いたずらはやめてください

    【別に悪戯じゃない。興味ないならいいわ】

     ――興味ない訳じゃないです

    【助けてやってもいいけど】

     ――あなたは誰ですか?

    【だからそういうのいいわ。じゃあな】

     ここで一旦DMのやり取りが終わっていた。そして二か月後くらいに窓からDMが来ていた。

    【気が変わった?】

     ――何がですか?

    【気づけ、バカ。娘のために何もできない無能】

     ――そんなことはありません

    【見たぜ、あの炎上。子供って飛び出す生き物だから、そんな生き物には犠牲がつきものだって】

     ――許せないです。誹謗中傷で訴えようかと思っています

    【努力のベクトルが違うんだって。誹謗中傷で金もらって娘帰ってくるか? 違うんだよ。俺は娘を取り返せる方法があるって言ってるのに】

     ――それ、本当なんですか?

    【本当じゃないなら、わざわざ連絡しない】

     ――詳しく教えてください

     ここから窓が父に対して説明してた内容はこうだ。事故に遭った瞬間、娘の心は体から飛ばされて、この家族の息子に張り付いている。そして事故に遭ってしまった恨みを持って息子を呪い続けているという。このまま息子が死ぬまで娘の心は呪い続けるという。父は、なぜか窓の言葉に少しずつ心が揺れていた。

     ――今日も娘は目覚めなかった。このまま起きなかったらと考えると辛い

     【そんなのはわかってるだろ】

     ――どういうことですか?

     【簡単に戻ってくる方法があるとあれほど】

     ――教えてください

     【あの家族を全員消せばいい】

     窓は、交通事故を起こした家族を全員殺せば娘の気も晴れて戻ってくると説明した。父の返答から察するに心が揺れていたが、簡単に受け入れたわけではなさそうだった。

     【いい加減信じろよ、しつこいな。俺は心が見えるんだから】

     ――もしかして私と同じ仲間でしょうか? 私は心を交換できます。

     すると、窓も自分も心が見えて、交換も可能だと言い始めた。その後、父は仲間を見つけたと思ったのか窓の言う事をすっかり信じ始めていた。

     【心は人間には見えない形で確かにそこに存在する。だから俺達は取り換える事も出来る】

     ――そうですね

     【お前はできないのかもしれないが、俺は心を見る事も出来る。今日お前の娘の病室まで行ってみた】

     ――そうなんですか?

     【空っぽだったよ。そこにはいなかった。だから娘を轢いた家族の家に行った】

     ――ありがとうございます。娘は、汐里はいましたか?

     【汐里ちゃん、三輪車好きだったな】

     ――はい!

     【あと、人形遊びも】
     
     ――はい、うさぎの人形が大好きでした!

     【胸に抱いていたよ。あんたが買ってあげたやつだろ】

     ――はい! 汐里……

     【なあ、俺は辛いよ。お前のもとに返してやりたいよ】

     ――もしかしてあちらの家族の誰かに汐里の心が入り込んでるんですか?だったらなんとかできるんですが。

    【いや。ずっと宙に浮いてる。だからあんたはつかめない】

     ――そうですか

    【やりかたは一つだけある。前に教えただろ】

     汐里はDMを読む手を止めた。汐里は自分のために父が翻弄されている姿をみるのが辛くなった。汐里が子供の頃から信じていた優しい父だった。それなのに、こんな素性のわからないアカウントに翻弄されて、あのような狂気に及んだなんて。

     そして、やり取りの最後のメッセージを見た。

    【全部嘘だよ、バーカ】

     気がついたら汐里の目から涙が零れていた。
     自分のために全てを捨ててしまった父。そしてその元凶となった事件を起こした人間が憎くなった。

     しかし汐里は、ふと気づいた。
     この事件のはじまりは、自分を轢いた事故を起こしたモーリーの父親ということになる。もしかしたら自分が赤信号で飛び出さなければこんなことははじまってなかったかもしれない。母親にプリンをお願いしなければ、今頃普通の二十歳として両親と笑えていたのかもしれない。
    「わたしのせいだ」
     汐里は椅子から滑るように落ちた。マウスがデスクから落ちて、ガシャンと音を立てて電池の蓋が取れ、電池が外れていた。
     汐里は呆然と壊れたマウスを見ていた。
    「私の電池も、外れちゃえばいいのに」
     突然、汐里のスマホが鳴った。

     病院の屋上では、汐里の姿をしたモーリーが、スマホをで汐里に連絡をしていた。隣には心配そうな表情でモーリーを見ながらも、女を抑え込んでいる愛慕がいた。
    「汐里? どうだった? ログインできたか?」
     汐里から何か返答があり、モーリーは頷いた。
    「なにか分かったか。え、窓……」
     モーリーは、人差し指で空きなかに何か文字を書いた。そして女を睨みつけた。
    「やっぱり全部お前だな、ダモ」
     女は何も知らない表情で首を振った。
    「窓。MADO。ダモ。DAMO。アナグラムだ」
    「私が犯人だなんて、証拠なんかないでしょ。私じゃない」
     モーリーは女の言い分を聞いて笑った。
    「ここは裁判所じゃない、警察でもない。俺はもうお前が犯人と確信した。それだけでいい」
    「そんなの、論理的じゃない。モーリーは論理的じゃないものは認めないんだろ」
     モーリーは笑いながら、自分の顔を指差した。
    「ごめん。今は違う体だからなぁ。あ、お前の体か」
     そしてモーリーは女の胸倉を掴んだ。
    「全てはお前のせいなんだよ。この元の体に戻れ」
     女から手を放すと、スマホを取り出して叫んだ。
    「汐里、すぐに病院に戻ってこい。屋上だ。非常階段の鍵開けとくから。え? お前の父親をおかしくした犯人を捕まえたんだよ!」

    結末

     病院の屋上で、女は腕を縛られて床に転がっていた。その横で-愛慕は横に立って女が暴れないように手首を掴んでいた。モーリーは少し離れたところに立ち、汐里が戻ってくるのを待っていた。
     階段の音が鳴り響き、屋上に汐里がやってきた。しかし、血走った眼をした汐里の手には包丁が握られていた。
    「汐里、待て!」
     モーリーのに耳も貸さず、汐里は女の元へゆっくりと歩み寄った。モーリーは止めようとしたが、肺の痛みでその場にうずくまった。愛慕は女の手首を押さえたまま動けなかった。
    「天江さん、本当なの? あなたがお父さんをだましたの?」
    「さぁ」
    「答えて!」
     汐里は刃物を振りあげた。女は怖がる様子もなく汐里を見た。そして女は笑った。
    「なによ、何がおかしいのよ」
    「私はあの男に消せばいいっていっただけ。まさか包丁で刺すなんてね。あんたの父親が勝手に殺したのよ。幸せだった親子三人を」
    「違う」
    「あなたの父親が人殺しなだけよ」
    「違うもん!」
     汐里が感情をむき出しにして刃物を振り下ろそうとした。しかしモーリーが汐里を抱きかかえて止めた。
    「待て。俺の親父も汐里のお父さんも悪いのかもしれない。ただこいつだけは……」
     モーリーは女を睨みつけた。
    「お前は人間を弄んでいる」
     女はモーリーの視線をまっすぐに受け、そして笑った。
    「あんたならわかるよね。操ったり交換したりするの、面白いんですけど」
     モーリーは女の口を手で塞いだ。
    「やめろ」
     女は顔をずらしてモーリーの手を避けながら叫んだ。
    「汐里! あんたの体は心を交換する力が弱かった。だから私はあんたのお父さんになりたかった。だから、その体を絶対に奪ってやると決めたんだ。その体、よこせ!」
     汐里は女に恐怖を感じ、その場に座り込んだ。
    「結婚式の前日の新婦を新郎の元カノと取り換えたり、難関大学に合格した子供を老人と取り換えたり。楽しそうだろ! そういう事考えるだけでワクワクするんだよ!」
     モーリーは己の妄想をぶちまける女の体を持ち上げた。そして屋上の端のある柵まで連れていった。
    「いい加減、黙れ」
    「お前も簡単に心を操れそうだな」
     女の言葉に逆上し、モーリーは女を殴ろうとした。しかし女が困った表情をしていたため寸前で拳を止めた。そして汐里に聞こえないように女の耳元に近寄って囁いた。
    「俺の初恋の女に、これ以上ヘンな事言わせんな。マジで、ぶち殺すぞ」
     すると女はモーリーの唇に自分の唇を重ねた。モーリーは一瞬のことに動けなかったが、慌てて唇を外した。女はふてぶてしく笑った。
    「じゃあ、こうしたら嬉しいだろ。初恋の女の体だもんな」
     モーリーは右手に力を込めた。そして思いきり柵を殴りつけた。愛慕が女の手首を再び固定し、柵に縛った。そしてモーリーを放心状態になっている汐里の元へ連れていった。汐里はモーリーの顔を見ると、訳もなく涙が溢れた。モーリーは汐里に優しく告げた。
    「汐里に心交換をやってもらう」
    「どうやって」
    「昔一回やったことがあるだろ、アイツと入れ替わった時に」
     柵に縛られている女を指差した。
    「あれ、私がやったんだ」
    「そうだ、恐らくあの女の口車に乗って心交換を汐里にやらせたのだと思う」
     汐里はその時の状況を思い出していた。確かに天江の言う通りにしていた気がする。モーリーは汐里の肩に置いた手に力を込めた。
    「汐里や汐里のお父さんの体には、その力が備わっている」
     モーリーは自分の体を縛り始めた。そして足首をロープでしっかりと結ぶと、最後に両手の親指を汐里に差し出した。
    「しばってくれ」
     汐里はモーリーに手渡された結束バンドで二本の指を縛った。
    「この体にあの女の心を戻すんだ」
     汐里は力強く頷いた。

     汐里がモーリーと天江の心を交換した頃、病院の屋上の警備員が見回りに来た。警備員は倒れている天江に気づき、どこかへ連絡し始めた。汐里達はその隙を縫って病院の屋上から逃げ出した。

     その後、SNSに一つのメッセージが投稿された。

     それは心交換師モーリーの最後のメッセージだった。

    ――心の交換ができなくなってしまいました。引退します。今までありがとうございました。 #体は心の容器 

    【今までありがとうございました】

     はい、こんばんわ。ひとりっココです。こうやって動画配信するのは久しぶりでごめんなさい。動画って言っても声だけなんだけどね。実はいろいろと話したいことがあって。
     私は、ひとりっココって言ってるけど、実は姉がいます。妹みたいな姉というかいろいろややこしいんですけど。それが誰かというと、早乙トモカさんです。そしてみんなびっくりするかもしれないけど、隣に座っています。ね。

     はい。早乙トモカです。マネージャーのセクハラの事件で世間の皆様にご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。私は大丈夫です。元気です。この動画はひとりっココさんにお願いして、一つお願いをしたくて、出させてもらっています。
     私は芸能界を引退するつもりです。いろいろと元に戻して、また一から妹と一緒に生きていきます。今まで応援してくれてありがとうございました。

    ――愛慕さん、楽しかったです。ありがとうございました。 #体は心の容器

     汐里の父親の部屋に、汐里とモーリーと愛慕が集まっていた。父親の姿をした汐里は、汐里の姿をしたモーリーが書き込んだ投稿にいいねがついていくのをじっと見つめていた。
    「本当にやめちゃっていいの? 森くん」
     モーリーは頷いた。
    「俺に心交換をする資格なんて、そもそも無い。汐里の言う通りだ」
     そして部屋の周りに貼ってある汐里の写真を見渡した。
    「だから、交換師としては引退するんだけど、一個だけやらなきゃいけないことがある」
     愛慕が申し訳なさそうにモーリーに頭を下げた。
    「なに? 愛慕何かしたの?」 
    「汐里は気づいてないかもしれないけど、愛慕って松上だよ」
    「え? 松上君?」
    「ただし、体はね」
     汐里は不思議そうに愛慕を見つめた。
    「もしかして心は違うの?」
    「へへへ、だましててごめんなさい」
    「いや、だまされた気分はないから大丈夫」
    「そして松上を元に戻したら、汐里と俺の心を交換して終わりだ。そして俺は汐里の父親として生きていく」
     汐里は目を丸くした。
    「本気?」
     モーリーは頷いた。
    「私は森くんをお父さんと認めたつもりは無いよ」
    「待てよ、嘘だろ?」
    「ていうかさ。そもそもさ、なんで呼び捨てで私の事を呼んでるの? 小学校の時違ったでしょ」
    「モーリーと汐里という関係で出会ったんだから」
    「モーリーが森くんってわかったんだから、もうダメ。呼び捨て禁止」
    「今更変えられないよ」
    「汐里さんか、汐里様。次に汐里って呼んだらアイスおごりね」
     愛慕が二人の間に入った。
    「私は汐里と呼んでもいい?」
    「愛慕はいいよ」
    「なんで! 同級生なのに!」
    「だって、体だけでしょ、松上君なのは!」
     モーリーは不満そうに汐里を睨んだ。不穏な空気が二人の間に流れた瞬間、愛慕が空気の入れ替えをするがごとく会話に割り込んできた。
    「ところで報告です。あの天江といっていた女は、おとなしく入院しているようです」
     愛慕は病室で寝ている天江の姿の画像を二人に見せた。モーリーは安心した表情を見せた。
    「逃げてないんだ、良かった」
    「逃げられる状況ではないですね。既に呼吸が安定していないようで、呼吸を安定させる機械が必須になっています」
     複雑そうな表情をしている汐里にモーリーが不思議そうな顔をした。
    「どうした?」
    「なんだかさ、天江さん。かわいそうだなぁって」
    「なに言ってるんだ。こいつが俺の家族も汐里の家族もむちゃくちゃにしたんだぞ」
    「……そうだよね。わかってるんだけど、私、屋上で話をした天江さんしか知らないから」
     モーリーは愛慕のスマホの電源を切った。
    「こいつの事は、忘れよう。な、汐里」
    「あ、汐里って言った。アイス!」
     しまったという表情をしたモーリーは逃げるように部屋を飛び出した。汐里はモーリーの背中に、「森くん! チョコたっぷりのやつね!」と声をかけた。

    #創作大賞2024
    #ミステリー小説部門


     
     
     
    創作大賞2025ミステリー部門入選、第一回ひなた短編文学賞大賞、2023年度新作落語台本優秀賞、2000字のホラーWeb別冊文藝春秋賞・受賞、ショートショートガーデンコンテスト最優秀賞、第一回ちくま文学賞大賞、愛媛新聞 超ショートショートコンテスト優秀賞